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176話 龍虎激突

 すると鍔迫り合いを行いながら、シェールが翼羽に伝声を送る。


『あはあ、やっと来たね本命が。待ちくたびれて夢の中に堕ちる五秒前だったよ』


「そうか、なら今からすぐに眠らせてやる」


 翼羽と舌戦をしつつシェールは、翼羽の叢雲が形成させる騎装衣の色をまじまじと見つめた。


『ふーん、本当に蒼衣騎士なんだ……確かラドウィードの騎士とか呼ばれてたよね?』


「だとしたら何だ?」


 その問いに、シェールは口の端を上げてほくそ笑んだ。


『ねえ、何でラドウィードの騎士が廃れていったか分かる? どんなに竜の真似事をしてみても、結局は新しく力に目覚めていく者達を……僕達のような聖衣騎士という壁を越えられなかったからなんだよね』


 すると翼羽は、鍔迫り合いの状態から叢雲の両手の羽刀型刃力剣(スサノオ)を振り切り、シェールのシャムシールを弾き飛ばした。


「それがどうした? 越えられない壁なら、ぶっ壊して押し通る!」


『是非やってみなよ、踏み殺して()り潰してあげるからさ』


 ツァリス島防衛戦開始から約三十分後。遂に叢雲とシャムシール、翼羽とシェールの激闘が開始された。



 一方、部隊を散開し、ツァリス島本拠地を包囲しながら制圧の動きを見せる〈裂砂(れっさ)の爪〉に対し、〈寄集(よせあつめ)隻翼(せきよく)〉の残る六名の騎士達は聖堂周囲に集結して弾幕を張りつつ、敵の進撃を防いでいた。


「何でシーベットまで……シーベットは射撃が苦手なんだ」


「そう言うなシーベット、今単独で前に出ればさすがに囲まれてひとたまりもない」


 不服そうに口を尖らせながら射撃を行うシーベットを、シバが窘めていた。


 そしてシーベットのスクラマサクスは、刃力弓(クスィフ・ドライヴアロー)に連射の特性を持つ風の聖霊石を組み合わせた連射式刃力弓(クスィフ・チェインアロー)で渋々弾幕を張り続けていた。


 また、カナフのタルワールとフリューゲルのパンツァーステッチャーは狙撃式刃力弓(クスィフ・スナイプアロー)で、プルームのカットラスは思念誘導式刃力弓(クスィフ・ディレクションアロー)を使用し弾幕を張り続ける。


 しかし、敵を何とか押し返してはいるものの、抗刃力結界(イノセントスフィア)を張るシャムシールに阻まれ、撃墜させるまでには至らない、このままではジリ貧であるのは確実であった。


「ちいっ、刃力型の聖霊騎装では敵の結界を破れん、実体型の聖霊騎装を放てる奴は残っていないのか?」


 カナフが舌打ちをしながらこの状況を打破出来る糸口を探していた。


『俺はさっきのでもう追尾式炸裂弾(アーティファクト)を使い切った、カナフのおっさんもだろ?』  


「ああ。クロフォード姉とニヤラはどうだ?」


『私は思念操作式飛翔刃(レイヴン)があと四基だよ』

『シーベットは射出式斬戦輪(スラッシュフルムーン)が六発だ』


『でもカナフさん、私とシーベットの攻撃じゃ、あのソードには決定打にならないよ』


 それを聞きカナフが咄嗟に戦術を組み立てる。


「よし、クロフォード姉とニヤラはそれを使ってそれぞれ敵の両目や刃力核直結式聖霊騎装を優先的に潰せ」


『ふえぇっ、め、目を?』


 ソードの双眸は人のそれと同じで視覚中枢であり、失えば外部の映像は遮断される。また、今敵の攻撃で最も脅威となるのは刃力核直結式聖霊騎装である。携帯型聖霊騎装の攻撃ならばある程度は凌ぐことは出来る。そして、敵を撃墜させる事が出来なくても敵の手数を減らす事で時間を稼ぐ。それがカナフの提案した作戦であった。


 カナフは既に敵の殲滅を諦めていた。カナフの作戦は、出来るだけ時間を稼ぎ敵の撤退を待つ。即ち、翼羽のシェール撃破に賭ける事であった。


 カナフの狙いを察知し、プルームとシーベットが攻撃を開始する。


『舞え、思念操作式飛翔刃(レイヴン)!』


 プルームは両肩部を開放し、一旦収めていた思念操作式飛翔刃(レイヴン)を四基射出させた。


『避けるんじゃないぞ』


 シーベットもまた両肩部を開放させ、風の聖霊の意思により高速回転し切断力を高めさせた輪状の刃、射出式斬戦輪(スラッシュフルムーン)を左右の肩から一発ずつ、計二発射出させた


 その攻撃により、思念操作式飛翔刃(レイヴン)が二器のシャムシールの双眸を潰し、射出式斬戦輪(スラッシュフルムーン)が一騎のシャムシールの散開式刃力砲(クスィフ・ディスパーションカノン)の砲身を破壊する事に成功する。


「よし、そのまま攻撃を続けろ! 少しでも敵の攻撃の手を緩めさせるんだ」


 カナフの指示で、プルームとシーベットは引き続き、シャムシールの双眸目掛けて攻撃を開始する。



 ツァリス島の上空では、二つの閃光が螺旋を描き、光の線を引きながら激しい火花を散らしていた。


 幾度となく激突する刃と刃、幾重にも奔る剣閃と剣閃。翼羽の叢雲とシェールのシャムシールはほぼ互角の戦いを繰り広げ続ける。


 それでも、翼羽は悔しさを顕わにするように歯を軋ませた。


 ――憑閃(つきかがや)を使用した状態の斬撃でも刀身を切断出来ない。ルキ並みの(さば)き、しかも幻影剣を使う為の隙も見せない。さすがは三殊の神騎といったところか。


「なら!」


 翼羽はシェールのシャムシールと距離を取り、両手の羽刀型刃力剣(スサノオ)を交差させて深く構えた。次の瞬間、斬撃と共に羽刀型刃力剣(スサノオ)から交叉状の光の刃を放つ翼羽。


都牟羽(つむは) 壱式 飛閃(ひせん)連刃(れんじん)!」


 するとシェールはシャムシールの左腕の盾でそれを遮り、咄嗟に防ぐ――しかしその一撃により盾が切断され四散した。とはいえ、切断されたのは盾のみで本体に損傷を与える事は出来なかった。


 次の瞬間、叢雲の四方から無数の光矢が飛来し、翼羽は推進器を左右に急噴射させ騎体に回避行動を取らせて躱した。


「ちっ!」


 翼羽がシェールのシャムシールに苦戦するのは、シェールの実力も勿論だが、条件があまりにも不利である事もその理由であった。


 カナフ達の連携攻撃で突破口を開いてもらったとはいえ、ツァリス島制圧を狙う部隊とは別の部隊がシェールの周囲にはまだまだ多く存在しており、実質は多対一であったのだ。更には――


 ――シェールへの誤射も厭わず打ち込んでくる。あの量産剣の装甲の厚さが成せる技か。


 すると直後、シェールから翼羽に伝声。


『大将騎同士の一騎討ち、浪漫溢れる響きだけど僕はそういうの興味無いから、勝つ為なら何でもやらせてもらうからね』


 シェールと、複数のシャムシールを相手に激闘を繰り広げる翼羽であったが、味方の限界は刻一刻と迫っていた。


『戦況報告、敵部隊、残り七十五騎。現在翼羽団長を除く六名はツァリス島周囲に集結し敵部隊に応戦中。何とか食らい付いてるけど皆残存刃力残り僅か、このままじゃ押し込まれるのも時間の問題よ』


 翼羽は、戦況を知らせるパルナの伝声を聞き焦りを滲ませる。


 ――これ以上長引けば他の皆がもたない……萠刃力呼応式殲滅形態(クサナギノツルギ)を使うしか。


 萠刃力(ほうじんりょく)と呼ばれる体内で開花したばかりの刃力を糧にして一時的に騎体性能を飛躍的に上昇させる叢雲の切札的器能、萠刃力呼応式殲滅形態(クサナギノツルギ)の使用を考慮する翼羽であったが、すぐにそれを否定した。


 ――いや駄目だ、萠刃力呼応式殲滅形態(クサナギノツルギ)を起動させる為に(めつ)附霊式(ふれいしき)を使えば私は暫くソードを操刃する為の刃力が回復しなくなる。そうなれば今回のように居場所の割れたツァリス島に新たな襲撃があった場合もう抑えられない。でもそうも言ってられない、それともやっぱりプルームの言っていた通りアロンダイトを使うべきだった? ……って今そんな事考えてる場合じゃない!


 再びシェールのシャムシールと斬り結びながら、精神的に追い込まれ始めた翼羽は思考を巡らせるだけに留まらず、頭の中には僅かな後悔まで浮上していた。その雑念や動揺は完全な無を必須とする竜域をいつの間にか解除させてしまっていた。


 するとシェールは気付く、翼羽の叢雲の動きに精細さが欠け始めた事を。


『おやおやあ、何か動き悪くなってない? もしかして今チャンスだったりする?』


 シェールは翼羽の動きが本領で無い事に気付くや否や、竜殲術を発動させた。シェールと、シェールのシャムシールの額に剣の紋章が輝く。


 すると、シェールのシャムシールは叢雲に向けて左掌を向けた。


「なっ!」


 次の瞬間、叢雲の動きが突然停止する。


176話まで読んでいただき本当にありがとうございます。


ブックマークしてくれた方、評価してくれた方、いつもいいねしてくれてる方、本当に本当に救われております。


誤字報告も大変助かります。これからも宜しくお願いします。

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