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208話 煉空の粛清

 メルグレイン、レファノス、そしてツァリス島の空には激震が走っていた。


「だ、団長! 大変だよ! た、大変なっ――げほっげほっ! 事が……」


 伝令室からの緊急を知らせる警報を聞き、パルナは確認を行う為に伝令室に向かい、すぐに戻って来た。血相を変え、酷く取り乱した様子はただ事で無いことを示唆している。


「やはり来たか」


 そして翼羽は、シェールがいくつかの戦力を率い、侵攻して来た事を確信する。


 しかし、冷静な翼羽を見て、パルナは大きく首を振った。


「違う、違うんだよ団長! 今、メルグレインとレファノスからも緊急報告が入った、私もこの目で確認した!」


「落ち着けパルナ、何があった?」


 すると、自分を落ち着かせるように深く息を吸い、パルナが答える。


「エリギウス帝国側から侵攻を開始した騎士師団は全部で五つ! それぞれがメルグレイン群島、レファノス群島、そしてツァリス島へ向かって進軍中!」


 その報告を聞き、翼羽を含むその場の全員が言葉を失い、固まった。


「馬鹿……な……相互不介入条約の破棄は予測していたとはいえ、この短期間でこれほどの連合を組んだじゃと! 上の更に上を行かれたというのか!」


 ソラ、フリューゲル、デゼルが呆然とした様子で呟く。


「う、嘘だろ!? 五つの騎士師団が……一斉にって事?」


「ありえんのかよ、そんな事が!」


「い、五つの騎士師団って、現エリギウス帝国の半分程の戦力じゃないか」


 続けてシーベットとシバが言う。


「そんな、仲良しでも無い騎士師団同士が、こんなに一緒になって攻めて来るなんて」


「これはいわば連合騎士師団。シェール=ガルティが中心となり、自身の考えに賛同する者達を集い、相互不介入条約を破棄して連合を組んだのだろう」


 すると翅音(しおん)は、自身の予測を上回る出来事が起きている事に、想定外だと言わんばかりに憤る。


「エリギウス帝国には〈亡国の咆哮〉って名の反乱軍連合騎士団が存在し、帝国の滅亡を虎視眈々と狙っている。これ程の戦力を投入すればそいつらにいずれかの空域が制圧される可能性もある。それ程のリスクを冒してまでこの侵攻に賭けてきやがったってのか!?」


 一方カナフは、冷静にパルナに尋ねた。


「ティトリー、侵攻を開始した騎士師団と、向かってる先を教えてくれ」


 対しパルナが声を震わせて答える。第四騎士師団〈風導(かざしるべ)(たてがみ)〉と第六騎士師団〈操雷(そうらい)(ひげ)〉はメルグレインに、第五騎士師団〈祇宝(ぎほう)(たま)〉と第七騎士師団〈穿拷(せんごう)(とげ)〉はレファノスに……そして、第三騎士師団〈裂砂の爪〉はこのツァリス島に真っ直ぐに向かっていると。


 それを聞き、翼羽が拳を固く握り締めながら言う。


「やはり、このツァリス島に来るのはシェールか」





 メルグレイン群島、黝簾(ゆうれん)の空域、王都リンベルン島の王城。


 その格納庫にて、アルテーリエは炎の聖霊石を核とする真紅の宝剣ミームングに搭乗し、全騎に指示を出す。


「全騎士に告ぐ、敵はかつてない脅威を(もっ)てこのメルグレインを、いや……この空を脅かしに来ている。敵の戦力は確かにこちらを大きく上回っている。だが退くな、決して背を向けるな、この命尽き果てようとも、必ずこの空を守れ!」


 アルテーリエの檄と共に、ミームングと、メルグレインの全勢力である二百騎のパンツァーステッチャーが空へと飛び立った。





 レファノス群島、翡翠の空域、王都セリアスベル島の王城。


 その格納庫にて、ルキゥールは雷の聖霊石を核とする紫色の宝剣アルマスに搭乗し、全騎に指示を出す。


「聞け、レファノスの英雄達よ! この戦いに敗れればレファノスの未来も、この空の未来も潰える。これはそういう戦いだ。故に敗北は許されん。腕が千切れても足がある、足が千切れても牙ある。しがみ付け、食らい付け、我等の敵を撃ち滅ぼせ!」


 ルキゥールの檄と共に、アルマスと、レファノスの全勢力である百二十騎のマインゴーシュ(土属性)と、八十騎のマインゴーシュ(水属性)が空へと飛び立った。





 そして場面は再びツァリス島の聖堂。


 翼羽の発した言葉に、誰もが耳を疑った。


「だ、団長……今何て?」


 ソラが、信じられないと言った様子で翼羽に問う。対し、翼羽は嘆息と共に再度言う。


「二度言わすな阿呆。わしを除くお前達全員は、二手に分かれてメルグレインとレファノスに向かえと言っておる」


 再びの翼羽のその言葉に、言葉を失っていた団員達が次々と食い下がった。


「何考えてんだよ団長、まさか一人で〈裂砂の爪〉を相手にしようってのか?」


「そうだよ団長、〈裂砂の爪〉は神剣アパラージタと、まだ百五十騎近くのソードを有してる、一人で戦うなんていくら団長でも無茶苦茶だ」


 必死な様子で翼羽に詰め寄るフリューゲルとデゼル。


「だんちょー、シーベットはここに残るぞ」


 翼羽の命令を受け入れられず、シーベットは進言した。しかし、翼羽はそれを却下し、再度命令を下す。


「駄目だ。メルグレインの黝簾(ゆうれん)の空域にはフリューゲル、デゼル、シーベットで、レファノスの翡翠の空域にはソラとカナフで増援に向かえ、オルレア島に残る〈因果の鮮血〉の騎士達と共にな」


「団長!」


「ここでレファノスとメルグレインが制圧され、〈因果の鮮血〉が敗れればこの空は終わりじゃ! だから行け!」


「でもここには動けないプルームちゃんとエイラリィちゃんが、パルナちゃんも翅音(シオン)さんもいるんだぞ!」


 そう、思わず不安を零すソラに、翼羽は淀みの無い声で返した。


「ここはわしが必ず死守する、何に代えてもな」


「…………」


「わしを誰だと思っておる! 以前フリューゲルにも言った事があるが、お主達はわしが負ける所を想像出来るのか?」


 その言葉が、団員達に渦巻く不安を消し去りかける。翼羽の言う通りその場に翼羽の敗北する姿を想像出来る者はいなかった。圧倒的な強さを持ち、騎士師団長や騎士師団長級の騎士を幾人も討ち取り、大聖霊獣ですら一騎討ちで屈服させた。


 量産剣を操刃していたとはいえ三殊の神騎ですら退けた。そんな翼羽ならきっと、翼羽ならどんな敵であっても勝つ、どんな不利な状況であっても覆す。そう思わされた。……翅音(しおん)と、そしてパルナを除いては。


「何を突っ立っておる! さっさと行け、守るんじゃないのか、この空を!?」


 翼羽の叫びに、ソラが一歩を踏み出す。


「俺は俺に出来る事をするよ、そう決めたんだ。だから団長、シェールって奴の事しばいて漏らさせて泣かせといてくれよな」


 そしてそれに続くように、フリューゲル、デゼル、シーベット、カナフもまた動き出した。


「ここでこの空を守れなかったら、ラッザ先生にも、プルームにも顔向け出来ねえ、だから行く。俺がすべき事をやりに行く。……プルーム達の事頼んだからな」


「翼羽団長、皆の事を守ってね」


「絶対に敗けないで、信じてるよだんちょー」


「やれやれ、骨が折れるが仕方ない。だが、俺も全力は尽くすつもりだ」


 後ろ髪を引かれつつも、これまでの戦いを、プルームの戦いを無駄にしない為には、翼羽を信じてただ自分がやるべき事をやるしかない、それが唯一の答だった。



 それから格納庫にて、それぞれが自身の愛刀に搭乗し、出陣に備えた。すると各ソードの双眸が輝き、推進刃から放出される刃力が騎装衣を形成させる。


「フリューゲル=シュトリヒ――パンツァーステッチャー、出陣する!」


「デゼル=コクスィネル――ベリサルダ、出陣します」


「カナフ=アタレフ――タルワール、出陣する」


「シーベット=ニヤラ――スクラマサクス、出陣!」


 そしてソラは、ふと瞑った瞳を開眼させ、決意したように眼光を鋭くさせた。


「ソラ=レイウィング、カレトヴルッフ、出陣する!」


 開放された格納庫の天井から飛翔する五騎のソード。そして各々が各々の空へと翔び立つのだった。

208話まで読んでいただき本当にありがとうございます。


ブックマークしてくれた方、評価してくれた方、いつもいいねしてくれてる方、本当に本当に救われております。


誤字報告も大変助かります。これからも宜しくお願いします。

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