47話 新たな任務
数日後。
ソラは新たな任務を受けていた。それはシーベットがメルグレイン王国のギルドで受けて来た依頼である。
そしてソラは本拠地聖堂にてシーベットとシバから依頼についての説明を聞く。
「いいか、おソラ。メルグレイン王国の藐の空域の端で、最近一つの小さな島が発見された」
「その島はこのツァリス島のように陰雲の中に隠された島とのことだ」
するとソラはそこまで聞いて表情を明るくさせた。
「じゃあその島の調査をしてこいって事だよね? いいじゃん楽しそうな依頼で」
「そんな楽な仕事があると思うな、最後までシーベットの話を聞け」
「どういう事?」
「以前島の存在を発見した傭兵が、ソードでその島に降り立とうとしたら島の中から誰かに警告と威嚇射撃を受けた。それからは島の調査は中断されたままらしい」
「え、威嚇射撃ってもしかしてその島にソードとそれを操刃する騎士がいるって事?」
「だからそれを調査してくるのがお前の仕事だろおソラ」
呆れたように正論を言うシーベット。するとシーベットの頭にしがみ付いているシバがふと思い出したように続ける。
「そういえば半年以上前に、メルグレイン王国で〈因果の鮮血〉のソードが一器盗まれたという話があった。もしかしたら賊の類がその島に潜んで根城にしているのかもしれないな」
「はあ、せっかくピクニック気分で島の調査をしてこようと思ってたのに賊がいるかもしれないって事か。しかもどのくらいの戦力かも分からないんだろ? この任務俺一人で行くの?」
「というかその前にピクニック気分で仕事をしようとするな馬鹿おソラ」
軽い気持ちで任務をしようとしていたソラに、呆れたようにシーベットが呟いた。すると、聖堂の玉座に座りながら二人と一匹のやり取りを黙って聞いていたヨクハが割って入る。
「ふむ、たかだが賊の類であれば大した問題では無いが、敵の素性が分からない以上は単独で行かせるのは危険じゃな」
「ですよねえ」
「とは言え、今手が空いているのはカナフだけじゃな」
「えっと、じゃあ結局二人だけで行くの? 団長いつも暇そうなんだから一緒に来てくれればいいのに」
「誰が暇そうじゃと貴様、わしは一騎士団の団長として出来るだけこの本拠地に控え、もしもの時に備えておるのじゃ」
「とかなんとか言って面倒なだけだったりして」
「やかましい、つべこべ言わずさっさと行って来い!」
目を細め疑いの眼差しを向けるソラに対し、ヨクハは声を粗げ、ソラは逃げるように聖堂を出て任務に向かうのだった。
※
その後、任務の内容を聞いたカナフとソラはソード格納庫で落ち合い。改めて任務の確認をし、出発の準備を整えていた。
「島に降り立つ前に、相手を視認出来ない位置から威嚇射撃で退かされたということは、それはかなりの射程を誇る聖霊騎装だ。相手は狙撃式刃力砲を装備しているかもしれん。レイウィング、結界は耐実体結界ではなく抗刃力結界の方を装備しておくのが無難だぞ」
カナフがそう忠告したのは、狙撃式刃力砲等の刃力系統の聖霊騎装は、耐実体結界ではなく抗刃力結界で防いだり、威力を軽減する事が出来る為だ。特に狙撃系の聖霊騎装は刃力系統のものが殆どであることから、狙撃を得意とする敵がいる場合はカナフの言う通り抗刃力結界を装備しておくのが無難なのだ。
「それならソラの小僧に言われて、もうカレトヴルッフには抗刃力結界を装備してあるぞ」
するとシオンは煙草をふかしながら一仕事終えたような佇まいでカナフに言った。
「ほう、どうやら座学の成果が出てきたようだな」
「いやまあそのくらいはさすがに判断出来ますよ、それよりようやく俺のカレトヴルッフにも肩部聖霊騎装と刃力核直結式聖霊騎装を着けてもらったから安心感が違うなあ」
以前のカレトヴルッフには攻撃用の聖霊騎装は刃力剣と刃力弓しか装備していなかったが、ソラがある程度白刃騎士として成長したことがシオンに認められた事から、肩部聖霊騎装として追尾式炸裂弾を、切札の刃力核直結式聖霊騎装として光と炎の聖霊の意思を利用した炎装式刃力砲を新たに装備していたのだ。
「使い時間違えんなよ小僧」
「わかってますよシオンさん」
準備を終えたソラはカレトヴルッフに、カナフはタルワールにそれぞれ搭乗する。そして格納庫の天井が開かれ、頭上に蒼空が広がった。
「ソラ=レイウィング、カレトヴルッフ、出陣する」
『戦場に向かう訳ではない、出陣はおかしいと思うぞ』
「……一々細かいなカナフさんは」
カナフの余計な……もとい、適格な指摘に戸惑いつつ、ソラのカレトヴルッフは刃力放出による蒼色の騎装衣を形成させると、格納庫から飛び立つ。
「カナフ=アタレフ、タルワール、出る」
続いてカナフのタルワールは刃力放出による銀色の騎装衣を形成させると、カレトヴルッフに続き格納庫から飛び立った。
※
これから向かう藐の空域は、普段ソラがウィンとアーラに会いに行っているイルデベルク島がある空域であり、グリフォンでも一時間程で渡れ、ソードであれば十数分程で到着出来る距離である。
そしてツァリス島の本拠地から出発し十数分で、ソラとカナフは目的の陰雲がある場所に到着していた。
「これより目的の陰雲に突入する、ソードの反応があればすぐに知らせてくれティトリー」
『わかったわ、何かあればすぐに知らせる。二人共気を付けてね』
カナフはパルナに指示を出すと、ソラと共に陰雲の中に突入した。すると、二人が雲に視界を阻まれた瞬間、すぐにパルナからの伝声が入る。
『島の中にソードの反応、起動してる!』
続いてカナフは、遥か先に在るであろう島の方向から何かが飛来してくるのを感じ取った。
「結界を張れレイウィング!」
『えっ』
カナフはすぐさま自騎を空中制止させ、抗刃力結界を展開し、白い球体に包まれた。そしてカナフの緊迫した様子の指示を受け、ソラもすぐさま抗刃力結界を展開する。
次の瞬間、ソラのカレトヴルッフとカナフのタルワールの間を縫うようにして、雷を纏った鋭く巨大な光矢が通過した。
『あ、あぶなっ!』
「ティトリー、今攻撃してきたソードの精確な位置は分かるか?」
『角度43、距離西方5400からの攻撃よ』
――馬鹿な、それ程の超長距離からの狙撃だと? 相手からもこちらは視認不能な上、照準固定器能は使えない筈、一体どうやって?
恐らくは威嚇射撃であろうその一撃は、カナフに三つの驚愕を起こさせた。一つ目は、通常では敵を補足出来ない程の超長距離からの狙撃を行ったということ。
二つ目は、ソラのカレトヴルッフとカナフのタルワールは未だ陰雲の中におり、例え捕捉可能である距離だとしても、直接の視認は不可能であるということ。
そして三つ目は、超長距離狙撃を行うには刃力弓では不可能で、少なくとも刃力核直結式聖霊騎装でなくてはならないが、そのような大火力の聖霊騎装で精密な狙撃を行ったということである。
いずれにせよ、今攻撃を行ってきた相手がただ者ではない事をカナフは確信した。すると直後、先程攻撃が放たれた方角から伝声用の電波が送られて来たため、ソラとカナフはその相手に対して相互伝声許可のボタンを押下する。
『どこのどいつか知らねえが、この先に何の用だ? それ以上先に進むのなら次は射殺す』
送られて来たのは若い男の声、そしてそれは島に降り立つなという警告であった。
「俺達は独立傭兵騎士団〈寄集の隻翼〉の騎士だ。ギルドからの依頼でこの島の調査に来た」
『〈寄集の隻翼〉だ? ハッ、聞いた事もねえ弱小騎士団の雑魚共が! 死にたくなけりゃあさっさと帰るんだな』
再度の警告を聞き、得体の知れない力を持つ相手に尻込みするソラはカナフに提言する。
『カナフさん、あちらさんもああ言ってる事だし、ここは大人しく――』
「俺達をその辺の傭兵と一緒にしてもらっては困るな。威嚇射撃で尻込みして踵を返すような臆病者はうちの騎士団には一人も居ない」
『ですよねえカナフさん、そんな奴は騎士とは呼べないですよね』
カナフの言葉を聞き、撤退を提言しようとしていたソラは、もはやそれを言い出せなくなったのだった。
『ちっ、後悔すんじゃねえぞ糞野郎共!』
相手も戦闘開始の姿勢を示したのを察し、的を絞らせないように激しく騎体を動かしながら、敵騎がこちらの射程範囲に入るまで全速で近付くよう、カナフがソラに指示を出そうとした直後、パルナからの伝声が割って入った。
『ちょ、ちょっと待って、もしかしてって思ったけど今の声ってやっぱり……あんたフリューゲルじゃない!?』
超長距離狙撃による威嚇射撃と警告を行って来た相手を知っているかのような素振りのパルナ。
『なっ! その声まさかパルナ……か?』
するとフリューゲルと呼ばれたその声の主も、パルナを知っているような素振りで驚くように尋ねた。
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