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165話 百六十年の時を越えて

『最近台頭してきた騎士団〈寄集(よせあつめ)隻翼(せきよく)〉、そしてオルタナがその団長であるというヨクハ=ホウリュウインという名の騎士と戦ったと聞いていたが……やはりお前だったのだな、鳳龍院 翼羽』


「久しいな、そして老いたな……神鷹(じんおう)


 鳳龍院家と天花寺(てんげいじ)家の決戦から百六十年の時を経て相対する翼羽と神鷹(じんおう)、それは正に運命の邂逅であった。


『ふん、世界に残り僅かとなった竜祖の血晶を手に入れるのに手間取ってな、不老の力を手にしたのは俺が齢七十を越えた後だ。だが約束通りエリギウスの騎士としてお前を待っていた』


 己の大切な者、己の大切な場所を奪った因縁の相手、しかし翼羽はそれを前にして意外にも冷静であった。


「ほう、その割にはわしではなく別の標的を狙っていたようにしか見えんかったがな」


 その指摘に、タカ改め神鷹(じんおう)は口を噤む。


「どうやら図星のようじゃな、理由は解らんが……」


 すると、翼羽は両目を深く瞑り、一気に開眼させた。そしてその眼の瞳孔は縦に割れ、竜の如く変貌を遂げる。


「私の騎士団――家族を狙うというのなら、誰であろうと全霊を以って叩き潰す!」

 

 晶板越しに翼羽が竜域に入ったのを確認し、更にはその眼光、その気迫から神鷹(じんおう)はかつて戦った青天目(なばため) (れい)の姿を翼羽に重ねた。


「あの時の取るに足らんただの小娘が、青天目(なばため) (れい)の領域にまで辿り着いたというのか――」


 神鷹(じんおう)布都御魂(ふつのみたま)は、再度斬馬羽刀型刃力剣(タケミカヅチ)を構え直し、叢雲へと斬り掛かる。再び激突する剣と剣。


 直後、鍔迫り合いの状態から繰り出された叢雲からの横蹴りで布都御魂(ふつのみたま)が吹き飛ぶ。更にそこへ追撃、叢雲が斬撃と共に放った光の刃が布都御魂(ふつのみたま)へと飛来した。


 神鷹(じんおう)はそれを騎体を急上昇させ咄嗟に回避、しかし上方へは既に叢雲が回り込んでおり、更なる追撃の真向斬りが布都御魂(ふつのみたま)へと襲い掛かる。


「ぐうっ!」


 その衝撃を受け止め切れず、神鷹(じんおう)布都御魂(ふつのみたま)は体制を崩しながら再度下方へと吹き飛ばされる。


 すると神鷹(じんおう)は騎体を回転させながら勢いを受け流しつつ、空中制動させると叢雲へと向き直り視線を戻した――筈だった。


(はや)い!」


 しかし、そこに居る筈の叢雲の姿は無く、後方から感じる悪寒。


 神鷹(じんおう)はすぐさま推進器を急噴射させ、右方へと回避行動を取らせた。直後、自身の騎体の脇を超速の閃光の矢が通り過ぎ、彼方の雲を穿った。


 振り返り、今度こそその視界に翼羽の叢雲を捉える神鷹(じんおう)。突きを放ったであろう姿勢の叢雲がそこには居た。


『……都牟羽(つむは) 弐式(にしき) 靁閃(らいせん)


 すると、叢雲はすぐに構えを(かすみ)へと変え、推進器からの刃力放出を最大にし、一息に布都御魂(ふつのみたま)との間合いを殺した。


 翼羽の叢雲の勢いは止まらない。叢雲から繰り出される無数の流星の如き連続斬撃、だが神鷹(じんおう)布都御魂(ふつのみたま)は、長尺の斬馬羽刀型刃力剣(タケミカヅチ)を用いそれらを巧みに捌いていく。


 そして連続斬撃の間隙を突き、ようやく神鷹(じんおう)の反撃。布都御魂(ふつのみたま)が瞬速の胴薙ぎを繰り出し、叢雲の胴を狙う。


 叢雲はそれを羽刀型刃力剣(スサノオ)で遮るような構えを取る――次の瞬間、斬撃が軌道を変化させ、叢雲の双眸に向けて(はし)った。


春花(しゅんか) 哭文目(なきあやめ)


 だがその一撃は叢雲には届かない。翼羽は瞬時に叢雲の右腰から二本目の羽刀型刃力剣(スサノオ)を抜き、左手に握ったそれで神鷹(じんおう)の放った技を防いでいた。


「……やるな、だが!」


 すると、神鷹(じんおう)布都御魂(ふつのみたま)の額に剣の紋章が輝き、竜殲術〈祇眼(くにつかみのまなざし)〉を発動させる。至近距離で交わる布都御魂(ふつのみたま)と叢雲の視線。瞬間、叢雲の動きが停止した。


 〈祇眼(くにつかみのまなざし)〉は視線を合わせた相手を意のままに操る恐るべき竜殲術。その効力は視線を合わせた時間、対象の刃力量、そして精神力(・・・)が影響する。


「な……に!」


 直後神鷹(じんおう)は驚愕した。叢雲が何事も無かったように停止した動きを再開させたからだ。動きを止められたのは刹那にも満たない一瞬。零ですら術が発動すれば数秒は動きを止められていた。だからこそ零は決して騎体同士が視線を合わせないように、騎体の頭部の角度を調節しながら戦っていた。


 しかし、翼羽は術にかかりながら尚、それをものともしなかったのだ。


 視線を合わせた時間は一瞬とはいえ、翼羽の刃力量は常人よりも少ない。であるとするならばそれを可能としたのは、百六十年もの間ただひたすらに敗北し続けながらも折れなかった、執念という名の精神力である。


「くっ!」


 かかった筈の術をすぐに外され、神鷹(じんおう)は苦し紛れにも似た攻撃を放った。


 叢雲に背を向け、翻した光の騎装衣で翼羽の視界を奪う。続けて神鷹(じんおう)は叢雲に背を向けたまま、布都御魂(ふつのみたま)の騎装衣越しに後方へ向けて突きを繰り出す。


夏花(かか) 虚鬼灯(うつろほおずき)


 だが、その一撃を叢雲は交叉させた二本の羽刀型刃力剣(スサノオ)で受け止めていた。


『……(のろ)いな』


「ちいっ!」


 神鷹(じんおう)は紛れも無く圧倒されていた。防御に回れば防戦一方、攻撃に回っても尽く通じない。そんな神鷹(じんおう)に、翼羽からの伝声が入る。


鏖威天花寺(おういてんげいじ)流の剣技も、貴様の竜殲術も、タネが割れれば曲芸も同然、恐るるに足りない』


「くっ……ならば」


 直後、布都御魂(ふつのみたま)の両肩部が開放され、内部から追尾式炸裂弾(アーティファクト)が発射され、無数の炸裂弾が空中に航跡を描きながら叢雲へと飛来する。


『無駄だ!』


 すると、炸裂弾に閃光が幾重にも奔り、炎と雷の意思が詰められた弾頭部分だけが切断され、空中で爆散した弾頭が激しい爆煙を巻き起こす。


 しかし神鷹(じんおう)追尾式炸裂弾(アーティファクト)を放ったのは攻撃の為では無く、牽制……隙を作り、時間を稼ぐ為である。


 神鷹(じんおう)は操刃室の中で斬馬羽刀(ざんばわとう)を鞘から僅かに抜き、その刀身に映る自分の眼を見た。更に、布都御魂(ふつのみたま)は左前腕部の盾を自身の目の前に掲げると、布都御魂(ふつのみたま)の眼がそこへ映る。続いて、神鷹(じんおう)布都御魂(ふつのみたま)の額に剣の紋章が輝いた。


『痛みを捨てろ、制御を捨てろ……殺せ、壊せ……我が敵を蹂躙しろ!』


 それは神鷹(じんおう)の切札。〈祇眼(くにつかみのまなざし)〉を使用して自身と自身の騎体の制御を外し、限界以上の力を引き出す奥の手であった。


「こおおおおおおおっ!」


 真の力が引き出された布都御魂(ふつのみたま)斬馬羽刀型刃力剣(タケミカヅチ)を正眼に構える。

 

「ここからが本番という訳か……だが」


 凄まじい威圧感を前にしながら、翼羽の中に在ったのは無意識な違和感であった。

165話まで読んでいただき本当にありがとうございます。もし作品を少しでも気に入ってもらえたり続きを読みたいと思ってもらえたら


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どうぞ宜しくお願い致します。


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