259話 託されたもの
一方、場面は最前線へと移る。
『ソラ! あんたソラなんでしょ? 何とか言いなさいよ。ツァリス島から勝手に消えたりなんかして、皆ずっとあんたの事探してたのよ! 一体どういうつもりなの?』
ルメス島の仮本拠地の伝令室から、叢雲に向けてパルナが叫んだ。すると、伝令室と、フリューゲル達に叢雲から伝映と伝声が送られた。
『……俺は今、反乱軍連合騎士団〈亡国の咆哮〉に居る』
成長し大人びているとはいえそこに映し出された顔、そして声は紛れも無くソラであり、その場の全員がまずはソラが無事で居た事に胸を撫で下ろすと同時に、先程のソラの行動とその言葉に怪訝そうな表情で佇んでいた。
するとフリューゲルは、ソラへと伝声する。
『亡国だか咆哮だか何だか知らねえが、俺達はこれから〈寄集の隻翼〉をもう一度始動させる。その為にお前の力が必要なんだ』
ソラを再度自分達の騎士団に戻そうとするフリューゲルの言葉に対し、冷淡な声で返すソラ。
『それがどうした……今更あんな弱小騎士団を始動させて何の意味がある?』
その予期せぬ言葉に、フリューゲルは静かに憤慨する。
『本気で言ってるのかてめえ!』
次の瞬間、叢雲が制動した状態から突如急発進し、一気にエイラリィのカーテナとの間合いを詰めると――瞬速の袈裟斬りを繰り出した。
『くうぅっ!』
その一撃が胸部に刻まれ、衝撃で弾き飛ばされるカーテナ。
『エイラ!』
『大丈夫よ姉さん、と言っても騎体は損傷甚大……一旦ルメス島に退避して修復を行うわ』
叢雲の羽刀型刃力剣からの斬撃により、カーテナは動力部に損傷を受け、エイラリィは撤退を開始する。するとエイラリィは撤退をしながらソラへと言った。
『ソラさん……あなたが何の理由も無しにこんな事をするとは思えません。きっと何か事情があるんですよね? 私は信じてます、あなたの事を』
『…………』
しかしソラは口を噤み、エイラリィに言葉を返す事はしなかった。
すると、ソラの叢雲に突撃を開始していた騎体が一騎、それはデゼルのベリサルダであった。
ベリサルダは右腕の盾の先端による刺突を、叢雲の右肩部目掛けて放つ。だが、ソラの叢雲はその攻撃を騎体の身を捻らせて躱すとベリサルダと距離を空けて対峙した。
そんなソラに向け、デゼルは怒り混じりに問いかける。
「ソラ……どうしてエイラリィに攻撃したんだよ、僕達は仲間じゃないのか?」
『まずは回復と供給を断つ、戦術の基本だ』
しかしソラは、感情の起伏を失ったようにそう答えると、再び羽刀型刃力剣を正眼に構えた。
そして、晶板に映し出されたソラの目を見てデゼルは気付く。
「竜の瞳……君、竜域に――」
直後、ソラの叢雲は左前腕に装着された盾の内側から刃力弓を射出させると、左手で受け取り、光矢を連射する。
「くっ!」
だが、デゼルが抗刃力結界を発動させた事により、白色の光の球体がベリサルダを覆い、結界が射撃を防ぐ。
刹那、ソラの叢雲がベリサルダとの間合いを瞬時に詰め、右手の羽刀型刃力剣を振り上げると、渾身の真向斬りを繰り出した。
その一撃に凄まじい衝撃が巻き起こり、風圧が雲を払う。だが、デゼルは〈守盾〉を発動させ、ベリサルダの前に出現させた光の盾で斬撃を防いでいた。
「どうしちゃったんだよソラ……君は仲間に剣を向けるうような奴じゃ無かった筈だ」
『……託されたものを守る為に俺達は雷の神剣が必要なんだ』
「君が言う託されたものが何なのかは解る、なら目的は同じ筈だろ? こんなやり方絶対に間違ってる!」
『正しいか否かを決めるのはお前じゃない、死にたくなければそこをどけ』
すると、光の盾に受け止められていた羽刀型刃力剣の刀身が消失し、光の盾を擦り抜けた後再度刀身が出現。叢雲は羽刀型刃力剣を振り切り、ベリサルダの右腕部を肩から斬り落とした。更に、叢雲は追撃の蹴りを繰り出し、ベリサルダの胸部に直撃させた。
「うわああああっ!」
ソラの繰り出した幻影剣により甚大な損傷を受け、更に蹴りの衝撃で吹き飛ばされるベリサルダ。
次の瞬間、雷光の矢が三発、叢雲へと襲い掛かる。だが、ソラはすぐさまそれに反応すると、羽刀型刃力剣を三度振るい、鋭い剣閃が雷光の矢を斬り払う。
「……そこか」
ソラは飛来してきた雷光矢の角度から狙撃点を把握すると、突き刺さるような鋭い視線を向け、最大速力で叢雲を飛翔させた。
「ちいっ!」
叢雲へ向け狙撃式刃力弓による狙撃を行ったのは、浮遊岩礁に狙撃点を置いているカナフのタルワールによるものだった。
凄まじい速度で向かってくる叢雲、カナフは再度ソラの叢雲の推進刃目掛け狙撃を行う。
しかし、叢雲は狙撃式刃力弓から放たれる光矢を次々と斬り払い、距離をみるみると詰めて来た。
「レイウィング、お前が何を抱えているのかは俺には分からない。だが今のお前の姿が、お前に託した者が本当に信じていたお前の姿なのか?」
『……あんたに何が解る?』
直後、タルワールの間合いの中に既にソラの叢雲は居た。
「くっ!」
接近を許したカナフは、咄嗟に、タルワールに刃力剣を抜かせて構えた。
『狙撃騎士のあんたが、剣で俺に勝てると思っているのか?』
しかし次の瞬間、ソラの叢雲からの斬撃一閃。
「ぐうううっ!」
刃力剣の刀身ごとタルワールは頸部を切断され、浮遊岩礁にて機能を停止させた。
その時、ソラの叢雲に向けて稲妻が走る。
「ちっ!」
それは、フリューゲルのパンツァーステッチャーが装備する狙撃式刃力砲からの砲撃。ソラは咄嗟に騎体の身を捩らせて躱すも、砲撃を掠めた腹部の装甲が焦げて溶解した。
しかしそれでもソラは、冷静に言い放つ。
「位置は把握した……逃がさない」
一方、フリューゲルとパンツァーステッチャーの額には剣の紋章が輝いており、フリューゲルは竜殲術〈天眼〉を発動させた状態での絶妙なタイミングで砲撃を放ったものの、それをあっさりと躱され歯噛みしていた。
「今のを躱すのかよ」
――しかも、もう隙が見えやしねえ……何て奴だ。
「まるで――」
フリューゲルは、頭に過り言いかけた言葉を飲み込むと、頭を振って無理矢理消し去る。
すると、ソラの叢雲がフリューゲルのパンツァーステッチャ―が狙撃点を取る浮遊岩礁に狙いを定め、高速で飛翔を開始した。
高速で接近してくる叢雲に、フリューゲルは狙撃式刃力弓から雷光の矢を連続で放つも、ソラの叢雲に全て斬り払われ、接近を止める事は叶わない。するとフリューゲルは白兵戦にて応戦する覚悟を決め、刃力剣を抜いて構えを取った。
その時だった。フリューゲルのパンツァーステッチャーの前に、カットラスが現れると、フリューゲルに向けてプルームからの伝声が入る。
『行ってフリュー。フリューはデゼルと一緒にヴェズルフェルニルの群れを追って背後から攻撃をお願い、このままだと多分中盤線も持たない』
「あ? お前はどうするつもりなんだよプルーム」
フリューゲルが尋ねると、プルームは晶板越しに微笑み、淀みなく言い切った。
『私は……ソラ君を止める!』
対し、嘆息と共に尋ねるフリューゲル。
「つええぞ今のあいつは、本当に一人でやれんのか?」
『うん、だって私は一人じゃないから……それをソラ君に教えてあげないとね』
そんなプルームの力強い言葉に、フリューゲルは笑みを浮かべると、騎体を飛び立たせながらプルームに伝声する。
「んじゃあ後は頼むわ、ついでにあいつに言っといてくれ『帰って来たら一ヵ月間食事当番と島の草むしりと壊したソードの修理作業やれ』ってよ」
『そ、そんな事言ったら余計帰って来ずらくなっちゃうよお』
するとフリューゲルに追随するように、デゼルからの伝声。
『あと僕のグリフォン達の小屋の掃除も追加でよろしくね』
「もう……二人とも容赦無いなあ」
そしてフリューゲルのパンツァーステッチャーとデゼルのベリサルダが、最前線を抜けたヴェズルフェルニルの群れを追うのだった。
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