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175話 第三騎士師団〈裂砂の爪〉

『へえ、今ので誰も死んでないなんてやるなあ』


 感心したようなシェールの声に、翼羽は歯を軋ませた。


「やってくれたな、この借りは返すぞ」


『あはあ、待ってるよ』


 直後、翼羽は味方全器に対し指示を出す。


 フリューゲル、カナフの二人は刃力を温存しつつ狙撃式刃力弓(クスィフ・スナイプアロー)で牽制を続け、抗刃力結界(イノセントスフィア)を装備している騎体は自分とプルームとシーベットで殲滅する。エイラリィはフリューゲルとカナフへの刃力補給を優先、デゼルは再び敵の砲撃に備えろ、と。


 するとその指示に対し、進言するフリューゲル。


『団長、もう一度俺とエイラリィで連携させてくれ、次は必ずシェールの野郎を射殺(いころ)してみせる』


「駄目だ」


 しかし、間髪入れず翼羽はそれを振り払った。


『……んでだよ!』


「お前は既に刃力核直結式を三発撃っている。これ以上刃力を無駄にし、お前が戦えなくなれば狙撃点を一つ失う。そうなったらこの戦力差をひっくり返すのは不可能だ」


『……ちっ、わかったよ!』


 翼羽に諭され、フリューゲルはあくまでも牽制と援護に徹する狙撃を行う事を了承する。


「覚えておけ、強くなければ意地を通す事も、我が儘を通す事も、信念を貫き通す事も出来ない。私は通させてもらうぞ、シェール=ガルティは私が討つ!」


 すると翼羽は、叢雲の両腰から羽刀型刃力剣(スサノオ)を抜き、二刀流となると、無数のシャムシールに向かって突撃した。


 それを見てスクラマサクスで続くシーベットと、カットラスに思念操作式飛翔刃(レイヴン)を射出させるプルーム。


 そして翼羽の叢雲が一器のシャムシールに高速で接近し、擦れ違いざまに腹部を一閃した。


「ちっ、浅いか」


 しかし、叢雲は雲属性であり土属性であるシャムシールは相性が悪い、しかもシャムシールは量産剣の中では特に堅牢な装甲を誇っている為、その一撃は決定打にならず、シャムシールを撃墜させるまでには至っていなかったのだ。


 一方、シーベットのスクラマサクスもシャムシールの頸部を一閃し、プルームの思念操作式飛翔刃(レイヴン)も別のシャムシールの腹部に直撃するが、風属性のスクラマサクスとカットラスもまた劣位属性である為、致命傷を与えられずにいた。


 しかも――


 一騎のシャムシールが刃力剣(クスィフ・ブレイド)を抜き、シーベットのスクラマサクスに斬りかかる。スクラマサクスはそれを逆手持ちの刃力剣(クスィフ・ブレイド)でいなし、続けざま反撃の横薙ぎ。するとシャムシールはそれを左手の甲に装着され盾で受け止めた後、両肩部を開放し、追尾式炸裂弾(アーティファクト)を発射。シーベットは咄嗟に騎体を急降下させて回避した。


「ハアッハアッハアッ!」


 プルームは竜殲術〈念導(みちびくもの)〉を発動させ、思念操作式飛翔刃(レイヴン)を急後退、急降下、旋回、交差、転回を繰り返させ、残像を残す程の高速かつ複雑無比な動きを繰り広げさせた。だが複数のシャムシールが一斉に散開式刃力弓(クスィフ・ショットアロー)を抜くと、散弾光矢を放ち、広範囲攻撃にて思念操作式飛翔刃(レイヴン)を一つ、また一つと撃ち落としていく。


「私が全力で操る思念操作式飛翔刃(レイヴン)が……見切られてる」


 その光景を流し見ながら、翼羽は現在の戦況を把握すると咄嗟に刃力剣(クスィフ・ブレイド)に刃力を集中させた。そしてそれにより刀身が光輝く。


「……都牟羽(つむは) 零式(ぜろしき) 憑閃(つきかがや)


 更に叢雲を高速で飛翔させながらスクラマサクスの周囲のシャムシール、カットラスの周囲のシャムシールに無数の斬撃を奔らせた。


 憑閃(つきかがや)により圧倒的に増した切断力は、属性の優劣を無関係にして騎体の胴を断つ。


 瞬時に三騎のシャムシールを撃墜させた翼羽であったが、その表情は険しかった。


 ――雑兵に憑閃(つきかがや)を使わされた。新型量産剣の性能、そして一人一人の騎士の強さ……これが第三騎士師団〈裂砂(れっさ)の爪〉か。


 想定以上の苦戦、敵の強さに、翼羽は苦笑する。


 そして向かってきた二騎のシャムシールと同時に斬り結びながら、戦場を見渡し、厳しい戦況を前に思考を巡らせた。


 ――圧倒的な数の差、しかも敵は雑魚じゃない。長期戦になればなるほど不利になる。この状況を打破するには敵将……つまりシェール=ガルティを討ち取るしかない。だが私が敵陣に突っ込めば、この前線は突破される、そうなれば皆を守り切れない。


「せめてあと一人、頼りになる白刃騎士でもいれば状況は違ったんだが」


 そうして翼羽が嘆息と共に呟いたと同時、複数のシャムシールが刃力核直結式聖霊騎装の砲身を展開させた。


「まずい!」


 散開式刃力砲(クスィフ・ディスパーションカノン)による一斉砲撃。それを許せば甚大な被害は免れない、そう考えた翼羽が刃力の消耗を無視して参式 閃空を放とうとした次の瞬間。


 攻撃に転じる為に抗刃力結界(イノセントスフィア)を解除したシャムシールの頭部を稲妻の矢が精確に射抜いた。それはフリューゲルとカナフによる精密狙撃によるものであった。それにより制御を失い落下していくニ騎のシャムシール。


 更に、プルームの操る二基の思念操作式飛翔刃(レイヴン)が、散開式刃力砲(クスィフ・ディスパーションカノン)の砲口に入り込み、刃力が収束された砲身を貫いて誘爆させた。それによる爆発で二器のシャムシールの装甲が崩壊、そして続けざま、シーベットのスクラマサクスが刃力剣(クスィフ・ブレイド)により半壊したシャムシールの腹部を貫き、撃墜させていく。


「お前達……」


 自分が指示するよりも先に、瞬時の判断で危機を脱した〈寄集(よせあつめ)隻翼(せきよく)〉の騎士達に、翼羽は改めて頼もしさを覚えるのだった。


 しかし、思わぬ反撃を受けた事で、〈裂砂(れっさ)の爪〉の騎士達が駆るシャムシールは散開し、島を包囲するように接近を試みる。こうなっては敵の突破を防ぐのは不可能だ。


 だが逆に、シェールが駆るシャムシールまでの道が僅かに開けていた。


『こっちは何とかするから任せて団長!』


 直後、翼羽にプルームからの伝声が入る。


「プルーム……だが」


『何渋ってんだ、シェールはあんたが倒すっつったろ?』


 更にはフリューゲルからもだ。


「…………」


 二人から後押しされ、翼羽はシェールの駆るシャムシールに視線を向ける。しかしそこには未だ二十騎近いシャムシールが道を塞いでおり、強硬突破するには厳しい状況であった。


『心配するな、突破口はこちらで作る』


 カナフからそう伝声が入った直後、カナフのタルワールとフリューゲルのパンツァーステッチャーの両肩部が開放され、内部から追尾式炸裂弾(アーティファクト)を全弾射出した。


 二騎のソードによる追尾式炸裂弾(アーティファクト)全弾発射。その弾数は数十発に上り、炸裂弾が空中に無数の航跡を描きながらシャムシールに飛来する。


 とはいえ手練れの騎士ならば追尾式炸裂弾(アーティファクト)を撃ち落とす技術を持っている者は多く、特に攻撃範囲と命中率に優れる散開式刃力弓(クスィフ・ショットアロー)を持つシャムシールを操刃しているのであれば尚更である。


 だが次の瞬間、プルームとプルームのカットラスの額に剣の紋章が輝くと同時、〈念導(みちびくもの)〉の能力で発射された追尾式炸裂弾(アーティファクト)が操作され、まるで思念操作式飛翔刃(レイヴン)を彷彿させるかのように敵の周囲を駆け、敵に全包囲から襲い掛かった。


 追尾式炸裂弾(アーティファクト)の予想外の動きは、〈裂砂(れっさ)の爪〉の騎士達の先読み能力を超え、次々とシャムシールに直撃し撃墜させていく。


 しかし、カットラスの中で鼻出血をさせ、疲弊したように肩で息をするプルーム。他者の刃力が込められた聖霊騎装を操るのは自身のそれをするよりも遥かに脳に負担がかかり、更には数十発の追尾式炸裂弾(アーティファクト)を同時に操作するという行為もまたその負担を加速させていた。正に肉を切らせて骨を断つを体現するプルームの離れ業であった。


 やがて追尾式炸裂弾(アーティファクト)の爆裂と、シャムシールの爆散による煙が晴れる、そこにはシェールが駆るシャムシールまでの道が確かに開かれていた。


「よくやった、後は任せろ!」


 翼羽は叢雲の推進刃からの刃力放出を最大にさせ、最高速で真っ直ぐに、最短にシェールの元へと突撃する。


 そして遂に――


 シェールの駆るシャムシールが刃力剣(クスィフ・ブレイド)を抜き、翼羽の駆る叢雲の羽刀型刃力剣(スサノオ)と刃を交わせた。

175話まで読んでいただき本当にありがとうございます。


ブックマークしてくれた方、評価してくれた方、いつもいいねしてくれてる方、本当に本当に救われております。


誤字報告も大変助かります。これからも宜しくお願いします。

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