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231話 竜の瞳の騎士

これより第二部開始となります。どうぞ宜しくお願いいたします。

 そこは、闇に呑まれるかのように暗く、深く、ただただ静かな夜だった。


 そんな闇夜に浮かぶ雲が風に流れると、重なり合あった二つの月、その煌々とした輝きがとある一人の男を照らしていた。


 燃え盛るような赤い髪に金色の瞳の鋭い眼を持つ壮年の男性は、林の中の大岩に座りながら独り、肌寒い夜風に当たり天を見上げていた。


 エリギウス帝国陣営から成る連合騎士師団と、レファノス王国・メルグレイン王国連合騎士団〈因果の鮮血〉陣営との決戦、〈煉空(れんくう)の粛清〉から二年の月日が経過した。


煉空(れんくう)の粛清〉と、それまでの戦いも含め、帝国直属十二騎士師団の内五つの騎士師団が壊滅し、組織の再構築を余儀なくされたエリギウス帝国陣営であったが、とある事情から補完された騎士師団は未だ一つだけであり、現在活動可能であるのは八つであった。


 しかし聖衣騎士として覚醒し、前線で活躍を見せて来た騎士、レプス=オースティンが、この日新たに第九騎士師団長に就任を果たしたのだった。


「くくっ、ようやくここまで来た。これで全てが手に入る。富も名声も地位も民も……誰にも渡さん、(あか)の空域は俺の物だ」


 レプスは、騎士師団長になるという本懐を遂げ、この先の自分の野望を見据えながら不敵に笑んだ。


 その時だった。レプスは自身に迫る脅威を感じ取り、背筋を凍らせた。そして腰の鞘から剣を抜き、振り返る。


 光を降り注がせる満月には、それを背景にして木の枝に立つ一人の人物の影が浮かんでいた。月の光に照らされ影となったその人物の顔は見えないが、その手に持つ剣の紫電の刃と、金色の光を帯びる竜の瞳だけが妖しく輝いていた。


「竜の()の騎士、やはり俺の元にも来たか」


「…………」


「ここ一年で三名の騎士師団長候補が何物かに暗殺されたと聞いたが、お前の仕業で間違いないな?」


 次の瞬間、レプスの額に剣の紋章が淡く輝く。


「随分と好き放題やってくれたようだが……この俺に挑んだ事が貴様の運の尽きだ」


 レプスはその手に持つ剣を振り上げ、突如現れた目の前の敵に斬り掛かる。


「ここで死に腐れ!」


 そして月下の闇、激突した二つの刃が満月の光よりも眩い火花を散らした。





 エリギウス大陸、天藍(てんらん)の空域、帝都ディオローン。


 その皇城、玉座の間の扉の前にて、二人の若き守衛騎士が談話に勤しんでいた。


 玉座の間の守護という最重要任務。しかしこの帝都の皇城、それも玉座の間にまでやってこれる敵など存在し得る筈が無い。守衛騎士達にとって、玉座の間の扉の守護というのは、緊迫感の無い形だけの業務に過ぎなかった。


「なあ、あの話知ってるか?」


「あの話って?」


「先月、新たに任命を受けた第九騎士師団長がその日の内に暗殺されたって話」


「え、ま、マジか?」


「混乱を防ぐ為に内密にされていた情報らしいんだけど、先日上層部の知り合いから得たんだ」


「……その話が本当なら、これでこの二年の間で暗殺された聖衣騎士は四人じゃねえか」


「ああ、そのせいで帝国直属騎士師団の再構築は上手くいってない、二年かけて補完された騎士師団はたった一つだしな」


「……やっぱりこれって〈因果の鮮血〉の仕業なのかな?」


「それか……もしかしたら〈亡国の咆哮〉の仕業なのかもしれないけどな」


 次の瞬間、目の前に現れた人物を見て、二人の若き守衛騎士は表情を固まらせた。


「おい貴様ら、何を無駄話に勤しんでいる?」


 厳粛な雰囲気を醸し出す、肩にかかる銀色の髪と金色の眼を持つ老齢な男性の、怒りを含ませたような低いトーンに、二人の若き守衛騎士は背筋を正す。


「れ、レナード様!」


 その人物の名はレナード=ランドルフ。エリギウス帝国、宰相兼参謀長。帝国の政治や武力構築を一手に担う中核的人物であった。


「ふん、この扉を守るというのは、陛下の命を守るという事に直結する。その重要な任を担っているという自覚無くしては、この帝国を守る騎士たる資格を持つに値しないという事を肝に銘じておくのだな」


「も、申し訳ありませんでしたレナード様!」


 レナードの苦言を受けた二人の若き守衛騎士は冷汗を滲ませながら、真っ直ぐ前に向き直り、直立不動で扉の守護に励む。


 するとレナードは、玉座の間に背を向けて大きく溜め息を吐くと、一人この国の行く末を案ずるのだった。


 ――この二年間で〈亡国の咆哮〉は既に壊滅間近まで追い込む事が出来た。しかし帝国は〈亡国の咆哮〉との戦いに追われ戦力の再構築をかなり阻まれた。そしてその間、逆に〈因果の鮮血〉が戦力の再構築をかなり進めてしまっているのは明らかだ。


 二年前、エリギウス帝国陣営は、シェール=ガルティ主導の元結成された連合騎士師団による進撃で、〈因果の鮮血〉を壊滅寸前にまで追い込んだ。しかしその戦いにより第三騎士師団と第五騎士師団を失った。


 更にはかねてより細々と活動を行っていた反乱軍連合騎士団〈亡国の咆哮〉が活動を活発化させ、エリギウス帝国はその制圧に追われて戦力の再構築に後れを来し、反対に〈因果の鮮血〉はかつての勢力を取り戻しつつあった。


 ――帝国の未来を担う聖衣騎士が悉く暗殺された。今回暗殺されたレプスは護衛を頑なに拒否して受け入れず、独りになった所を狙われた。やったのは恐らく“竜の()の騎士”……ラドウィードの騎士だろう。


 レナードは、静かに拳を強く握り締める。


 ――エリギウス帝国陣営と〈因果の鮮血〉陣営の戦力は近付きつつある。このままでは奴らの思う壷だ。しかし陛下は頑なに相互不介入条約を破棄せず保ち続ける……まるで戦いを長引かせる事が目的であるかのように……まるであえて戦力の均衡を保とうとするかのように。


 するとレナードは、ふと天を仰ぎながら、金髪金眼の幼い少年の笑顔を思い浮かべた。


「アークトゥルス陛下……幼い頃からあなたに剣を教え、ずっとあなたのお傍に居た私でも、今のあなたが何を考えているのか分かりかねます」


 そして、遠い目をしながらぽつりと呟き、帝国の未来を憂いるのだった。

231話まで読んでいただき本当にありがとうございます。もし作品を少しでも気に入ってもらえたり続きを読みたいと思ってもらえたら


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どうぞ宜しくお願い致します。

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