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205話 もがきながら

 場面は変わり、ディナイン群島、琥珀の空域、リデージュ島。


 〈裂砂の爪〉本拠地王城の大書庫にはシェールの姿があった。


 ーーあの時の姿……あれはあの宝剣に備えられた器能であると捉えるのが妥当だろうね。とはいえあれ程の力、発動するには何等かの条件が必要な筈なんだ。


 その床にはおびただしい数の書物が散乱しており、シェールは集中した様子で目の前の書物の文献に目を通していく。


 ーーあの美しい紅蓮の片翼に目が行きがちだけど、それよりも気になったのはヨクハの宝剣の騎装衣が消失していた事だ。……騎装衣の消失という現象、何処かで聞いた事がある。


 思い当たる節があるのか、シェールは己の記憶をさぐりつつ、再び文献に目を通していく。


 ーーかつて世界がラドウィードにありながらも“ラドウィードの騎士”と揶揄された者達。竜域と呼ばれる極限の集中状態……言い換えれば集中した状態で戦うだけしか能が無い時代遅れの騎士。いや、刃力操作により独自の剣技で戦う特徴もあったか。それでも覚醒騎士の下位互換でしかないとの認識だったけど。


 すると直後、シェールは何かの記述を目にし、一人ほくそ笑んだ。


 ラドウィードの騎士の中には、刃力が尽きても尚、戦える騎士達が居た。刃力に成り代わる前のいわば刃力の種の強制開花、萠刃力(ほうじんりょく)と呼ばれる生まれたばかりの刃力をソードの動力に代える力。それにより形成される騎装衣は色を持たず、騎装衣の無いソードはしばしば“羽無し”と呼ばれる事もあった。


 そしてシェールは遂に求めていた答に到達するのだった。


「そうか……そういう事か。ラドウィードの騎士……竜域……そして萠刃力(ほうじんりょく)の開花とは――」


 直後、シェールはおもむろに天を仰ぎ、呟いた。


「あの時君は、相応の覚悟で僕と向き合ってくれていたんだね。なら僕も君の想いに応える為に全力を尽くすよ」





 翌日の朝。


 ソラはエイラリィと約束した通り、プルームにバウムトルテを届けた後、聖堂の伝令室に籠る。それは昨日と同じ流れであった。


 ソラは伝令室で、アロンダイトに残されていたプルームとシェールの戦いの記録映像を、何度も何度も繰り返し確認した。


 プルームが看破した斬竜型刃力剣、裂爪式斬竜剣(トリヴィクラマセーナ)の能力を含めたアパラージタの性能や動きを頭に叩き込みながら、何度も何度も自身がアパラージタと戦う事を想定するソラ。


 当然、自身がシェールと一騎討ちをしようと思う程驕ってはいなかった。しかしこの先〈裂砂の爪〉と再び刃を交え、もしシェールと戦う事になった時、プルームの戦いを無駄にするような事だけは絶対にしたくなかった。だからこそソラは、幾度となく映像を通し、アパラージタを撃破する為の糸口を自分なりに模索する。


「くそっ!」


 しかし、映像を繰り返し確認し、シェールとアパラージタの力を目の当たりにすれば目の当たりにする程、その糸口が存在しない事を思い知らされる。


 ――勝てる気がしない。


 ソラは、絶望に苛まれながらも尚、悔しさを滲ませるように拳を握り締めた。諦めるという選択肢だけは今のソラにはあってはならなかったからだ。

 

 やがて、映像の確認とアパラージタ撃破の模索に没頭していたソラは、日が沈みかけている事に気付く。

そして、この日も糸口を掴めないまま、ソラは伝令室を後にした。



 敵の強大さと、自身の不甲斐なさに打ちひしがれながら、ソラは風に当たろうと聖堂を出て、島の西端にある見晴らしの良い丘へと足を運んだ。


 するとそこには先客がおり、それはシーベットとシバであった。シーベットは島の端の丘に腰を下ろし、足を空へと投げ出しながらシバと共に黄昏れていた。


 そんなシーベットにソラは声をかける。


「シーベット先輩」


 その声にふと振り返るシーベット。


「おソラか」


「珍しいな、こんな所で黄昏れてどうかした?」


「別に」


 ソラの問いに、シーベットはそっぽを向いて取り合わなかった。すると直後、シバが答える。


「シーベットは今、自分の無力さに苛まれ、落ち込んでいる真っ最中なのだ」


「し、シバさん!」


 シバが暴露した事で、シーベットは慌てたように取り乱した。その後、おもむろに自身の心の内を明かすシーベット。


「……あの時、シーベットは何も出来なかった。プルルンがたった一人で頑張ってたのに、シーベットは敵の結界を破壊するので精一杯だった……シーベットは弱い」


「いやそんな落ち込む事なんてないって……だってそれが今回のシーベット先輩の役割だったんだ。そのおかげで空翔部隊のシャムシールが落とせたんだし、それにどうしたって敵との相性があるんだから」


 すると、そんなソラの慰めに対し、シーベットは顔を背け、夕日に染まる空を見ながら言った。


「シーベットは、おソラが羨ましい。だんちょーの剣を受け継いで、だんちょーと同じように戦えるおソラが」


「え?」


「本当はシーベットは、だんちょーみたいになりたかったんだ。諷意鳳龍院(ふういほうりゅういん)流を会得して、だんちょーのように強くなって……でも出来なかった」


 あまり自分を語る事が無かったシーベット。ソラは、そんなシーベットの事を知れる機会だと、その語りに黙って聞き入った。


 シーベットがこの島に来たのは九年前で齢四の時だった。翼羽のように、プルームのように、エイラリィのように、フリューゲルのように、デゼルのように……シーベットは皆のような騎士になりたいと修業した。


 しかしシーベットは、かつて蒼衣騎士の頃、非力で剣をまともに振る事さえ出来なかった。それでも修業の中で運良く銀衣騎士に覚醒でき、少しは翼羽に近付けたのだと思え、嬉しかったのだとシーベットは語った。


 すると、シーベットはソラに背を向けたまま天を仰いで続けた。


「でも、覚醒騎士じゃ諷意鳳龍院(ふういほうりゅういん)流は会得できないって知った」


「…………」


「だからシーベットの剣は、お髭に教わったんだ」


翅音(しおん)さんに? そっか、シーベット先輩の剣はアイノアカーリオ流。小柄なイェスディランの民に適した、敏捷を活かして戦う奇襲剣術だったな確か」


「お髭にはちゃんと感謝してる……でも悔しいんだ」


 シーベットは続ける。翅音しおんがアイノアカーリオ流を伝授してくれたから非力な自分でも白刃騎士として戦えているし、密偵騎士としても皆の役に立てていた。だが今回みたいに相性の悪い相手や強固な装甲を持つ相手には何も出来ない……ましてや神剣相手になど手も足も出ないと。


 シーベットは言葉通り悔しさを滲ませるように声を震わせた。そんなシーベットに、ソラは不意に以前から気になっていた事を尋ねる。


「あのさ、ずっと聞きたかったんだけど、シーベット先輩は何の為に戦ってるんだ?」


 その問いに、シーベットは一拍空けて答えた。


「シーベットが戦うのは、祖国を取り戻す為だった。だった……いや今もそうか、でも今はそれだけじゃないけど」


「ん? 祖国ってイェスディランの事? えーと……シーベット先輩って一体……」


 すると、意味深な言葉の節を捉え、ソラが混乱気味に尋ねると、すかさずシバが答えた。


「シーベルティア=ラニヤ=イェスディラン。それがシーベットの本当の名だ」


 それを聞き、ソラは口をぽっかりと開けて驚く。


「イェスディラン! まさかシーベット先輩ってイェスディラン王家の人!?」


「シーベットは最後のイェスディラン国王であるエギルレーツェ=ラニヤ=イェスディランの娘で、第二王位継承権の所有者だったのだ」


「は!?」


「言ってなかったか?」


「初耳だよ!」


 シーベットが王族の人間であると知り、驚愕を隠せないソラ。そんなソラに対し、シーベットは語りを続ける。


「あれは、シーベットがまだ小さな頃……」


 ――今でも十分ちっちゃいけど。


「おい、今心の中で馬鹿にしなかったか?」


「いや、してません、はい」


 感情を読み取ったのか、目を細めて詰め寄って来るシーベットに、ソラは取り繕った。


 そしてシーベットが続ける。

205話まで読んでいただき本当にありがとうございます。


ブックマークしてくれた方、評価してくれた方、いつもいいねしてくれてる方、本当に本当に救われております。


誤字報告も大変助かります。これからも宜しくお願いします。

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