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265話 稲妻を切り裂く剣

 ソラは、顕現を始めた雷の大聖霊獣ワウケオンの元へと全速で飛んでいた。次第に肉が形作られていき、その姿が露わになる。


 (いかずち)を帯びる巨大な鳥は、紫の羽根の翼を雄々しく羽ばたかせ、細かい牙の生え揃った鋭い(くちばし)を大きく開けると、大気を震わせる程の雄たけびと共に空から稲妻を降り注がせた。


 雷の大聖霊獣ワウケオンが完全に顕現を果たしたのだった。


『“フェンリル”ノ野郎……コノ俺様ヲ叩キ起コシヤガッタ! 許サネエ! 大聖霊獣デアリナガラ人間ナンゾニ利用サレ、コノ俺様マデ利用シヤガッタ! 出テコイ、フェンリル! ブッ殺シテヤル!』


 すると、ワウケオンはやや流暢さに欠いた言葉で、激しく怒り狂ったように叫びを上げ続けた。


「な、何なんだあいつ……」


 想像していた大聖霊獣のイメージと大きくかけ離れたワウケオンの雰囲気にソラがたじろいでいると、ソラに伝声が入る。


『ソラ、あんたの所には伝令員は居るの?』


「……パルナちゃん」


 その声の主は、パルナであった。


「いや……居ない」


『なら、私があんたの戦闘補助をするわ、ありがたく思いなさいよね』


「ああ、心強いよ」


 〈寄集よせあつめ隻翼せきよく〉の伝令員であるパルナの戦闘補助の申し出に、ソラは懐かしさと頼もしさを抱きながら騎体情報共有を許可した。


『あんた、叢雲が抗認識結界(シャドウスフィア)を装備しているせいで残存刃力がもう残り少ないじゃない、騎体も損傷してて耐久値も大分心許ないわよ』


「分かってる、それでもやるしかないんだ」


 ソラは、叢雲の両腰から羽刀型刃力剣(スサノオ)を抜き、二刀流となって構えた。


 すると、ワウケオンはソラの叢雲に視線を向けながら言う。


『何ダテメエ、脆弱ナ人間ノ操ル人形タッタ一体デ、コノ俺様ニ向カッテクルツモリカ?』


『ソラ、上から高刃力反応! 来るわ!』


 パルナがソラに警告した直後、空から雷鳴と共に数多の稲妻が降り注いだ。


 すぐさまソラは竜域に入ると、騎体に回避行動を取らせその稲妻をかわしていく。


 しかし降りやまない稲妻が、ソラの叢雲を近付けさせようとしない。


「ちっ!」


 対しソラは、刃力が収束された双剣を交差させて振るう。するとワウケオンに向け、交叉状の光刃が飛ぶ。その技は都牟羽(つむは) 壱式 飛閃・連刃である。


 しかし、ワウケオンは球体状の結界に覆われており、ソラの叢雲が放った光の刃を掻き消した。


『ワウケオンの周囲を結界が覆ってる。ソードのものとは別物、多分刃力と実体、どちらにも有効な特殊結界よ』


「結界か……それもソードのものよりも強力な」


『ソラ、前方から高刃力反応、さっきよりも強力なのが来るわ!』


 次の瞬間、ワウケオンの前方に無数の雷球が出現し、翼を大きく羽ばたかせてソラに向けてそれを放った。


 叢雲に襲い掛かる数多の雷球。ソラは騎体を左右に廻旋させつつ推進させ、ワウケオンの懐に入らんと試みる。


 しかし雷球の内の一つが叢雲を掠め、叢雲と――そしてソラの全身を電流が駆け巡った。


「ぐあああああああっ!」


『ソラ!』


 ソードは帯電加工が施され、ある程度の電撃なら操刃室に到達する事は無いが、ワウケオンの放つ攻撃はその防御性能を優に凌駕していたのだ。そして凄まじい激痛と、痺れ、全身が燃えるような熱さで意識が飛びかけた。


『ギャハッ、ギャハハハハ、丸焦ゲ一歩手前ダナ人間』


「ハアッ、ハアッ……カハッ」


 ――掠めただけでこのダメージ、直撃すれば即死。

 

 ソラが冷静にそう分析した直後、パルナからの伝声。


『叢雲、耐久値残り10%未満、残存刃力15%……これ以上は持たないわよソラ!』


 更に、ワウケオンの前方には先程よりも多くの雷球が生成され、空からは雷鳴が響く。


 目前には神の如き強大な脅威、死の宣告が鳴り響き、今まさに絶望が降り注ごうとしていた。


 ――やっぱり敵わないな、翼羽団長には。


 しかし、そんな状況下で――ソラは笑った。


 ――自分よりも優位属性の大聖霊獣と戦って屈服させた。いやそうじゃない……今なら解るよ、あの人もきっと怖かったんだ、押し潰されそうになって逃げ出したくなっていた筈なんだ。


 ーーでもそれを俺達には決して見せなかった。いつだってあの人は俺達にとって無敵で、最強で、誰よりも誇り高かった。


「だから俺もあの人のように翔ぶんだ……例え無理だろうが、無謀だろうが、越えられない壁だろうが……ぶっ壊して押し通る!」


 直後、ソラは静寂の奥、凪の如き極限の集中状態の中で自身の体内にある刃力の種を探り当て、強制的に開花させて萠刃力(ほうじんりょく)を生み出し、淡い光に包まれた。それは正に諷意鳳龍院(ふういほうりゅういん)流 奥義、都牟羽(つむは) (めつ)附霊式(ふれいしき)であった。


萠刃力呼応式殲滅形態(クサナギノツルギ) 起動!」


 次の瞬間、叢雲の双眸が赤い閃光を放つと、各推進器から放出される刃力の色が透明となった事で形成されていた騎装衣は消失し、代わりに右背部の排出口のような部分から大量の赤い粒子が放出され、紅蓮の隻翼(せきよく)を形成させた。


 同時にワウケオンから放たれる無数の雷球と、降り注ぐ稲妻。


 しかし、叢雲は虚空に紅蓮の軌跡を刻みながら、残像を残す程の神速で雷球の間を縫い、稲妻を斬撃で斬り払いながら突き進む。


『馬鹿ナ! コレガ本当ニ人間? 本当ニ人間ノ造ッタ人形ノチカラダト?』


 人知を超えた叢雲の機動力と、ソラの雷を斬り払う程の剣技に、大聖霊獣であるワウケオンが嘴を大きく開け驚愕の意を示していた。


 また、その凄まじい負荷を受け、これまでソラと共に激戦を繰り広げ、損傷と修復を繰り返して来た叢雲の関節部がギシギシと音を立て、煙が噴出し始めた。


「ごめんな叢雲……いつも無茶ばかりさせてきた。それでも負けられないんだ、今度だけは!」


 叢雲は尚も雷を斬り払いながら進み、遂にはワウケオンの元へと到達。しかし、ワウケオンを覆う球体状の結界に阻まれてしまう。だがその直後、ソラはすぐさま結界に左前腕部の盾の先端を突き刺すと、砕結界式穿開盾(リフューザルシールド)の効果で先端を開放させた。


 それによりワウケオンの結界が破壊され砕け散る。同時にパルナが叫んだ。


『気を付けてソラ、上方! これまでで最大のが来る!』


 パルナの警告にソラが上方を注視すると、空間を捻じ曲げる程の電圧が空で集束しており、刹那、視界を奪う程の眩い閃光と共に、空から極大の霹靂が一つ降り注いだ。


 この空域中……否、空域の外にまで響く程の轟音と共に走った雷。それは正に天の怒りであった。


 やがてその光は消失し、ワウケオンの前には何者も存在しない。だがワウケオンは気付く、自身の背後に気配がある事を。


『……今ノヲかわシヤガッタノカ!』


 叢雲はワウケオンが放った渾身の雷撃を寸前で躱しており、既にワウケオンの間合いの中に居た。


 するとソラの叢雲は、刃力が収束した刀身の羽刀型刃力剣(スサノオ)を、右手は順手、左手は逆手(さかて)に持って構えた。


「蹴散らすぞ、叢雲」


 そしてワウケオンの首元で騎体を回転させながら光の刃を放つと、光刃が円状に広がっていき、やがては瞬き消えた。


 次の瞬間、ワウケオンの羽ばたきが止まり、空域中を覆っていた黒雲が晴れると、柔らかな光が差し込んだ。


『……コノ俺ガ……人間ナンゾニ』


 そして、ワウケオンの頸部に切断痕が入り、ゆっくりと頭部が落下した後、空中に浮いていた身体も光と共に消え去っていく。


 直後、ソラの叢雲の前に、紫に輝くとあるものが浮遊していた。それは人の拳大程の大きさの石で、中には雷を抽象的に描いたような紋章が刻まれている。それは紛れも無く雷の大聖霊石であった。


 同時に、ソラの頭の中にワウケオンの声が再び響く。


『ムカツクガ……クレテヤル……ダガ……オレノチカラヲ使ッテノ敗北ハ許サネエ……オボエテオケヨ人間』


 ソラは叢雲の操刃室を開放させると、浮遊する雷の大聖霊石を掴み取り、再び操刃室を閉鎖した。雷の大聖霊石をその手にし、ソラは胸を撫で下ろすと同時に、萠刃力呼応式殲滅形態(クサナギノツルギ)の超機動による負荷と、雷撃の負傷による全身の痛みで再び気が遠のきそうになっていた。


『ソラ!』 


「…………」


 パルナの叫びが響くも、ソラは両手に力が入らず、叢雲の動力が消えかけ落下しようとしていた。


 その時ソラは気付く。叢雲の腕が一騎のソードの肩に回り、支えられている事を。そのソードは両腕を失ったカットラスであり、戦闘が終了した後咄嗟に駆け付けたプルームが、力を出し尽くしたソラの叢雲の落下を防いでいたのだった。


『ソラ君どうせ無茶してるだろうなって、戻って来て正解だったよ』


「プルーム……ちゃん」


『カナフさんはエイラリィがちゃんと保護してるから安心して、ヴェズルフェルニルによる民の被害も今のところは報告されてないみたい』


「そっか……よかった……」


 そう言い残すと、ソラは安堵したような表情を浮かべ、そのまま眠るように意識を失った。


265話まで読んでいただき本当にありがとうございます。もし作品を少しでも気に入ってもらえたり続きを読みたいと思ってもらえたら


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どうぞ宜しくお願い致します。


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