250話 〈久遠の翼〉
しかし、ソラが開戦早々一騎のクレイモアを撃墜させた事により、敵の騎士達はクレイモアを散開させ、ソラ達から大きく距離を取らせた。
『クレイモアは飛翔力に長ける雲属性の量産剣だ。ここまで警戒されちゃ近付けねえ、ましてや騎体の性能を完全に引き出せないお前じゃ尚更だ』
「わかってる」
次の瞬間、各クレイモアの両肩部が開放されると、内部から羽根の形状をした刃、思念操作式飛翔刃が無数に射出され、ソラ達の騎体三騎を包囲しながら飛び交った。
『ちっ、思念操作式飛翔刃かめんどくせえ』
するとウルは、ウルフバートの左前腕の盾の内側から散開式刃力弓を抜き、アレッタはエスパダロペラの左右の腰から刃力剣を抜いて二刀流となって構えた。
『ソラ、このままちんたらしてたら飛空艇に離脱されるかあたし達が活動限界になる。ここはあたし達が引き受ける、お前は飛空艇を落としてこい』
『えー! ウル団長と私だけであの新型量産剣を相手にするんですか!?』
『うっせえ、属性的にはあたし達が有利なんだ、泣き言いってんじゃねえ! 行けるな? ソラ』
ウルは、渋るアレッタを一喝すると、ソラに問う。
「ああ」
ソラは即座にそう答えると竜域に入り、深く瞑った目を開眼する。するとその瞳の瞳孔が縦に割れ、竜の瞳となった。
そしてソラは飛空艇目掛け騎体を推進させる。直後、叢雲を狙い、無数の思念操作式飛翔刃がソラに襲い掛かった。
しかし叢雲から放たれた幾重もの剣閃が、向かってくる思念操作式飛翔刃を斬っては落とし斬っては落とす。更に叢雲は思念操作式飛翔刃の包囲から脱出すると、ソラはそのまま飛空艇の元へと飛ぶ。
「ったく、いつもあいつに頼りきりで情けねえ」
ソラが思念操作式飛翔刃の包囲から抜けた事を確認したウルは、ぼやきつつ周囲のクレイモアが操る思念操作式飛翔刃に向け、散開式刃力弓からの散弾光矢を放つ。
命中率の高い散弾は対全方位攻撃に対して有効であり、ウルは一つも撃ち漏らす事なく思念操作式飛翔刃を次々と落としていく。
すると敵の騎士は、狙いをアレッタのエスパダロペラへと集中させると、全方位から思念操作式飛翔刃を一気に襲い掛からせた。
「きゃああああ!」
アレッタが恐怖に塗れ、深く目を瞑って絶叫した次の瞬間、エスパダロペラから流星の如き無数の斬撃が奔り、周囲の思念操作式飛翔刃を一瞬で破壊する。
エスパダロペラが両手に持つ刃力剣による、舞の如き連撃。それこそがタリエラの民が得意とするスプレッツァトゥーラ流の真骨頂であるのだが……
「気安く姉さんに触れるな、腐れ汚物共」
するとアレッタは、先程までとは別人のような鋭い目付きと口調で呟いた。
そんなアレッタに、ウルが伝声する。
『ようやくお目覚めか? オズ』
「お久しぶりですね、ウル団長。とりあえずこいつらは僕が八つ裂きにしていいですか?」
アレッタに、オズヴァルドという名で呼びかけるウル。対しアレッタは、冷淡な口振りで返しながら双剣を構えた。
『ああ、だがあのクレイモアに追い付くのは至難の業だ。あたしが誘導してやるから落としてこい』
「了解しました」
次の瞬間、ウルとウルフバートの額に剣の紋章が輝いた。同時に、アレッタのエスパダロペラが推進刃から刃力放出を全開にし、一騎のクレイモアへと突貫する。
『左へ回り込め』
ウルの指示が飛ぶ、その直後クレイモアは距離を取りつつ騎体を左に旋回させ始め、アレッタのエスパダロペラがそこへと先回りした。そして、交叉した状態から振るった双剣が、クレイモアを四散させる。
『上昇して回避、そのまま突っ込め!』
続いて、ウルの指示通りアレッタが騎体を上昇させると、先程までエスパダロペラが居た場所に光矢が飛来し彼方へと消えた。刃力弓からの射撃を回避したアレッタは、再度別のクレイモアへと狙いを定め突撃を開始。
対し、後退しながらエスパダロペラと距離を取るクレイモアに、今度は光矢が襲い掛かった。ウルの散開式刃力弓による散弾光矢である。
クレイモアはそれを回避する為に騎体を急降下させる、しかしそこには既にアレッタのエスパダロペラが回り込んでいた。
双剣からの斬撃が、クレイモアの胴を断ち、爆散させた。
『足を止めての一斉射撃が来る! チャンスだ、光矢を捌きつつ間合いを殺せ!』
次の瞬間、残る七騎のクレイモアはウルの言う通り足を止め、刃力弓を構えてエスパダロペラへと一斉射撃を開始した。
しかし、ウルの指示を受けていたアレッタは、既にエスパダロペラを突撃させていた。無数の光矢を斬撃で斬り払いながら、一気に敵との距離を詰めたエスパダロペラが、動きを止めていた一騎のクレイモアの頸部と胴を切断し、爆散させる。
自分達の動きを精確に読まれ、クレイモアを操刃する〈久遠の翼〉の騎士達は戦慄する。
――何だ? 何故ここまで動きを先読みされる! あの聖衣騎士の能力なのか!? とにかく足を止めるのは危険だ、残りの思念操作式飛翔刃を射出しつつ一定の距離を取って攪乱し続ける。
〈久遠の翼〉の騎士達の予想する通り、それはウルの竜殲術〈読心〉による能力によるものだった。
ウルフバートの操刃室の中で、口の端を上げながらウルが言い放つ。
「ハッ、丸聞こえだよ馬鹿共が」
その能力は、一定の範囲内に居る対象の思考を読み取るというものであり、これによりウルは〈久遠の翼〉の騎士達の思考から動きを先読みしていたのだ。
すると、アレッタからの伝声がウルへと入る。
『残り六騎、こっちは多分このままゴリ押せます。でも飛空艇の方はあの野郎一人に任せて本当に大丈夫ですか?』
「言いたかないが、あいつなら多分何とかすんだろ、それかお前が助太刀しに行ってもいいんだぜ」
『……誰があんな奴』
不服そうに呟くアレッタに、ウルは軽く笑みを漏らした。
一方、飛空艇へと突撃したソラに、飛空艇からの一斉射撃が行われていた。船体に取り付けられた砲門から光矢の雨が降り注ぐ。それに対し、騎体を廻旋させながら左右へと弾幕を回避つつ、叢雲を前進させるソラ。
更に飛空艇から無数の追尾式炸裂弾が放たれ、薄暗い空に航跡を描きながら飛び交うそれらを、ソラは巧みな操刃技能で回避する。そして地上に到達した追尾式炸裂弾が爆裂し、砂塵を舞い上がらせた。
雲属性の宝剣である叢雲の飛翔力は元々かなり高い為、性能を半分しか引き出せないとはいえ、この程度の弾幕を回避するのは造作も無い。しかし、性能を半分しか引き出せないという事は騎体の耐久力補正も半分しか受けられず、元々耐久力の低い叢雲は現在、一撃でもまともに攻撃を受ければ騎体が半壊する程に心許ない状態であった。
それでも、竜域に入ったソラは恐怖の一切を振り払い、躊躇なく飛空艇へと突っ込んでいく。そして遂に懐に入る事に成功したソラは、叢雲の左前腕に装備された盾の先端を結界に突き刺した。
「まずは結界を剥ぐ」
更に盾付属型聖霊騎装である砕結界式穿開盾による効果で、盾の先端が左右に分かれ、結界に亀裂を走らせた。
しかし、飛空艇を包む巨大な結界は消え去る事は無く、未だ保たれている。
するとソラの叢雲に向け、再び光矢の弾幕が襲い掛かった。対し、一旦その場から離脱することによりそれらを回避しつつ、再び飛空艇の懐へと飛び込むソラ。
「一度で駄目なら、何度でも食らい付くまでだ」
ソラは、別の個所に叢雲の盾の先端を突き刺し、先端部を開放させると、更に結界に亀裂が走る。それでも未だ飛空艇を覆う巨大な結界を破壊する事は叶わない。
直後、飛空艇からの反撃。光矢の弾幕と追尾式炸裂弾の嵐が叢雲に襲いかかる。
それでもソラは斬り払いと、高速騎動により騎体を巧みに操りながら攻撃を躱し続け、尚も飛空艇へと食らい付く。
更にソラは、三度、四度と結界への攻撃を繰り返した――すると、遂に飛空艇を覆う巨大な耐実体結界が砕け散る。
と同時に、ソラの叢雲が船体に着艦し、動力部と思わしき中央部に狙いを定めると、振り上げた羽刀型刃力剣に光が灯る。刹那、叢雲が羽刀型刃力剣を振るう。
次の瞬間、一筋の閃光が巨大な船体を一刀の元に両断し、飛空艇は爆炎を噴き上げながらゆっくりと落下していく。
ーーーーそして地へと激突し、激しく爆散した。
「ハアッハアッハアッ」
飛空艇を撃墜し、任務を完遂させたソラは、立ち上る爆煙に視線を送り大破の確認をすると、竜域を解除した。
すると、ソラの叢雲へウルとアレッタから伝声が入る。
『飛空艇を撃墜させたかソラ、よくやった』
『……こっちはあと三騎だ、片付いたならさっさと手伝えソラ=レイウィング』
「その喋り方はオズヴァルドか、アレッタちゃんと交代したのか」
『気安く姉さんの名をちゃん付けで呼ぶな、言っておくが僕はお前を認めなてなんていないんだからな』
そんなやり取りの最中、ソラの叢雲の探知器に一つの反応があった。そしてソラが再び爆煙の中に視線を送ると、薄っすらと白色の球体が浮遊しているのを確認する。それは抗刃力結界を発動させている一騎のソードであった。
――飛空艇に格納されていたソード……結界で爆発を防いだのか。
やがて爆煙は晴れ、目の前のソードの姿が露わになる。そのソードは黒を基調とした鎧装甲、刃力核直結式聖霊騎装を右腰にのみ携え、四本の推進刃から放出される刃力が金色の騎装衣を翻していた。
250話まで読んでいただき本当にありがとうございます。
ブックマークしてくれた方、評価してくれた方、いつもいいねしてくれてる方、本当に本当に救われております。
誤字報告も大変助かります。これからも宜しくお願いします。