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267話 新団長任命

 場面は、何処までも続くかのように広大で、白く何も無い空間。


 黒紫髪の少女と、ジーアの前にウルは居た。


「ご苦労でしたスミルナ(・・・・)


 ジーアはウルにそう声をかけると、ウルは表情を変えずに返す。


「雷の大聖霊獣は顕現したが、大聖霊石は〈因果の鮮血〉に渡った。本当にこれでよかったのか?」


 それに対し黒紫髪の少女は言う。


「ボク達は別に大聖霊石が欲しい訳じゃない、神剣が起動さえすればそれでいいんだ。だから雷の神剣がメルグレインに在るなら、大聖霊石もメルグレインに在った方がいいだろ?」


「……だが、エリギウスは三ヵ月後の大聖霊の黙示に合わせて大規模侵攻を画策していた。今回のはそれを出し抜くような真似だ」


「別にボクとあいつは味方同士って訳じゃない。目的の為に互いに利用しあってるだけさ。だからあいつにとっては不都合な事であってもボクに益があるならそれをする、何もおかしな事じゃない」


 すると、ジーアが嫌みを含めたような笑みを浮かべウルに問う。


「長い間ウル=グランバーグという人間を演じる内に、随分と真っ直ぐな感性になりましたねスミルナ。もしかして人間に情でも移ってしまいましたか?」


 そんなジーアに対し、ウルは眼光を鋭くさせて答えた。


「笑わせんな……あたしは誇り高き竜スミルナの転生者だ。故郷であるラドウィードを取り戻す為ならどんなものでも利用するまでだ」 





 場面は再びルメス島の一室。


 プルームは、先の戦いでの最大の疑問をソラに投げかけていた。


「ところでソラ君、結局大聖霊の黙示はどうやって引き起こしたの?」


「ああ、それは――」 


 ソラがそのからくりを説明しようとした時。


「――シバさんがやったんだ」


 突然窓の外から声がし、全員が視線をそこに向けると、一人の少女と一匹の子犬がそこから入って来る。


「シーベット、シバさん!」


 プルーム達が驚いた顔で名を呼ぶ。突如窓から現れたのは、二年前にツァリス島から姿を消したシーベットとシバであったのだ。


 すると一人と一匹は、そんな面々を意に介さずベッドにちょこんと座りながら話し出す。


「風の大聖霊獣であるシバさんが持つ特別な刃力を、雷の大聖霊獣ワウケオンに与えて強制的に眠りから覚まさせ、大聖霊の黙示を無理矢理発生させたんだ」


「ふっ、力を使ってしまったおかげで、私はまたしばらく元の姿には戻れん」


 直後、そんなシーベットの種明かしを他所に、フリューゲルとプルームが駆け寄り、プルームはシーベットとシバを抱き寄せ撫で回す。


「つーか二年間も連絡寄越さずどこ行ってたんだよ?」


「んもう、心配したんだよシーベット、シバさん!」


「シバさんはともかく、シーベットまでもふるな」


 すると、シーベットをまじまじと見ながらパルナとエイラリィが言う。


「ていうかちょっと大人になった?」


「いえ、そんなに変わってないと思います」


「おい!」


 続いて、デゼルとカナフが声を掛けた。


「寂しかったよシーベット」


「ラパーチェが加わり、レイウィングとニヤラも戻り、白刃騎士が一気に増えたな」


 そんな様子を見て、少しだけ表情を綻ばせたソラがふと語る。


「シーベット先輩はあの後、エリギウスに単身潜入して二年間も情報を収集してたらしい」


 それを聞き、驚いたように尋ねるフリューゲル。


「ソラ、お前シーベットの行方を知ってたのか?」


「いや、俺も今回の任務をやる過程で初めて知ったんだ。というかシーベット先輩が俺と同じようにツァリス島から姿を消してた事も知らなかったし」


 すると、シーベットは俯きながら拳を握り締め、呟く。


「あの時、シーベットは何も出来なかった。兄上に歯が立たず、だんちょーの力になる事も。だから自分に出来る事をしようと思った……〈因果の鮮血〉が力を取り戻すまで、密偵騎士としてエリギウスに潜入し有益な情報を得て、少しでも未来に繋げる為に」


 それを聞き、プルームがすかさず割って入った。


「んもう、どうしてソラ君もシーベットも自分だけで背負い込んだりしたの? 二人共もう二度とそんな事しないってちゃんと約束して!」


 プルームの必死な懇願に、シーベットとソラはしおらしく謝罪の言葉を述べるのだった。


「……ごめんプルルン、ごめん皆」


「はい、ごめんなさい」


 ソラとシーベットが深々と頭を下げた後、ソラは先程のシーベットの話に戻る。


 〈亡国の咆哮〉はシーベットから様々な情報を流してもらっていた。今回のヴェズルフェルニル襲撃作戦を決行したのも、エリギウスが三ヶ月後の大聖霊の黙示に合わせて大規模進行を画策しているという情報を得たからなのだと。


 更に、エリギウス帝国皇帝アークトゥルスは、怨気を収集させるという目的であえて戦力を均衡させ、戦乱を長引かせてきた。しかし、三ヶ月後の大規模侵攻で雷の大聖霊獣を顕現させて大聖霊石を手に入れた後、今度こそ〈因果の鮮血〉を倒し、メルグレインとレファノスをエリギウスに統一させるつもであると打ち明ける。


「なっ!」


 その事実を知り、その場の全員が驚愕の表情を浮かべるしかなかった。


 そして、オルスティアを本気で統一するつもりだという事は、世界を包み込むのに必要な怨気がもう既に集まったという事だ。オルスティアを統一し世界を一つにした後、アークトゥルスは怨気を世界中に拡散させて、世界をラドウィードへと還す。だから、雷の大聖霊石を先に手に入れてアークトゥルスを出し抜くのと同時に、少しでも抗う為の戦力を所持しておく必要があったのだとシーベットは静かに続けた。


「そう……だったんだね」


 ソラとシーベットの真意を改めて知り、プルームが感慨深げに呟いた。するとソラは、真剣な声で伝える。


「とりあえず第一段階はクリアした。後は雷の神剣エッケザックスを起動させて、敵の大規模侵攻の前にこちらから打って出る必要がある」


「まあ、これは俺達だけでする話じゃねえわな。あんまし悠長にはしてられねえが今後の事はアルテーリエ様とルキゥール様とを交えて進めていくとしようぜ」


「ああ、そうだな」


 フリューゲルの提言に真剣な声のトーンで頷くソラ。するとフリューゲルは突然話題を変えて尋ねた。


「そういえばソラお前、何か既に〈寄集(よせあつめ)隻翼(せきよく)〉に帰って来てます感出してるけどよ……誰の許しを得たんだ? あ?」


「だ、誰のと言いますか、いやあ……はは……」


 言いながら、ソラは神妙な面持ちで再度深々と頭を下げた。


「皆ごめん、勝手な事を言ってるのは解ってる。でももう一度俺を〈寄集(よせあつめ)隻翼(せきよく)〉の騎士として認めてくれないか? 託されたものを守りたいんだ……今度こそ!」


 それに対し、プルームとエイラリィが返す。


「私とエイラは既に了承済みだよ。ね、エイラ」


「まあ、戻って来たら水に流すと言ってしまいましたしね」


「ありがとうプルームちゃん、エイラリィちゃん」


 続けてデゼルとパルナが返す。


「"本物"が帰って来た事だし、僕もこれで白刃騎士の真似事せずに済みそうだね。宜しく頼むよソラ」


「ああ、任せてくれデゼル」


「二年間も留守にして、あんたが居なくて色々大変だったんだからね、反省しなさいよ!」


「うん、ごめんパルナちゃん」


 次にカナフが嫌味を込めてソラに伝える。


「〈寄集(よせあつめ)隻翼(せきよく)〉を再始動させるには、レイウィングの力は必須だ。こんな弱小騎士団を再始動させて意味があるのかは分からんが」


「うぐぅっ、蒸し返さないでくださいカナフさん!」


 そしてシーベットとシバが何故かふんぞりがえりながら伝える。


「おソラがワウケオンを倒せなかったら、シーベットもシバさんも気まずくて帰ってこれなかった、とりあえず褒めてやる」


「ふむ、これからも精進するが良い」


「え? 何でシーベット先輩とシバさんはそっち側なの? 俺と同じ立ち位置じゃないとおかしくない?」


 そんなソラ達のやり取りを、微笑ましそうに、少しだけ羨ましそうにアレッタは眺めていた。すると最後にフリューゲルがソラに声を掛ける。


「お前が帰ってきてえっつーんなら俺から一つ条件がある」


「ああ、何でも言ってくれ、何でもするから」


「二年間も黙って消えてた挙げ句散々暴れまわった罰として島の草むしりだの、一ヶ月食事当番だの、翼獣舎の掃除だの色々させようかと思ってたんだけどよ」


「おお、そのくらいお安いご用だよ」


「いや……それはもういい」


「え? じゃあ条件って?」


 すると、フリューゲルはソラの肩に手を置きながら言い放つ。


「お前……今日から〈寄集(よせあつめ)隻翼(せきよく)〉の団長な」


 瞬間、ソラの表情が凍り付き、時が凍り付いた。そしてその後すぐに驚愕の声が響き渡る。


「えええええええっ!」


 直後ソラは、必死な様子でフリューゲルに詰め寄った。


「またまた、さすがに冗談きついってフリューゲルさん」


「いや大マジだ、ていうか騎士団を再始動させるんだ、団長のいねえ騎士団なんてあり得ねえだろ」


「いやいや、だからって何で俺が団長! 無理無理無理、絶対無理だって。ていうかフリューゲルがやればいいだろ、あの後皆をまとめてたっぽい感じだし」


「は? やだよめんどくせえし」


「なにその我が儘な言い分! あ、そうだじゃあカナフさんは? 一番年上だし、いつも冷静沈着だし、元副師団長だしぴったりだよ」


「無茶を言うな、俺は聖衣騎士でもなければお前のように大きな戦果もありはしない、それでは皆を納得させられないだろう」


「いやいやいや……じゃ、じゃあプルームちゃんは? 聖衣騎士だし、神剣アロンダイトの操刃者だし実力的には申し分ないだろ?」


「ソラ君……私に団長なんて務まると思う?」


 プルームにニコニコとした表情で問われ、ソラはプルームをまじまじと見つつ、そのふわっとした雰囲気があまりにも騎士団の団長とはかけ離れていると気付いた。


「それもそうだな、じゃあ……」


「ちょっとソラ君、少しも否定してくれないのはさすがに酷いよ」


「え、じゃあプルームちゃんやってくれるの?」


「あはは……それとこれとは話が別っていうか、ソラ君の方が適任て言うか」


 咄嗟の役割押し付けがことごとく失敗したソラは狼狽え、冷汗を掻きながら周囲に問いかける。


「はは、ちょっと待って……本当にこれ俺が団長押し付けられる流れ? さすがに冗談だよね?」


 それに対し、真顔で返すフリューゲル。


「お前さっき何でもするって言ったよな?」


「いや言ったけども! 皆が納得する訳無いってそんなの」


 すると各々がソラに想いを伝えるのだった。


「別にいいんじゃないでしょうか、ソラさんで」


「私も別に良いと思うわよ、ソラで」


 エイラリィとパルナの承諾の言葉に、ソラが突っかかる。


「何か適当だな」


 続けてアレッタとデゼルが言う。


「私は口出し出来る立場じゃありませんけど、でも〈亡国の咆哮〉の時はソラさん、結構ウル団長より団長してる時ありましたよ」


「あ、アレッタちゃん、余計な事言わないでくれよ」


「はは、じゃあもう良いんじゃないかな、ソラで」


「だからその適当な感じは止めて!」


 そしてシーベットとシバが続く。


「おソラが団長か、何かムカつくがシーベットは空気の読める子だから多数に流される」


「ふっ、この騎士団に入団したばかりの頃を思えば信じられんが、しっかりとやるのだぞ」


 全員に承諾され逃げ道を失ったソラは、涙目でやけくそ気味に叫びを上げた。


「わかったよ、わかりましたよ! やればいいんでしょやれば! でもその代わり俺なんてただの置物団長だから、団長らしい事何も出来ないから俺なんて! 後悔してもしらないから!」


「そんなに気張らなくても、体裁を整える為の、とりあえずの形だけだからよ」


「本当か? あっ! あと皆俺の事団長って呼ぶの禁止」


「何でだよ?」


「何かこう……恥ずかしいって言うか、むず痒いっていうか、とにかく何か壁を感じるから禁止!」


「わかったわかった、それぐらいは飲んでやるからよ、とにかくよろしく頼むぜ」


「……はあ、気が重いけど」


 そう言い終えると、ソラは突然思い出したかのように切り出す。


「あ、そうだ、そう言えば翅音(しおん)さんは? 俺翅音(しおん)さんにちょっと借りがあるっていうか謝らなくちゃいけないって言うか……」


翅音(しおん)さんなら、この建物に併設された格納庫で作業してるよ」


「ありがとうプルームちゃん」


 そしてソラは礼の言葉を残し、足早に部屋から出て行ってしまった。


 そんなソラの背中を見ながら、カナフがフリューゲルに尋ねる。


「シュトリヒ、お前がレイウィングを〈寄集(よせあつめ)隻翼(せきよく)〉の団長に推したのは、本当に形だけで誰でも良かったから押し付けただけなのか?」


 対し、フリューゲルは照れを隠すように後頭部を掻いた後、ゆっくりと返す。


「あいつが雷の大聖霊獣と戦っている姿を見て、あいつと翼羽団長の姿が重なって見えたんだ」


「……シュトリヒ」


「あいつは多分ここに居る誰よりも翼羽団長の意志を継いでるんだって、そう思っちまったんだ……ちょっと悔しいけどよ」


 するとそんなフリューゲルの言葉に、その場の全員がどこか納得したように笑みを浮かべるのだった。

267話まで読んでいただき本当にありがとうございます。


ブックマークしてくれた方、評価してくれた方、いつもいいねしてくれてる方、本当に本当に救われております。


誤字報告も大変助かります。これからも宜しくお願いします。

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