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282話 新たな仲間

 差し込む眩い光に手をかざしながら、ゆっくりと瞼が開かれた。


「う……ん」


 瞼は重く、しかし程よい温もりが心地よかった。


 場面はツァリス島〈寄集(よせあつめ)隻翼(せきよく)〉本拠地の騎士宿舎。空いていた一室のベッドの上で目を覚ましたのはアーラだった。


 アーラは、目をぱちくりとさせ、辺りをきょろきょろと見回す。


「おっ、目が覚めたみたいだねアーラちゃん」


「アーラ……よかった」


 そこに居たは、ほっとしたような笑みを浮かべるソラと、涙目で自分の手を握るウィンの姿だった。


「ソラ! いんちょー先生!」


 目覚めたばかりで少し頭が混乱していたが、今の自分の状況に理解がゆっくりと追い付いてくるアーラ。


 あの時、突然イルデベルク島に襲来してきた〈玄孕げんようの巣〉の騎士達。ルイン島に〈連理の鱗〉の騎士達が襲来してきた時のことが頭を過る。しかしあの時は、ウィンが連れ去られようとしていたが、今回襲来者が狙っていたのは自分であった。


 ウィンは〈連理の鱗の〉の襲来の件もあり、いつ何者かの襲撃があっても対応できるように、フロレントをいつでも稼働できる状態を保つため整備を続けていた。


 その甲斐あって〈玄孕の巣〉に対してはすぐに対応できたのだが、想定以上のその数と、イルデベルク島の住民に被害が及ばないように敵を引きつけながら戦ったせいもあり、ウィンは苦戦を強いられた。


 日頃から何があっても竜の姿を見せてはいけないと、ウィンから口を酸っぱく忠告されていたアーラ。しかし、ウィンが命の危機に陥ったことでアーラは禁じられていた竜醒回帰を行い、完全な竜体となってディラン率いる〈玄孕の巣〉部隊と戦った。


 だがそれでも、ソードという現代の騎士が保有する力と、敵の巧みな連携に竜の力が通じず、窮地に陥った。


 その後はソラ達が救援に駆け付けたことでそれを脱することができたのだが、力を使い果たしていたアーラはその後の記憶が無かった。


「いんちょー先生ごめんね、駄目って言われてたのに、アーラ竜になっちゃって」


 竜醒回帰により竜体になったことに対し、申し訳なさそうに謝るアーラをウィンは優しく抱きしめた。


「いいんですよアーラ。アーラは僕を助けようとしてくれただけなんですから」


「えへへへ」


 そんな二人のやり取りを、ソラは優しい眼差しで見守っていた。するとアーラは自分の身体をマジマジと見つめながら、不思議そうに首を傾げた。


「あれ、そういえばアーラ全然けがしてないよ? あんなにけがしてたのに治っちゃった」


「ああ、それはエイラリィちゃんっていう、うちの騎士の竜殲術の力だよ……まあアーラちゃんに対して“竜殲”術なんて言うと何かあれだけど」


「そっか、ありがとうエイラリィってひと……あっ!」


 直後、アーラは何かを思い出したようにハッとした表情を浮かべると、頬を膨らませてそっぽを向いた。ソラに対しあからさまに何かを抗議するかのように。


「あれ……急にどうしたのアーラちゃん?」


「…………」


 突然のアーラの態度の急変に戸惑うソラ、するとウィンはくすくすと笑いを漏らしながら説明する。


「ああ、そういえばアーラはこないだ、ずっと会いに来てくれなくなったソラとはもう口をきいてあげないって言ってましたよ」


「ええっ、ごめんよアーラちゃん。俺にも色々事情があって忙しくてさ」


 会いに行けずほったらかしにしていまったことで、アーラに嫌われてしまったと思い、ソラは狼狽えながら必死に言い訳する。するとアーラはすぐに笑顔を浮かべた。


「でもソラが……竜になったアーラにすぐに気付いてくれて嬉しかった。だから許してあげる」


「……アーラちゃん」


 アーラの笑顔と無邪気な優しさにソラが感涙を浮かべていると、突然、アーラに対しどこか申し訳なさそうに伝えるウィン。


「アーラに謝らなくてはならないことがあります」


「なあにいんちょー先生?」


「もう、イルデベルク島には帰れなくなりました」


「え?」


 突然のウィンの言葉でぽかんとするアーラにウィンは冷静に続けた。


「醒玄竜教団にアーラの存在が知れていた。僕達がいれば、また今回のようにイルデベルク島の皆に迷惑をかけてしまう。だから……アーラが寝ている内に島の皆さんにお別れを言ってきました」


 何かと世話を焼き、食べ物や農作物を持ってきてくれる隣人の女性、いつも一緒に遊んでくれる子供達、昔話をよくしてくれる老人の男性、アーラにとってイルデベルク島の住人は家族であり、イルデベルク島は故郷であった。


 そこに帰れなくなるということは大切な家と家族を失うことと同義だ。アーラの胸は言い表せない悲しみで一杯になり、言葉を詰まらせた。そんなアーラに、ソラは伝える。


「ウィンさんから詳しく聞いたよ、アーラちゃんのこと……多分これからも醒玄教団なりエリギウス帝国なりに狙われ続けると思う。だから、二人さえよければここで暮らさないか? 多分それが一番安全だと思うんだ」


 ソラの提案に、目を丸くするアーラ。


「本当に? 本当にここで暮らしていいの? じゃあアーラこれからはずっとソラと一緒にいられるの?」


「ああ、あとはウィンさんさえよければ……」


 するとウィンは、安堵したような優しい笑みを浮かべて返した。


「何から何まですみませんソラ……その提案、どうぞよろしくお願いします」


 頭を下げながら、深い謝意を示すウィン。ホッとしたように微笑むソラ。そしてソラに抱きつきながら喜びを顕わにするように出現した尻尾を左右に振るアーラ。


「あっ! アーラまた……」


「別にいいよアーラちゃん、ここでは隠す必要無いし……あーでも屋内で完全な竜の姿になるのだけやめてくれれば」


「うんわかった! わーい!」


 するとウィンは、頬を掻きながらソラに言う。


「ソラさん、迷惑ついでと言っちゃなんですが、二つほどお願いがありまして」


「お願い? いいですよ、何でも言ってください」


 ウィンの要望とは、ここでアーラの不老を解くための研究を続けさせてほしいということであった。それについてソラは快諾し、研究をするための空き部屋を一つ提供することとなった。そしてもう一つの要望とは――


「僕も〈寄集(よせあつめ)隻翼(せきよく)〉の騎士として戦わせてください」


 入団の意志を示すウィン。それが意外であったのか、ぽかんとするソラにウィンは続けた。


「例え戦いが何も生まないのだとしても、大切なものを守りたければ戦う意外の選択肢などない……それが翼羽さんの言葉でした」


「……翼羽団長の」


「アーラの存在を知っていたということは、エリギウス帝国と醒玄竜教団が裏で繋がっていることは明らかです。なら僕はアーラを守るためにその二つと戦います」


 決意を秘めた目、その覚悟にソラは応える。


「いやあ、ウィンさんが味方になってくれるなんて滅茶苦茶心強いですよ、こっちこそお願いします」


「ありがとうございますソラ……あ、そうだ!」


 すると突然ウィンは、顔の前で手を合わせて懇願するように言う。


「すみません、厚かましいんですが最後にもう一つだけお願いしてもいいでしょうか?」


「何です? 遠慮せず言ってください」


「騎士制服……アーラのも作ってあげてくれませんかね? アーラだけお揃いじゃなかったらその……かわいそうなんで」


 遠慮がちなウィンの要望に、ソラは笑顔で返した。


「あはは、勿論じゃないですか。アーラちゃんもちゃんと〈寄集(よせあつめ)隻翼(せきよく)〉の一員なんで。ね、アーラちゃん」


「わーい!」





 こうして新たに〈寄集(よせあつめ)隻翼(せきよく)〉の一員として加わったウィンとアーラ。


 団員達にその紹介をするために、聖堂へと一同に会する面々。


「――という訳で、今日からウィンさんとアーラちゃんが〈寄集(よせあつめ)隻翼(せきよく)〉の一員となるんで皆よろしく。えー……あと誓いの口上とかは面倒なんで省略の方向で」


 二人を紹介しながら、何とも気の抜けた様子で形式的な入団の義はスルーするソラであった。


 そしてまずは自己紹介をする、ウィンとアーラ。


「ウィン=クレインです。皆さんとは(はい)の空域攻略戦で共闘して以来ですが、これからどうぞよろしくお願いします」


「アーラだよ、みんなよろしくね」


 すると、一歩前に出るフリューゲル。周囲には緊張が走る。なぜならウィンはフリューゲル達竜魔騎兵が産み出されるきっかけとなった人物であり、一度共闘したとはいえ、フリューゲルには並々ならぬ感情が燻っていてもおかしくは無かったからだ。


 しかしフリューゲルには、もう既にウィンに対するわだかまりなど無かった。あの時ウィンの葛藤を知り、自分の中で納得し、許すことが出来ていたからだ。


「フリューゲル=シュトリヒだ。暇な時でいいからよ、あとでラッザ先生の話でも聞かせてくれよな……ウィンさん。あとアーラ、室内では完全な竜体になるんじゃねえぞ、建物がぶっ壊れちまうからな」


「ええ、勿論ですフリューゲル」


「もうソラに言われたもん、フリューゲルのばか」


「んだと!」


「こらアーラ、そんな言い方したらだめですよ!」


 そんなやり取りを見て表情を綻ばせながら、プルームが挨拶をする。


「プルーム=クロフォードです、改めてよろしくお願いしますウィンさん、アーラちゃん。あとフリューゲルはこう見えてもいい子だから仲良くしてあげてねアーラちゃん」


「こう見えては余計だ! ってかいい子って!」


 頬を赤くしながら抗議するフリューゲルを他所に、プルームに続くデゼルとエイラリィ。


「デゼル=コクスィネルです、よろしくウインさん、アーラちゃん。翼獣のことなら僕に何でも聞いて」


「エイラリィ=クロフォードです、よろしくお願いしますウィンさん、アーラさん」


 するとエイラリィの名を聞き、アーラが表情を明るくさせ駆け寄った。


「あっ、エイラリィ! アーラのけが治してくれてありがとね」


「いえ、可愛いらしい顔に傷が残らなくてよかったです」


「えへへへ」


 するとウィンは、元凶である自分を快く受け入れてくれた四人……その優しさと、そして愛弟子であったラッザの面影を見て感極まるも、涙をぐっと堪えていた。


 シーベットは自己紹介しながらアーラに視線を送りつつシバに耳打ちをする。


「シーベット=ニヤラだ……ふむ、あーららか、〈寄集(よせあつめ)隻翼(せきよく)〉のマスコットとしての座が危ういぞシバさん」


「シーベットよ……誰がマスコットだ」


 続いて、翅音(しおん)が嬉しそうに言う。


鍛治(かぬち)翅音(しおん)だ、優秀な聖霊学師が入団してくれたおかげで聖霊騎装開発が捗りそうだぜ」


 ウィンともアーラとも初対面であるアレッタが自己紹介する。


「初めまして〈亡国の咆哮〉から派遣されてるアレッタ=ラパーチェです。お二人が無事でよかったです」


「あの時シーベットさんと共に、最初に来てくれた騎士の方ですね。本当に助かりました、ありがとうございます」


「いえいえ、お気になさらないでください」


 謝意を示すウィンに、アレッタは返した。


 実は騎士制服の制作を担当しているパルナが挨拶と共に要望する。


「伝令員のパルナ=ティトリーよ。騎士制服作るのに必要だから後で採寸させてね、ウィンさん、アーラ」


 そして最後に団長であるソラが締めるのだった。


「えーと、じゃあ最後に一応……なぜだかこの騎士団の団長なったソラ=レイウィングです。ウィンさんとアーラちゃんとは元々知り合いだけど、これからは同じ騎士団の仲間……家族になれて嬉しく思ってる」


 その言葉に団員達が表情を綻ばせ、アーラは満面の笑みで尻尾を出現させ嬉しそうに振った。そしてウィンが返す。


「謙遜しないでくださいソラ。ディランとの戦いを見て、あなたは本当に凄い騎士に成長したのだと感じました……そして今のあなたの言葉でも」


 それを聞き、ソラは照れ臭そうに赤くした頬を掻いていた。


 こうして各々の自己紹介と面通しが終わり、〈寄集(よせあつめ)隻翼(せきよく)〉はウィンとアーラという新たな二人のメンバーを加え始動するのだった。


282話まで読んでいただき本当にありがとうございます。


ブックマークしてくれた方、評価してくれた方、いつもいいねしてくれてる方、本当に本当に救われております。


誤字報告も大変助かります。これからも宜しくお願いします。

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