279話 真打ち見参
一斉射撃が通じず、怯むレイピア部隊。その隙をシーベットは見逃さなかった。ドラグヴェンデルは一騎のレイピアの背後を既に取っており、刃力弓で頸部を一閃した。
頭部を失い、操作不能となったレイピアが空へと落ちていく。これで敵部隊のレイピアは残り十七騎。シーベットとアレッタの増援により、形勢は確実にこちら側に傾いていた。
『舐めるなああっ!』
直後、ディランのフラガラッハの額に剣の紋章が輝き、続けざま両肩部から追尾式炸裂弾が放たれ、シーベットのドラグヴェンデル、アレッタのウルフバート、ウィンのフロレントに向かって飛び交った。
「こんなもの!」
最前線にいるシーベットはそれらを撃ち落とそうと試みる。射術が不得意であるシーベットであるが、連射性に優れる連射式刃力弓ならば弾頭に命中させることは容易く、迎撃には向いている。
そしてドラグヴェンデルが、左前腕部の盾の内側から連射式刃力弓を射出、左手で掴み取ると、追尾式炸裂弾に向けて光矢を連射した。
「なっ!」
しかし、追尾式炸裂弾に着弾したはずの光矢は、なぜかは分からないが次々と弾かれてしまった。
迎撃に失敗したシーベットは、自身に飛来する追尾式炸裂弾を俊敏な身のこなしにより寸前のところで回避、しかし後方に待機するウルフバートとフロレントに追尾式炸裂弾が襲い掛かる。
「アレッタん、その追尾式炸裂弾は変だ、撃ち落とせないぞ!」
咄嗟に伝声でアレッタに警告するシーベット。それを聞いたアレッタが狼狽える。
『ええっ、どうすればいいんですか! 耐実体結界も装備してないですし、避ける訳にもいかないですし!』
抗探知結界を装備しているため防御系の結界を装備していないウルフバート。とはいえ後方には半壊したウィンのフロレントがあるため回避する訳にもいかない。追尾式炸裂弾の弾頭部分のみを切断する超技能があれば凌げるかもしれないが、それ程の神業はアレッタには不可能であった。
アレッタは苦し紛れにウルフバートの左前腕部に装着された盾を前方に掲げて、防御の姿勢を取る。
次の瞬間、アーラが咄嗟に、飛来する追尾式炸裂弾に向けて竜の息吹を放つ。
それにより口から放たれた光の奔流が、追尾式炸裂弾を全弾飲み込み、破壊した。
「ふええっ、助かりました!」
「おおっ、本当に味方なんだなそこの竜さん」
その光景を見て、竜の息吹の威力と、自分達を救ってくれたことに感心すると同時、ホッと胸を撫で下ろすアレッタとシーベット。
「ガハッ……ハッ……ギュアッ」
しかし、ボロボロの身体で竜の息吹を放ったアーラはもはや限界であった。悲鳴のような呼吸を響かせ、更には翼の羽ばたきも弱々しくなる。
「無茶しないでください!」
そんなアーラに向かってウィンが叫ぶと同時、辺りには追尾式炸裂弾が一気に破壊されたことによる爆煙が立ち込めていた。視界が削がれ怯むシーベット達。
爆煙が立ち込めたのは一瞬であったが、その一瞬の隙にレイピア四騎がウルフバート、フロレント、アーラを包囲していた。爆煙を利用した奇襲、先程の意趣返しである。
同時に、ディランのフラガラッハが持つ刃力弓から光矢が放たれており、フロレントとウルフバートへ襲い掛かる。
「任せてください!」
対しアレッタは、先程と同じように、その光矢を双剣による華麗な斬撃で斬り払う、しかし――
「なっ!」
放たれた光矢を全て斬り払ったところで、ウルフバートが持つ双剣の刀身が砕け散った。
――ただの刃力弓の矢を斬り払っただけなのに……何で!
特殊な刃力弓であるのか、はたまたディランの竜殲術による能力なのか……先程シーベットが撃ち落とそうとした追尾式炸裂弾に光矢が弾かれたことといい、その不可解な現象に戸惑うアレッタ。
それに思考を巡らせる暇もなく、二騎のレイピアがウルフバートとフロレントに向けて刃力弓を、もう二騎のレイピアはアーラに向けて氷縛式射出鞭を、それぞれ放とうとしていた。
「ウィンウィン! アレッタん!」
再び訪れる絶対絶命の窮地に、シーベットの叫びがこだました。
次の瞬間。
『ガアアアアッ!』
ウルフバート、フロレント、アーラに攻撃を放とうとしていたレイピア四騎に閃光が瞬き――刹那に奔る。
そして、四騎のレイピアが空中で瞬時に爆散した。
「なっ、何だと!」
想像だにしない光景に、ディランは目を白黒させながら状況を把握する。
突如出現し、そこに浮遊していたのは、左右非対称の刃力剣を両手に持ち、蒼き光の騎装衣を纏う白き宝剣であった。
――増援か? いや、それよりも何が……起きた?
ディランの頬を冷たい汗が伝う。四騎のレイピアが撃墜されたのは、白き宝剣が放った斬撃である……そうディランが理解したのは――否、できたのは、白き宝剣が刃力剣を両手に持っていることと、斬撃を放ったであろう姿勢で残身していたからである。
一方、白き宝剣……天叢雲で遅れて到着したソラが伝声器と拡声器越しに言う。
「無事か? ウィンさん……アーラちゃん」
その声と、言葉を聞いたアーラが目をぱちくりとさせ、ウィンが驚いた様子で伝声を返した。
『その声……ソラなんですね? それより……どうして竜がアーラだと?』
ウィンは、ソラに……いや他の誰にもアーラが竜醒の民であることを話していない。であるにも関わらず、なぜソラが目の前の竜をすぐにアーラだとわかったのか不思議であった。
「いやまあ、だって……見なかったことにしてたけど、アーラちゃん喜ぶと尻尾が出たりしてたし……それにそのアホ毛と可愛らしい目は誰がどう見てもアーラちゃんだろ」
『ソラ……気付いていたんですね』
ウィンは、アーラがソラにとって得体の知れない存在であると気付いていながら、それでも変わらずに接してくれていた、気付かないふりをしていた、そんな優しさと心遣いに一人感謝するのだった。
『やっと来たかおソラ』
『ふえええん、助かりましたよソラさん!』
「遅くなってごめん、シーベット先輩、アレッタちゃん」
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