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44話 お勉強の時間

※    ※    ※



 一週間前。


 そこはレファノス王国と同盟を結び、連合騎士団〈因果の鮮血〉を結成しているメルグレイン王国の領空の一つ、(むらさき)の空域。そこに浮かぶ辺境の島であるイルデベルク島。面積も人口も非常に小規模な島の村に在る小さな民家の中で、ソラはテーブルに書物を広げたまま突っ伏して、げっそりした表情を浮かべていた。


 そんなソラの対面に座るのは、かつてソラがルイン島で出会った教会の神父であるウィン。そしてソラの側面側には同じくルイン島で出会った幼い少女であるアーラが座り、ソラと同じようにテーブルに突っ伏しながら何やらソラの顔を不満気に見つめていた。


「ソラ、そろそろ休憩したらどうですか?」


 ウィンは心配そうにソラに提案した。


「は、はあ、そうですね」


 虚ろな表情でウィンの提案を受け入れるソラは、そのまま目を閉じた。


 するとそんなソラを見て、アーラは頬を膨らませる。


「さっきからご機嫌斜めですが、どうしましたアーラ?」


「だってこの島にお引越しして、せっかくソラが遊びに来てくれるようになったのに、全然構ってくれないんだもん」


 ソラ達〈寄集(よせあつめ)隻翼(せきよく)〉と〈因果の鮮血〉が、エリギウス帝国直属第九騎士師団〈不壊(ふえ)(から)〉を撃破した碧の空域防衛戦から約一ヶ月。ソラがアーラ達とルイン島で別れてからは約二カ月の時が経ち、ウィンから新しい住処が見つかった報告を受けたソラは、何度かこのイルデベルク島へとやって来ていた。


 しかしソラはアーラの相手をする暇も無さそうに、常に書物を片手に嫌々と勉学に勤しんでいた。アーラはその事を寂しく思い、不満を漏らしたのだった。


「我儘を言っては駄目ですよアーラ、ソラは忙しい合間を縫って会いに来てくれているんですから」


「だってえ」


 すると、ウィンに嗜められしゅんとするアーラ。


「ごめんなアーラちゃん、だってうちの団長が一週間後に座学のテストやるって、そこで九割以上の点数が取れなきゃ何かのペナルティを課すとか言うもんだからさ、下手したら毎朝島ダッシュを二十本に増やすとか言いかねないし」


「な、何ですかその毎朝島ダッシュっていうのは?」


「聞いてくれますかウィンさん」


 ソラは愚痴る。現在このイルデベルク島と同じくらいのサイズであるツァリス島の全周全力疾走を毎朝十本やらされているのだが、そもそも最初は模擬戦闘で引き分けたペナルティで一ヶ月だけという話だったのに、いつの間にか毎日の日課にさせられていると。


「そ、それは凄いですね」


「それが終わったら座学、そして午後は延々と団長と一対一で剣での模擬戦」


「そんなに詰め込んで大丈夫ですか?」


 ソラの語る壮絶な日々に、ウィンが憂いるように問いかけると、ソラは溜め息交じりに返す。


「いや、これ以上詰め込まれたら本当に死んでしまう、そうならない為にも今度のテストは九割以上の点数を取らないといけないんですけど」


 更にソラは浮かない表情で続けた。


「中々覚えられないんですよこれが、頭に入って来ないっていうか」


「えっとどこが覚えられないんですか? よかったら僕が解説しましょうか?」


「え、でもこれは騎士用の知識だからさすがにウィンさんでも分からないと思うけど」


「まあ、物は試しに」


「えっと、じゃあここなんですけど――」



 それから、ソラはいつの間にかウィンの講義に聞き入っていた。


「つまり基本的には――」


 ウィンが語った説明はこうだ。


 一つの聖霊騎装に組み込める属性は二種類までで、四(すく)みの同じ位置同士の属性二つか対角の属性同士二つのどちらか。隣接する位置の属性は組み合わせられない。


 そして最も相性が良いのが同じ位置の物二つで、例えば思念操作式飛翔刃(レイヴン)の雲と風であったり、狙撃式刃力弓(クスィフ・スナイプアロー)の光と雷等である。


ただ対角の属性二つを組み合わせた聖霊騎装、例えば光と炎の属性を持つ炎装式刃力弓(クスィフ・フレイムアロー)であれば光を弱点とする水、炎を弱点とする風と雲の計三属性のソードに対して有利を取ることが出来るというメリットがある。


「こうして表にしてみると分かりやすいですよ」


「おおっ、本当ですね」


「そして戦場で戦う上でソード自体の属性相性は非常に重要になります。自身のソードの属性が相手のソードの弱点であれば全ての攻撃のダメージが五割増しで与えられると考えていいです」


「ああ、そこはさすがに理解してますよ」


「それではソラ、例えばソラのソードに光、水、炎、風の四種の属性の聖霊騎装が装備されていたとして、炎属性のソードには何の属性の聖霊騎装で攻撃しますか?」


「えっと炎の属性の弱点は水と闇だから、そりゃ水で攻撃しますよ」


 その問いに、ソラはすかさず答えるもウィンは首を横に振った。


「外れです」


「え、何でですか?」


 当てが外れソラが首を傾げると、ウィンの丁寧な解説が続く。


ソラの守護聖霊は光である為、隣接する位置の属性の聖霊騎装は相性が悪く、およそ50%の威力しか出せない。つまり炎の属性に対し水の属性で攻撃すると威力は5割増しとなるが、元々の威力が半分なので75%程の威力しか出ない。


つまりはこの場合、自身の属性である光属性の聖霊騎装で攻撃するのが正解だという事だ。


「成程、それじゃあ装備する聖霊騎装は自分の守護聖霊の属性か同じ位置の属性、対角の位置の属性って事ですか」


「ええ、正解です。基本的には隣接する位置の属性の聖霊騎装は装備しないのが基本ですね」


 するとソラの尊敬の眼差しが、ふとウィンに注がれていた。


「す、すごいですねウィンさん。カナフさんの講義より百倍分かりやすかったですよ本当」


「えへへ、院長先生はやっぱり凄いんだ」


 ソラがウィンを褒めるのを聞き、嬉しそうに微笑むアーラ。


「はは、それは言いすぎですよソラ」


「いやいや本当ですって、しっかし俺今まで属性の相性なんて考えて戦ったこと無かったな、まあ聖霊騎装も光属性の物しか装備してないから考える意味も無かったんですけどね」


「はは、まあ戦闘中に瞬時に判断して使用する聖霊騎装や攻撃する相手を選択出来るようになれば完璧ですね」


「うーん、それにしても……」


 直後、ソラは敬いの眼差しから、何かを伺うようなそれでウィンを見つめだす。


「ウィンさん、何でそんなにソードや聖霊騎装の属性のことに詳しいんですか?」


「あ、いや、それはその、単なる趣味で勉強してですね」


「そういえばウィンさん、こないだ第十二騎士師団の騎士に離反者とか呼ばれてたような」


「そ、そうでしたっけ?」


 そんなソラの追及に動揺したようにお茶を濁そうとするウィン。


 すると突然、扉をノックするような音を聞き、ウィンは助け舟と言わんばかりに慌てて扉を開ける。


 そこには鍋を持ったふくよかな中年の女性が立っており、藍髪と水色の瞳というメルグレイン群島の民の特徴を持っていた。


「ウィンさん、これシチューなんだけど作りすぎちゃって、よかったらアーラちゃんと食べてね」


「わーい、シチューだ」


「えっ、いいんですか? この村に住まわせてもらった上にいつもおすそ分けしてもらって、何だかいつも厚意に甘えてしまってますね」


「いいのいいのそのくらい、この村の皆はウィンさんに感謝してるんだから、ウィンさんがこの村に居てくれるだけで本当安心するもの」


 そう言うと、女性はウィンにシチューの入った鍋を手渡し去って行った。その様子を見ていたソラは再び何かを詮索するような眼差しをウィンに向けた。


「ウィンさん、随分と慕われてますけど何かしたんすか?」


「えっと……その」


「院長先生はね、この村で暴れてたきまいら(・・・・)って怪物をやっつけたんだよ。そしてらみんながとっても喜んでくれたんだ」


「ア、アーラ!」


「キマイラ倒したって、やっぱりウィンさんて元騎士でしょ絶対?」


 アーラの無邪気な暴露を聞いた後でソラが核心を突くと、ウィンは観念したように大きく息を吐いた。


「ソラには隠しても仕方ありませんね。はい、実は二十年程前になりますが僕は当時のエリギウス王国の騎士でした。でも訳あって騎士は辞めて、祖国を離れ、今はこうしてアーラと一緒に穏やかに過ごしているんです」


「やっぱりそうだったんだ……って、あっ!」


 次の瞬間、突然ソラが何かを思い出したように大きな声を出す。


「そういえば以前ウィンさんが第十二騎士師団にさらわれそうになった時俺必死で戦ったけど、俺が助けようとしなくてもウィンさん自分で何とか出来たんじゃ?」


「いやいやいや、僕あの時丸腰でしたし、相手はソードに乗ってましたし、さすがにどうにもなりませんでしたよ、ソラには助けられましたよ本当に」


「ありがとうソラ」


 必死に取り繕うとするウィンと、屈託の無い笑みを投げかけるアーラを見て、ソラは溜飲を下げるのだった。


「ま、まあ、そういうことなら別にいいんですけどね。とりあえず残り一週間、俺合間見てちょこちょこ来るんでウィンさん俺に勉強教えてくれませんか?」


「ええ、勿論構いませんよ」


「ふう、よかった」


そしてウィンの快諾に、ソラはホッとしたように表情を明るくさせた。



※    ※    ※

44話まで読んでいただき本当にありがとうございます。


ブックマークしてくれた方、評価してくれた方、いつもいいねしてくれてる方、本当に本当に救われております。


誤字報告も大変助かります。これからも宜しくお願いします。




【以下ソラが受けた講義内容】


[属性相性における四竦みの関係]

挿絵(By みてみん)

 上の表に照らし合わせると例えば光属性のソードであれば、水属性のソードに対して優位であり、風と雲属性のソードに対して不利である。雷と炎と土属性のソードに対して同格となる(闇属性のソードは存在しない)。聖霊騎装で攻撃する際も同様に、属性相性が関係して効果が決まる。



[守護聖霊と各属性との相性について]

挿絵(By みてみん)

 上の四竦みの表に照らし合わせれば、ソードを操刃または聖霊騎装を使用する上では、当然自身の守護聖霊と同じ属性のものが最も相性が良い。そして2番目に相性の良いものが同位置に存在するもので、例えば守護聖霊が光である騎士であれば、雷属性のソード・聖霊騎装が、光属性の次に相性が良い。続いて3番目に相性が良いものが対角に位置する属性で、炎と土。最も相性が悪いのが隣接する位置に存在する属性で、風と雲、水と闇のソード・聖霊騎装は性能や威力を発揮出来ない。


 例えば光の聖霊を守護聖霊に持つソラであれば、光属性のソードを操刃または聖霊騎装を使用した場合100%の性能を発揮出来、雷属性のソードを操刃または聖霊騎装を使用した場合は性能の90%まで発揮出来る。


 しかし水属性のソードを操刃または聖霊騎装を使用した場合は性能の50%までしか発揮出来ない。(※光属性のソラが水属性のソードを操刃したうえ、更に水属性の聖霊騎装を使用した場合、水属性の騎士が水属性のソードを操刃したうえで水属性の聖霊騎装を使用した場合の25%程しか威力が出ない。)



[各守護聖霊の性能補正・聖霊騎装に組み込む特性]

挿絵(By みてみん)

 各騎士は、上記の表の通り自身の守護聖霊によってソードを操刃した時に、性能へ補正が入る。例えば、各属性の騎士が全く同じソードを操刃したとしても、炎属性の騎士が操刃するソードは別の属性の騎士が操刃するソードに比べて騎体の膂力と聖霊騎装の火力が上がり、土属性の騎士は同様に騎体の耐久値が上がる等。


 また、聖霊騎装は単独の属性もしくは最大二つまでの属性を組み合わせたものが存在し、上の表の、それぞれの属性の特性を組み合わせられている。例えば思念操作式飛翔刃レイヴンであれば、雲の操作の特性と風の切断の特性を組み合わせられており、追尾式炸裂弾アーティファクトであれば炎の爆裂と雷の追尾の特性を組み合わせられている。


 組み合わせられる属性は、四竦み表で言うと、同じ位置のもの(例えば光と雷)か対角の位置のもの(例えば雷と炎)しか組み合わせる事が出来ない。隣接する位置のもの(例えば水と炎)は組み合わせる事が出来ない。


 同じ位置のもの同士は最も相性が良い為、その二つを組み合わせた聖霊騎装は単純な威力等の性能は非常に高い。ただし対角の位置のものを組み合わせると、より多くの属性のソードに対して弱点を突けるメリットが生まれる。


 例えば同じ位置の属性である風と雲を組み合わせた思念操作式飛翔刃レイヴンは強力であるが、光と雷の属性のソードに対してしか弱点を突く事が出来ない。


しかし対角の位置の属性である光と土を組み合わせた散開式尽力弓クスィフ・ショットアローであれば、風・雲・水属性と、より多くの属性のソードに対して弱点を突く事が出来る。


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