221話 窮地に次ぐ窮地
それぞれの空での激闘は尚も続く。
黝簾の空域。
風の大聖霊獣フェンリルとして真の姿を現したシバと、ヴァーサとの戦いは苛烈を極めていた。
空域に無数の竜巻とカマイタチを発生させるシバの前には、刃力剣を逆手に構えてそれらを躱し続けるヴァーサのイェクルスナウトと、その周囲には数多のスクラマサクスが結界を連結させて風による広範囲攻撃を凌ぎながら刃力弓を構えていた。
そしてシバは全身に無数の傷が刻まれ、激しく流血している。
「ハアッハアッハアッ」
シバの攻撃により〈風導の鬣〉も打撃を被ったとはいえ、ヴァーサのイェクルスナウトを中心にした連携攻撃により、次第に追い詰められるシバ。
「いい加減僕に屈服しろシバ」
「……黙れ」
シバは全身の毛を逆立たせ、攻撃態勢を取り続ける。対し、ヴァーサもまた〈空駆〉により己を加速させる為、円状の光陣を出現させ、突撃態勢を取る。
「くっ……これ以上は!」
一方デゼルは竜殲術〈守盾〉を駆使し、味方騎への狙撃を凌ぎ続けていた。
しかし、ウェルズのラーグルフから放たれる四つの狙撃式刃力弓を駆使した連続狙撃と、〈操雷の髭〉部隊の狙撃騎士からの一斉狙撃は、デゼルの援護防御能力の限界を優に超えていた。
デゼルが同時に出現させられる光の盾の枚数には当然限界があり、それ以上の味方騎は守る事が出来ない。そして次第に刃力も枯渇し始め、〈因果の鮮血〉の味方騎は次々と撃墜され始める。
絶対的な物量の差は無情である。
「ハアッハアッ……糞が!」
フリューゲルはリンベルン島の王城前に狙撃点を置き、防衛を突破して向かってくる敵騎を狙撃式刃力弓により狙撃し撃墜させていく。しかし、その数はあまりにも多く、次第に迎撃が追い付かなくなっていくのだった。
「……このままでは」
王城前にて、アルテーリエは半壊した愛刀ミームングの中で、戦況を憂いていた。
増援と風の大聖霊獣フェンリルの出現で一時戦況の不利を盛り返していたとはいえ、フェンリルはヴァーサの部隊に抑えられ始め、頼みの綱であった〈寄集の隻翼〉の騎士達も限界を迎え始める。
そして絶対的な戦力差により防衛戦は突破され始めた。敵部隊が王城にまで到達するのももはや時間の問題である。
「まだだ! 決して諦めるな! 戦い抜け! 守り抜くんだ!」
しかし、アルテーリエは目の前の絶望を振り払おうとするかのように、全騎に檄を飛ばすのだった。
※
翡翠の空域。
乱戦を得意とするウィンであったが、〈祇宝の玉〉部隊の包囲を受け、無数の敵騎体を相手取りながら騎士師団長であるクラムと戦った為、自騎に多くの損傷を受けていた。
「やれやれ、これは少々骨が折れますね」
それでも多くの敵騎を撃墜させたウィンであったが、未だクラムのベガルタには初撃の不意打ち以降攻撃出来ずにいた。……そして、ウィンの限界は近付きつつあった。
「ですが……退く訳にはいきませんね」
しかしウィンは、フロレントの両手に持たせた刃力弓を構えると、尚も敵陣突破を試みる。
「うわあ、まだ来る気あいつ? だるっ!」
そんなウィンの姿を見て、クラムはその手に持つ刃力弓を構え、腰部の凍結式刃力砲を展開、両肩部からは思念操作式飛翔氷刃を射出させた。
「もういい加減めんどくさい、さっさと本気出して終わらせよう」
一方、ナハラのシャムシール・エ・ゾモロドネガルと戦うルキゥールもまた、窮地に立たされていた。自身の竜殲術〈封脈〉でナハラの竜殲術を封じているとはいえ、愛刀であるアルマスは無数の斬撃痕が刻まれ、半壊状態にまで陥っていた。
何故なら、周囲の味方騎は既に撃破され、部隊から孤立状態のルキゥールは、ナハラのシャムシール・エ・ゾモロドネガルだけでなく、タルワール部隊も同時に相手にしなくてはならなかったからだ。
「ハアッハアッハアッハアッ」
――くそ、こいつが一騎討ちになんぞ応じてくれるとは思っていなかったが、一騎相手にここまでするかよ。しかも、〈封脈〉の効力はもうすぐ消える。やべえぞこれは!
すると、ナハラからルキゥールへ伝声が入る。
『おい爺、さっきまでの威勢はどうした? あん?』
「うるせえぞ糞餓鬼、これからてめえを叩っ斬る為の切札を使う、覚悟しやがれ」
それは虚勢以外の何物でも無く、それを見透かしたナハラは舌戦に応じる事も無く、ルキゥールを静かに鼻で笑った。
すると直後、伝令員からの伝声がルキゥールに入る。
『現在、防衛戦が突破され、敵部隊が再び王城へと到達しました!』
「ちいっ!」
窮地に次ぐ窮地、終焉はすぐそこまで迫って来ていたのだった。
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