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216話 反撃開始

 蒼の空域の果て。エルとエリィの戦いは終結を迎えていた。


 無数の斬撃痕が刻まれ、左腕部を失っているティルヴィング。しかし、その右腕部に持つ斬竜型刃力剣、多関節凍結式斬竜剣(スヴァフルラーメ)はまるで鞭のような形状にてネイリングを縛り付けて捕え、全身を凍結させて身動きを封じていた。


「ハアッ……ハアッ……ハアッ」


 絶望感に苛まれながら、エルはただ動かないネイリングの操刃柄(そうじんづか)を握り締め続けた。そんなエルにエリィが伝声を送る。


『まさか劣位属性の宝剣で、このティルヴィングをここまで追い込むなんて……あなたの持つ意志の力がそうさせたというの? だとしたらあなたの目的は、あなたにとってそれ程に大切なものなのね』


「私にはやらなければならない事がある、こんな所で立ち止まる訳にはいかないんだ! こんな所で……」


『あなたでは私には勝てない、初めから解っていた事でしょう?』


「くっ!」


 エリィは、諭すような眼差しでエルに続ける。


『一時の感情に流されては駄目よオルタナ。例えここで一時あの子を守れたとして、その先には何が残る?』


「だとしてもここで黙って見ていたら〈寄集(よせあつめ)隻翼(せきよく)〉は壊滅し、ソラもきっと……」


『果たして下馬評通りにいくかしら? あの騎士団の強さはあなたが身を(もっ)て知っている筈。それに……あの子はあなたが思っている程弱くない』


 その言葉に、エルは翼羽に圧倒された時の事、それから何度も〈寄集(よせあつめ)隻翼(せきよく)〉と戦い、その都度ソラと戦い合った事を思い浮かべる。


 そしてソラが、蒼衣騎士でありながら遂には自分と互角以上に剣を交えた事を。


『今はただ信じてあげて、そしてあなたはあの子の希望であり続けなければならない。それがあなたの本当の使命なのでしょう?』


 それを聞き、エルはそっと目を閉じて、両手を操刃柄(そうじんづか)から離すのだった。


 敗北を受け入れるしかなかった。そして、エリィの言う通り、今の自分に出来るのは、もはやソラを信じる事だけだった。


 そんなエルにエリィは、まるで包み込むように優しい笑顔を向けた。


『強くなったね、ナナツメ』


 エルは、エリィの笑顔の奥に、どこか懐かしいような面影を感じずにはいられなかった。


「エリィ=フレイヴァルツ、お前は……一体?」


 しかし、その感情の正体が何なのか、エルは答を見つけられなかった。



 場面は翡翠の空域へと移る。


 ルキゥールは自身を取り囲むタルワール部隊と、ナハラからの猛攻を凌ぎ続けていた。


 騎士師団長であるナハラを相手取りながら、多勢を相手にするルキゥールのアルマスは、幾度となく敵からの斬撃を受けていた。


 しかし、それでも防御主体のベルフェイユ流を極めるルキゥールは致命傷を避け続けた。とはいえ戦況は正に防戦一方。


 ナハラのシャムシール・エ・ゾモロドネガルをその場に抑えているとはいえ、クラムの〈玉牢(ぎょくろう)〉の能力で味方騎は泡の牢に捕らえられていき、タルワール部隊とカットラス部隊に突破されていく。そんな中、既に敵部隊は城下町にまで到達していた。


 ――このままでは!


 ルキゥールは、王城の方を振り返り、この戦況に危機感を募らせた。


『よそ見してんじゃねえ!』


 その時、隙を見せたルキゥールに、ナハラのシャムシール・エ・ゾモロドネガルから連続斬りが襲い掛かる。


「ぐっ!」


 ルキゥールは、竜殲術を発動させ続けながら斬撃を放ってくるナハラに、最大限の警戒を置き、これまで一太刀しか浴びる事を許さなかった。しかし、一度斬撃を浴びた際は何事も起きる事無く、ナハラの能力の解明には至らなかった。


 だが今度は異変に気付く。


 ――何だこりゃ? 操刃柄(そうじんづか)を握っている感覚が無い。


 ルキゥールは突然、操刃柄(そうじんづか)を握っている感覚を失っていた。


 ――だが問題無く動く、触れてる感覚だけが無い。感覚を奪う能力だというのか?


『動きがぎこちねえな。ハッ、触覚が奪われちゃあ当然か。じゃあ死ね!』


 更に追撃、ナハラのシャムシール・エ・ゾモロドネガルからの嵐のような連撃が襲い掛かり、再び防戦一方のルキゥールに、周囲のタルワール部隊もまた襲い掛かる。


 そして伝令員からの緊急伝声。


『陛下、部隊の一部が王城まで到達。このままでは制圧されます』


「くそったれが!」


 自身も、国も窮地に立たされ、ルキゥールは冷汗を滲ませながら憤慨した。


 次の瞬間、飛来する光矢と雷光の矢が、ルキゥールのアルマスに斬りかかるタルワールを撃ち抜き、次々と撃墜させていく。


『あ? 何だ?』


 更に、雷光の矢がナハラのシャムシール・エ・ゾモロドネガルに向かって飛来し、ナハラはそれを刃力剣クスィフ・ブレイドで斬り払った。


『ちっ、増援だと!?』


 そして、ナハラは気付く。突如出現したパンツァーステッチャーとマインゴーシュ、計五十騎が今度は自分達を取り囲んでいる事に。


 続いて、ルキゥールに向けて伝声が入る。


『ご無事ですかルキゥール陛下?』


 その伝声を送ったのは増援として到着したカナフであり、カナフのタルワールは既にセリアスベル島に狙撃点を取っており、タルワール部隊とナハラのシャムシール・エ・ゾモロドネガルに向けて狙撃を行っていた。


「お前は、〈寄集(よせあつめ)隻翼(せきよく)〉の……」


『〈穿拷(せんごう)(とげ)〉の師団長はそのまま任せてもよろしいでしょうか? 周囲の雑兵の撃破と〈祇宝(ぎほう)(たま)〉師団長への牽制は俺が行います。敵の突破は何としてでもここで防がなくてはなりません』


「いや、既に中央から何部隊か突破されてる。このままでは王城が陥落する!」


 既に敵部隊が王城にまで到達している事実に危機感を募らせるルキゥールだったが、カナフは焦る様子も無く返す。


『ご安心ください、そちらにも既に二名(・・)の凄腕が増援に向かっております』


「何だと?」



 王城周囲に到達したタルワール部隊とカットラス部隊、タルワール部隊は地上から、カットラス部隊は空から王城制圧を目指し突き進む。


 王城周囲に配置されているマインゴーシュ部隊が刃力弓により敵部隊へと牽制の射撃を行うが、その勢いは止められない。


「うわあああああ!」


 レファノスにとって絶対絶命の危機、その時だった。


 白き閃光が強襲部隊のカットラスに(はし)り、計三騎が胴を瞬断され、空中で爆散する。


 更には炎を纏った光の奔流が、カットラス四騎をまとめて薙ぎ払い、空中で爆煙が立ち込めた。


『増援だと、何だあの……白い宝剣は?』


 瞬時に七騎のカットラスを撃墜され〈祇宝(ぎほう)(たま)〉の騎士は驚愕する。そして増援として現れ、そこに浮遊していた白き宝剣は、ソラのカレトヴルッフであった。


『全騎、結界を張れ!』


 〈祇宝(ぎほう)(たま)〉の強襲部隊長の指示で、カットラス全騎がそれぞれ抗刃力結界(イノセントスフィア)もしくは耐実体結界(アブソリュートスフィア)を張り防御の態勢を取る。


 すると、ソラはカレトヴルッフの左腰部に接続された雷電螺旋加速式投射砲(ヤサカニノマガタマ)の砲身を展開させ、砲弾を放った。


 土の聖霊の意思により硬化させた砲弾を雷の聖霊の意思により電磁加速させ、砲身内部の構造と特殊砲弾による超回転を加えさせた実体砲撃は、抗刃力結界(イノセントスフィア)を展開させるカットラス二騎を軽々と貫通した後、耐実体結界(アブソリュートスフィア)を展開させるカットラスの結界に直撃。


『なっ!』


 だが、実体攻撃を防ぐ筈の耐実体結界(アブソリュートスフィア)に直撃した砲弾は、弾かれる事なく超回転を(もっ)て、結界を削りながら穿通していくと、遂には結界を貫き、カットラスの腹部――動力へと到達し、爆散させた。


『があああっ!』


 抗刃力結界(イノセントスフィア)耐実体結界(アブソリュートスフィア)、どちらの結界をも無効化させる強力な聖霊騎装を持つソラのカレトヴルッフに、〈祇宝(ぎほう)(たま)〉の強襲部隊の騎士達は最大限の警戒を抱く。


『何だあの宝剣は!? しかもあの騎装衣の色……ただの蒼衣騎士じゃないか』

216話まで読んでいただき本当にありがとうございます。もし作品を少しでも気に入ってもらえたり続きを読みたいと思ってもらえたら


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どうぞ宜しくお願い致します。

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