193話 開戦の狼煙
場面は東方進撃部隊。
敵は既に部隊を展開しており、翼羽の予想通り地上部隊は城下町へと配置されていた。そして目前には空翔部隊もまた展開されている。
するとパルナからの伝声。
『東方進撃部隊に報告。現在出陣している敵部隊総数は三百。その内の半数は王城周辺及び城下町に配置、予想通り城下町の民家には生体反応を多数確認。残り半数は空翔部隊としてリデージュ島上空に配置されている。タルワールとシャムシールがそれぞれ同数混在して配置されてる、そして神剣アパラージタの反応は王城直近に確認』
直後、地上及び空翔部隊からの一斉射撃が開始され、タルワールとシャムシールから放たれる炎の光矢と散弾光矢が無数に飛来した。
「全騎散開! 回避しろ!」
翼羽の指示で、全騎が回避行動を取りながら攻撃を躱しつつ前進した。
「よし、こちらも空翔部隊と地上部隊に分かれるぞ」
そして部隊の半数が空中に留まり、残り半数が城下町のある地上へと向かうのだった。
しかし、空翔部隊からの射撃の雨は特に激しく、こちら側の空翔部隊の接近を阻む。更には前衛のシャムシールが既に結界を展開しており、盾の役割をもこなしていた。
出鼻を挫かれるかと思ったその時、翼羽は叢雲の中で一人不敵に笑んだ。
「行けプルーム、開戦の狼煙じゃ、神剣アロンダイトの力を見せつけろ!」
翼羽がプルームに反撃の合図を出した瞬間、プルームの操刃するアロンダイトが更に上空へと舞い上がり両手を広げるような姿勢を取ると、両腰に備えられた菱形の筒のような武装の前方に、紋様が描かれた円状の光陣が出現し、そこから無数の光弾が射出された。
「羽ばたけ、思念操作式竜咬刃力弾!」
そして、円状の光陣から射出された無数の光弾は、それぞれが小さな飛竜の形状に変化すると、プルームの思念に反応して空中を縦横無尽に高速で飛び交いながら、次々と抗刃力結界を展開させるシャムシールに直撃していく。
その聖霊騎装は、各神剣に装備された固有の聖霊騎装であり、竜咬式聖霊騎装と呼ばれる。それぞれが絶大な威力を誇り、七竜王の名が冠されたそれは、正に戦況を一変させる力を持つ。
また、アロンダイトに装備された思念操作式竜咬刃力弾は、光を模倣させた闇の聖霊の意思と、思念操作の特性を持つ雲の聖霊の意思を組み合わせた聖霊騎装であり、極限まで圧縮された刃力の光弾を思念で操作して敵に直撃させる事が出来、思念操作式飛翔刃の刃力攻撃版といっても過言では無いが、その威力は比較にならない。
そして、飛竜の光弾が直撃したシャムシールは五騎。量産剣としてはトップクラスの装甲を持ち、雲属性のアロンダイトの優位属性である。更には刃力を防ぐ効果のある抗刃力結界を展開していながら、その五騎のシャムシール全騎が結界と装甲を貫かれ、空中で爆散した。
『な、何だ……あの騎体は……まさか!?』
アロンダイトの力を目の当たりにし、怯む〈裂砂の爪〉の騎士達。更には一線を画した力を持つ目の前のソードが、自分達の知りうるとある存在である事を確信した。
一方、王城前で待機するシェールに、ラナからの伝声が入る。
『しぇしぇ、シェール師団長!』
「いつもながら慌てた様子でどうしたのラナちゃん?」
『それが、敵のソードの一撃で五騎のシャムシールが落とされました』
「へえ」
『あ、ああああれは……あの騎体は恐らく……し、神剣アロンダイトです!』
それを聞き、シェールは表情を僅かに強張らせた。
「なるほどなるほど、半年前に盗まれたっていう雲の大聖霊石、やっぱりそっち側に行ってたんだね。しかも百年前にエリギウス帝国から消えたっていう雲の神剣アロンダイトまで隠し持ってたなんて」
直後、シェールは再び穏やかな笑みを浮かべながら呟く。
「何はともあれ百六十年ぶりの神剣同士の戦いか、これは歴史的瞬間だね」
そして穏やかな笑みは、すぐに狂気を孕んだ笑みへと変わった。
場面は再び東方進撃部隊。
アロンダイトの攻撃で五騎のシャムシールを撃墜させ、その力を見せつけたプルームであったが、直後翼羽から伝声が入る。
『よし、牽制はこれでいい……一旦下がれプルーム』
「で、でも団長、まだ数は全然減らせてないよ」
『いや、お主は少しでも刃力を温存しろ、後は奴らに任せておけ』
「だけど……シャムシールは凄く厄介だよ、特に地上部隊は攻撃が制限されるし」
シャムシールの手強さを身を持って知っているプルームだからこそ翼羽に食い下がった。自分も翼羽も戦闘に参加していない状態で果たして押し切れるのか、その不安が拭い去れなかったのだ。
「今回はあの時とは違う」
『え?』
しかし、翼羽はそれを払うかのように淀みの無い声で言い切った。
「シャムシールの優位属性である水属性のマインゴーシュもおるし、何よりあやつがおる」
地上へと降り立ったマインゴーシュは、シャムシールに向けて凍結式刃力弓から冷気を纏った光矢を放ち、それを受けたシャムシールの足部や腕部が次々と凍結させられ動きが封じられていく。
そして、身動きが封じられたシャムシールに向け、一騎の白いソードが放たれた矢の如く突撃した。
叢雲の操刃室にて翼羽は口の端を上げながらそっと言う。
「行け……ソラ」
一騎の白いソードとはカレトヴルッフであり、ソラの操刃するカレトヴルッフは敵部隊の放つ光弾を掻い潜りながら、身動きを封じられたシャムシールの懐に入ると、刃力剣を一閃した。
次の瞬間、袈裟掛けに入った亀裂から、両断されたシャムシールの胴がずれ落ちていき、その場で騎体が爆散する。
――斬れた、通じる……俺の剣ならシャムシールを倒せる。
「まだだ!」
続けざま、ソラはもう一騎のシャムシールへと狙いを定め刺突を繰り出すと、その一撃がシャムシールの胴を穿ち、動力を貫かれた騎体を爆散させた。
すると、更にもう一騎のシャムシールがソラのカレトヴルッフに接近し、刃力剣による上段からの振り下ろしを放つも、ソラはそれに反応して斬撃を弾くと、返す刀で真向斬りを繰り出した。
しかし、シャムシールもまたその一撃に反応して防御の姿勢を見せる。直後、カレトヴルッフの刃力剣の刀身が消失し、受け太刀をすり抜けた――瞬間、再度刀身が形成され、無防備なシャムシールを縦に一刀両断した。
幻影剣により両断され、その場で爆散するシャムシール。
「くっ!」
しかし更にその直後、カレトヴルッフに向けて無数の光矢が飛来し、ソラは空中に浮遊しつつその射撃を咄嗟に回避する。
放たれた光矢は、民家を掠め、壁を崩壊させていた。
『出すぎだソラ、一旦戻れ!』
「……了解」
ソラは翼羽の指示で、カレトヴルッフを後方へと下がらせた。
しかし、攻撃手段を限定されながら、近接戦で三騎のシャムシールを撃墜させた、この意味は大きかった。
193話まで読んでいただき本当にありがとうございます。もし作品を少しでも気に入ってもらえたり続きを読みたいと思ってもらえたら
【ブックマークに追加】と↓にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にポチッとしていただけると作者として大変救われます!
どうぞ宜しくお願い致します。