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224話 運命の分岐点

※      ※      ※    


 翡翠の空域。時間は、ソラとウィンが王城強襲部隊を撃退した後の会話場面へと遡る。


『ツァリス島ではヨクハさんが一人で〈裂砂の爪〉と戦っているんでしょう? 本当に大丈夫なんでしょうか?』


「ああ、それなら大丈夫ですよ。団長なら多分、最終的にはどうにかしちゃうでしょ。いつもそうだったし」


『そう……ですか』


 すると直後、そのやり取りを聞いていた伝令員のパルナが割って入る。


『それは違うよ!』


「え?」


 突然のパルナの叫びに、驚いた様子のソラ。そんなソラにパルナは必死な様子で続けた。


『あの人はあんたが考えている程強くない、あの人はいつも自分を鼓舞して、周りを奮い立たせて、自分が誰よりも強い騎士であろうと必死に足掻いているだけのただの一人の人間なんだよ……私達と何も変わらないただの!』


 そして、涙混じりの声で、パルナはソラに懇願する。


『お願い……ツァリス島に戻ってソラ。翼羽団長を助けられるのはきっと……あんたしかいない』


 それを聞きソラは、翼羽が己の過去を話し、想いを吐露しながら涙を流している場面を思い浮かべた。



《本当は私は、零とずっと一緒に生きていたかった。零と一緒に笑って、一緒に歳を取って、一緒にずっと……》



「ルキゥール陛下、ウィンさん、カナフさんごめん」


 直後、ソラは何かを決意したように、ルキゥール、ウィン、カナフに向けて伝声を送る。


「……俺、ツァリス島に戻るよ」


 レファノスの、この窮地とも言える状況下において、ソラのそれは苦渋の決断であった。


「間に合うかは分からない、俺なんかが行ったからって何も変わらないかもしれない、この選択が間違ってるのかもしれない、でも……行きたいんだ」


 すると、そんなソラに対し、三人からそれぞれ伝声が入る。


『ふん、このレファノスは……〈因果の鮮血〉はお前に心配される程やわじゃねえ――だから(あね)さんの事を頼むぞソラ!』


『あなたはあなたの心のままに進めばいい、それが聖霊神様の思し召しというやつですよ』


『私情に流され作戦を放棄するな……と言いたいところだが、俺からも頼む――翼羽団長を助けてやってくれ』


「……ありがとう」


 ソラは、三人が自分に託してくれた事に謝意を示すと、この戦場を離脱し、真っ直ぐツァリス島へ向けて翔ぶのだった。





 それから数十分、ソラはカレトヴルッフの推進刃から放出される刃力を爆裂させ、耐久限界ぎりぎりまで加速させると、翡翠の空域を飛翔し続ける。


 そしてようやく橄欖(かんらん)の空域へと至る。しかし、目標のツァリス島まではまだ一時間以上はかかるといったところであった。


 その時だった。


「なっ!」


 ソラは、目の前に突如現れたとある存在に気付き、カレトヴルッフを急制動させる。


 そこに居たのは、蒼く神々しい姿のとある一騎のソード、神剣ティルヴィングであった。


「まさか……あ、あれは神剣ティルヴィング!」


 突然の神剣の出現に、驚愕しながら最悪の事態を想定するソラ。ここで第二騎士師団まで介入するとあっては、さすがに勝ちの目は無い。


 それでも、ソラは翼羽の元に駆け付ける為、ティルヴィングとの戦闘も視野に入れ、カレトヴルッフに刃力剣(クスィフ・ブレイド)を抜かせようとする。


「やるしか……ないのか」


 すると次の瞬間、ティルヴィングを操刃するエリィからソラへ伝映と伝声が入る。かつて入団を渇望していた第二騎士師団〈凍餓(とうが)(つの)〉。そしてその師団長であるエリィ=フレイヴァルツ。その姿を目にしたのは、実際には初めてであった。


『シェールと戦う為に本拠地に戻るつもり? でも、今から行っても残念ながら間に合わないわね』


 すると、ソラの目的を見透かすかのように、そうエリィは告げた。


「うるさい! それでも俺はいかなくちゃならないんだ、そこをどけ!」


『大切な者の為に全力で空を翔ける、あなた達はよく似ている』


「あなた達?」


 エリィの意味深な言葉に、不審がるソラ。そんなソラに、エリィは続ける。


『知ってるわよ、あなたはツァリス島に行かなくちゃならない、だから私が来た』


「どういう意味だよ?」


『私は今は・・あなたの敵じゃない、信じてほしい』


 尚も続くエリィの真意の読み取れない言葉に、ソラは動揺を隠せなかった。


『あなたはあの日、雲の大聖霊石を持ってエリギウスから逃亡した。そして追い詰められ竜卵(りゅうらん)の中へと飛び込んだ。その時、竜卵の中に門を作り、橄欖(かんらん)の空域へと飛ばしたのは私」


「なっ、何を言って!」


『詳しくは言えない、でもあなたを助けたのは私なのは本当よ。そして今もあなたを助けようとしている』


「そんな事……すんなり信じろっていうのかよ?」


『罠だと思うのは当然ね、でも大切なものを守れる可能性がそれだけだとしたら、それに賭ける以外の選択肢はない筈よ』


 次の瞬間、ティルヴィングの額に剣の紋章が出現すると、カレトヴルッフの前に黒い空間の歪が出現した。その向こうに、器能を停止させ、満身創痍状態の叢雲と、空に浮遊しているアパラージタの姿を確認するソラ。


「団長!」


『一緒に行ってあげる事は出来ない、でもあなたならやれる……そう信じてる』


「あんたは……一体?」


 直後ソラは、沸き上がった疑問を振り払い、躊躇いも無く黒い空間の歪へと飛び込んだ。



 やがて黒い空間の歪は消失し、エリィはカレトヴルッフの消えた虚空を見つめていた。


「さあ、運命はどちらに転ぶのだろう」


※      ※      ※      

224話まで読んでいただき本当にありがとうございます。


ブックマークしてくれた方、評価してくれた方、いつもいいねしてくれてる方、本当に本当に救われております。


誤字報告も大変助かります。これからも宜しくお願いします。

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