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31話 勝利の宴

 みどりの空域防衛戦から数時間後。


 碧の空域内にある四つの島の一つ、ベルー島の村の酒場にヨクハ達は居た。


 その島はレファノス王国の島らしく雄大な緑に囲まれ、村は木材で造られた民家が建ち並ぶ。その中に一際大きな建物であり、酒樽の形の看板が掲げられた酒場には五十名弱の〈因果の鮮血〉の騎士達と、ヨクハ達騎士団の騎士達が祝杯を挙げていた。


 とある一つの大きなテーブルにはソラ、プルーム、エイラリィ、デゼル、カナフ、シーベットが座り、食事をしたり飲み物を飲んだりしていた。


「おい新入り、シーベットのコップが空だぞ」


「はいはい、これでいいですか?」


 シーベットに促され、渋々葡萄ジュースをシーベットのコップに注ぐソラ。


「ソラ、私もミルクのおかわりを頼む」


 そしてシーベットの足元でミルクを飲んでいるシバもソラにおかわりを促していた。


「はいはい……って何かいつの間にか俺がシーベット先輩とシバさんの世話係みたいになってない?」


 シバの皿にミルクを継ぎ足しながら自身の立ち位置に不満を漏らす。するとそれを見ていたプルームがくすくすと笑いを漏した。


「ふふっシーベット、初めての後輩が出来てよっぽど嬉しいんだね」


「初めての後輩って、シーベット先輩っていつこの騎士団に入ったんだ?」


「えーとね、十年前にまずこの騎士団の基となった孤児院をヨクハ団長とシオンさんが開いて、同時期に私とエイラとデゼルと今はここに居ないもう一人がその孤児院に入って、その一年後くらいにパルナとシーベットが入って、それから何やかんやあって一ヶ月くらい前に騎士団としての活動を始めたの」


「何やかんやって物凄い端折るな、プルームちゃんって意外と適当だったりして」


 大事そうな部分を大幅にカットするプルーム対して呆れたように呟くソラの台詞を聞いて、不満気に割って入るエイラリィ。


「失礼なことを言いますねソラさん。姉さんは意外とではなくてかなり適当……ではなくて天然なだけなんです」


「エイラリィちゃんの方が失礼なこと言ってないかそれ」


「えへへ、エイラってば、天然だなんて私には勿体ないよ」


 すると、謙遜しているかのような台詞と共に、照れ臭そうな様子で頬を染めるプルームを見てソラが思わずツッコんだ。


「何で照れてるのプルームちゃん、もしかして天然って天然水とかの天然だと思ってない? 清らかだとかそういう意味じゃないからね」


「そ、そうなの?」


 ――あ、本当だ、エイラリィちゃんの言う通りだ。


「あれ? そういえばシーベット先輩がその孤児院に入ったのが九年前ってことは、二ヶ月前にこの騎士団に入団したカナフさんはシーベット先輩の後輩じゃないのか?」


「カナブンは後輩だが後輩としては扱わない、何故ならシーベットみたいな可愛らしい女の子が、あんなゴリラみたいな筋肉もりもりのむさ苦しいおっさんを顎で使っていたら絵面的にまずいだろ色々と」


「ゴリラみたいなむさ苦しいおっさん……か」


 シーベットの歯に衣着せぬ一言に、カナフは寂しそうに俯いて呟いた。


「というかカナブンってカナフさんのこと? 何そのあだ名は?」


「シーベットは自分が認めた相手には親しみを込めてあだ名を付けるんだよ、カナフさんはカナブンで、僕なんて盾男だけどね」


 自分の妙なあだ名を口にしながら、こめかみを掻いて言うデゼル。


「親しみ込もってるそれ?」


「ちゃんと込めているぞ、ちなみにプルームはプルルン、エイラリィはエイリャン、パルナはぱるにゃ、シオンさんはお髭だ、そして正式入団してもいないお前はまだ“新入り”だ後輩」


「はは、まだ認められてないってことね」

 


 一方、カウンターでは、碧の空域守衛騎士団長のニコラとヨクハが並んで談話をしていた。


「ニコラ殿、この酒場の代金をもってくれるそうじゃな、感謝するぞ」


「いえいえこのくらいのことは当然です、それに彼らが楽しんでくれているようで何よりです」


 ニコラはソラ達のテーブルを見ながら笑顔で返した。


「ところでヨクハさん達、酒の方は?」


 葡萄酒の入った酒樽を片手に、ニコラがヨクハに尋ねる。


「いやわしは下戸じゃ酒は飲まん。それに見ての通り、この騎士団の騎士達はまだ年端もいかぬ子供ばかり、故に食事と飲み物さえあれば十分じゃ」


「そうですか、それにしてもルキゥール陛下から聞いていた通りの猛将ぶり、いやあ今回の防衛戦、ヨクハさん達が居なかったらどうなっていたことか」


「本当にそうじゃぞ、一個騎士師団を相手にこの程度の戦力で迎え撃とうなどと、今度ルキの奴に会ったらただじゃおかん」


「ははは、これは手厳しい。それでは今夜は楽しんでいってください」


 ニコラは愛想笑いをして一礼すると、部下の騎士達の席へと戻って行った。


 すると、ニコラが席を立ち、ヨクハが一人になったのを見計らい、ソラはテーブルから立ち上がり、ヨクハの隣の席へと座る。


「団長……」


「なんじゃ?」


「団長は、蒼衣騎士なのに何であんなに強いんだ?」


「それはわしが天才だからじゃな」


 躊躇いも無く傲慢に言い放つヨクハに苛立ちを募らせながらも、続けて尋ねるソラ。


「ぐっ、そう……まあいいや、じゃあさ、敵の師団長に放ったあれって、特別な刃力剣クスィフ・ブレイドの効果か何かなのか?」


「ムラクモの刃力剣クスィフ・ブレイド羽刀型刃力剣スサノオといってな、孤島ナパージに伝わる羽刀わとうの形状をしているだけの通常の刃力剣クスィフ・ブレイドじゃ」


「……え、じゃああの光の刃飛ばしたりとか、師団長のソードを一刀両断したのって――」


「わしの剣技によるものじゃぞ」


 それを聞き、ソラはやや前のめりになって尋ねる。


「それじゃあ、もしかしてあの技俺も使えたりとか」


「何じゃお主“都牟羽つむは”を会得したいのか?」


「つむは?」


「お主が言うあの剣技の名じゃ」


「そうそれ、そのつむはっていうのよかったら教えてくれないか団長」


「お主……座学が嫌だの修行がきついだのすぐ泣き言を言うわりには随分と必死じゃな」


 ヨクハの何かを探るような視線を感じ、咄嗟に返すソラ。


「いやほら、誰だって死にたくはないだろ。この先、白刃騎士として戦わされる以上は少しでも戦う力を身に着けておきたいって思ったんだ」


「そうじゃのう、お主がこの騎士団に正式に入団するというのなら考えてやってもいいがのう」


 そんな翼羽の提案に、ソラはしばし考え込んだ。


 ――この騎士団と、〈因果の鮮血〉、どっちに居た方が……


 〈因果の鮮血〉の本拠地に居るにも関わらず、〈因果の鮮血〉入団の算段を取ろうとしていない時点で、自分の中で答は殆ど決まっていた。しかしソラが決心しきれない理由、それは自身の目的の為にはどちらに入団すべきなのか、それがはっきりと分からなかったからだ。


 同時に、ソラにはふと以前から気になっていた疑問が浮かぶ。


「そういえば、何でこの騎士団って未だに名前が無いんだ? “この騎士団”とか名前が無いと不便じゃないか?」


 それを聞き、難しい表情を浮かべ沈黙した後、口を開くヨクハ。


「良い名が思い浮かばんのじゃ」


「え?」


「何通りも考えたんじゃがしっくり来ず困っておるんじゃよ」


 ――そんな下らない理由で。


 とソラは思ったが、本気で悩んでいて深刻そうなヨクハの表情を見て、出しかけた言葉を仕舞った。


 ヨクハによると、揃いの騎士団制服も実はちゃんと出来ているらしい。しかし騎士団名が決まっていないから紋章のデザインも決まらず、未だに服装もバラバラ。活動を開始してはや二ヶ月、いい加減騎士団名を決めなくてはならないとヨクハは漏らした。そんなヨクハにソラが何気なしに提案する。


「えっと、ほら、この騎士団らしい名前をシンプルに付ければいいんじゃないのか?」


「この騎士団……らしいとは?」


「え? あーっと、そうだなあ、何かこの騎士団って出身とか人種とかもばらばらだし、めちゃくちゃ濃いメンツだしで、寄せ集めの問題児って感じバリバリなのに、ちゃんと連携が取れているっていうか、ちゃんと信頼し合っているっていうか」


 適当に言った言葉に食いつかれ、苦し紛れに返したソラ、しかしヨクハはそれを聞いてハッとしたような表情を浮かべる。


「おい新入り、シーベットのコップがまた空だぞ」


「ソラ、私もミルクのおかわりを頼む」


「はいはい、ただいま注ぎますよ!」


 直後、シーベットとシバに呼ばれ、ソラは元のテーブルへと走って戻っていく。


「寄せ集め……か、悪くない」


 すると一人、ヨクハは小さく呟くのだった。


 そしてソラにとって、運命に導かれる事になる一日が迫っていた。

31話まで読んでいただき本当にありがとうございます。


ブックマークしてくれた方、評価してくれた方、いつもいいねしてくれてる方、本当に本当に救われております。


誤字報告も大変助かります。これからも宜しくお願いします。

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