200話 斬竜型刃力剣
『あー鬱陶しいなあ』
するとシェールは、それを切り払おうとアパラージタの展開式竜咬刃力爪を起動させ、伸長した光の爪を振るう。しかしプルームの操る思念操作式斬竜剣は、光の爪と爪の間を縫うようにして攻撃を躱すと――
『なっ!』
アパラージタの胴に直撃、火花を散らしながらアパラージタの鎧装甲を削っていく。
『ぐうううっ!』
そしてアパラージタの持つ斬竜型刃力剣の刀身が五本になっているのをプルームは確認。しかし、やがて思念操作式斬竜剣の回転力は収まっていき、アロンダイトの持つ渾身の実体攻撃ですらアパラージタの鎧装甲を僅かに削り取るだけに留まった。
――と、思われた次の瞬間、アパラージタの側腹部と胸部に光矢が二発着弾した。
『があああああっ!』
着弾した部分の鎧装甲が破壊され、爆煙が発生する。同時にその衝撃に呻き声を上げるシェール。
プルームは思念操作式斬竜剣の射出の後すぐに、思念誘導式刃力弓から光矢を二発放っており、思念誘導により死角からアパラージタを攻撃したのだ。
物理的な死角と、絶大な威力を誇る思念操作式斬竜剣を利用した心理的死角、その二つを利用し攻撃を当てた。しかし、思念操作式竜咬刃力弾ですらダメージを与えられなかったアパラージタに、それよりも遥かに威力の低い思念誘導式刃力弓での射撃が何故これ程効いたのか、既に到達している答の確信を得るために問うプルーム。
「その斬竜型刃力剣、刃力攻撃耐性と実体攻撃耐性を調節出来るんでしょ?」
プルームのかまかけ混じりの指摘に、シェールは笑顔で拍手を返した。
『この僅かな間で看破するなんて凄いじゃないか君! うんそうだよ、この裂爪式斬竜剣はね、刀身を五本まで増やせるんだけど、刀身が一本の時は刃力攻撃耐性が10で実体攻撃耐性が0、刀身が五本の時はその逆の補正をアパラージタに与える事が出来るんだ。そして三本の時は5:5で通常の状態って訳』
あっさりと白状しながら、裂爪式斬竜剣という名の斬竜型刃力剣の説明をしだすシェールを不気味に思いながら、プルームは次のやるべき行動に移そうとする。
それは刃力と実体、二つの性質の聖霊騎装による同時攻撃。そうなればシェールは刀身を三本にし、アパラージタへの耐性補正を無しの状態で戦わざるを得ず、つまりはどちらの性質の攻撃であっても通す事が出来る筈だからだ。
そしてプルームが思念操作式竜咬刃力弾と思念操作式斬竜剣による同時攻撃を仕掛けようとしたその時。
『いやいや待ってよ、今度はさすがに僕の番でしょ』
すかさずシェールがアパラージタに展開式竜咬刃力爪を起動させ、光の爪を展開させる。
――大丈夫、ここは私の距離。アパラージタの射程外で攻撃を繰り返していればいつか必ず倒せる筈。
プルームがそう思案した次の瞬間、振るわれた光の爪がアロンダイトへと届く。
「なっ!」
咄嗟の反応で騎体を急後退させ、直撃こそ回避したものの、光の爪はアロンダイトの左上腕部と左側の推進刃二本を切断した。
「そんな!」
推進刃を二本失った事で、浮遊力と推進力を大幅に失うアロンダイト。アパラージタとの距離を見誤ったのかと一瞬考えるプルームであったが、空間把握能力に優れるプルームがそのようなミスを犯す筈も無く、光の爪の射程が伸びたのは明らかであった。つまり見誤っていたのは展開式竜咬刃力爪の最大射程である。
『あはあ、能ある虎は爪を隠すってね……あれ、違ったかな?』
シェールが伝声器越しにプルームに問う。
『ねえ、何で僕がわざわざ君に分かりやすく裂爪式斬竜剣の能力を見せつけたと思う?』
「…………」
『君は、アパラージタの展開式竜咬刃力爪の攻撃範囲を見切ったと思いながらも、もしかしたらその攻撃範囲に余力を残しているかもしれないと始めは警戒していた筈だよ』
図星を突かれ、何も言い返す事が出来なくなったプルームに、シェールは尚も続ける。
『でも君は、アパラージタの斬竜型刃力剣である裂爪式斬竜剣の能力を見抜いた事で、そんな考えは消え去った。刃力と実体による同時攻撃でアパラージタを落とすんだと、思考を次の段階に進める事で本来していた筈の警戒を解いてしまったんだ。……つまり君は僕に思考を誘導されていたって訳さ』
すると、シェールのアパラージタは裂爪式斬竜剣を構えながら、アロンダイトに向けて一気に距離を詰めて来る。
『翼を失っちゃったね、じゃあ後は地べたを這いずり回るだけだ』
全てが見透かされ、掌で踊らされていた。あらゆる点で上を行かれ、空中戦の要である推進刃を失った。そんな絶対的な窮地の中で――プルームは笑った。
――団長私ね……凄く嬉しかったんだよ。だって団長はいつも凄く遠くに居て、いつも一人で先に行っちゃうから。だから私を頼ってくれて、一緒に肩を並べられる事が嬉しくてたまらなかったんだ。だから……
白兵戦を仕掛けるアパラージタ、高速の斬撃がアロンダイトに襲い掛かる。しかし、プルームが操作する思念操作式斬竜剣が、連結を解き、空中で交叉した状態でその一撃を受け止めた。
「もう団長の背中は追いかけない、ずっと隣で戦うんだ!」
※
場面は変わる。
ソラとラナの一騎討ちは最終局面を迎えていた。
「な、なな何なの……何なの、この人は! た、ただの蒼衣騎士のくせに何で、こここんなに!」
ソラのカレトヴルッフと戦い合うラナの表情は恐怖に満ち溢れていた。そしてシャムシールの鎧装甲にはおびただしい程に斬撃痕が刻まれていた。
ラナはウルリクムミの右腕部で握った剣を力任せに振り回す。しかし、凄まじい威力を秘める斬撃は全て、カレトヴルッフに受け流されていた。
元々射術騎士であるラナ、魔獣の膂力を得たとはいえ、その無造作な一撃は剣術と呼ぶにはあまりにも拙く、直線的にしか放てないその斬撃を、ソラは既に見切っていたのであった。
そしてソラが使っている剣術は、ベルフェイユ流剣術。以前ルキゥールが見せた防御主体の柔剣術で、柳の如く攻撃を受け流すその技を、ソラは見様見真似で模倣し繰り出していた。
『うああああああっ!』
しかし、ラナは焦りから剣を振り回す以外の選択肢を取れず、より力んだ渾身の振り下ろしをカレトヴルッフへと放つ。
ソラのカレトヴルッフは、その衝撃を下方へと受け流すと、その勢いを利用し回転しながらの右薙ぎを繰り出した。ソラのカレトヴルッフから、逆に渾身の一撃がシャムシールの頸部へと奔る。
だが、その一撃は遮られる。ラナは咄嗟にシャムシールに耐実体結界を張らせたからだ。
するとソラの追撃。ソラのカレトヴルッフはすぐに左前腕部に装着された盾の尖端部分を結界へと突き刺すと、先端部分が左右に開放され、同時に結界が砕け散る。それはカレトヴルッフに備え付けられている盾付属型聖霊騎装の一つ、砕結界式穿開盾の効果である。
結界を破壊され無防備となったシャムシールにカレトヴルッフの横薙ぎが再び奔る。直後、カレトヴルッフは突如シャムシールから発せられた爆炎で吹き飛ばされた。
「ぐうっ!」
爆炎によるダメージで装甲を焦がしながらも、態勢を立て直し、距離を取った状態でシャムシールと向かい合うソラのカレトヴルッフ。
そしてソラは見た。ラナのシャムシールの左腕部から、獅子の顔を持つ魔獣パズズの上半身が出現し、口から炎を噴出させている事に。更に左腕部に出現したパズズが炎の弾丸を連続で放ち、ソラのカレトヴルッフは高速で急旋回しながらそれを躱し続けた。
射術騎士であるラナ、中・遠距離戦こそが真骨頂であり、業火による攻撃が猛威を振るう。
その時、カレトヴルッフの両肩部が開放され、八角形の小さな物体が八基射出されると、ラナのシャムシールの周囲を包囲、飛び交いながら、それぞれ八角形の光の膜を形成させた。
『な、なななんですか……この聖霊騎装は!』
ラナは初見である聖霊騎装に対し、激しく動揺を見せる。
それは空間浮遊式刃力跳弾鏡。アルディリアとの決戦前、跳弾攻撃を行う事を目的として翅音がカレトヴルッフに装備させた聖霊騎装である。
そしてソラのカレトヴルッフは左手に握る刃力弓を構え、光矢を三連射させると、光矢はそれぞれシャムシールの周囲を浮遊する八角形の光の膜に着弾と反射を繰り返し、シャムシールの背部、肩部、腹部に着弾する。
『きゃああああ!』
衝撃に怯み、悲鳴を上げるラナ。しかし雲と闇の聖霊の意思を利用した聖霊騎装である空間浮遊式刃力跳弾鏡は、光属性のソラとカレトヴルッフとは相性が悪く、その攻撃自体は決定打にならない。そう、その攻撃はあくまでも牽制である。
次の瞬間、気付いた時にはラナの目の前に炎を纏った光の奔流が迫っていた。それはカレトヴルッフの炎装式刃力砲による砲撃。
――直撃!
しかしラナは、不可避の一撃を前にして、己の記憶を総動員させた。そして身体を魔獣化させる竜殲術により、とある魔獣の一部を体表に顕現させる。
その魔獣の名はアクーパーラ。ディナイン群島に出現した事のある上位魔獣であり、巨大な亀の姿をしている。
アクーパーラが持つ甲羅は、この世界において最硬の金属でありソードの装甲にも用いられるオルハディウム鉱石すらも凌ぐ硬度を持つという。
ラナの竜殲術は、身体に顕現させる部位の一部が上位の魔獣になればなる程刃力を消費する。そしてこのアクーパーラ―の甲羅の顕現はラナの残存刃力の大半を注ぎ込んだ切り札、まさしく最強の盾であった。
シャムシールの体表に出現した甲羅の盾は、炎を纏った光の奔流を拡散させて弾く。
『ま、まだです……ま、まだ私は!』
次の瞬間、続けざまに体表の甲羅の盾に何かが直撃した。
――これは砲弾!? でもこの盾なら!
それはカレトヴルッフの左腰部に接続され展開する砲身から放たれた、超高速の実弾。土の聖霊の意思により硬化、雷の聖霊の意思により電磁加速され、砲身内部の構造と特殊砲弾による超回転を加えさせた実体砲撃。雷電螺旋加速式投射砲による一撃であった。
『なっ!』
その一撃がシャムシールの装甲に届く筈が無いと確信していたラナは驚愕する。アクーパーラの甲羅に直撃した砲弾は弾かれる事なく超回転をもって、甲羅を削りながら穿通していく。そして遂には甲羅を貫通し、装甲にまで達するかと思われた所で、ようやく停止した。
次の瞬間――
「ハアアアアッ!」
シャムシールとの間合いを突進により瞬時に詰めていたカレトヴルッフからの、渾身の刺突が――砲弾ごとシャムシールの腹部を貫いた。
――シェール君、私は……
その時、ラナの頭の中でかつての記憶が走馬灯のように流れるのだった。
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