29話 決意の一撃
ソラに後押しされ、プルームは竜殲術〈念導〉を発動させる。
『うん、あそこに攻撃を続けてみよう』
プルームはカットラスの周囲を浮遊する思念操作式飛翔刃 八基を射出し、ジャマダハルの腹部を狙った。
『鬱陶しいですね』
それに対しカチュアのジャマダハルは刃力剣を振るい、一振りで思念操作式飛翔刃 三基を薙ぎ払う。ソラはそれを見て予測する。
「初めて防御した? やっぱり効いてるって事か!」
次の瞬間、ジャマダハルの間合いに、シーベットのスクラマサクスが入っていた。
『これで決める!』
そしてシーベットのスクラマサクスは、逆手に持っていた刃力剣を順手に持ち替え、腹部に刺突を繰り出す。
しかし、その一撃をカチュアのジャマダハルは左手に持ち変えた刃力剣で外側にいなすと、右手を左前腕の盾の内側に入れ、土の聖霊の特性により散弾光矢を放つ事の出来る散開式刃力弓を抜き、スクラマサクスの頭部に向けた。
『くぅっ!』
だがシーベットは咄嗟に、スクラマサクスの左前腕に装着された盾でそれを受け止めた。
『きゃあっ』
それでも至近距離からの散弾の衝撃による威力は殺しきれず、スクラマサクスはそのまま吹き飛ばされる。
連携に次ぐ連携、しかしそれでも決定打にはならず、ソラは一人歯噛みした。
――くそっ、あと一息なのに、そのあと一撃が通らない。
『何やってやがる!』
その時、ソラの操刃室内に激が飛ぶ。それはツァリス島の本拠地聖堂から、戦いを見ていたシオンの伝声器越しの声だった。
「し、シオンさん」
『俺のカレトヴルッフはちゃんと性能を引き出せれば、そこらの宝剣なんぞに負けやしねえ!』
「そんな事言われても……操刃しているのが俺じゃあ」
自分の無力さに苛まれるように呟くソラに、シオンは再度告げる。
『ヨクハにも……じゃなくてヨクハ団長にも言われていたろ? お前の持ち味を活かせ、不本意だが今カレトヴルッフはその為にある!』
シオンの言葉にソラは目を瞑り、今の手持ちの武器を脳内で振り返った。
カレトヴルッフが現在装備している聖霊騎装は刃力剣、刃力弓、抗刃力結界のみである。
出陣間際にソラの操刃するソードとなったカレトヴルッフには基本的な聖霊騎装のみで、威力の高い刃力核直結式聖霊騎装や、追尾式炸裂弾などの攻撃にも陽動にも使える汎用性の高い肩部聖霊騎装は装備していない。
――あの騎体の亀裂が入った腹部を貫くには刃力剣しかない。けどどうやって……俺の武器、持ち味は一発の斬撃と幻影剣。でも来る場所が分かってる突きの一撃なんて師団長級に通じる訳もないし、幻影剣は突きじゃ……いや、待てよ。
高速で頭を回転させ思考しながら、ソラは一つの事に気付く。
「プルームちゃん、シーベット先輩、援護を頼む、俺があいつの懐に入る」
『大丈夫なのソラ君?』
『突然やる気を出したな、シーベットに援護させて自ら行くとは生意気な』
「俺だって気乗りしないけど、ここであいつを倒さないと――」
ソラの覚悟を決めたような表情と声に、プルーム達は信念めいたものを予感した。
「後でヨクハ団長やシオンさんにどやされるの嫌だしなあ」
しかし直後、気の抜けた様子で言い放つソラに、プルーム達は目を細めて沈黙するのだった。
次の瞬間、剣を構えたカチュアのジャマダハルが、ソラのカレトヴルッフに突撃して来た。
「うわっ、また俺に来たよ!」
カチュアのジャマダハルは剣を連続で振るうも、ソラはそれを何とかいなしていく。
荒々しく力任せでありながら、その鋭さと手数の多さにより、攻撃は最大の防御を体現する剣技、オルスティア五大流派の一つでありディナイン群島に伝わるそれは、ラムイステラーハ流剣術である。
正に嵐のような猛攻、その連撃に、ソラは次第に押され始める。そして――
「くっ、やばっ!」
連撃からの渾身の振り上げに、ソラのカレトヴルッフは剣を上空に弾かれた。
『操刃者を持ち帰るには、まずは首ですね』
カチュアのジャマダハルによる横薙ぎ一閃がソラのカレトヴルッフの頸部へと奔る。
……だがその一撃は何かに遮られていた。
それは刃力剣の刀身。シーベットのスクラマサクスがカレトヴルッフとジャマダハルの間に入り、ジャマダハルからの一撃を防いでいた。
『シーベットは非力なんだ、さっさとしろ』
『ソラ君!』
続いてプルームのカットラスの額に剣の紋章が淡く輝き、竜殲術〈念導〉により、弾き飛ばされた刃力剣が空中で制止した。
ソラはそれを見て騎体を上昇させ、刃力剣の柄を空中で掴む。
「チャンスはここしかないっ!」
そしてソラは、推進力を調整する足元の操刃鍔を目いっぱいに踏み込み、剣を前方に構えた状態で、最大出力によりカレトヴルッフをジャマダハルに突撃させる。
亀裂の入った腹部を狙った突き、それを察し、シーベットはスクラマサクスを下降させジャマダハルから離れる。
『とっても素直な攻撃ですね』
同時に、ジャマダハルは剣を構え、その突きをいなす体制に入った。
瞬間、カレトヴルッフの刃力剣の刀身が消失し、突きをいなそうと外側に払ったジャマダハルの刃力剣の刀身が空を切り、腹部ががら空きになる。
ソラは思い返していた。
昨日の戦闘、銀衣騎士の操刃するタルワールを二騎撃破することが出来た。それは勿論プルームとの鍛錬の成果もあるのだろうが、カレトヴルッフの動きを生身の時のように自在に扱えていたことが大きかった。
四肢や関節の可動の速さ、そして騎体の加速力、騎体の聖霊と守護聖霊の属性が一致していることによる騎体の潜在能力の解放。それらは以前演習用のグラディウスやプルームのカットラスを操刃した時とは別物たらしめていた。
幻影剣による突き技が不可能であったのは、ソラの突き技の速さに対して騎体が追い付いて来ず、刀身消失と再形成のイメージに齟齬が生まれてしまう事に起因していた。
しかし、このカレトヴルッフなら。
「貫けえええええっ!」
カレトヴルッフの刃力剣に再び刀身が出現、がら空きとなったカチュアのジャマダハルの腹部の亀裂部分に刃力剣の刀身が突き刺さり――
『え?』
――そして貫いた。
腹部に刃力剣の刀身が貫通し、ジャマダハルの動きが静止する。
「ハアッハアッハアッ! やれた、俺が聖衣騎士を!」
直後、静かに歓喜しながら刀身を引き抜き、ジャマダハルから距離を取って爆発に備えるソラ。
「あ……れ?」
だが、刃力剣が貫通した腹部に電流が走るものの、ジャマダハルは爆散せず、未だ空中に留まっていた。
『ふふ、惜しかったですね。少しだけずれてましたよ、動力炉からは』
「嘘……だろ」
最初に亀裂が入った部分、そしてソラが刃力剣で貫いた部分、そこはジャマダハルの動力炉からは僅かに反れた位置だったのだ。
『あなた凄いですよ、このジャマダハルをこんなに傷物にしたお方はあなたが初めてです、やっぱり今回の戦利品はあなたに決定ですね』
頬を染め、目を見開き、不気味な笑みを浮かべるカチュアを晶板越しで確認し、ソラは冷たい汗を滲ませる。
「カナフさん、さっきのやつもう一発撃てないのか?」
懇願するようなソラの問いに、カナフは忌憚なく事実を告げる。先程のカチュアの攻撃で砲身が破壊された為、狙撃式刃力砲はもう使う事が出来ないと。
「くっ、万策尽きちまったのか?」
連携と、渾身の大技でもカチュアを倒しきれず、再び八方塞りの状態となった事でソラは歯噛みした。
その時だった。
『六人掛かりで未だ討ち取れておらんのか、修行不足じゃなお主達』
「よ、ヨクハ団長」
突然、ソラ達の前にヨクハのムラクモが現れる。
29話まで読んでいただき本当にありがとうございます。
ブックマークしてくれた方、評価してくれた方、いつもいいねしてくれてる方、本当に本当に救われております。
誤字報告も大変助かります。これからも宜しくお願いします。
〈聖霊騎装解説〉
[散開式刃力弓]
光の聖霊の意思を利用し、光の矢を放つ刃力弓に、分裂の特性を持つ土の聖霊の意思を組み合わせた携帯型聖霊騎装。
散弾光矢……所謂ショットガン的な攻撃を放つ事が出来る。散弾なので命中率は高く、思念操作式飛翔刃を撃ち落とす等、小さな目標に攻撃を当てる時や牽制において効果的である反面、射程距離は短く、距離が離れれば離れる程威力は下がる。
[散開式刃力砲]
波動の特性を持つ光と、分裂の特性を持つ土の聖霊の意思を組み合わせた刃力核直結式聖霊騎装。腰部に接続され背部に収納された砲身にて攻撃する。複数の標的に対して同時照準固定する事により、一度の砲撃で複数の標的を狙い撃つ事が出来る。
砲身に集束させた刃力による光の球が、分裂して光矢となり一斉に目標に襲い掛かる。本聖霊騎装による同時攻撃可能最大数は15。一対多、もしくは多体多等、一度に多くの敵を殲滅する際に真価を発揮する。