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34話 黒紫髪の少女との出会い

 十数分後。


 ヨクハの宣言通り、騎士団の全員が宿舎の食堂に集合していた。


 ヨクハ、プルーム、エイラリィ、デゼル、カナフ、シーベットとシバ、更にはシオンとパルナまで、文字通りの全員集合である。


 八人と一匹はソラと対面するように座卓に座り、幾人かは金属のコップに入れた飲み物を持参、シーベットに至ってはクッキーのようなお菓子まで用意していた。


「って何で全員集まってるの? というか何だこの砕けた雰囲気! 紙芝居じゃないんだから! しかもそこっ、お菓子まで準備するんじゃない!」


「だんちょーが許可したんだぞ。ね、だんちょー」


「うむ、長くなりそうなんでわしが許可した」


「長くなるとか勝手に決めつけんなよ、ていうかこの雰囲気の中で本当に話すの? 期待に応えれるような大した話でもないんだけどなあ」


 ソラは嘆息混じりに後頭部を掻きながら言った。


「あのさ、今気付いたけどあんたもしかしてそれ、右頬の、怨気の黒翼じゃない!? 何であんたにそれが……ていうか何で片方にだけ?」


 するとパルナがソラの右頬の黒い翼の痣に気付き、驚愕したように尋ねる。


「ん? ああこれ? パルナちゃんも知ってるんだ」


「知ってるも何もあたしは……」


 するとパルナが何かを言いかけて口ごもる。


「俺はさ、“封怨(ふうおん)神子(みこ)”って奴だったんだ」


 封怨の神子、ソラが発したその単語に、全員が言葉を失い、辺りに重苦しい雰囲気が流れた。


「あ、いやいやいや昔の話だし、皆そんな深刻そうにしなくてもいいって本当」


 自分のせいでそんな雰囲気にしてしまったことが耐えられなかったのか、ソラは必死に取り繕った。


「そ、それじゃあまあ、その辺の事も含めて順を追って話すとするよ。あ、でもしつこいようだけどこんなに集まる程大した話でもないからね本当に」


 そして再び念を押しながら、ソラは渋々といった様子で語り始めた。




※      ※      ※     



 ――五年前。


 そこはトゥルース島。レファノス王国が統治する群島の内の一つで、橄欖(かんらん)の空域の端に存在する片田舎の島。そんな片田舎の島の中でも更に外れにある民家のソファーに横になり、書物を顔に乗せ昼寝に勤しむのは、レファノス群島の民の特徴である栗色の髪を無造作に伸び散らかした初老の男性で、名をルナール=エリュアールと言った。


 部屋は酒の瓶が散乱し、乱雑に放置された書物、割れた食器が所々に配置されていた。


 そしてその島の民家の離れにある翼獣舎で、黒髪金眼の少年は一人、日課であるグリフォンの世話に勤しむ。


 ピッチフォークで飼葉を均し、餌をやり、糞などの掃除、グリフォンの毛並をとかし、交配、卵の管理、孵化作業。まだ齢九つの少年がたった一人でその翼獣舎の管理を任されていたのだ。


 少年は学校には行かず、日がな一日翼獣舎でグリフォンの世話。成獣は村人の依頼があれば貸し出しを行い、孵化させた幼獣は他島へと売る。そうして立てた生計で、少年と、少年の育ての親であるルナールは生活をする、そんな暮らしを始めて既に二年の月日が経過していた。


 すると、少年が仕事をする翼獣舎に突然ルナールが入ってくる。


「おいソラ、パンと酒が切れた。村に行って買ってこい」


「うん、わかったよルナール」


 ルナールはソラという名の少年に、銀で出来た小さな羽根の形をした硬貨を二枚渡すと、すぐに翼獣舎を出て行った。


 ソラとルナールが会話をするのは基本的に、ソラが世話をするグリフォンで得た収入を受け取る時と、今のように必要な買い物を要求する時だけであった。


 育ての親とは言っても、ルナールはソラに対し教育をする訳でもない、愛情を与える訳でもない、翼獣舎に併設された一室で暮らすソラとは寝食を共にしている訳でもない。


 それでもソラはルナールに文句一つ漏らしたことはない。育ての親として慕い、ルナールの為にひたすらに翼獣舎の管理を行っていた。


 言葉や必要最低限の常識は、このような状況を憂える村の長に習った。


 それでも両親の居ないソラにとって、自分を拾ってくれたルナールは唯一の家族だった。





 ソラはルナールの言い付けを守るため、この翼獣舎から徒歩で一時間程の集落に向かって足を急がせる。


 息を切らしながら、本来徒歩で一時間かかる集落に三十分程で到着すると、ソラは足早に村の外れにある村唯一の雑貨屋に入る。


 小さな店内の棚には雑貨や酒とミルク、固そうな田舎パンがいくつか並び、ソラはルナールに頼まれた酒とパン、そして自身の分のパンとミルクを手に店主に銀の羽根を二枚渡した。


「ほらよ」


 ソラは布の袋に入れられたパンと酒とミルクを受け取ると、店を出て帰路を急ごうとする。


 すると、何やら村がざわついており、何かを囲むようにして村人達が集まっていた。


「何だ?」


 ソラはその騒ぎの中心が気になり、密集する村人の隙間を縫うようにしてその中心に辿り着く。


「あれは……」


 すると、そこには黒い制服と騎装衣を身に纏ったソラと同年代程の少女が倒れていたのだ。


「エリギウス帝国の騎士だ」


「こんな小さな女の子が?」


「歳は関係ない、敵国の騎士が何の目的でこんな所に?」


「しかもこいつのこの髪の色、異形種じゃねえか!」


 肩口辺りまで伸びたこの少女の髪、その色は紫がかった黒髪。この世界の、どの民の特徴とも違う髪の色である。


 この世界の民は、その出身により特徴が大きく七種類に分けられる。


 メルグレイン群島の民は青系統の髪色に水色の瞳、レファノス群島の民は茶系統の髪色と翡翠色の瞳、イェスディラン群島の民は銀系統の髪色と先端の尖った耳、ディナイン群島の民は金系統の髪色と浅黒の肌、エリギウス大陸の民は金系統、銀系統、赤系統のいずれかの髪色と金色の瞳を持つ。


 そしてラドウィードにて滅んだ二つの孤島国家、ナパージの民の末裔は黒髪と黒い瞳、タリエラの民の末裔は赤系統の髪と猛禽類のような鋭く黒い爪を持つ。


 大まかにこの七つに分類された特徴の内、例えばソラのように孤島ナパージの民の黒い髪と、エリギウス大陸の民の金眼、二つの民の特徴を持つ者は混血種と呼ばれる。


 そしてこの少女のように髪や、瞳の色、その他身体的特徴等が前述のいずれかに含まれない物を持つ者は異形種と呼ばれ、この世界ではどちらも忌み嫌われる存在となっている。


「異形種かどうかなんてどうでもいい、こいつらエリギウス帝国の騎士のせいで、俺達レファノスの民が何人死んだと思っている?」


 その一言を皮切りに、怨嗟の波が広がった。


「殺そう、気を失っている今の内に」


 そして、一人の村人が呟くと、胸元からナイフを取り出し、少女に近付く。


 瞬間、ソラは咄嗟に飛び出していた。特に打算や考えがあった訳じゃない、ただ気が付けば自然に体が動いていたのだ。


「やめろよ! こんなの馬鹿げてる」


 ソラは両手を広げ、少女を庇うように立ち塞がった。


「ルナールの所の混血種のガキか? お前こいつを庇うのか、やっぱりエリギウスの民の血が混じってるだけの事はあるな」


「そんなの関係無い、いくらエリギウスの騎士だからって意識も無いこんな女の子を殺そうとするなんて、あんたそれでもまともな大人かよ」


「馬鹿かお前、こいつは敵国の騎士だぞ? もしもこいつが覚醒騎士だとして、目が覚めちまったら誰もこいつには太刀打ち出来ない、村の皆が殺されたらお前は責任を取れるのか?」


「……それは」


 エリギウス帝国の騎士の恰好をしている少女。村人が危惧する通り、もしも少女が牙を剥けば止められる者は誰も居ない。村人の尤もな指摘にソラが口ごもると、倒れている少女の体が僅かに動く。


「う……ん」


 続いて瞼が動き、小さく声が漏れる。少女が意識を取り戻す前兆であった。


「くそっ!」


 すると村人の男はそれを見て、咄嗟にソラを押しのけると、そのナイフを横たわっている少女の胸に突き立てた。


「やめろおおおっ!」


 直後ソラは、村人の男の足元にしがみ付き、村人の男はバランスを崩して前のめりに倒れ込んだ。それは先程と同じように体が勝手に動いてしまったからだ。村人達の言う事は理解出来る、それでも目の前の少女をこのまま死なせたくは無い……それは理屈では無く、素直な想いだった。


「ソラてめえ、邪魔すんじゃねえ」


 村人の男は激昂しながらすぐさま立ち上がり、自身の足にしがみ付くソラに、蹴りを繰り出した。やがてやってくるだろう痛みに備え、ソラは両の目を固く瞑る。


 しかし、痛みは訪れず、ソラがゆっくりと目を開けると、先程まで少女を囲っていた取り巻きの外に自分が居る事に気付いた。しかも自身の体がその少女の脇に抱えられている。


 その光景に、ソラはぽっかりと口を開けたまま戸惑いを隠せずにいた。


「いたぞ、あそこだ!」


 すると、先程まで少女を囲っていた取り巻きは、中心から少女が消えた事に気付き、取り巻きの外

でソラを抱えている少女に指をさす。


「うーむ、状況がよく解らないけど、どうやら私のせいでこの少年に迷惑がかかってしまったようだね」


 少女は一言そう呟くと、一足飛びで民家の屋根へと飛び上がった。内臓が浮遊したような不思議な感覚と恐怖に、ソラは未だ声すら出せずにいた。


「なんて跳躍力、やっぱりあいつ覚醒騎士か!」


 人並外れた少女の身体能力に驚愕し、少女が銀衣騎士以上の存在である事を確信する村人達。


「うーん、どうするのが最善か」


 すると自分を見てざわつく村人を見下ろしながら、少女は口元に手を当てて考えるような仕草をした。


「……とりあえず逃げるか」


 少女はそう言いながら、民家の屋根伝いに飛んで走りながら、林の中へと消え去った。

34話まで読んでいただき本当にありがとうございます。


ブックマークしてくれた方、評価してくれた方、いつもいいねしてくれてる方、本当に本当に救われております。


誤字報告も大変助かります。これからも宜しくお願いします。


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