280話 蒼き閃光
シーベットとアレッタがほっとしたような声でソラに伝声を送った。ソラの到着で戦況が一変し、敵は攻めあぐねていた。そして言い表せない頼もしさが二人の胸の中にはあったのだった。
直後、ソラに対し敵の部隊長であるディランからも伝声と伝映が入る。
『貴様、たかだか蒼衣騎士の分際でやってくれたな! 醒玄竜教団に盾突いたことを激しく後悔させてやるぞ』
その顔と声、ソラはすぐに敵の部隊長騎である宝剣を操刃しているのが、かつての騎士養成所の所長、ディラン=ラトクリフであることを覚り、相互伝声と相互伝映を許可した。
「あれ、もしかしてディラン所長じゃないですか? 随分久しぶりですね」
ディランはソラの顔を見るや否や、表情を強張らせ、驚いたように目を白黒させた。
『き、貴様! まさか……まさかソラ=レイウィングなのか?』
「あ、はあ……一応。ていうかディラン所長、いつの間に醒玄竜教団に入団したんですか? え? 騎士養成所はどうしたんです?」
ソラの何気ない疑問、それを受けたディランは額に青筋を立て、両肩をぷるぷると震わせていた。明らかに激しい怒りを抱いている様子だ。
『私は理不尽に国に捨てられたのだ! だがジーア様は私の力を必要としてくれ、私を温かく迎え入れてくれた。だから私は醒玄竜教団に入団し、ジーア様と竜祖の為に戦うのだ』
「えぇ、捨てられちゃったんですか所長」
まるで他人事のように憐れむソラに、ディランは更に怒りを募らせる。
『一体誰のせいだと思っている?』
「はい?」
『貴様を騎士養成所から追放した後、貴様は雲の大聖霊石を盗み帝国から離反した。その責任を取らされ、今度は私が騎士養成所を追われたんだ!』
「え、マジですか? すみません……それは、大変でしたね」
ソラの、心にもないような気遣いの態度が勘に触ったのか、激高したようにディランが叫ぶ。
『大変でしたね、じゃねえええええっ!』
その額と、フラガラッハの額に剣の紋章が輝いた。
更に、フラガラッハの両肩部が開放され、内部から追尾式炸裂弾が一斉発射されようとしていた。
すると本拠地で戦局を見極めながら、戦闘補助を行っているパルナからソラへ伝声。
『追尾式炸裂弾が来るわ! でも多分竜殲術の効果だと思う、それは撃ち落とせないから気を付けて!』
直後、発射された追尾式炸裂弾、その数は全部で十二発。
ソラは、左手の刃力剣を鞘に納めると、即座に左手に刃力弓を装備させ、迎撃の姿勢を見せる。
パルナの忠告を受けたソラであったが、飛来する追尾式炸裂弾に向けて刃力弓から光矢を連射させる。その数は追尾式炸裂弾と同じ十二発。光矢は寸分違わず全ての追尾式炸裂弾に着弾――しかし、パルナの忠告通り迎撃できずに光矢は弾かれてしまった。
だが次の瞬間、ソラは騎体を推進させ、追尾式炸裂弾の隙間を縫うようにして攻撃を回避しつつ、無数の剣閃を奔らせた。
十二発のアーティファクト、爆裂の特性を持つ炎と誘導の特性を持つ雷の聖霊の意思が込められた弾頭部分だけが切断され、空中で爆散した。そして斬撃を振るった残身の姿勢で制止する天叢雲。
「ば、馬鹿な! 何だ今のは?」
その光景に口を大きく開けたまま唖然とするディラン。
――斬撃? 馬鹿げた鋭さと速さに、信じられない程の滑らかさ……私の竜殲術が意味を成さなかった。それにその前だ、あいつは斬撃はともかくとして、射術はからっきしだった筈、いつの間にあれ程の精確な射術を!
一方、追尾式炸裂弾に弾かれた光矢の動きを見て、ソラはある程度能力の性質を見極めた上で、斬撃で払った。
そして斬撃を行った時の感触で、能力の確信を得たソラは、シーベットとアレッタに指示を出す。
「シーベット先輩とアレッタちゃんは、ウィンさんとアーラちゃんを守りながら残りの敵の殲滅を頼む。敵の部隊長は……俺が討ち取る」
『了解しました、任せてくださいソラさん』
『むううっ、後から来たくせに美味しい所を……と言いたいところだが“あんなの”見せられちゃ仕方ない』
『ほう、成長したではないかシーベット』
その命令を受け、了承するアレッタと、少しだけ悔しそうな様子で渋々と了承するシーベット、そんなシーベットを見てしみじみと言うシバ。
そして、シーベットのドラグヴェンデルと、アレッタのウルフバートは残り十三騎のレイピアとの交戦を開始した。
一方、対峙した状態のソラの天叢雲とディランのフラガラッハ。ソラはディランに向け伝声を行う。
「超回転、それがディラン所長の竜殲術の能力ですね?」
『…………』
ディランは答えなかったが、ソラの指摘通り、物質を超高速回転させることにより攻撃力を大幅に上昇させる〈羅穿〉、それがディランの竜殲術であった。
ディランは歯噛みしながら、密かにソラに対し畏怖の念を抱き始める。
――それを見極めるためにあえて射術を行ってから斬り払ったのか……超回転をものともしない程の速い斬撃で。
『なんて……奴だ』
するとディランは、フラガラッハが右手に持つ刃力弓を構えさせる。
『だがな! 所詮は無能力の蒼衣騎士、聖衣騎士である私が遅れを取る訳がない!』
そう言い放ちながら、ディランは刃力弓から光矢を連射する。その光矢は竜殲術〈羅穿〉により超回転し、一発一発が致命の威力を持ちながら天叢雲に襲い掛かる。
しかし、天叢雲は空中で廻旋、急旋回、急制動、急発進を駆使し、凄まじい運動性を発揮しながらそれらを全て回避する。
ソラは天叢雲を操刃しながら、その性能に内心歓喜していた。
――運動性も、飛翔力も凄い……それに長い間忘れてたな、自分の守護聖霊の属性と騎体の属性が一致しているこの感覚、まるで自分の手足みたいに騎体を動かせる。
『ぐううううっ!』
射撃がかすりもせず、焦りを見せるディラン。そんなディランの動揺を動きから察したのか、ソラは更に揺さぶりをかける。
「俺を無能力だって言ってたけど、当たりさえしなければあんたも無能力となんら変わりないな」
その一言に再度激高し、ディランは右腰部に接続され背部へと収納されていた砲身を展開した。
『舐めるなよ! 混血種の分際で! 落ちこぼれの分際で!』
それは刃力核直結式聖霊騎装、雷電加速式投射砲である。砲身内部で電磁加速された砲弾が――竜殲術〈羅穿〉により超回転しながら天叢雲へと飛来する。
それとほぼ同時、ソラもまた左腰部に接続され、背部へと収納された砲身を展開し、砲撃を行っていた。その刃力核直結式聖霊騎装の名は雷電螺旋加速式投射砲――特殊加工された砲身内部で電磁加速しながら超回転する特殊砲弾を放つ。
超高速超回転で放たれた砲弾と砲弾が空中で激突し――互いに粉々になる。
『そ、相殺……されたのか?』
呆然としながら呟くディラン。
雷電加速式投射砲に〈羅穿〉による超回転を加えさせることで絶大な威力を持たせる、それは正にディランの切り札であったのだ。
しかし、翅音により発案、製造された雷電螺旋加速式投射砲は、その切札と何ら遜色ない威力を持っていた。
それにより、同じ性質、威力を持つ砲弾と砲弾は両者相殺されたのだった。
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