286話 神鷹の真意
天花寺 神鷹……現在は第五騎士師団〈灼黎の眼〉騎士師団長タカ=テンゲイジと名乗っている。そして夜刀神という名の竜から転生した竜醒の民であり、翼羽の故郷である那羽地が滅ぶ元凶となった、翼羽の宿敵でもある。
すると神鷹についてソラからざっくりと説明を受けたウィンが呟く。
「タカ=テンゲイジですか、僕がエリギウス王国西天騎士師団長であった時に、東天騎士師団長を務めていた男ですね」
「そうか、ウィンさんは面識があるんだな」
「顔を合わせたことぐらいですがね……まさか彼が竜醒の民であったとは驚きです」
そして神鷹が何故今、単騎でこの場所に襲撃に来たのか、ソラは思案する。
このツァリス島にはソードが八騎。しかも、自意識過剰などではなく自分は今や騎士師団長級の相手であっても互角以上に戦うことが出来る。更に、ここには聖衣騎士が三名、それ以外の者達も全員が精鋭揃いである。いかに神鷹が手練れであったとしても、突破出来る筈がない。
何か策があってのことなのか、それとも何か別の目論見があるのか……その真相は定かではないが、今はこの本拠地を守るために全力を尽くす、それ以外の選択肢は無かった。
そして、ソラは天叢雲の操刃室に座り、操刃柄を通して刃力を核である聖霊石に送る。動力が起動し、天叢雲の双眸が輝き、蒼い騎装衣が形成された。
「天叢雲、ソラ=レイウィング、出陣する!」
天花寺 神鷹を迎え撃つべくソラの天叢雲が空へと飛び立つと、それに続き、プルームのカットラス、デゼルのベリサルダ、エイラリィのカーテナ、カナフのタルワール、シーベットのドラグヴェンデル、アレッタのウルフバート、ウィンのフロレントが飛び立ち、それぞれの配置に付くのだった。
その配置は、デゼルのベリサルダ、エイラリィのカーテナ、カナフのタルワールはツァリス島に、シーベットのドラグヴェンデルとアレッタのウルフバートは前線に、ウィンのフロレント、プルームのカットラスは中央に、そしてソラの天叢雲は最前線である。
ソラはすぐさま天叢雲の、左右の腰の鞘から刃力剣と羽刀型刃力剣を抜いて構えると、自身は竜域へと至る。それによりソラの瞳の瞳孔が縦に割れ、竜の眼となった。
直後、神鷹の操刃する布都御魂は、ソラ達の目前にまで迫ると空中で制動し、ソラ達と対峙する。
それを見たソラは神鷹の真意を探るべく、まずは伝声を送った。
「どんな策があるのか、どんな思惑があるのかは知らないけど、俺達〈寄集の隻翼〉に一人で挑むつもりか……無謀だな」
対し、相互伝声を許可し、ソラへと伝声を返す神鷹。
『お前がソラ=レイウィングか、こうして話すのは初めてだな』
「…………」
そこにいるのは師の宿敵。迸る威圧感は翼羽と遜色なく、相対するは紛れも無い強者。激突を前にして無となっている筈のソラに冷たい汗が滲む。
しかし神鷹からは敵意を感じず、布都御魂が一切の攻撃姿勢を見せないことを不審に思うソラ。だが臨戦態勢を解かず、ソラは刃力剣の刀身に、刃力を収束させた。
すると神鷹から意外な言葉が発せられた。
『竜域に都牟羽……諷意鳳龍院流を修得している騎士がこの時代にまだいるとは驚きだ。だが早とちりするな、俺はお前達と戦いに来たわけではない』
更に神鷹は操刃室を開放させ、無防備となることで無抵抗を示す。
そして、神鷹の姿を見たシーベットが反応を示すのだった。
『あっ! お前は!』
「どうしたシーベット先輩?」
『あいつは〈亡国の咆哮〉の協力者だ」
空白の二年間、エリギウス帝国へと潜入していたシーベットであったが、〈亡国の咆哮〉とも密かに繋がっていた。
そして……〈亡国の咆哮〉はあの男を通して情報を貰っていた。〈亡国の咆哮〉が藐の空域に侵攻した時も、竜殲術でヴェズルフェルニルの女王を操っていたのもあの男である、とシーベットは明かす。
「神鷹が……」
『まさかあいつがタカ=テンゲイジで、天花寺 神鷹だったなんて、素性を隠していたとはいえ気付かなかったシーベットはまだまだ未熟だ』
シーベットからの証言と、目の前の状況、情報の整理は容易ではなく、それを急ぐソラに対し神鷹は告げた。
『オルタナについて、お前に話しておかなければならないことがあってな……それを伝えに来た』
意味深なその発言に、ソラはゆっくりと構えていた剣を下ろし、竜域を解除して聞き返す。
「エルの話だと?」
『エル……そうか、お前が付けたというオルタナの名だな』
「話しておかなきゃならないことって何のことだ!」
『少し長くなる、ここで立ち話もなんだ、お前達の本拠地であるそこの島にでも案内しろ』
その提案に、ソラは少しだけ考えた後で決意したように返した。
「……付いてこい」
ソラは、布都御魂の主力武装である斬馬羽刀型刃力剣を預かると、神鷹を連れてツァリス島へと降り立つ。
※
その後、ツァリス島には片膝を付いた状態の天叢雲と布都御魂が佇み、その下にはそれぞれのソードから降り、相対するソラと神鷹の姿があった。
周囲には残りの団員達が待機し、二人の会話に耳を傾けながらもしもの事体に備える。
生身での邂逅もまた初、ソラは神鷹から決して視線を逸らさず、その言葉を待った。
すると神鷹は、ソラの顔をまじまじと見た後で尋ねる。
「先程は良い気迫だった、お前は鳳龍院 翼羽の弟子なのだろう?」
「……あんたと世間話するつもりはない、さっさと本題に入ってもらおうか」
「ふっ、確かに言うとおりだな」
敵意を剥き出しながら、核心に迫ろうとするソラに、神鷹は同意した。
「だが、オルタナの話をするよりも先に話しておくことがある……竜と転生についてだ」
「…………」
「竜という生物は一度死んだ後で別の生物に転生出来ることは知っているな? そして竜が転生した人間は竜醒の民と呼ばれている」
「まさか……エルが竜醒の民だとでも言いたいのか?」
「いや、厳密に言えばオルタナは竜醒の民ではない」
“厳密に言えば”それはエルがそれに近しい存在であるのだということを示していた。それを覚ったソラの鼓動が高鳴り、改めて神鷹の言葉に耳を傾ける。
「話を戻すぞ、ここからは元竜である俺だからこそ知り得る話だ」
そして神鷹はそう告げた後、ゆっくりと語り始めた。
286話まで読んでいただき本当にありがとうございます。
ブックマークしてくれた方、評価してくれた方、いつもいいねしてくれてる方、本当に本当に救われております。
誤字報告も大変助かります。これからも宜しくお願いします。