199話 アロンダイト対アパラージタ
プルームはアパラージタと即座に距離を空けると、アロンダイトの竜咬式聖霊騎装である思念操作式竜咬刃力弾を起動させた。アロンダイトの両腰に備えられた菱形の筒の前方に紋様が描かれた円状の光陣が出現、そこから無数の光弾が射出された。
「羽ばたけ、思念操作式竜咬刃力弾!」
そして、円状の光陣から射出された無数の光弾は、それぞれが小さな飛竜の形状に変化、プルームの思念に反応し、更には竜殲術“念導”による思念操作の相乗効果により、凄まじい速度でアパラージタの周囲を旋回する。
次々と飛竜の光弾がアパラージタに着弾し、爆煙が巻き起こった。プルームの速攻は、戦闘開始早々にアパラージタへと決まる。しかしあまりの手応えの無さに、プルームは嫌な予感を募らせる。
やがて爆煙が消え去ると、そこには全く損傷した様子の無いアパラージタが浮遊していた。
――嘘でしょ、思念操作式竜咬刃力弾が……全く通用しない!
アロンダイトの切り札とも言える思念操作式竜咬刃力弾が直撃しても、ダメージが全く通らない事に、プルームは愕然とする。
『あれ、もう終わり?』
直後、シェールからの反撃。シェールはアパラージタの竜咬式聖霊騎装、展開式竜咬刃力爪を起動する。副椀の爪の先から、左右五本ずつ光の刃が伸長すると、左右の副椀を無造作に振るった。
「うっ!」
それにより、彼方まで伸長した光の爪が暴れ狂う。それでもプルームのアロンダイトは身を翻しながら、その攻撃を華麗に躱し続けた。
しかし一撃でも直撃すれば間違い無く死。プルームは、回避しながらも背筋を凍らせ続ける。
するとプルームは、攻撃を躱しながら展開式竜咬刃力爪の射程範囲を把握し、更にアパラージタとの距離を空けた。
そして先程思念操作式竜咬刃力弾が全く通用しなかった事を思い返す。
――おかしい……いくらアパラージタが防御力が高い上に、アロンダイトが属性相性で劣るとは言っても、結界も無しに竜咬式聖霊騎装を無傷で受け切るなんて出来る筈が無い。
切り札が全く通用しないという本来であれば絶望的な状況下において、アパラージタの尋常ならざる防御力は、逆にプルームを冷静にさせた。先程の芸当には何かカラクリがある、何をしても通用しないと思わせる為のはったりであると。
また、アロンダイトは雲属性であり空中戦を最も得意とする神剣である。対し、アパラージタは土属性で空中戦を最も不得意とする神剣である。属性相性的に劣るとはいえそれは攻撃を被弾した時のダメージに関係する話であり、こと空中戦においては、アパラージタではアロンダイトには決して追い付く事は出来ない。
プルームはその差を利用し、アパラージタと一定の距離を保ち続けた。展開式竜咬刃力爪の光の爪は白兵戦における武装としては脅威的な射程を誇る恐るべき聖霊騎装であるが、それでも射術騎士の射程には及ばない。
――あの光の爪による攻撃は何度も見た。最大射程は把握してる。
プルームはアパラージタの射程圏外というアドバンテージを利用し、攻める図式を描いた。後は攻撃を通すだけであるが……
「羽ばたけ、思念操作式竜咬刃力弾!」
プルームは、思念操作式竜咬刃力弾による攻撃を再度試みる。飛竜の形状をした光弾が十発、アパラージタの周囲を高速で飛翔しながら、再度アパラージタに次々と直撃していく。
だが、やはりアパラージタに一切の損傷は無く、プルームは考察を開始する。
――やっぱり効いてない。
そして一つの仮定を立てる。
――この尋常じゃない防御力、もしかして刃力攻撃に対して異常に耐性があるんだとしたら。
「なら試してみる価値はあるかも……舞え、思念操作式飛翔刃」
プルームはアロンダイトの両肩部から思念操作式飛翔刃を六基射出させ、思念操作しながらアパラージタを包囲し、飛び交わせた。
刃力攻撃が駄目なら実体攻撃、それがプルームの次なる一手である。
そして、アパラージタの全方位から羽根状の刃が襲い掛かる。次の瞬間、アパラージタの持つ刃力剣の、くの字の形状をした刀身が四つに増え、斬撃で二基斬り払われた。しかし残る四基は斬撃を回避し、アパラージタの関節へと突き刺さった――かに思えた。
装甲の薄い筈の関節にすら刃は通っておらず、未だ無傷のアパラージタ。プルームは思念操作式飛翔刃を破壊される前にアパラージタから離脱させると、両肩部へと収納させ、更に思考を巡らせる。
――さっきと何かが違う?
するとプルームは自分の中に無意識に芽生えた違和感がある事に気付く。と、同時に芽生えた疑問。
――何でシェールは、思念操作式飛翔刃を切り払ったの? 当たってもダメージが無いなら切り払う必要なんてないのに。
直後、プルームはふと、違和感の輪郭を掴み始める。
――刀身が四つに増えてる、レイヴンを切り払う為に攻撃範囲を広げる目的で?
すると、シェールが反撃を開始。左前腕の盾の内側から刃力弓を射出し、アパラージタの左手に握らせると、光矢を五連射させた。
放たれた光矢はアロンダイトの急所に向かい寸分違わず飛来し、プルームは騎体を回旋させながらぎりぎりで全てを躱していく。しかし、白刃騎士である筈のシェールの射術能力の高さにプルームは冷や汗を滲ませる。
――何て精確な射撃、自分の距離だからって気を抜いたら一瞬で撃ち落とされる。
続けてシェールの追撃、アパラージタの両肩部が開放され、内部から追尾式炸裂弾を発射させた。
だが、飛来する無数の炸裂弾に対し今度はプルームが左前腕の盾の内側から思念誘導式刃力弓を抜くと、光矢を連射させ追尾式炸裂弾を次々と撃ち落としてみせた。
「へえ、やるね」
直後、シェールは気付く。自分の側面と上方の死角から二発、光矢が飛来している事に。
プルームは、追尾式炸裂弾を撃ち落としつつ、事前に二発別方向へと光矢を放ち、思念誘導により光矢の発射角度を曲げる事で、死角からアパラージタを狙っていたのだ。
「くっ!」
反応が遅れ、シェールはそれを躱す事は出来ず、光矢がアパラージタへと直撃する。しかし、やはりアパラージタには傷一つ付いておらず無傷を保っていたのだった。
――やっぱり……そうだ。
だが、プルームはとある物を見て確信する。それは一本となったアパラージタの刃力剣の刀身である。そして最初に覚えた違和感の正体がはっきりとする。
それはアパラージタが右手に持つ、くの字の刀身の“斬竜型刃力剣”。大陸浮上後に各神剣に秘かに追加されたというそれは、もう一つの神剣固有の聖霊騎装。
本来、刃力剣は具現化の特性を持つ光、もしくは光を模倣した闇の聖霊の意思を利用して刃を具現化させる聖霊騎装であるが、通常の聖霊騎装とは違い、具現化という現象に大きく力を割いている為、他の属性の聖霊石と組み合わせる事が出来ず、ソードは特殊な能力を持たない通常の刃力剣しか扱えない。
しかし、神剣は核となる大聖霊石から溢れる聖霊の意思の残滓を刃力剣に直接付与させる事で、刃力剣に特殊な力を持たせる事が出来る。
そして神剣の持つ刃力剣は斬竜型刃力剣と区分され、かつて神剣を操刃していた竜殲の七騎士の名が冠されたそれは、竜哮式聖霊騎装と同じく一線を画す力を誇る。
だが、アパラージタの持つ斬竜型刃力剣の能力は一見刀身が増えるだけというものであり、確かに広範囲を斬撃するという意味では効果があるかもしれない。それでも神剣の持つ斬竜型刃力剣の能力としてはあまりにも足りない。
そう、つまり他に何らかの力が隠されているのは明らかであったのだ。
また、プルームは既にその力の正体に辿り着いていた。そしてその能力を打破しアパラージタに損傷を与える為に、思念操作式飛翔刃よりも強力な実体攻撃を仕掛ける必要があった。
プルームはアロンダイトの両腰に備えられた二本の刃力剣を思念操作で抜き放ち、空中で柄同士を連結させ、双刃剣の形状にすると、更にその双刃剣を高速で回転させた。それにより円盤状となって回転を続ける双刃剣に凄まじい切断力がもたらされる。
そして雲の聖霊の意思により思念操作可能な二刀一対の斬竜型刃力剣、その名を――
「斬り裂け、思念操作式斬竜剣!」
プルームの竜殲術“念導”により、思念操作式斬竜剣は空間までをも斬り裂くかと錯覚させる程の超高速回転となりながら、アパラージタへと放たれる。
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