278話 二振りの宝剣
――そうだ、僕はアーラの未来を守ると誓った。ここまで? 違う! 僕はまだこんな所で死ぬわけには!
絶体絶命の窮地に過去を振り返り、自分のすべきことを思い出すウィン。やるべきことがあるのだと改めて生き抜く決意を示す、しかしそんな意志とは裏腹に騎体は身動きが取れず、ディランが操刃するフラガラッハの持つ刃力銃、その銃口からは光矢が今正に放たれようとしていた。
その時だった。
『ディラン様! 無数の飛行物体……攻撃が来ます!』
部下からの伝声が入り、何者かからの攻撃が来ることを悟ったディランは、ウィンへの攻撃を中止し、その方向に注視する。
視線の先からは無数の高速飛行物体、追尾式炸裂弾が部隊に向けて飛来する。
「ちっ、全騎回――」
ディランが部隊に回避の指示を出そうとした直後、飛来する追尾式炸裂弾に向け、追尾式炸裂弾を放った宝剣とは別の宝剣から連射して放たれた光矢が次々と炸裂し、辺りに爆煙が巻き起こった。
ディランはすぐさま状況を理解する。抗探知結界を装備したソードからの奇襲、放った追尾式炸裂弾を連射式刃力弓による連射で撃ち落とし、煙幕で視界を削いだ。そして次の一手は――
「闇に乗じて攻撃が来るぞ!」
ディランが警戒を促す伝声を全騎に行うとほぼ同時、闇の中に双眸が輝いた。
『うわああああっ!』
部下の悲鳴と同時に爆音が鳴り響き、レイピアの信号が一騎、また一騎と消失していく。
――くっ小癪なっ!
まだ正体不明ではあるが、ウィンを援護に来た自分達にとっての敵であることは間違いない。自身の任務に邪魔が入ったことに憤り、歯を軋ませるディラン。
やがて煙幕が晴れると、捕えていたはずのフロレントと、竜は自由になり包囲を脱していた。
また、今の奇襲によりフロレントを捕縛していた二騎のレイピアと、竜を捕縛していた三騎のレイピアが撃墜されていたのだった。そしてフロレントと竜の前には、今の奇襲を行ったと思わしき二騎の宝剣が飛翔している。
緑を基調とした軽量騎体である風の宝剣と、黄色を基調としたやや重厚である土の宝剣。
すぐさま二騎の所在を照合するディラン。風の宝剣の方は照合しても情報は無かったが、土の宝剣の方は情報が存在した。
土の宝剣の名はウルフバート、反乱軍連合騎士団〈亡国の咆哮〉の団長騎であった。
「〈亡国の咆哮〉……アラシェヒルを横取りしに来たとでもいうのか? 薄汚いハイエナ共が!」
一方、奇襲を行いウィンとアーラを間一髪救出したシーベットとアレッタ視点。シーベットはウィンに伝声を行う。
「大丈夫かウィンウィン?」
『その騎体を操刃しているのはシーベットさんですか? 助かりました、来てくれたんですね』
「ウィンウィンと竜を守れという団長命令だからな」
――団長?
シーベットの言葉を聞き〈寄集の隻翼〉の新団長の存在を知らないウィンが思わず首を傾げた。
「でも今のところ援護に来れたのはこの二騎だけだ。敵はあと二十騎、包囲を脱したとはいえまだピンチには変わりない」
圧倒的な戦力差と敵の連携により苦戦を強いられたとはいえ、ウィンとアーラの奮闘により、シーベット達が到着前に五騎のレイピアが撃墜されており、先程の奇襲で更に五騎――とはいえ現在残存しているレイピアは計二十騎。
戦力差は未だ大きく、この場所から離脱出来るのならそれに越したことはないが、飛翔力を失ったウィンと手負いの竜を連れてそれを行うのは不可能。つまりこの窮地を切り抜けるには、敵部隊を退けるしかない。
すると、シーベットは前方を浮遊するレイピア部隊に対し、突撃の姿勢を見せる。
「シーベットが一気に突っ込む、アレッタんはウィンウィン達を守りながら援護を頼む」
『了解しました、気を付けてくださいねシーベットさん』
シーベットの提案を了承するアレッタ、するとアレッタのウルフバートの両肩部が開放、追尾式炸裂弾が無数に射出され、同時にシーベットはその追尾式炸裂弾に、連射式刃力弓の銃口を向けた。
『何度も同じ手が通じると思うな!』
対し、煙幕による攪乱を目論んでいると読んだディランの指示で、レイピア部隊は大きく散開する。
次の瞬間、シーベットは右手に持つ連射式刃力弓をすぐさま左前腕部の盾の内側に収納すると、左手に持っていた刃力剣を右手に持ち替え、全速で突撃を開始した。
『は、疾い!』
運動性に長けるドラグヴェンデルの瞬間最高到達速度はすさまじく、一気に敵との間合いを殺す。
そして散開したことにより孤立したレイピアを、逆手に構えた刃力剣で頸部を断ずる。
すると、一瞬の間に一騎、二騎とレイピアを撃墜したドラグヴェンデルに対し、刃力弓(クスィフ•ドライヴアロー)から一斉に光矢を射出していくレイピア部隊。
だが、ドラグヴェンデルは上下左右、騎体を俊敏に動かしながら攻撃を回避すると、疾風の如き速さで敵の隙間を駆け抜けながら急所を裂いていく。
『何をやっている! さっさと墜とせ!』
痺れを切らすようなディランの激で、レイピア部隊はシーベットを包囲するように陣形を取り、氷縛式射出鞭を次々と射出する。
しかしドラグヴェンデルはそれを、騎体の急後退、急停止、急発進を駆使し、その動きで躱しながら翻弄していく。
『何だあの宝剣の動きは? 疾すぎる……ならば先にあの二騎から片付けろ!』
シーベットのドラグヴェンデルが持つ圧倒的な運動性に脅威を感じたディランの指示で、レイピア部隊はウィンのフロレントとアレッタのウルフバートに向けて一斉射撃を開始する。まずは援護を断つ作戦である。
「くっ!」
アレッタとウィンに向けて飛来する無数の光矢、ウィンのフロレントはそれを回避する余力はもうない。すると、フロレントの前に立つウルフバートが、両手に持つ刃力弓を高速で振るいながら、舞のような華麗な動きで光矢を次々と斬り払っていく。
その双剣技は、一射たりともウルフバートとフロレントに被弾することを許さない。そして敵の射撃による光矢を全て捌ききり、アレッタは操刃室の中で一人言い放つ。
「私だって、やる時はやるんですよ」
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