299話 たとえ片方しかない翼でも
その後、ソラとエルは近くの小さな浮遊島に騎体を着陸させ、フリューゲルとの合流を果たす。
そこでエッケザックスを見上げながら、目を輝かせるソラ。
「おおっ、ていうか神剣に選ばれたんだなフリューゲル!」
「何とかな、俺なんぞが神剣の操刃者に選ばれていいのか未だに疑問だけどよ」
謙遜しながら返すフリューゲルであったが、ソラは言う。
「蓼食う虫も好き好きって言うし、まあ雷の大聖霊はゲテモノ好きだったということで」
「誰がゲテモノだこの野郎! あっ、そういえばてめえのせいで俺がアルテーリエ様に絞められたんだぞ、どう落とし前付けてくれんだ!」
「人によってはご褒美なんだからいいだろ別に」
「俺にそんな趣味はねえっつうの!」
そんな他愛も無いやり取りを交えつつ、ソラは本題に入る。
「あ、そうだそんなことより紹介するよ、今度新たに〈寄集の隻翼〉の一員になるエルだ」
ソラの紹介を受け、エルはフリューゲルに挨拶をする。
「エルだ……その節は迷惑をかけたが、これからは君達と共に全霊を以て戦って行くつもりだ、よろしく頼む」
「ああ、そういや何度か戦ったな。どんな手を使ったのかは知らねえがよく味方に引き込めたな」
「いやまあ、色々とあってさ。ってかフリューゲルこそよく来てくれたな」
フリューゲルは経緯を説明する。純血の契が終わった後、アルテーリエとルキゥールから強奪されたデュランダルを追跡し奪還するように命令されたのだが、追い付いた先ではソラの天叢雲とデュランダルが所属不明の敵と交戦しているのを発見し、パルナから事情を軽く聞いた後で助勢したのだと。
するとフリューゲルは何かを思い出したようにハッとしながらソラに尋ねた。
「そういや俺が到着した時には既にデュランダルは奪還出来てたみたいだけどよ、強奪した犯人は捕まえられなかったのか?」
「えっと、その……」
対し、言い辛そうに口ごもるソラ。その直後、エルが小さく手を挙げ、同じく口ごもりながら薄情する。
「デュランダルを強奪したのは……その……私だ」
「はあっ!」
「いや話すと長くなるんだけどさ――」
そしてソラはフリューゲルに事の顛末……神鷹から聞かされた真実とエルが抱えていたものを語るのだった。
驚愕の事実を突き付けられ、終始目を白黒させているフリューゲルであったが、やがては平静を取り戻していた。
「まあ、んな話いきなり告げられても、まだ頭が追い付いてこねえけどよ、これだけは解るぜ……いずれは竜祖セリヲンアポカリュプシスの野郎と戦わなけりゃならねえってことだろ」
フリューゲルの言葉に、エルは静かに頷き、返す。
「竜祖はいずれ必ず人類に牙を剥く。私が言うのもおこがましいが、奴はこのオルスティアを守るために倒さなければならない敵であるのは間違いない」
エリギウス帝国という強大な敵、そして竜祖セリヲンアポカリュプシスという存在までもが更に控えているという事実、その前途多難さにその場には沈黙が流れていた。するとそれを破るようにソラが言う。
「まあ、今ここで俺達だけで考えても仕方ないよ。まずはルキゥール様とアルテーリエ様にこの事を伝えて、今後のことを話し合わないとさ」
「そうだな、んじゃとりあえず、俺は今後このエッケザックスの所在をどうするのかについての話とかがあるから一旦メルグレインのリンベルン島に戻る、お前らはどうするつもりなんだ?」
フリューゲルがそう尋ねると、ソラは返す。自分とエルはレファノス王国の王都セリアスベル島に戻ってデュランダルを返納する。そしてルキゥールに今回の出来事や経緯を説明して、まずは許しを貰いに行くと。
それを聞いたフリューゲルが、小さく笑いを漏らした。
「ハッ、そういや二年前も俺がメルグレインからパンツァーステッチャー盗んだ件で呼び出された時、お前も一緒に行かされてたっけな」
「そうだったのか? ふふっ、出会った時から面倒見が良かったものな君は」
すると自分の知らないソラの一面を知れたことが嬉しいのか、エルは嬉しそうな声でソラに告げると、ソラは少し気まずそうに後頭部を掻きながら小さく呟いた。
「……いや、あの時は翼羽団長に無理矢理行かされただけであって」
「まっ、とにかくエルが味方に付いてくれるってんならこの先かなり心強え、どんな手を使ってでも許しを得てこいよ団長」
「また都合の良い時だけ団長扱いする……まあでも、フリューゲルの言うとおり、エルは俺がどんな手を使ってでもツァリス島に連れ帰る」
力強く言い放つソラに、エルは頬を少しだけ赤くして返した。
「……ソラ、ありがとう」
そうして、レファノスにデュランダルを返納し、エルが犯した罪の恩赦を貰うべくしてソラの天叢雲とエルのデュランダルはセリアスベル島へと飛び立った。
互いに片側の推進刃を失い、デュランダルは浮遊岩礁に激突した際に姿勢制御器を損傷していたため、天叢雲がデュランダルに肩を貸し、互いが互いを支え合うようにして飛翔していた。
それはさながら、隻翼の鳥が互いの翼を補い合って飛んでるようにも、比翼の鳥が優雅に飛んでいるようにも見えた。
フリューゲルはその光景を眺めながら、表情を綻ばせそっと呟く。
「例え片方しか無い翼でも寄り添い合えば飛べる……か、〈寄集の隻翼〉そのものじゃねえか」
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