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225話 一番弟子

「団長、聞こえてるか? 翼羽団長!」


 鎧胸部の開いた操刃室に力無く佇む翼羽に、ソラは叫ぶ。


「大……丈夫……私は……大丈夫……だから」


 対し、か細く弱々しい声で、応える翼羽。



 ――嘘だろ? 翼羽団長が、こんなに追い込まれるなんて。


 次の瞬間、自分でも今まで感じた事が無い程の憤怒と憎悪の感情が沸き上がり、シェールへと伝声する。


「てめえ、よくも俺達の団長を!」


 そんなソラに対し、嘲笑うかのように返すシェール。


『あはは、怒ってるんだね、大切な人が傷つけられて、ボロボロにされて凄く怒ってるの解るよ? 僕の事殺したい程憎いんだよね? 許せないんだよね? でもね、そんな感情で強くなれるんなら誰も苦労はしないよ。理不尽に虐げられる、大切な人を奪われる、そんな世の中の大多数が力に覚醒する強者だらけだ。そんなものはさあ、創作物の中だけのお(とぎ)話なんだよ』


「……黙れよ糞野郎!」


 憤慨と共に刃力剣(クスィフ・ブレイド)を構え、カレトヴルッフをアパラージタへと突撃させるソラ。


 そして渾身の真向斬りを放つ。しかしシェールのアパラージタは裂爪式斬竜剣(トリヴィクラマセーナ)の刀身を五本にし、実体攻撃耐性を最大にした状態になると、防御もせず額でソラの斬撃を受け止めて見せた。


 ――刀身が五本、なら!


 直後、ソラは左前腕部の盾の内側から刃力弓(クスィフ・ドライヴアロー)を射出させ左手で受け取らせると、至近距離からアパラージタの頭部に向けて光矢を連射した。


 しかし、シェールはアパラージタの首を振らせて光矢を躱す。対し、ソラは刃力弓(クスィフ・ドライヴアロー)を腹部に向け、再度引き金を引こうとする。


「ぐあああああっ!」


 瞬間凄まじい衝撃に、カレトヴルッフは吹き飛ばされた。アパラージタの捕縛式圧殺牙(ディバウワートゥース)による殴打を顔面に受けたからだ。


 ソラのカレトヴルッフはアパラージタと一旦距離を取り、今度は右腰部に接続された炎装式刃力砲(クスィフ・ブレイズカノン)の砲身を展開させ、炎を纏った光の奔流を放つ。その砲撃はアパラージタに直撃する……しかし、裂爪式斬竜剣(トリヴィクラマセーナ)の刀身は刃力攻撃耐性が最大となる一本となっており、その一撃は無傷に終わる。


 だが、ソラのカレトヴルッフからの更なる追撃、今度は左腰部に接続された雷電螺旋加速式投射砲(ヤサカニノマガタマ)を展開し、電磁加速され高速回転する超速の砲弾を放つ。


 すると、アパラージタから斬撃一閃。砲弾が真っ二つにされ、アパラージタの左右へと分かれ彼方へと飛んでいく。


 その脅威の反応速度と剣技に絶句するソラ。


 ――雷電螺旋加速式投射砲(ヤサカニノマガタマ)の砲弾を……き、斬りやがった!


 アパラージタの性能だけでは決してなく、騎士としての実力も並外れた力を持つシェール。ソラは記録映像を見ながら何度も何度も戦いを想定し、頭の中で戦い合った。しかし、想像の中ですらソラはシェールのアパラージタを遂には一度も倒せなかった事を思い出した。


「うわあああああっ!」


 忘れていた筈の不安と恐怖が、再び沸き上がり、ソラはそれを振り払うかのように、アパラージタへと一直線に突撃し、斬り掛かった。


 しかし、シェールは無造作なその一撃に対し、それよりも速く、反撃の真向斬りを繰り出す。


「くっ!」


 攻撃の意思とは裏腹に、ソラは無意識に斬撃を途中で止め、受け太刀の姿勢を取った。


 瞬間、稲妻のような轟音と、雲を払う程の衝撃が巻き起こり、ソラは吹き飛ばされて、ツァリス島の地――大桜付近へと激突した。


「ガハッ……ハッ……ハアッハッ……カハッ!」


 吐血しながらその衝撃に悶え、痛みで止まりそうな呼吸を無理矢理整えるソラ。


 だが何もかも通じず、絶望的な実力差を目の当たりにし、ソラは茫然とする事しか出来ない。そんなソラにシェールからの伝声。


『君、確かラナちゃんを討ち取った騎士だよね? 蒼衣騎士だから君も翼羽みたいにラドウィードの騎士なのかって期待したけど、全然駄目だよ君は。ヨクハの足元にも及ばない、(くそ)に湧く蛆虫以下の存在だよ。いやもう存在する意味すら無いよ、何で君生まれてきちゃったの? ねえ何で君まだ息してるの?』


 ソラは血が滲み出る程に両手を握り締めた。そんな揶揄を受けても、何も言い返せない、実力差を覆す事が出来ない自分がただただ悔しかったからだ。

 

 すると、シェールは翼羽の叢雲と、ソラのカレトヴルッフが並ぶように倒れているのを見て、思い付く。


「おっ、ちょうどいいじゃん、一分くらい待ってあげるからさ、翼羽からアドバイスでも受けてみなよ」


 既に勝敗が決している事を確信しているシェールにとって、それは侮りですらなかった。ただ、自分にとっての愉悦の時間を長くしたい、それだけの事だったのだ。



「……ソラ」


 翼羽がソラの名を力無く呼んだ。


 それを聞き、ソラは俯きながら返す。


「ごめん団長……俺には団長を守る事も、この場所を守る事も出来そうにない」


 そして無力感に涙を零しながら、声を震わせた。そんなソラに、翼羽は優しい笑顔を向ける。


「馬鹿……だね君は」


「……団長」


「君が……竜域に入れ……ない……理由が……今ようやく……わかったよ」


「え?」


「君はいつも……そうやって……誰かの為に戦ってる……今まではずっと……エルの為に……今は………私や……騎士団の皆と……そして……この場所を守る為に……」


「…………」


「竜域は……完全なる……無の極致……他人を想う……心は……竜域へ入る……事を……無意識に阻害してる……だから……今だけは……己の為に戦っていいんだよ」


 翼羽の言葉を刻み込むように、ソラは黙って聞き入った。


「結局はその先に……『誰かの為』……が繋がっててもいい……それでも……今この瞬間……だけは……自分の為に戦え!」


「自分の……為に」


「君は今……どうしたい?」


 その問いに、ソラは顔を上げてはっきりと言い放つ。


「俺は、あの史上最高にムカつく奴を泣かしたい!」


 それを聞き、思わず笑いを漏らす翼羽。


「あはは……君……らしいね……でもそれでいい……君ならきっと……出来る筈だから……」


 そして翼羽は、息を大きく吸い込み、力を振り絞るように言い放つ。


「だから行け、私の一番弟子(・・・・)


 その言葉だけがただ色濃く、時が伸長したかのようにゆっくりと、そしてソラの心の深奥に刻み込まれた。


 ソラは込み上げてくる何かを感じ、必死に目を伏せた。


 ――ああ、何だろう……やっぱりすげえよ団長は。団長の言葉はいつも力をくれる。あんなやばい奴が相手なのに団長が後ろに居てくれる、それだけで何だか負ける気がしない――どんな奴とでも戦える気がする。


 ソラは、カレトヴルッフを立ち上がらせ、再び刃力剣(クスィフ・ブレイド)を構えさせた。


「だから……お前を倒す!」


 直後、ソラの瞳の瞳孔が縦に割れ、竜の瞳となる。それはソラが竜域へと至った事の証であった。


 そしてカレトヴルッフの推進刃が咆哮を上げ、凄まじい速度で騎体を推進させつつ左右への急転回を繰り返しながら突撃、アパラージタの間合いへと入ると、刃力剣(クスィフ・ブレイド)を大上段に構え……一気に振り下ろす。

225話まで読んでいただき本当にありがとうございます。もし作品を少しでも気に入ってもらえたり続きを読みたいと思ってもらえたら


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どうぞ宜しくお願い致します。


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