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164話 刃交えるは叢雲と布都御魂

 その後、玉座の間へと戻った四人。するとアルテーリエはルキゥールと翼羽に向かって頭を下げながら言う。


「すまないルキゥール殿、翼羽ちゃん。未熟な私の力が及ばなかったばかりにせっかくの機会を無駄にしてしまった」


 そんなアルテーリエの元に、翼羽は歩み寄り肩に手を置いて返した。


「気を落とすなアルテ、こればかりは仕方が無い。純潔の契は運も含め様々な要素が絡まり適合するかが決まると聞く。お主は決して未熟などではない」


 そして翼羽に優しい慰めの言葉をかけられ、アルテーリエに我慢していた感情が込み上げる。


「翼羽……ちゃん……わたし……わたし!」


 堰を切ったように嗚咽するアルテーリエ。そんなアルテーリエの髪を翼羽はまるで子供をあやすように優しく撫でていた。

 

 こうして、今回の純潔の契は失敗に終わったのだった。



 それから――炎の大聖霊石はこのままレファノスで管理しておくこととなり、そしていつか炎を守護聖霊に持つ聖衣騎士が現れた時、再び純血の契を行うことで三者は合意した。


 ルキゥールは、その日が来るまで、炎の大聖霊石もデュランダルも必ず自分が死守すると意気込む。アルテーリエもまた、自国にて炎を守護聖霊に持つ銀衣騎士を育成し、いつか聖衣騎士へと覚醒出来るよう尽力すると誓う。


 翼羽はルキゥールに炎の大聖霊石を託すと、ソラと共に玉座の間を後にした。そしてアルテーリエもまた、新たな決意と共にメルグレインへと帰っていくのだった。




 

 それから、ソラと翼羽が、格納庫で待機していたシーベットと合流し、セリアスベル島を出発してから約一時間。


 ソラはふと純血の契失敗の件を蒸し返す。


「それにしても、アルテーリエ様ショックだっただろうな」


 そんなソラに『急にどうした?』と、翼羽が問う。


「いや俺も昔アロンダイトで純血の契失敗を味わってるから他人事とは思えなくて、あの何ともいえない虚しさは味わった者じゃないと解らないんだよね」


『……はなから成功する確率0だったお主と一緒にするでない』


 辛辣に言い放つ翼羽の言葉に、ソラに嫌な思い出が蘇る。


「そういえば団長が俺の事騙したせいで俺、雲の大聖霊石取られて、そのせいで俺今ここで――こうやって……」


 言いながらソラは突如湧き上がった怒りがすぐに消え去ったのを感じた。不思議だった。そして自分でもその原因が何なのかはっきりと解らずにいた。


『おソラ、さっきから何を騒いでるんだ?』


 すると、ソラと翼羽とのやり取りを聞いていたシーベットが、ソラに伝声する。


「あ……いやあ、アルテーリエ様がデュランダルに適合しなかった件を話題に出したら色々と昔の事思い出したりして」


 対し、適当にお茶を濁すように返すソラ。直後、シバがスクラマサクスの伝声器越しに割って入る。


『ふむ、まあ正確に言えばアルテーリエ殿は神剣に適合しなかった訳ではなく大聖霊に適合しなかったのだ』


「え?」


 純血の契とは、とどのつまり大聖霊石に己の血を捧げ、大聖霊に認められたかどうかを神剣を通して判別する為の儀なのだとシバは語った。


「まあ言われてみれば確かに神剣って結局人が造ったものだもんな……でも、それにしても何でアルテーリエ様は炎を守護聖霊に持つ聖衣騎士なのに炎の大聖霊に認められなかったんだろう?」


 そう不思議そうにソラが尋ねると、シバは続けて淡々と返す。大聖霊は、自分と同じ属性の聖衣騎士であれば誰でも認めるという訳ではない。大聖霊にも好みがある。その者が歩んで来た道、その者の本質、その者の力の質、所有する竜殲術……己との相性が合致する騎士を大聖霊は選び力を貸すのだと。

 

 そんなシバの解説を聞き、感心するソラ。


「へー、何か色々と詳しいっすねシバさん」


『……ふっ、私はこれでも聖霊獣のはしくれなのでな』


 その時、突如パルナから緊急の伝声が入る。


『そっちに高速で接近中の騎影を確認、騎体数は二。騎体識別信号はエリギウス帝国のものよ、現在所属及び騎体銘を照合中』


「今頃になって敵襲? 大聖霊石はもう持ってないんだけどなあ」


 それを聞き、大きく溜め息を吐きながら、避けることが出来たと思っていた戦闘が目前に迫っているのを悟るソラ。



 ーー確かに襲撃される可能性があるとは言ったけど、これは私達が大聖霊石を所持していると思ってのものなの?


 突如襲来する敵影、その目的を考察するように翼羽は呟いたが、すぐに雑念を払い臨戦態勢を取った。


「どこのどいつかは知らんが敵のソードは二騎、このままツァリス島に連れ帰る訳にもいかん、ここで迎え撃つぞ!」


 叢雲を制動させ、腰の鞘から羽刀型刃力剣(スサノオ)を抜かせて構える翼羽。


『しっかりつかまっててねシバさん』


『承知した』


 シーベットもまた、スクラマサクスの腰から刃力剣(クスィフ・ブレイド)を抜かせて臨戦態勢を取る。



「はあ、やっぱり結局こうなるのか」


 そしてソラも、渋々といった様子でカレトヴルッフに刃力剣(クスィフ・ブレイド)を抜かせて構えるのだった。すると、三人にパルナからの続報の伝声が入る。


『所属及び騎体照合完了したわよ、所属は第十一騎士師団〈灼黎(しゃくれい)(まなこ)〉、騎体名は……布都御魂(ふつのみたま)及びネイリング!』


 それを聞き、翼羽とソラの表情が一瞬の内に強張った。


 直後、金色の騎装衣を翻す二騎のソードがソラ達の視界に現れる。一騎は大きな三日月状の鍬形(くわがた)兜飾り(クレスト)として額に着けた紫色の宝剣、布都御魂(ふつのみたま)であり、もう一騎は馬の尾のような羽根の兜飾り(クレスト)を後頭部に着けた真紅の宝剣ネイリングである。


 布都御魂(ふつのみたま)とネイリングは凄まじい速度で距離を詰めると、一気に間合いを殺し、二騎同時に――シーベットのスクラマサクスへと斬り掛かった。


 しかし、布都御魂(ふつのみたま)の一撃は翼羽の叢雲が受け止め、布都御魂(ふつのみたま)斬馬羽刀型刃力剣(タケミカヅチ)と叢雲の羽刀型刃力剣(スサノオ)が交差する。


 そして、ネイリングの一撃はソラのカレトヴルッフが受け止め、ネイリングの羽刀型刃力剣(スサノオ)とカレトヴルッフの刃力剣(クスィフ・ブレイド)が交差していた。


「むむっ、だんちょーはともかくとしてシーベットがおソラに庇われるなんて!」


 自分を狙った一撃をソラが遮っている事に気付いたシーベットは、悔しそうに頬を膨らませて漏らした。


 次の瞬間、シーベットに翼羽から伝声が入る。


『シーベット、どういう訳か分らんがこの二騎の狙いはお主のようじゃ』


「……なんと!」


『この二騎はわしとソラが食い止める。シーベット、お主は本拠地に帰陣しろ!』


 その指示に、シーベットは不満げに返す。


「でもだんちょー、向こうは二騎だからこっちは三器いた方が有利だぞ」


『確かにお主の言う通りじゃ……だがすまん、わしはこやつと差しで話をしなくてはならん、ソラの方も恐らく同じ気持ちの筈じゃ、ここはわしらの気持ちを汲んではくれぬか?』


「……わかったよだんちょー、シーベットは空気の読める子だ」


 懇願するような翼羽の言葉に、シーベットは渋々と納得した。そして撤退する為に、敵騎に背を向けツァリス島に向けて騎体を全速で推進させる。


「怪我しないで帰ってくるんだぞだんちょー、あとついでにおソラ」


 直後、布都御魂(ふつのみたま)が鍔迫り合いの状態から叢雲を押し弾き、シーベットのスクラマサクスを追う。しかし叢雲はそれを許さず、すぐさま布都御魂(ふつのみたま)に追いつくと斬りかかり、その一撃を受け止める布都御魂(ふつのみたま)、再度鍔迫り合いの状態となった。


 その隙にシーベットのスクラマサクスはその場から離脱し、姿は彼方へと消えていく。


 すると、布都御魂(ふつのみたま)から翼羽の叢雲に向け相互伝声と相互伝影が送られ、翼羽はそれを許可した。


 翼羽の目の前の晶板に映し出される〈灼黎(しゃくれい)(まなこ)〉師団長タカ=テンゲイジの顔、そしてーー

164話まで読んでいただき本当にありがとうございます。もし作品を少しでも気に入ってもらえたり続きを読みたいと思ってもらえたら


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どうぞ宜しくお願い致します。

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