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203話 鈍色の空

 追尾式炸裂弾(アーティファクト)の直撃を受け、アロンダイトは爆裂により鎧胸部が崩壊していた。


 そしてなけなしの刃力で咄嗟に耐実体結界(アブソリュートスフィア)を張ったプルームであったが、優位属性のソード……それも至近距離からの追尾式炸裂弾(アーティファクト)の爆炎を受けては無事では済まない。アロンダイトの器能は完全に停止し、大破状態となっていた。


 そして操刃室のプルームもまた、爆裂の衝撃と熱波による裂傷と熱傷によりおびただしく出血し、力無くその場で項垂れる。


 すると、シェールは感心したように呟いた。


「へえ、至近距離からの追尾式炸裂弾(アーティファクト)の直撃を受けて、騎体も操刃者も原型を保ってるなんてさすがは神剣ってところなのかな?」


 続けて、展開式竜咬刃力爪(ヴリトラ)を起動させると、光の爪を展開させる。


「ま、最初からこうしてればよかったんだけどね」


 そしてアロンダイトとプルームに完全に止めを刺そうとしたその時、突然周囲に色が戻り始め、竜殲術“血闘(ちぞめのけっとう)”が解除された。


「あれ? 能力が解除された? うーんもしかしてどちらかが死ななくても戦闘不能になった時点で能力が解除されるって事? ……嘘ばっか吐くなあ、あのおじさん」


 すると次の瞬間、瞬く閃光の如くアパラージタへと接近し、閃光の瞬きの如き斬撃が放たれた。シェールはかろうじてそれに反応し、咄嗟に裂爪式斬竜剣(トリヴィクラマセーナ)でそれを受け止めるも――


「なっ!」


 その一撃はあまりにも(はや)く、あまりにも重すぎた。


 衝撃を受け止める事も受け流す事も許されず、アパラージタは下方へと吹き飛ばされ、激しく砂塵を舞わせて地へと激突する。


「がはあっ!」


 その衝撃で吐血するシェールは、斬撃を放ったであろう存在を確かめようとゆっくり空を見上げる。


 そこには、双眸を紅く輝かせ、紅蓮の隻翼を生やしながら、大破したアロンダイトを抱えて浮遊する叢雲の姿があった。


 ――な、何だよ……今の一撃。


 シェールは言い知れぬ感情を抱く。寒気と嘔気、逃避衝動、それらが混ざり合い自身を支配した。それは、生まれて初めての恐怖だった。


 だがそんな感情はすぐに消え去り、再び新しい感情が自身を支配した。シェールは紅蓮の隻翼を生やす叢雲を見つめながら呟く。


「ああ、何て綺麗なんだ……凄い、凄いよヨクハ、やっぱり君は最高だ……絶対に絶対に僕が()り潰してみせる!」


 そして、展開式竜咬刃力爪(ヴリトラ)の光の爪を叢雲に向けて振るう。


 しかし、萠刃力呼応式殲滅形態(クサナギノツルギ)を起動中の叢雲にとって、それはあまりにも遅すぎた。


 翼羽は、叢雲に左手でアロンダイトを抱えさせたまま、右手の羽刀型刃力剣(スサノオ)から一際巨大な光刃を左右に二つ放つと、左右から迫り来る展開式竜咬刃力爪(ヴリトラ)の光の爪を外側へと押し退けつつ――全てを斬り裂いて掻き消した。


『嘘だろ!? 展開式竜咬刃力爪(ヴリトラ)が……』


「シェール=ガルティ、貴様には必ず報いを受けさせてやる」


 覚醒騎士であるシェール、しかし翼羽の感情は読み取れなかった。竜域による無、感情の起伏の無い氷のように冷たい声。だがその奥底には激しい憤怒が渦巻いているのを確信し、シェールは一人恍惚の感情に酔いしれた。


 次の瞬間、叢雲はアパラージタに背を向け、瞬く間にその場から離脱した。その、凄まじい飛翔力により、一瞬でシェールの視界から消え去るのであった。


『どうやら君の心に僕は居座れたみたいだね……嬉しいよヨクハ』


 翼羽が消え去った虚空、その残滓を見つめながらシェールは不敵な笑みを浮かべた。


 直後〈裂砂の爪〉の伝令員から伝声が入る。


『シェール師団長、ようやく伝声が繋がったので緊急報告します。副師団長特務仕様騎のシャムシールが撃破され、ラナ副師団長が討ち取られました』


 その報告を聞き、シェールは固まり、言葉を失った。


「……死んだ? ……そんな……嘘だ……僕のラナちゃんが」


 そして項垂れながら叫ぶ。


「くそおおおおおっ!」


 しかし次の瞬間、何事も無かったように顔を上げて言った。


「まあいいかそんな事は、もう過ぎた事だし。それよりも神剣とその操刃者を()り潰せただけでも大きな戦果だよねえ、それに――」


 更に、シェールは堪え切れない笑いを零しながら続ける。


「この後は、もっともっと楽しい事が控えてるから。次に()り潰すのは君の心だ……今度こそね、ヨクハ」





 一方、伝令員のパルナは、悲痛な戦況報告を全騎士に行った。


『戦況報告。アロンダイト……アパラージタに撃破され……大破。尚、叢雲によりアロンダイトの残骸と操刃者のプルームは救出済み……生死にあっては……不明』


 その報告は〈寄集(よせあつめ)隻翼(せきよく)〉の全員に衝撃を走らせた。


「……何でだよ……誓ったばっかりなのに……俺はまた何も……」


 ソラは、またしても自分の無力さに打ちひしがられるように、操刃室の壁を殴りつけた。



「ふざけんなよ、勝手に死にかけてんじゃねえよあのすっとぼけ女……俺は、まだお前に何も伝えてねーんだぞ」


 悲しみと恐怖を紛らわせるように、憤りをぶつけるフリューゲル。



「……プルーム」


 頭を抱えて項垂れながら、静かに涙を流すデゼル。



「嘘だ! プルルンが敗けただなんて、そんなのシーベットは信じない!」


「落ち着けシーベット、今はただ死力を尽くしたプルームを労ってやれ」


 プルームの勝利を信じて疑わなかったシーベットは、その現実を受け入れられず取り乱す。そんなシーベットを(なだ)めるシバ。



「クロフォード(あね)、恥じる必要も悔いる必要も無い」


 そっと目を閉じながら、カナフは呟く。



「姉……さん! 嫌だよ姉さん! すぐに行くから、私がどんな傷でも治してみせるから……だから私を置いていかないで!」


 そしてエイラリィは、嗚咽し激しく取り乱しながら、プルームの元へと向かう。



 一方、翼羽はアロンダイトを抱えて飛翔しながら〈寄集(よせあつめ)隻翼(せきよく)〉と〈因果の鮮血〉全騎に指示を出す。


 また、プルームに出来るだけ負荷を与えないようにする為、既に翼羽は、竜域と共に叢雲の萠刃力呼応式殲滅形態(クサナギノツルギ)を解除した状態で飛翔していた。


「〈寄集(よせあつめ)隻翼(せきよく)〉と〈因果の鮮血〉全騎士に告ぐ……全騎撤退を開始せよ。この(いくさ)は……わしらの敗けじゃ」


 すると、本体の動力は停止しているが、ソードの中で独立して器能する伝声器にてプルームから翼羽への伝声が入る。


『翼羽(ねえ)……ごめん……ね……わたし……勝て……なかった』


 今にも消え入りそうな弱々しい声で謝るプルームに、翼羽は思わず声を震わせた。


「詫びる必要がどこにある!? お主はよくやった、十分戦い抜いた、だから死ぬな……死なないでプルーム!」


『えへへ……翼羽(ねえ)に……褒め……られた……嬉しい……な』


「ずっと見てたよプルーム、凄かったね、立派だったね。あなたは私の……誇りだよ」


 すると、涙混じりに伝える翼羽の言葉に、そっと応えるプルーム。


『あり……が……と……だい……すき……だよ……翼羽……ね……え』


 その言葉を最後に、プルームとの伝声が途切れる。


『プルーム! プルーム! プルームーーーー!』


 そして、翼羽の悲痛な叫びが、鈍色の哀しい空へと響き渡った。



 今回の戦いにおいて、〈因果の鮮血〉陣営はソード約百騎を失い、陣営の切札でもあるディオン=バルバストルが討ち取られ、更には統一戦役の希望でもあったアロンダイトを失った。多大なる損害を被り、琥珀の空域攻略戦は失敗に終わる。


 そして、〈寄集(よせあつめ)隻翼(せきよく)〉は結成以来、初めての明確な敗北を喫する事となった。

203話まで読んでいただき本当にありがとうございます。もし作品を少しでも気に入ってもらえたり続きを読みたいと思ってもらえたら


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どうぞ宜しくお願い致します。


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