表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
261/307

258話 咆哮と鮮血

 (むらさき)の空域北の最果て、それはまさに天災だった。


 まるで砂嵐を思わせるかのように、膨大な数の蠢く何かが飛来してくる。それは黒い鳥型の魔獣であり、主にイェスディラン群島の空域に生息する、ヴェズルフェルニルという名の特殊な上位魔獣。


 ヴェズルフェルニルは上位魔獣に分類される魔獣の中では最も小型であり、ソードの装甲を破る程の攻撃能力を持ち合わせていないながらも、第一級指定上位魔獣として恐れられていた。


 理由はその特殊能力にある。ヴェズルフェルニルは本体である女王が高い繁殖力にて己の複製体を無数に産み落とし、群れとなる。そして女王の複製体から成る群れは驚異的な統率力と食欲を誇り、時には島そのものを食い付くす事もある程だ。


 しかし、いかに繁殖力が高いとはいえ、これ程の大群が確認されたのは世界でも初であった。


 その時、彼方から放たれた閃光が、一匹のヴェズルフェルニルを撃ち抜いた。頭部を貫かれたヴェズルフェルニルは絶命し、虚空へと落ちていく。


 すると、次々と飛来する雷光の矢が群れに襲い掛かり、一匹、また一匹と仕留めていった。


 それは、(むらさき)の空域の浮遊岩礁に狙撃点を取り、狙撃を開始したフリューゲルのパンツァーステッチャーと、カナフのタルワールによる狙撃式刃力弓(クスィフ・スナイプアロー)からの攻撃であった。


 更には、別の方向からも無数の光矢が放たれ、ヴェズルフェルニルを次々と撃ち抜き、仕留めていく。


 その攻撃は、エイラリィのカーテナと、プルームのカットラスが臨時的に装備した連射式刃力弓(クスィフ・チェインアロー)からの弾幕であった。また、この魔獣掃討作戦においては手数が圧倒的に不足している為、今回支援騎士であるエイラリィもあえて射撃戦を行っていたのだ。


 四騎からの一斉射撃、とはいえそれだけでは当然ヴェズルフェルニルの群れの勢いは一切緩まない。


 次の瞬間、迫り来る群れの前に、巨大な光の壁が出現し、その進撃を阻んだ。


 ヴェズルフェルニル達は光の壁に激突すると、嘴でそれをつつき破壊しようと試みる。しかし光の壁は壊れる事無く群れを阻み続ける。


 それはベリサルダを操刃するデゼルの竜殲術〈守盾(まもりのたて)〉による能力によるものだ。ヴェズルフェルニルは攻撃能力自体は低い為デゼルは光の盾をあえて薄く、可能な限り広範囲に広げる事で、盾を防壁の代わりとして使用していたのだった。


 すると、フリューゲルから全騎に指示が飛ぶ。


『ここで一気に射殺(いころ)すぞ!』


 直後、フリューゲルのパンツァーステッチャーは腰部の砲身を展開し散開式刃力砲(クスィフ・ディスパーションカノン)を、カナフのタルワールも腰部の砲身を展開し狙撃型刃力砲(クスィフ・ペネトレイトカノン)を起動した。そして二騎が切札の刃力核直結式聖霊騎装を使用し、散開する光矢と稲妻の如き光矢が放たれる。


 更には、エイラリィのカーテナと、プルームのカットラスも連射式刃力弓(クスィフ・チェインアロー)からの一斉掃射を開始する。


 次の瞬間、群れを堰き止める光の盾が消失し、瞬く数多の光矢はヴェズルフェルニルを次々と貫いていった。


 しかし、光の盾が消失した事で群れは雪崩れ込み始める。だが次の瞬間、光の盾が再度出現し、ヴェズルフェルニルを再び堰き止めた。


『よし、次の一斉射撃の準備だ! 全騎下がるぞ』


 今の一斉射撃で仕留めたヴェズルフェルニルの数はおよそ百。このまま光の盾で進撃を食い止めつつ、自分達は後退しながら大技で一気に敵の数を減らしていく。これを繰り返していけばやがてはこの大群を殲滅出来るとフリューゲル達が画策したその時だった。


 高速で接近するとある何か。それは飛翔する一騎のソードであった。直後、そのソードは、右手に持つ剣で光の盾に刺突を繰り出すと――光の盾にひびが入り、そして砕け散った。


 薄く広範囲に発動していたとはいえ、デゼルの絶対防御とも言える竜殲術〈守盾(まもりのたて)〉を一撃で破壊された事、ヴェズルフェルニルの群れが一気に雪崩れ込み、先程までを越える勢いで進撃を始めた事に全員が驚愕する。


 更には群れと一緒に、先程とは別のソードが一騎前線を突破していくのだった。


 しかし、それ以上に全員が驚愕し、激しい困惑を隠せなかった。何故なら目の前に出現し、明らかに自分達の敵である行動を見せた先程のソードは……かつての翼羽の愛刀であり、ソラがツァリス島から持ち出して姿を消した叢雲であったからだ。


 フリューゲルは前線が突破された事をアルテーリエに報告した後、叢雲へと伝声する。


『叢雲、操刃しているのはまさか……ソラなのか?』



 場面は変わり、中盤線では既に王都から出陣した、アルテーリエ率いる部隊が到着していた。


 炎の宝剣ミームングを操刃するアルテーリエに、最前線を任されていたフリューゲルから伝声が入る。


『すみませんアルテーリエ様、最前線を突破されました』


「わかった、お前達は追撃だ。背後から攻撃を開始しろ」


『了解しました』


 アルテーリエはフリューゲルに指示を出すと、部隊に迎撃の準備をさせる。


 部隊の構成は、炎の聖霊石を核とする新型量産剣フランベルクが五十騎と、雷の聖霊石を核とする従来の量産剣パンツァーステッチャーが五十騎。


 広く展開された部隊、前衛のフランベルクが炎装式刃力弓(クスィフ・フレイムアロー)を構え、後衛のパンツァーステッチャーが狙撃式刃力弓(クスィフ・スナイプアロー)を構え魔獣の進撃に備える。


「来るぞ!」


 直後、ヴェズルフェルニルの群れの襲来を確認し、身構えるアルテーリエ達であったが、突然群れの進撃が止まり、羽ばたきながらその場に留まり始めた。


 すると、群れの先頭に躍り出たのは一騎のソード、金色の騎装衣を翻す黄土色の宝剣であった。それは、ウルの操刃するウルフバートである。


 そして、アルテーリエのミームングにウルからの伝声が入る。


『〈因果の鮮血〉副団長にしてメルグレイン王国国王、アルテーリエ=ベルク=メルグレインだな?』


「どんな手品を使ったかは分らんが、貴様達がヴェズルフェルニルを操ってこの襲撃を企てたという事だな……一体何が目的だ?」


 すると一拍空けて、ウルが返答する。


『メルグレイン王国が所持する雷の神剣エッケザックスを渡せ』


「何だと!」


『お前達はこれまで雷の神剣を所持しておきながら何も成さず無駄にしてきた。宝の持ち腐れ、お前達には過ぎた玩具でしか無いっつー事だ』


 するとアルテーリエは、ウルの騎体に紋章が刻まれていない事に気付き、問う。


「紋章の無いソード……お前達は〈亡国の咆哮〉だな? こちらも言わせてもらうが、壊滅寸前の反乱軍が神剣を所持したところで何を成せる?」


 それに対し、ウルがすかさず答えた。


『ハッ、確かにあたし達に残された戦力は僅かだ。だがあたし達はこうして魔獣を兵力とする(すべ)を得た。そして大聖霊石の無い神剣を起動させる(すべ)もな』


「な……に?」


 その言葉に半信半疑ながらも、僅かに動揺するアルテーリエにウルが続ける。


『神剣を手にし、魔獣を従え、不甲斐ないお前達の代わりにあたし達がこの世界を粛正してやると言ってるんだ』


「断ると言ったら?」


『この魔獣ヴェズルフェルニルに王都を襲わせる』


 するとアルテーリエとミームングの額に剣の紋章が出現し、ミームングの疑似血液が腰部に真紅の砲身を出現させた。竜殲術〈血殺(せんけつのさばき)〉の発動である。


「それが交渉のつもりか? 笑わせるな!」


『交渉は決裂だな、じゃあ欲しいもんは力ずくで奪うまでだ』


 次の瞬間、ウルとウルフバートの額にも剣の紋章が出現し、戦闘態勢を取る。更に、ヴェズルフェルニルの群れが再度進撃を開始した。


「全騎に告ぐ! 迎撃開始、一匹たりとも撃ち漏らすな!」


 (むらさき)の空域の中央、アルテーリエ率いる〈因果の鮮血〉部隊と、〈亡国の咆哮〉ウル率いる魔獣ヴェズルフェルニルの群れが激突した。

258話まで読んでいただき本当にありがとうございます。


ブックマークしてくれた方、評価してくれた方、いつもいいねしてくれてる方、本当に本当に救われております。


誤字報告も大変助かります。これからも宜しくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ