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184話 それぞれの決意

 ランシード島には、巨大な三つ首の犬、地獄の番犬とも称される上位魔獣ケルベロスの死骸と、ケルベロスが使役していた双頭の犬の魔獣、オルトロスの大群の死骸が転がっていた。


 プルームがアロンダイトを駆り、ケルベロスとオルトロスの掃討任務を開始してから僅か数分。ケルベロス達が放つ煉獄のごとき業火の嵐を軽々と回避し続けていたと思えば、反撃によりいつの間にかケルベロスとオルトロスの群れを殲滅していたのだ。


 また、晶板越しに、それを見守っていた翼羽達は唖然としていた。


 プルームがアロンダイトの性能を完璧に引き出し、難なくケルベロスとオルトロスの群れを撃破した事もそうであるが、何よりもアロンダイトの神剣たる力そのものにである。


「ほー、中々良い線いってんじゃねえかプルーム。ランスの奴を彷彿とさせる動き、初めてにしちゃ上出来だ」


 腕を組みながら感心したように呟く翅音(しおん)


「嘘だろ……圧倒的じゃねえか」


「うわあ、ケルベロスもオルトロスもまるで相手にならなかったね」


「姉さん、凄い!」


 プルームの戦いぶりとアロンダイトの性能を目の当たりにし、驚愕混じりの称賛を送るフリューゲル、デゼル、エイラリィ。


「なるほどのう、これが……神剣の力という訳か」


 しかし翼羽は一人浮かない表情をしていた。自陣の神剣の力が強力であれば当然心強い。しかし強力であれば強力である程、その力と同等の力が自分達に降り掛かる事になるからだ。





 琥珀の空域、元王都リデージュ島、本拠地宮殿内の格納庫にて、シェールはとあるソードを見上げながら不敵な笑みを浮かべた。


 そのソードはディナイン群島産である事を示す兜飾り(クレスト)として宝玉を額に埋め込んでおり、黄を基調とし、重騎士さながらの重装甲を持つソード。


 左腰には湾曲した幅広の刀身を出現させる形状の鞘に納められた刃力剣。盾の先端には(はさみ)のような形状をした盾付属型聖霊騎装である捕縛式圧殺牙(ディバウワートゥース)。背部には大きく湾曲した刀身の推進刃が六つ備えられている。


 そして両方の腰に、第三第四の複腕が備えられており、その爪は猛獣か悪魔のそれかのように禍々しく尖っていた。


 ソードの名はアパラージタ。シェールが適合した、土の大聖霊石を核とする神剣であった。


挿絵(By みてみん)


「来てくれるかなヨクハ? ううん君なら必ず来てくれるよね? 信じてる、待ってるから、君が()り潰れる姿を見せてくれるその時を……あぁーー楽しみだなあ、待ち遠しいなあ」


 頬を染め、そう悶えながら呟くシェールの表情は、喜色満面であった。





 ツァリス島、〈寄集(よせあつめ)隻翼(せきよく)〉の聖堂に併設された騎士宿舎。


 シーベットは自室にて、ベッドの上に腰をかけ、シバを抱きしめながら抱いていた疑問を投げかける。


「ねえ、シバさん」


「何だ?」


「今回の防衛戦ではシーベットだけ特別狙われているような感じはしなかった。なら何でこないだは、だんちょーの宿敵の奴とおソラの友達の奴がシーベットを狙って来たんだろ?」


 その問いに、シバは間を空けて返した。


「……はっきりした事は解らないが、単純に量産剣であるスクラマサクスが最も落としやすいから初めに狙ったのかもしれないな」


 するとそれを聞き、頬を膨らませ不満を顕わにするシーベット。


「むっ、シーベットが一番弱いって思われたのか、心外だ!」


 そんなシーベットに抱かれながら、シバは遠い目をし、巻かれた尾を下げていた。





 時は遡り、エルと神鷹が、翼羽、ソラ、シーベット達を襲撃し、帰陣した直後。


 蒼の空域、レイリアーク島の本拠地城塞にて、自室に戻ったエルは、自身に課せられた任務が失敗に終わり、次なる任務を与えられるのを待つ。


 鏡の前でエルが、長い白髪を後ろでまとめ、前髪をピンで止めるとその顔が露わになった。


 人形のように整いながら幼さを残す顔立ち、かつてと同じ宝石のような紅い瞳と、左頬に黒い翼のような痣を持つ少女であった。


 ――すまないソラ、君と再会してから半年、君には何度も酷い事を言ってしまった。でも、私を忘れていいと言った事は本当だ。私はもうすぐオルタナ=ティーバとしての役目を終える。他のオルタナ=ティーバと同じように“彼女”と一つとなり、私の存在は消える。


 エルは自身の左頬、黒翼の痣に触れながら想いを馳せる。


 ――その(きた)るべき日までオルタナ=ティーバという人間を演じ続け、命じられた任務を果たし続ける事が“彼女”から与えられた使命、そして同時に“彼女”から竜祖の血晶を貰い受ける為の条件だった。



 その後エルは、テーブルに座り一人夕食を取った。

エルは、あの日ソラがくれた黒パンで、空腹を満たした時の事をふと思い浮かべながら、その日以来好物となった黒パンをもくもくと齧る。それから夕食を終えると、おもむろに窓の外を見つめる。ゆっくりと舞い落ちる雪が、何故か心に寂寞(せきばく)の想いを募らせた。


 ――君はきっと知らないだろう。君がまだ私を探してくれていた事、君が私を救おうとしてくれていた事、君が私の為に怒ってくれた事……それがどれ程嬉しかったか。


 ――でも私は君に、騎士になどなって欲しくなかった。君と戦いたくなんてなかった。だけど君は何度打ちのめされても、何度も私に立ち向かってきた。他の誰でもない……私の為に。


 ――だから私も君の為に戦い続ける。そして君が歩む未来は、きっと私が守ってみせる。例え他の何に代えても。





 時は現在へと進み、場面はツァリス島。


 誰もいない格納庫、ソラは一人、どこか覚悟を決めたような瞳でカレトヴルッフを見上げていた。


 それぞれの想い、それぞれの願いが交錯し、音も無く無情に進む時に、ただ身を委ねていた。


 琥珀の空域攻略戦まであと四日。



第五章完

第六章に続く

ここまで物語にお付き合い頂き本当にありがとうございます。これにて第五章完となり第六章に続きます。


もし作品を少しでも気に入ってもらえたり、続きを読みたいと思ってもらえたら


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