249話 飛空挺強襲
そしてソラ達は、飛空艇強襲任務に向かう為、格納庫にてそれぞれのソードへと搭乗するのだった。
背部に四枚の推進刃、兜飾りは左右に牛のような角を着け、右の腰に備えられた砲身が背部に収納されている黄土色の宝剣ウルフバートに搭乗するのは、ウルであった。
ウルフバートの動力が起動すると、四本の推進刃から放出される刃力が金色の騎装衣を形成させる。
「ウル=グランバーグ――ウルフバート、出陣するぞ!」
ウルフバートと同じ黄土色のカラーリングに、丸みの帯びた鎧装甲、兜飾りとして金色の輪を頭部に着けたソードの名はエスパダロペラ。かつて孤島国家タリエラで開発され、現在イェスディラン群島の一部で使われている量産剣に搭乗するのはアレッタ。
エスパダロペラの四本の推進刃から放出される刃力が、銀色の騎装衣を形成させる。
「アレッタ=ラパーチェ――エスパダロペラ、出陣します」
そしてソラは、かつての翼羽の愛刀、灰色の宝剣である叢雲に搭乗していた。
――出来る事をやる……か。そうだ、今俺に出来る事があるなら、それをやるだけだ。
ソラが操刃柄を通して刃力を注入すると、叢雲の動力が起動し双眸が輝いた。続いて四本の推進刃から放出される刃力が蒼い騎装衣を形成させる。
「ソラ=レイウィング――叢雲、出陣する」
そして格納庫の大きく開かれた天井から、三騎のソードがそれぞれ雲海に覆われた白い空へと飛び立つのだった。
※
それから、ソラ達は雲海の中を進みながら玄の空域を目指して飛ぶ。
するとウルが、これまでの戦闘でボロボロになった叢雲に視線を送りながら不意にソラへと伝声器越しに話しかけた。
『しっかしお前、今までも散々言ってきたけどよ、いい加減その宝剣乗り換えた方がいいんじゃねえのか?』
「…………」
叢雲の属性は雲、ソラの守護聖霊は光であることから属性相性的に、ソラでは叢雲の性能を半分しか引き出すことは出来ない。そんな状態で今まで戦い抜いて来たことは褒められるが、その無茶が祟って既に騎体がボロボロであるとウルが苦言を呈する。
そんなソラに対するウルの小言に、割って入るアレッタ。
『ちょ、ちょっとウル団長、その騎体はソラさんの大切な人から託された形見なんですよ、そんな無神経な事を言ったら駄目ですよお』
『だからってよ、相性の悪いソードを使い続けて犬死したら、その大切な人ってのも浮かばれねえんじゃねえのか?』
それを聞き、ソラは一拍空けて答える。叢雲は別に自分に託された騎体という訳ではない。だが〈寄集の隻翼〉には叢雲を使いこなせる騎士がいなかったため自分が貰い受けただけであると。
『そいつは初耳だったな』
「翼羽団長の残したものを無駄にしたくない、これは俺のただの意地だ……分かってるよ、それが馬鹿げてる事なんて。でも俺は犬死するつもりなんてない」
『ちっ、まあ確かにお前はこれまでも戦果を残し貢献して来た。仕事をきっちりこなしてくれるんなら好きにすりゃいいけどよ』
苦言を呈していたウルであったが、ソラの意思の固さに半ば諦めたように返すのだった。
その後、ソラ達は雲海を抜け、大陸の南側の空を大きく迂回しながら目的地へと飛ぶ。
それから二時間後。昼であるにも関わらず、空が夜であるかのように薄暗くなっていき、やがてソラ達は玄の空域へと到達した。
そして辿り着いたのは、ぼろぼろに崩れかけた建物が並ぶ人の気配の無い町……否、町であったものだった。
それは、かつてオルスティア統一戦役の中で、イェスディラン王国との激闘の末滅び、一度怨気に呑まれた町の跡である。
――これが玄の空域か。
町だけでなく、空域全体から静けさと不気味さが漂うある種異質な空間に、ソラは無意識に緊張を走らせた。
『情報だと、飛空艇は間もなくここを通過する。一応言っておくがあたしらは戦闘継続可能時間が限られてる。本拠地への帰陣を考慮すれば活動可能なのは恐らくあと三十分。目的を果たしたらすぐに玄の空域を離脱するぞ』
雲海の中とはいえ、皓の空域という敵の懐に本拠地を持つ〈亡国の咆哮〉の性質上、ソラ達三騎のソードは常に抗探知結界を装備している。敵からの探知を逃れる為、そして奇襲、強襲戦法を主としているからだ。
しかし、抗探知結界を装備していれば敵の探知器による探知を著しく阻害出来るという大きなメリットがある反面、装備しているだけで大きく刃力を消耗し、活動時間が極端に制限されるというデメリットがある。更には防御系の結界を装備出来なくなる事から、防御面においても大きく後れを取る事になる。
とはいえ、肉眼による捕捉がし辛い闇。その中でこそ真価を発揮する抗探知結界を装備しているソラ達にとって、この玄の空域は明確なアドバンテージがあると言える。
『ウル団長、ソラさん、来ました!』
すると、アレッタが自身の探知器により大きな一つの反応を探知し、ウルとソラに注意を促した。
『よしお前ら、戦闘態勢を取れ!』
ウルが戦闘態勢を取る事を合図した次の瞬間、突如闇の中から空を飛ぶ一隻の巨大な船が出現した。
「……これがエリギウス帝国の飛空艇」
『お、大きすぎますよ』
ソラ達が見上げた夜天、それを全て覆い尽くすかのように一隻の飛空艇は悠然と突き進む。そして撃墜対象の想定以上の巨大さに怯むアレッタ。
『びびってんじゃねえアレッタ、どんなにでかぶつだろうが動力を破壊すればそれで終いだ。一気に落とすぞ!』
『はい!』
ウルに指示され、アレッタはエスパダロペラの右腰部に接続され背部に収納されていた砲身を展開し、上空へと向けた。同時にウルも同様にウルフバートの右腰部に接続された砲身を展開し上空へと向ける。
するとそれぞれの砲身に紅蓮の炎が収束されていき、巨大な玉となると、アレッタのエスパダロペラとウルのウルフバートがその巨大な炎の玉を上空へと発射した。そして炎の玉は飛空艇の高度を越えて更に上空へと打ち上がると、空中で弾け無数の炎の玉となって降り注いだ。
それは二人の騎体が装備している刃力核直結式聖霊騎装。爆裂の特性を持つ炎と、分裂の特性を持つ土の聖霊の意思を組み合わせ、収束させた炎を空中で炸裂させる事により、炎の弾丸として降り注がせて広範囲を攻撃する、分裂降射式爆炎砲であった。
その攻撃により、飛空艇に炎の雨が降り注ぎ、次々と炸裂する。
『なにっ!』
しかし飛空艇が撃墜される事は無かった。飛空艇は船体を覆う白色の巨大な光に包まれ、無傷を保っている。
『抗刃力結界……船のくせに装備してやがったのか、なら!』
続いてウルは、ウルフバートの両肩部を開放させ、追尾式炸裂弾を発射させた。射出された炸裂弾が闇に航跡を描きつつ――飛空艇へと直撃、爆炎と爆煙が巻き起こる。
『ちっ!』
だが、実体攻撃である追尾式炸裂弾を受けても飛空艇は無傷であった。一方飛空艇は、今度は黄色の巨大な光に包まれている。それは耐実体結界が展開している事を意味していた。
ウルが奇襲の失敗に歯噛みしながら分析する。
『くそ、結界を二種類装備してやがんのか!』
直後、強襲に応戦すべく飛空艇の甲板が開放され、内部から動力を起動させたソードが、銀色の騎装衣を翻しながら現れた。
灰色のカラーリングを基調とした鋭い刃のような鎧装甲を纏い、兜飾りはエリギウス大陸産のソードの特徴である短剣の刀身を額に着け、そして背部には大剣の刀身の形状をした推進翼が四本。エリギウス大陸天藍の空域にて開発された新型量産剣、クレイモアである。
その数はおよそ十騎。この危機的状況に、狼狽えながらアレッタが提言する。
『奇襲が失敗、しかも新型量産剣が起動するなんて……向こうには全部で三十騎のクレイモアがいるんですよ、これ以上は無謀です。撤退しましょうよウル団長』
『……ムカつくが仕方ねえか』
ウルはこの状況に、渋々撤退を受け入れる事を示唆した。するとソラが言う。
「いや、この状況は好機だと思う」
『あ?』
「あれだけ巨大な船だ、動かすには複数の騎士の刃力が必要な筈。とは言えソードの移送にそれ程膨大な人員を割けるとは思えない。最大でもせいぜい格納されているソードの数と同じ三十人として、あの規模の船を動かすのに二十人の騎士の刃力が必要だと考えれば、今起動しているクレイモアが起動させられる限界数」
ソラの分析に、アレッタが感心したように呟いた。
『ほええ、いつもながら冷静ですねソラさんは、ウル団長より団長みたいですよ』
『一々うっせえぞアレッタ!』
「……つまりあの十騎のクレイモアを撃墜させれば、恐らく敵の飛空艇は詰みだ」
絶望的かと思われたこの戦況に、ソラが光を見出した次の瞬間、十騎のクレイモアがソラ達の周囲を高速で飛び交い始めた。その速度は、従来の量産剣カットラスを優に凌駕する。
『速えっ!』
光を見出したとはいえ、戦力差は圧倒的。不利な状況には変わりない。しかし、ソラは叢雲の左腰の鞘から羽刀型刃力剣を抜かせると一気に騎体を飛翔させた。
そしてソラは一人、叢雲に乗り続けることに対する自分の見解をウルとアレッタに告げた時のことを思い返す。
《これは俺のただの意地だ……分かってるよ、それが馬鹿げてる事なんて》
――そうだ、馬鹿げてる、解ってる。でも……この騎体は不思議と力をくれる。この騎体を操刃していると、まるで翼羽団長と一緒に戦っているように思えるんだ。
「だから戦い抜く、あの人のように」
更に、ソラは高速で旋回する一騎のクレイモアに狙いを定めると、擦れ違い様羽刀型刃力剣を袈裟掛けに奔らせた。その一撃はクレイモアの胴体を瞬時に両断し――激しく爆散させた。
「あと九騎」
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