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202話 舞え、羽ばたけ、斬り裂け

 場面は、プルームとシェールが繰り広げる一騎討ちの場面へと変わる。


 シェールの展開式竜咬刃力爪(ヴリトラ)の一撃を受け、アロンダイトが左腕部と共に推進刃の一部を失った事で、アパラージタの接近から逃れる事が出来ず、プルームはシェールの猛攻を受けていた。


 アパラージタの右手の裂爪式斬竜剣(トリヴィクラマセーナ)、左手の捕縛式圧殺牙(ディバウワートゥース)、接近戦用に短縮化された光の爪を振るう副腕―― 展開式竜咬刃力爪(ヴリトラ)


 四本の腕から繰り出される連撃は、ラムイステラーハ流剣術を体現しながらもそれを遥かに凌ぐ嵐となってプルームのアロンダイトに襲い掛かる。


「ハアッハアッ……ぐ……うっ!」


 プルームはそれを、思念操作可能な双剣である思念操作式斬竜剣(ランスロット)を全開で操りながら何とかさばき、凌ぎ続けるのだったが、少しずつ、少しずつ騎体は損傷していく。


 一撃一撃がアロンダイトの鎧装甲を削り、斬撃痕が次々と刻まれる。それでもプルームの目の光は消えない。プルームは思念操作式斬竜剣(ランスロット)を駆使し、決して諦めず反撃の機会を伺っていた。


 ――諦めない、諦めたくない……一度でいい、一度でも私の距離になれば……まだ勝機はある。


 しかし、無情にもシェールの攻撃の手は収まらない。僅かに灯る淡い光を飲み込む砂嵐のように、凄まじい連撃を叩き込み続けた。


 そして、限界はすぐそこまで来ていた。捕縛式圧殺牙(ディバウワートゥース)の牙が、アロンダイトの兜飾り(クレスト)である額の刀身を鋏んでへし折り、左の副椀の展開式竜咬刃力爪(ヴリトラ)が、刃力弓を握る右前腕部を切断する。右の副椀の展開式竜咬刃力爪(ヴリトラ)による更なる追撃は、右脚部を切断した。


 空中戦の要である推進刃を失い、左脚部以外の四肢を失い、満身創痍状態のアロンダイト。それは窮地、絶体絶命以外の何物でも無く、シェールは決着の一撃――裂爪式斬竜剣(トリヴィクラマセーナ)からの振り下ろし……所謂(いわゆる)真向斬りを繰り出した。 


 しかしそれでも、プルームの瞳の光、その灯は消えていなかった。



 直後、シェールは目を丸くする。


 目の前に居た筈のアロンダイトが突如姿を消し、渾身の一撃が空を斬ったからだ。


 次の瞬間、シェールは見た。自身の周囲を凄まじい速度で飛翔しながら駆け抜ける、疾風の如きアロンダイトの姿を。


「馬鹿……な!」


 あり得るはずは無い、姿勢制御器でもある四肢を失って、推進刃という翼を失って、何故これ程の速さで翔べるのか。シェールは道理に合わない目の前の現象に混乱を隠せなかった。


「そうか、そういう事か」


 だがすぐに気付く、アロンダイトが得たその飛翔力の正体に。


「自身が……操っている剣に乗って」


 そう――プルームは、アロンダイトに残された左脚部を、思念操作式斬竜剣(ランスロット)に乗せ、思念操作式斬竜剣(ランスロット)自身の能力と自身の竜殲術で操作する事で、一時的にとてつもない飛翔力を得ていたのだった。


「弱者の癖に、蛆虫の癖に……足掻くな、粘るな、食らい付くなよなあ」


 シェールはこの時、この攻略戦が始まって初めて、常に浮かべていた笑みを消した。


 そして、両副椀の展開式竜咬刃力爪(ヴリトラ)を彼方まで伸長させ、最大射程にて振り回す。


 しかしプルームのアロンダイトは、自身に迫り来る光の爪を幾度となく華麗にかわしながら、やがては展開式竜咬刃力爪(ヴリトラ)の最大射程を外れると、向きを反転させてアパラージタと対峙する。


 すると、プルームは飛翔力を得ていた思念操作式斬竜剣(ランスロット)を左脚部から離し、空中で、二本の剣の柄同士を連結させた。


 続いて両肩部を開放。更には両腰の菱形状の筒の前方にはそれぞれ円状の光陣が出現する。


 ――皆が紡いでくれた、皆が支えてくれた、そして託してくれたものを無駄にしたくない。……ソラ君、私ね、照れ臭かったけどあの時君に言った事本当だよ。私はこの騎士団の皆が大好きなんだ。だから……私は皆の為に戦う、そう考えたらね、何も怖くなくなった。だから負けない、相手が誰だって、どんなに強くたって。


 プルームはアロンダイトに残された十基の思念操作式飛翔刃(レイヴン)思念操作式竜咬刃力弾(ワイバーン)から同時発射最大数である二十発の光弾、円盤状になって超高速回転する思念操作式斬竜剣(ランスロット)を全て同時に思念操作していた。


 己の持てる全てを込めて、そして放ったのだ。


 それら全てが、アパラージタの周囲を旋回、交叉、廻旋(かいせん)、転回、それぞれが複雑無比かつ高速で飛び交う……空に数多の残像を残す程に。


 そしてそれらは鳥……否、嵐……否、流星……否、他に形容する事が出来ない程の動きを体現し続けた。


「何だこの物量……何だこの動き……こいつは一体!」


 シェールは冷汗を浮かべながら裂爪式斬竜剣(トリヴィクラマセーナ)の刀身を三本にしつつ、脅威を払おうと展開式竜咬刃力爪(ヴリトラ)の光の爪を振り回す。


 しかし、思念操作式竜咬刃力弾(ワイバーン)の光弾、思念操作式飛翔刃(レイヴン)思念操作式斬竜剣(ランスロット)、計三十一の全てが光の爪を躱し続け、一つたりとも落とされる事の無いまま尚もシェールのアパラージタを包囲する。


 常軌を逸した想像力、同時並行処理能力、その脳への負荷でプルームの鼻腔から出血が起こる。しかし、プルームはそれを意に介さず思念操作を続ける。


 ――もっと(はや)く、もっと自由に、もっと気高く……誰にも追い付けない程に。


「舞え、羽ばたけ、斬り裂け」


 次の瞬間、プルームが操作する思念操作式飛翔刃(レイヴン)思念操作式竜咬刃力弾(ワイバーン)の光弾、思念操作式斬竜剣(ランスロット)の全てが、一斉にシェールのアパラージタへと襲い掛かった。


「堕ちろおおおおおっ!」


 そしてそれらが次々とアパラージタに着弾し、激しい閃光と共に視界を覆う程の爆煙が巻き起こった。


「ハアッハッ……ハアッハアッ……ハアッ」


 プルームは肩で大きく呼吸を繰り返しながら、袖でゆっくりと鼻出血を拭う。その袖に付着した血をふと見ると、視界がぼやけていた。そして脳を酷使した事による急激な眠気が襲ってくる。


 騎体はほぼ半壊し、浮遊しているだけでやっとだ。思念操作式飛翔刃(レイヴン)も撃ち尽くし、思念操作式竜咬刃力弾(ワイバーン)を起動させる刃力も、竜殲術を使う刃力も残されておらず、文字通り全てを出し尽くした。


 やがて、周囲を覆っていた爆煙が晴れ始めたその時だった。プルームは突然襲い掛かる衝撃に小さく悲鳴を上げた。


「きゃあっ!」


 そして気付く。アロンダイトの右肩部が牙のようなものに挟まれている事に。


 それは紛れもなくアパラージタの捕縛式圧殺牙(ディバウワートゥース)であり、次第に爆煙が晴れると、目の前には鎧装甲を著しく損傷させながらも未だ致命的な損傷までには至っていないアパラージタが双眸そうぼうを輝かせていた。


 次の瞬間、プルームにシェールからの伝声が入る。


『或いは、属性相性が逆か、せめて同格だったならさっきので勝負は着いていたと思う』


「…………」


『誇っていいよ……でも勝負は結果が全てだから、残念だったね』


「くっ、思念操作式斬竜剣(ランスロット)!」


 満身創痍の状態で身動きを封じられたアロンダイト。プルームは空中を漂っていた思念操作式斬竜剣(ランスロット)を操作しアパラージタに向けて放つ。


 しかし、もはやその一撃は苦し紛れ以外の何物でもなく、シェールはアパラージタの裂爪式斬竜剣(トリヴィクラマセーナ)で軽々と弾くと。両肩部を開放させる。


『どうせ散るなら派手な方がいいよね? さようなら、羽化を果たした蛆虫さん』


 そして、アロンダイトの胸部に向けて追尾式炸裂弾(アーティファクト)を発射させた。



 場面は東方の空。


 宝剣カーテナにて味方器への刃力補給と修復に従事していたエイラリィは、例えようのない胸騒ぎに、思わず空を見上げた。


「……姉さん」

 

 部隊への指揮を行いながら、白黒となったアパラージタとアロンダイトの戦いを密かに見守っていた翼羽が言葉を失う。


「…………」



202話まで読んでいただき本当にありがとうございます。もし作品を少しでも気に入ってもらえたり続きを読みたいと思ってもらえたら


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どうぞ宜しくお願い致します。


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