283話 聖霊騎装開発回
数日後のとある日。
作戦室に複数の団員が集まっていた。メンバーは翅音を中心としてソラ、ウィン、アーラ、フリューゲル、アレッタの六人である。
エリギウス帝国の大規模侵攻の予定は半月後に迫っているが、その目的は雷の大聖霊獣ワウケオンを顕現させる為のものであった。既に雷の大聖霊獣ワウケオンは顕現を果たし〈因果の鮮血〉陣営が雷の大聖霊石を手にしているため、その侵攻予定は早まるか中止となる可能性がある。
しかし、シーベットが通じているというエリギウス帝国側の内通者の情報によれば、未だエリギウス帝国側には雷の大聖霊獣が顕現した情報は入って来ておらず、大規模侵攻の予定は半月後と変わりはないとのことであった。
そしてその大規模侵攻の前にこちらから打って出るのが〈因果の鮮血〉側の作戦であるのだが、その前に〈寄集の隻翼〉側としても相応の準備が必要である。
翅音は、自分が作戦室に集めた面々に対し言う。
「今回お前らに集まってもらったのは、新しい聖霊騎装開発の案を出してもらうためだ」
翅音は続ける。これから控える大きな決戦において、敵にとって初見の武器は脅威となる。そのため、有効になりえる聖霊騎装の案を出してもらいたいとのことであった。
それを聞き、首を傾げるアレッタ。
「あの……聖霊騎装開発の案を出す場にどうして私がいるんですか?」
「今回、うちのソードに装備されている聖霊騎装で改善の余地があるのは、フリューゲルのパンツァーステッチャーの肩部聖霊騎装と、アレッタのウルフバートの盾付属型聖霊騎装だからだ」
フリューゲルのパンツァーステッチャーに装備される肩部聖霊騎装は追尾式炸裂弾。フリューゲル曰く、とりあえず無難なのをチョイスして装備しているとのことであるが、狙撃騎士の中でも特に超長距離狙撃を得意とするフリューゲルにとっては中距離で使用する追尾式炸裂弾はあまり使う機会が無いとのことである。
また、アレッタのウルフバートに装備される盾付属型聖霊騎装は炸裂式穿撃槍。ウルフバートの元の操刃者であったウルが、もしもの時の一撃必殺の切札があった方がカッコいいという理由で、ウルフバートと、アレッタの以前の愛刀であったエスパダロペラに装備したらしいのだが、敵の攻撃を凌ぎつつ相手の懐に入り、連撃を叩き込む戦闘を得意とするアレッタにとってはむしろ足枷になっていると言っても過言ではなく、装備をしていても使う機会が殆ど無い聖霊騎装なのだ。
「装備する当人抜きに話を進めるのはナンセンスだからな。ところでフリューゲルとアレッタは今の装備についてどう思う?」
「まあ俺は確かに翅音さんの言う通り、もっと有効な聖霊騎装を装備できりゃそれに越した事はねえわな」
「はい、私も同意見です」
「よし、んじゃあ話を進めてくとするか」
二人が快諾すると、翅音は壁に各属性に関する表を張り出した。
「お前らも知ってのとおり、聖霊騎装は基本的に二つの属性の特性を組み合わせて構築する。追尾式炸裂弾なら炎の“爆裂”と雷の“追尾”ってな具合にな。だからこの表を参考に、どう特性を組み合わせてどんな聖霊騎装を生み出すのか各々案を出してほしい」
そう提案する翅音にウィンが捕捉する。
「そうですね、でもその前にまずはお二人がどのような聖霊騎装を望む……かですね」
すると、フリューゲルは少し考えた後で言った。
「うーんそうだな、狙撃騎士の俺の場合敵に接近されるのが一番厄介だからな、攻撃っつーよりか、接近戦に持ち込まれないようにしてえところなんだが……こないだも狙撃失敗した後ソラが一気に迫って来て危なかったしよ」
以前、雷の大聖霊獣ワウケオンを顕現させるため、ソラが〈亡国の咆哮〉としてフリューゲル達の前に立ち塞がった時のことをチクリと刺すフリューゲルであった。
「うぐぅ、まだ根に持ってる……いや、その節は本当にすんませんでした」
対し、遠い目をしながら呟くソラであった。
「なるほどな、んじゃあフリューゲルのは敵の接近を阻む、足止めをするって方向で考えるとするか……アレッタはどうだ?」
「うーんとそうですねえ……私は土属性の白刃騎士なので中々敵との距離を詰められないのが難点ですかねえ。なのでフリューゲルさんとは逆で敵と接近戦に持ち込めるような聖霊騎装を望みたいところなんですが」
「わかった、ならアレッタのは敵との距離を詰める、或いは敵の動きを止めるってなような方向でいくか」
そうしてある程度の方向性が決まり、各々は改めて案を出していくのだった。
フリューゲルのパンツァーステッチャーの肩部聖霊騎装について話し合う面々。
「――そうだなあ、敵の動きを阻むには壁みたいなものを出現させるとかかな」
「あっ、じゃあ光の具現で出現させた壁を土の特性で硬化させるとかはどうでしょうか?」
「いや、光の特性は具現といっても、剣の刀身や結界を出現させるみたいに、触れている状態か、自身の至近距離にしか具現は出来ねえ」
「確かにそれでは、敵の接近を阻むといった効果は期待できませんね」
また、アレッタのウルフバートの盾付属型聖霊騎装についても議論する面々。
「例えば相手の動きを止めるためにとりもちみたいなものを放つとか?」
「何と何の聖霊で再現するんだそれ?」
「水の特性の凍結を、土の特性で分裂させるとかはどうでしょうか?」
「……うーん」
「じゃあ投網みたいなものを放つ……とか」
「それはわざわざ聖霊使わなくても、普通に網でも放てば良くないか?」
「当たんねえだろ……んなの」
しかし、それから様々なアイディアを出し合い、議論としては盛り上がりはするものの、これといって有用なものは出ず、聖霊騎装の開発案としては思うように進まなかった。
「まあ、そんな簡単にいくなら苦労はねえわな」
翅音は肩をすくめながら大きく嘆息し、一息つくために一服しようとする。
すると、ウィンに付いてきて会議に参加していたアーラが飽きてしまったようで、部屋の片隅で一人遊びを始めていた。アーラは皿に入れられた液体にストローを付けている。それを見た翅音が怪訝そうに尋ねた。
「おっ、何してんだ嬢ちゃん?」
「知らないの翅音? これね、こうやって――」
アーラが先端に液体の着いたストローを空中に向けて吹くと――液体で出来た球体……つまりはシャボン玉が空にふわふわといくつも浮かんだ。
「綺麗でしょ、シャボン玉って言うんだよ」
それを見てハッとしたような表情を浮かべるソラ。
「おっ、これだ!」
「何か閃いたかソラ?」
ソラが何かを思いついたのを覚った翅音が尋ねた。
「えっと、雷の特性である放電で球体状の雷を放出させて、雲の特性で浮遊させる。えーっと、雷と雲は組み合わせ出来ないから、雷の特性を模倣させた闇と、雲を組み合わせれば……」
咄嗟に出たソラのアイディアに感心したように掌を叩く翅音。
「なるほど、その球体に触れれば電撃で敵が怯む、それを適当に撒いとけば敵が接近してきても足止めになるし、それで一度距離を取れればまた狙撃が可能になる」
「すごいじゃないですかソラさん」
「いやあ、アーラちゃんのおかげだよ」
「えへへ」
「でもよ、俺とパンツァーステッチャーは雷属性だから、雲と闇を組み合わせた聖霊騎装は相性最悪だぜ」
フリューゲルが抱く真っ当な懸念であるが、それに対し翅音が説く。
ソラの天叢雲に装備してる自律浮遊式刃力跳弾鏡もソラとは相性最悪の組み合わせだが通用している。相性が最悪だと威力は激減するが、牽制目的で使用するなら威力はそこまで考えなくてもいいと。
「なるほどな、そういうことならありかもな」
こうしてフリューゲルのパンツァーステッチャーに装備させる肩部聖霊騎装の案が固まった事で勢い付き、アレッタのウルフバートに装備させる盾付属型聖霊騎装の案も有用なものがいくつか出るに至る。
そして――
「こんなのはどうでしょうか? 闇に土の特性である振動を模倣させ、それを水の特性で散布させる。振動を受けた敵騎は一時的に動きが止まり、その隙に飛翔力の低い土属性のソードであっても敵への接近を可能とさせる」
ウルフバートに装備させる盾付属型聖霊騎装として、最終的に採用されたのはウィンが出したその案であった。
こうして出た案を基にして、翅音は新たな聖霊騎装を開発を無事進めることとなった。
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