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260話 交錯する願いと信念

 次の瞬間、高速で接近して来たソラの叢雲の前に、プルームはカットラスで立ちはだかる。それを見たソラは竜域を解除すると、騎体を制動させ、プルームへと伝声を行った。


『金色の騎装衣にその騎体……もしかしてプルームちゃん……なのか?』


「久しぶりソラ君。何だか随分と大人っぽくなっちゃったね」


 おどけるようなプルームの言葉に、少しだけ俯き深刻そうな様子で尋ねるソラ。


『プルームちゃん、もう……怪我は大丈夫なのか?』


「いやあ大丈夫とは言えないかなあ、まだ右手は上手く動かせないし、あれから色々大変だったんだよ。でも、またこうしてソードを操刃出来るようになったし、結果オーライかな」


『……そっか』


 すると、ソラは再び竜域に入り竜の瞳となると、叢雲に構えを取らせ、起伏を失った声で言う。


『ごめんプルームちゃん、俺にはやらなくちゃならない事があるんだ……だからそこをどいてもらう』


 ソラから発せられる凄まじい威圧感に、プルームは怯みそうになる。しかし、それでもプルームは一歩も退かずカットラスで戦闘態勢を取った。


 カットラスの両肩部が開放され、内部から思念操作式飛翔刃(レイヴン)が射出され周囲を高速で飛び交う。


「どかない、そんな辛そうな顔で戦ってる君を……放っておく事なんて出来ない!」


 すれ違う想い、それでも互いの願いと信念が音を立てて交錯した。



 一方、中盤線ではフランベルクとパンツァーステッチャー部隊が、ヴェズルフェルニルの群れに激しい攻撃を行っていた。


 特に新型量産剣であるフランベルクの性能は高く、炎装式刃力弓(クスィフ・フレイムアロー)からの炎の光矢でヴェズルフェルニルを爆裂させ、得意とする近接戦においては刃力剣(クスィフ・ブレイド)で次々と身体を斬り裂いていく。


 そして、中距離から近距離で討ち漏らしたヴェズルフェルニルは、パンツァーステッチャーを駆る狙撃騎士部隊が的確に射抜いていった。


 その卓越した連携により、中盤線においては〈因果の鮮血〉部隊が押し寄せるヴェズルフェルニルを確実に食い止めていた。


 その一方で、アルテーリエはウルと一騎討ちを行い、激しい戦闘を繰り広げている。


 〈血殺(せんけつのさばき)〉の能力で、疑似血液を利用して数多の聖霊騎装を再現するアルテーリエであったが、ウルのウルフバートには悉くかわされていた。


 ――追尾式炸裂弾(アーティファクト)で落とす。


 アルテーリエのミームングの前面に疑似血液が集結すると、追尾式炸裂弾(アーティファクト)が再現され、射出されたそれが空中に真紅の航跡を描きながらウルのウルフバートを狙う。


 対しウルフバートは右手に散開式刃力弓(クスィフ・ショットアロー)を持たせ、騎体を高速で後退させつつ、散弾光矢を赤い炸裂弾に向けて放つ。


 それにより、追尾式炸裂弾(アーティファクト)は次々と撃ち落とされ、遂には全てが撃ち落とされた。


 ウルは竜殲術〈読心(こえのはこびや)〉によりアルテーリエの心の声を読み取り、使用する聖霊騎装の種類を把握する事で、最短最善の対応を可能にしていたのだった。


「また対処された……だと」


 ――竜殲術が常時発動している。奴の能力が関係しているのは間違い無い。


 しかし、ウルの能力を知らないアルテーリエは、その理由に確信が持てず、動揺を隠せない。


 すると、ウルはウルフバートを高速で推進させてミームングとの距離を一気に詰め、二刀流となって交叉した状態からの刃力剣(クスィフ・ブレイド)で斬りかかる。


 直後、アルテーリエはミームングの疑似血液を操作し、死神を思わせる巨大な鎌を造り上げてその一撃を受け止めた。


「ごちゃごちゃ考えるのは性に合わん。結局は近接戦(これ)に限るな」


 アルテーリエはそう呟くと、ウルのウルフバートを軽く押し弾き、大きく振りかぶった大鎌を無造作に振り下ろした。その一撃はウルフバートの肩部を掠め、装甲を僅かに削る。



 ――心の声が聞こえずらくなった、こいつ、近接戦闘は本能だけで戦ってやがるのか?


 対し、ウルは口の端を上げながら呟いた。


「面白え」


 そして両者の刃と刃は幾度となくぶつかり合い、激突の火花を散らせた。一進一退の攻防、ほぼ互角の戦いを繰り広げるアルテーリエとウル。



 その時だった、アルテーリエに王都伝令室からの伝声が入る。


『アルテーリエ様、第二波……北西方向から襲来! 数は恐らくまたしても千』


「なっ!」


 増援を知らせる伝令員からの報告にアルテーリエは唖然とする。千を超えるヴェズルフェルニルの群れを殲滅する為に奮闘していたアルテーリエ達であったが、更に同じ数が襲来するとあっては最悪の状況も考えられる。


 そしてアルテーリエには困難な決断が迫られた。しかしアルテーリエはすぐに決意すると、最終防衛戦を担当するリーンハルトへと指示を出す。


「リーンハルト、お前は最終防衛戦の部隊を率いて、北西から襲来する群れの撃破にあたれ」


『し、しかしアルテーリエ様、そしたら中盤線がもし突破されたら王都は甚大な被害を受けますよ』


「このまま第二波の襲来を待っていたらそれこそだ。だから行け、ここは私が必ず死守する! フリューゲル、お前達も北西から襲来する群れの撃破にあたってくれ」


『わかりました』


 アルテーリエは、最終防衛戦の戦力とフリューゲル達を、西方から襲来する群れの迎撃にあたらせる指示を出すと、ミームングの両腰部に疑似血液を集結させ、砲身を形作らせた。


 アルテーリエが〈血殺(せんけつのさばき)〉で再現したのは両腰部とも散開式刃力砲(クスィフ・ディスパーションカノン)、そしてそれを同時に放つ共鳴散開式刃力砲(クスィフ・ケイオスヴェイン)であった。


 アルテーリエがしようとしている事を読み取ったウルは、すぐさまウルフバートを上昇させ、回避行動を取る。


「ここは通さん!」


 直後、砲身と砲身の間に集束した赤く巨大な光の球が、凄まじい数の光矢となってヴェズルフェルニルの群れに同時に襲い掛かり、一気に貫いていった。



 一方、西方からの群れを率いるアレッタは、どこか不安げな様子でウルに伝声器越しに尋ねる。


「まだなんですかウル団長? このままじゃ……」


『まだだ、まだ足りねえ(・・・・)。今芋引いたら全てが無駄になっちまう。もう後戻りは出来ねえんだ!』


「……やるしか……ないんですよね」


 自分達がしようとしている事に躊躇するように呟くアレッタ。その時、突如アレッタの心に声が響く。


『姉さん、後は僕がやるよ』


 ――オズ……だけど。


『いいんだ姉さん。姉さんは優しすぎるから、こういうのは僕の役目だ』


 ――駄目だよオズ、それじゃあまたオズに嫌なことを押し付ける事になる。私はいつも……逃げてばっかりになっちゃう。


『違うよ姉さん、僕がそうしたいんだ……僕はその為に生まれたんだから』


 ――オズ、オズ!


 アレッタは、心の中でそう叫びながら、自分の意識が遠のいていくのを感じた。


 すると、アレッタの目付きが鋭くなり、エスパダロペラが両手に刃力剣(クスィフ・ブレイド)を構え、二刀流となった。


 直後、アレッタが率いるヴェズルフェルニルの群れの前に、とてつもなく巨大な光の盾が出現し進撃を阻んだ。それは、第一波の群れの進撃を阻んだ時と同じ光景。アルテーリエの命で駆け付けたデゼルの〈守盾(まもりのたて)〉による防壁であった。


 次の瞬間、アレッタ――否、オズヴァルドのエスパダロペラが、交叉させた両手の刃力剣(クスィフ・ブレイド)を光の盾に向かって振るい、更には高速の連撃を叩き込んだ。


「姉さんの邪魔をするな、殺すぞゴミ虫共」


 そして乱れる刃に刻まれ、防壁の役割を果たしていた光の盾は粉々に砕け散った。それにより、第二波であるヴェズルフェルニルの群れが、王都に向かって再度進撃を開始した。


『また防壁壊されてんじゃねえかデゼル!』


「仕方無いだろ、〈守盾(まもりのたて)〉は広範囲に張ればそれだけ脆くなる」


 ――とは言え、ソラ以外の白刃騎士にこの〈守盾(まもりのたて)〉が突破されるなんて。


 デゼルは、自身の竜殲術を軽々と突破したオズヴァルドを強敵であると認識せざるを得なかった。

260話まで読んでいただき本当にありがとうございます。


ブックマークしてくれた方、評価してくれた方、いつもいいねしてくれてる方、本当に本当に救われております。


誤字報告も大変助かります。これからも宜しくお願いします。

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