217話 白き宝剣
『〈寄集の隻翼〉の蒼衣騎士……まさかこいつがあの、ラドウィードの騎士なのか?』
『なっ、ラドウィードの騎士!? 騎士師団長を何人も討ち取り、大聖霊獣を一騎討ちで屈服させたっていうあの……』
強襲部隊の騎士達は、明らかに翼羽が産み出したであろう武勇伝をソラに重ね、恐れおののいた。そんな部下達に強襲部隊長が喝を入れる。
「それがどうした! あの宝剣の属性は光、属性の利はこちらにある。風属性のカットラスを中心に奴を叩くぞ!」
そして風属性のカットラス複数騎の両肩部が開放され、中から思念操作式飛翔刃が射出される。ソードの拳大程の刃数十基がカレトヴルッフの周囲を飛び交う。
次の瞬間、ソラは左前腕に装着された盾の内側から刃力弓を射出させ、カレトヴルッフの左手に持たせると、光矢を連射させ次々と撃ち落としていく。
「やっぱり凄いな、プルームちゃんは」
するとソラは、プルームの笑顔と、プルームが操る思念操作式飛翔刃の動きを思い浮かべながら、微笑した。
「プルームちゃんの思念操作式飛翔刃を見た後だとこんなの……止まって見える」
身を翻し、飛び交う刃を躱しながら放つソラの刃力弓からの光矢は、更に速く、更に絶え間なく、思念操作式飛翔刃を貫いていき、遂には全ての思念操作式飛翔刃を撃ち落としてみせた。
「ば、馬鹿な!」
数騎から一斉に放った思念操作式飛翔刃が全て撃ち落とされ、驚愕する強襲部隊長。
次の瞬間、カレトヴルッフが推進刃からの刃力放出を最大にし、瞬時に距離を詰めてくる。
「うわああああっ!」
強襲部隊長は恐怖混じりに刃力剣を抜くと、向かってくるカレトヴルッフへと斬りかかる。
しかし、その斬撃が振り切られる前に、カレトヴルッフは擦れ違いざまにカットラスの頸部と腹部の二つを断っていた。
「な、何なんだ……お前は……一体?」
そして動力を破壊された強襲部隊長のカットラスが空中で爆散した。
そんな強襲部隊長の残した最期の言葉にソラは心外だとばかりに反応する。
「何って……どう見てもただの蒼衣騎士だろ俺は」
一方、地上から王城を目指すタルワール部隊。
土埃を舞わせながら、タルワール部隊が王城に到達する寸前、王城の前に、銀色の騎装衣を翻し、両手に刃力弓を持ったカレトヴルッフとは別の白い宝剣が、一騎降り立った。
「増援? 構うか圧し潰せ!」
〈穿拷の刺〉の強襲部隊長は、突如出現した白い宝剣に対し突撃の指示を出すと、十数騎のタルワールが一斉に刃力剣を構えて斬りかかる。
するとその白い宝剣は空中に跳躍し、天地を逆にしながら高速で回転しつつ、一気に両手の刃力弓を連射させ、その全てをタルワールの頭部と腹部に直撃させた。それにより瞬く間に撃墜される十騎あまりのタルワール。
その宝剣は異様であった。腰には刃力核直結式聖霊騎装はもちろん、刃力剣すら携えておらず、武器と言えるのは両手に持つ刃力弓のみであった。
それを見た強襲部隊長が、歯を軋ませながら部隊に指示を出す。
「あの宝剣は刃力弓しか持っていない、 抗刃力結界を装備している騎体は全騎展開させて前に出ろ! さすれば恐るるに足りん!」
強襲部隊長の指示で、タルワールは抗刃力結界を張り、白い光の球体に包まれた状態で、再度白い宝剣へと斬りかかる。
すると、それを見た白い宝剣の操刃者は不敵に笑んだ。
「抗刃力結界ですか、まあ僕にはあまり関係ありませんね」
その宝剣の名はフロレント。そしてその操刃者は黒い神父服を纏い、金色の髪と金色の瞳、やや切れ長の細目でありながら顔立ちの整った壮年の男性。かつてソラがエリギウス帝国から離反した直後に辿り着いた島で出会い、第十二騎士師団〈連理の鱗〉と戦う際に共闘した元エリギウス王国西方騎士師団長、ウィン=クレインであった。
次の瞬間、ウィンは左右から斬りかかるタルワールの斬撃を身のこなしで躱しつつ、右手の刃力弓を左側から斬りかかって来たタルワールの腹部に、左手の刃力弓を右側から斬りかかって来たタルワールの腹部に密着させ、両手を交叉させた状態で引き金を引いた。
そして光矢により、動力を貫かれたタルワールはその場で爆散する。
続けて、三騎のタルワールがフロレントに同時に斬りかかるも、フロレントは側方宙返りや後方宙返りを駆使しつつ、タルワールの斬撃を躱しざまに、腹部や胸部等の急所へと光矢を叩き込み、撃墜させていく。
『な、何故だ!? 何故抗刃力結界を張っているのにただの刃力弓を防げない!?』
刃力攻撃を防ぐ筈の抗刃力結界を展開させながらも次々と撃墜されていく味方騎を見て、恐怖混じりに叫ぶ強襲部隊長にウィンが答える。
「そりゃあ、結界の内側から撃ってますからね……そんな事も分からないんですか?」
『う……ぐっ!』
ウィンの穏やかな口調の隙間から漏れ出す凄まじい殺気と威圧感に、慄き冷汗を滲ませる強襲部隊長。そんな強襲部隊長の前で、味方騎であるタルワールは一騎、また一騎と撃墜されていく。
――何だあいつは? ま、まるで……
そしてウィンの戦闘スタイルは、類まれな身のこなしを駆使しつつ、近接戦闘の間合いの中で射術を繰り広げる独自の戦法。近接では結界の内側から射撃を行う事で抗刃力結界を無効化させ、更に中距離においては――
――奴相手に白兵戦は禁物、ならば!
強襲部隊長はウィンに白兵戦を挑む事を危険だと判断し、抗刃力結界を展開しつつ距離を取ると、刃力剣を鞘に納め、左前腕の盾の内側から炎装式刃力弓を抜いてウィンのフロレントへと向けた。中距離戦を挑む為にである。
『それは悪手ですね』
「なっ!」
次の瞬間、強襲部隊長は驚愕する事になる。展開している抗刃力結界が瞬時に割られ、頭部、胸部、腹部、全ての急所に光矢を叩き込まれたからだ。
『結界が一瞬で……馬鹿な……何と言う連射……速度……』
全ての急所を破壊され、強襲部隊長騎のタルワールが爆散する。
ウィンは射術騎士であるが、両手に所持した刃力弓を用い近距離から中距離までをもこなす変則射術騎士である。近接戦闘においては結界の内側から射撃を行う事で敵の抗刃力結界を無効化させ、中距離戦においては凄まじい連射速度により抗刃力結界の耐久限界を瞬時に突破する。
金色の死神と謳われたウィン=クレインの射撃戦闘術、名を死神の舞踏と言った。
そしてソラとウィンの活躍により、王城強襲部隊、〈祇宝の玉〉のカットラス部隊と〈穿拷の刺〉のタルワール部隊が全滅した。
戦闘が一段落し、ウィンがソラへと伝声する。
『いやあ、少し見ない間に見違えましたねソラ』
「ウィンさん……またまた持ち上げないでくださいよ、すぐ調子に乗っちゃうんですから俺って」
『いえいえ、本当の事ですよ。自信を持ってください』
「はは、それにしてもまさかウィンさんが増援に来てくれるなんて驚きましたよ」
『それにつきましては、ソラに以前もらった伝声器にヨクハさんから緊急で伝声が入りまして、またお願いされちゃいましてねえ』
「団長が?」
『ええ、メルグレインとレファノスが制圧されればアーラがこの先生きる空が奪われるぞって。そんな事言われたら戦わざるを得ないじゃないですか、まったくあの人は相変わらずずる賢いというか、したたかというか』
「は、はは」
肩を竦めながら漏らすウィンに、ソラは愛想笑いで労うのだった。
『そういえばアーラがソラに会いたがってましたよ、最近会いに来てくれないって漏らしてました。アーラはソラの話をする時はいつも尻尾を振っ――いやいや、嬉しそうにするんですよ』
「すんません、ちょっと最近忙しくて、近い内に会いに行くって言っておいてください――ってこんな世間話してる場合じゃないっすよ。こっちは片付いたからすぐにルキゥール陛下を助けに行かないと!」
ウィンと話しながら今の自分が置かれている状況を思い出し、ソラはすぐに次の戦場へと向かおうとする。
『ところでソラ』
「はい?」
『ツァリス島ではヨクハさんが一人で〈裂砂の爪〉と戦っているんでしょう? 本当に大丈夫なんでしょうか?』
ウィンの抱く危惧に、ソラはあっけらかんと返した。
「ああ、それなら大丈夫ですよ。団長なら多分、最終的にはどうにかしちゃうでしょ。いつもそうだったし」
『そう……ですか』
ソラの返答を聞いたウィンは意味深に呟くと、ソラと共に次なる戦場へと飛ぶ。
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