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247話 葛藤と、後悔と……

 場面は(しろ)の空域にある雲海の孤島、〈亡国の咆哮〉本拠地城塞。


 ソラは作戦室にて、ウルにオルム=ベルセリオスの暗殺任務完了の報告をしていた。


「これで秘密裏に進められていた竜魔騎兵計画は阻止出来た、ご苦労だったなソラ」


 珍しくソラを労うような言葉をかけるウルだったが、ソラはどこか浮かない表情で何も返す事はしなかった。


「しっかし、魔獣の細胞を利用して竜魔騎兵を造ろうとするとはな、さすがに安定した聖衣騎士の覚醒に到達出来るとは思えねえが、危険因子は早めに排除しておくに越した事はねえ」


 するとウルの言葉を聞き、ソラがふと疑問を投げかける。


「なら、ウィンさ――ウィン=クレインやスクアーロ=オルドリーニはどうやって竜魔騎兵を完成させたんだ? 覚醒騎士や幻獣、魔獣の細胞で上手くいかないんなら、それこそ本物の竜の細胞が必要になる筈だ」


「さあな、竜の生き残りでもどこかに居たんじゃねえのか」


「…………」


「ウル団長はいつも適当だなあ」


「うるっせえ」


 アレッタが呆れたように呟き、ウルがそれに噛み付いた。二人のいつものやり取りだ。


「ところでよ、剣闘祭にアークトゥルスの野郎が観覧に来ていた筈だったが、そっちの方はどうだった?」


「アークトゥルスの正体はあの竜殲りゅうせんの七騎士アーサー=グラストンベリーだ。しかも敵の護衛は複数いたし、何よりもあのレオ=アークライトも居た。あの場での暗殺はどう足掻いても不可能だったと思う……例え命を賭したとしても」


「そうか……まあいい、本来の目的は達成してるからな」


 ソラは、アークトゥルスとレオの姿を思い返しながら忌憚の無い意見を述べ、それを聞いたウルが自分を納得させると、別の話題を切り出した。


「それよりどうだった? 久しぶりの養成所生活はよ?」


「……別に何も」


 素っ気無く返すソラにウルは不服そうに舌打ちをしてみせる。するとソラはゆっくりとウルに背を向けた。


「ウルさん、話は終わりか? なら俺は部屋に戻るよ、少し疲れた」


「二年間も言い続けてるけどよ、いい加減あたしの事ウル団長って呼べって言ってんだろ」


「ウルさんの事は尊敬してるし感謝もしてる……でも俺にとっての団長は今も昔も一人だけだ」


 ソラはそう言い残すと、作戦室から出て行った。





「ちっ、まるで飼い主を慕い続ける忠犬だな」


「ウル団長、そんな言い方はだめですよお、そんなんだからソラさんといつも喧嘩になるんですよ」


 するとアレッタは、ソラを皮肉るウルに対し憂いるように呟く。


「それにしてもソラさん、いつにも増して元気無かったですね」


「暗殺任務の後は、いつもああだろ。基本甘っちょろいんだよあいつは」


 言いながら、ウルは後頭部を掻きつつ嘆息すると、続けた。


「――とは言え、あいつが居たからエリギウス帝国の戦力再構築を阻めているのは事実だ。実際大したもんだよあいつは」


「……ウル団長、ちゃんとソラさんの事を認めてるんですね」


「るせえ」


 アレッタの指摘に、ウルは照れ臭そうに顔を赤くして返すのだった。


「ま、でも今回の件でエリギウス帝国側は更に警戒を強め、騎士師団長候補でない聖衣騎士の元にも警護と罠を張り巡らせて来る筈。これ以上聖衣騎士を暗殺するのはさすがに不可能だろうな」


「そう……ですね」


「だが〈因果の鮮血〉は戦力の再構築が完了し、間もなく始動する。それまでにあたし達はあたし達に出来る事をするだけだ」


「はい」



 一方、ソラは自室のベッドに仰向けになり、一人天井を見つめていた。そして、一人の少女に肩入れし、感情移入してしまった事を激しく後悔した。


 しかしそうしてしまった理由は明白だった。大きな目的を持ちながら銀衣騎士に覚醒出来ず、蒼衣騎士として足掻き続けるフテラを、自分と重ねてしまったのだ。


 そして〈亡国の咆哮〉に入団してから与えられた聖衣騎士暗殺任務において二人目の標的、一年半前に対峙したオニキス=アルキュオネとのやり取りを思い浮かべる。




※      ※      ※     



 一騎討ちに敗れ、折れた剣を握りながら片膝を付くオニキス。


「……すまないフテラ」


 しかし、オニキスを倒す事に成功したソラは、死を受け入れ誰かに謝罪するオニキスを見ながら、剣を腰の鞘に納めた。


「どういうつもりだ? 何故俺を殺さない?」


 明らかに決した勝敗、突如現れた暗殺者が生殺与奪の権利を握りながらも退こうとする。そんな不可解な行動に、オニキスは混乱気味に尋ねた。


「あんたの事を少しだけ調べた」


 ソラは少しだけ間を空け、そう答えた。


「何だと?」


「あんたは、このエリギウスを変えたいという想いで必死に戦っていると知った。自分が領主となる事で少しでも多くの民を救いたいと騎士師団長を目指している事も」


「…………」


「もしかしたらそれはただの建前に過ぎない可能性もあった、でもあんたと剣を交えてそうじゃないって分かった。そして死を覚悟して尚自分以外の誰かを想うあんたは、俺達と何も変わらないんだって気付いた」


 自分を戒めるように、拳を軋む程に強く握り締めて続けるソラ。


「エリギウスは倒さなきゃならない、その為にはあんたを斬らなきゃならない。解ってる筈なのに……純粋に誰かを守る為に戦うあんたを斬ったら、きっともう引き返せない……そう思うから」


「……お前」



 そしてソラはその場を立ち去り、三人目の聖衣騎士暗殺任務を遂行する事はしなかった。


 ――分かってるよ、これはただの詭弁だって。戦場で出会えば斬るしかないし、今までだって何も考えずそうしてきた。でも、俺は俺の意思に従う、誰にも縛られず自由に……あの人のように。



※      ※      ※     




 ――俺は結局、オニキスを暗殺する事が出来なかった。なのに、オニキスはその後別の何者かに暗殺された。フテラちゃんは竜の()を持つ騎士と言っていた。いるのか? 翼羽団長や俺以外にもラドウィードの騎士が。



《忘れるなソラ=レイウィング、お前だけは私が必ず討つ!》



 すると、ふとフテラの姿と声が脳裏を過った。そして憎悪……否、それ以上に哀しみに満ち満ちたその瞳が焼き付いて離れない。


 ――何で否定しなかった? 何で真実を言わなかった? 彼女の生きる為の糧になればそれでいいと思ったから? 騎士師団長候補の聖衣騎士を散々暗殺してきた俺がそれを否定するのはおこがましいと思ったから?


 ソラは苦悩と共に、結論の出ない自問自答を繰り返した。


 フテラがオニキスの娘だということはすぐに分かった。しかし互いに情が移ればいずれ必ず彼女の心に影を落とす。そう解っていたのに、自分と同じ苦しみを持つ彼女を放っておく事が出来なかった。それは自己満足で、独りよがりで、あの日の自分を救いたいだけの偽善だったのだとソラは振り返る。


 ソラは、フテラが自分を友と思ってくれる程に心に近付いてしまった事、そしてオニキスを暗殺したのが自分では無い事を打ち明けなかった事を後悔し、自責の念に苛まれた。

247話まで読んでいただき本当にありがとうございます。


ブックマークしてくれた方、評価してくれた方、いつもいいねしてくれてる方、本当に本当に救われております。


誤字報告も大変助かります。これからも宜しくお願いします。

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