262話 どんなに失っても、どんなに格好悪くても
ソラの放った斬撃に対し、思念操作で芯をずらし、再び受け止めようとしたプルーム。
だが、叢雲が持つ羽刀型刃力剣の刀身が消失する事で受け太刀を躱され、再度出現した刀身がカットラスの右腕部を斬り飛ばす。ここに来てソラの幻影剣が炸裂したのだった。
『くうっ!』
更に、続けざまに放たれた下方からの振り上げ斬り――逆風がカットラスの左前腕部までをも斬り飛ばした。
全ての武器を失い、戦闘継続は不可能、勝敗は誰の目にも明らかだった。
しかし、それでもプルームの目は死んではいなかった。
『大切な人を死なせたくないのは君だけじゃない、私達だって翼羽団長の意思を継いでるんだ……だから託されたものを守るんだよ……皆で!』
プルームの想いと叫びが空に響いた瞬間、叢雲に衝撃が走った。
「なっ!」
そしてソラは気付く、叢雲の背部に何かが突き刺さり、騎体に甚大な損傷を受けている事に。
その何かとは、先程ソラの叢雲が斬り飛ばした、カットラスの左前腕部に装着されていた盾であった。
また、その盾にはとある聖霊騎装が備わっていた。思念誘導式穿突盾ーー盾付属型聖霊騎装の一つであり、装備する事で盾を思念操作可能にする効果がある。それを更に〈念導〉による思念操作の相乗効果で自在に操り、死角から高速で射出、竜域状態のソラですら対応不可能な一撃を繰り出す事に成功した。
プルームが隠していたカットラスの最後の武器――まさしく切札であった。
そして、騎体に甚大な損傷を受けた両者は、互いに浮遊岩礁へと着陸し、膝を付かせながら相対する叢雲とカットラス。
「君が……君達がやろうとしている事は分かる。ソラ君達は多分、雷の大聖霊獣を顕現させようとしてるんでしょ?」
突如飛び出す、突拍子も無いプルームの発言であったが、ソラは唖然とした様子で目を見開いた。
『プルームちゃん……何で!』
ソラのその反応で、プルームは確信を得た。
「やったあ! もしかして当たってた? えへへ、こう見えて私結構勘は良い方なんだよ、でも全然違ってたらちょっと恥ずかしかったけどね」
『……鎌をかけたのか?』
「どうやってなのか方法は見当も付かないけど、同じ目的の筈の君達がメルグレインを――〈因果の鮮血〉を敵に回すメリットが無いし、明らかにこの藐の空域で戦闘になるように魔獣を誘導しているように思えた。何より神剣が目的なら炎の神剣と炎の大聖霊石が揃っているレファノスを襲撃した方が手っ取り早そうだし」
普段ふわふわとしている印象のプルームの、意外な頭の回転の速さにソラは少し驚いたように目を丸くした。そんなソラに、プルームは神妙な面持ちとなり続ける。
「でもこんなやり方じゃ駄目だよ、もしこのまま魔獣の群れが王都に到達して民に犠牲が出たり、雷の大聖霊獣が顕現して騎士に犠牲が出たりしたら、君は君自身を許せなくなる、君はもう戻ってこられなくなる」
『元々戻るつもりなんてない、どのみち俺はもう自分を許す事なんて出来ない。理由はどうあれ俺は……皆に牙を剥いた……皆を傷付けた、だからもう引き返せないんだ』
プルームが必死に叫び掛けてもソラは拒むように己を否定し続けた。すると震えた声で、何かをぽつりと呟くプルーム。
「……この」
『え?』
次の瞬間、プルームのカットラスが、推進刃からの刃力放出を最大に、真っ直ぐに叢雲へと突進して行くと――
「このわからず屋ああああ!」
――頭突きを見舞うのだった。
衝撃に顔を歪めながら、ソラは翼羽にラリアートを喰らわされ、叱咤された時の事を思い浮かべる。
《この阿呆んだらあああ!》
そしてその場に倒れ込む両者。仰向けで倒れる叢雲の上に覆いかぶさるような体勢のカットラス。直後プルームはカットラスの鎧胸部を開放すると、ソラに向けて直接叫んだ。
「皆を傷付けたって思うんなら、今度は皆の傍で皆を守ってよ! どんなに失っても、どんなに格好悪くても、翼羽団長の一番弟子はきっと負けないって信じてるから!」
《だから行け――私の一番弟子》
ソラは、翼羽の言葉を思い浮かべながら、プルームにかつての翼羽の面影を見た。
気が付けば、涙が溢れていた。止めどなく溢れるそれが頬を伝い続けた。縛り続けていた何かが解かれたように、突き刺さり続けていたものが抜け落ちるかのように……そして無理矢理殺してしまっていた己の心にようやく向き合えた気がした。
すると、ソラもまた叢雲の鎧胸部を開放させ、プルームと直接対面し、言葉を伝える。
「意志を継ぐ者……か、そうだよな」
ソラは、そう言うと涙を拭いながら続けた。
「プルームちゃんの言う通りだよ。〈寄集の隻翼〉の皆が翼羽団長の意志を継いでるのに、俺は自分だけがそうだと思い込んで、自分がやらなきゃ、自分じゃなきゃ出来ないんだって言い聞かせて、全部一人で背負い込んでた」
「……ソラ君」
「でも、プルームちゃんも、フリューゲルもデゼルも、エイラリィちゃんもカナフさんもパルナちゃんも、皆本当は俺なんかよりずっと強くて、俺なんかよりずっと託されたものを守ってたんだよな」
すると、ソラは決意したように真剣な表情で、プルームに伝える。
「プルームちゃん、ヴェズルフェルニルの群れを止める方法がある」
「え?」
「群れは女王が刃力を使って産み出した複製体。女王が死ねば女王以外の個体も死滅する」
「それはそうなんだけど、その女王を見分ける方法が無いんだよ」
「いや、フリューゲルの〈天眼〉ならそれが出来る」
「〈天眼〉で?」
ソラの突然の打ち明けに、半信半疑な様子のプルームに、ソラは続ける。
「俺も詳しくは知らされてないけど〈亡国の咆哮〉の協力者が、とある竜殲術でヴェズルフェルニルの女王に術をかけているらしい。そしてその女王に群れを操らせているんだ」
そこまで聞き、プルームが察した。
「そうか! 術にかかってる、つまり刃力の流れが明らかに違う個体を探せればそれが女王って事だね?」
「ああ、そして女王は第一波と第二波の最後尾、それぞれ一匹ずつ居る」
それを聞いたプルームが、笑顔でソラに言った。
「ありがとう、ソラ君」
そして、味方にその情報を伝えるべく、カットラスの操刃室に入った。それを見て、ソラは再び少しだけ微笑み、心の中で想う。
――お礼を言われる筋合いなんてないよ、プルームちゃんが目を覚まさせてくれなかったら俺はきっと一生後悔してた……そんでもって多分、いつか翼羽団長にも滅茶苦茶しばかれてたと思う。
「だからごめん……ありがとう」
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