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161話 姐さんと先生

 それから二か月。


 俺はシオンに言われるがまま聖堂の土台を作り続けた。


「おいルキ、シャキッと働け!」


「くそっ、何で俺がこんなこと」


 その他にも、飯炊きや風呂焚き、掃除に洗濯、あらゆる雑用をやらされ、俺にはもはや王族……いや元王族としてのプライドは残されていなかった。


 それでも俺はヨクハにリベンジすべく、何度も何度も手合わせを挑み続けた。



「また来たの? 懲りないなあルキは」


「うるせえ、勝負だヨクハ! 今日こそ泣かす」


 だが圧倒的な実力差が覆る筈も無く、俺は辛酸を舐め続けた。


 それでもこの島から脱出しようとしなかったのは、そんなヨクハですら勝てない相手がいると知ったからだ。


 俺が手も足も出ないヨクハが手も足も出ないシオン。自分が知った気になってた世界より遥かに広い世界。なら俺は何なんだ? 全てを手にしていたと思っていた自分の存在はただの幻想で、何も持たないただのちっぽけで空っぽな凡人がそこに居た。


 だから自分の無価値さを気付かされたこの場所で、もう一度自分の存在理由を得る。そうじゃなくちゃ俺はきっとこの先もう、一歩も前には進めないと、そう思った。





 それから更に三年の月日が流れた。


 俺は相も変わらずこの島で、聖堂造りの手伝いと雑用をこなす。変わった事といえば――


「シオン先生、(あね)さん、食事の準備出来ましたよ」


 俺はシオンをシオン先生、ヨクハを(あね)さんと呼ぶようになっていた。


「ちょっとルキ、その呼び方止めてよね。しかもいつの間にか師匠の事も先生だなんて呼ぶようになっちゃって」


「いやあ、こないだの王弟の反乱の際、(あね)さんとシオン先生には返しきれない程の恩を受けましたから」


 しかもシオン先生も(あね)さんも、俺の人生の大先輩だったった事を知って、ずっと生意気な態度取ってた自分が恥ずかしくなった……しかもシオン先生に至ってはレファノスの英雄ローラン=シャンソーンと同じ竜殲りゅうせんの七騎士だって話だ。そりゃ強い訳だ。


 そして、この三年の間に本当に色々な事があった。


 聖堂造りは残すところ仕上げだけとなるくらいに進行した事、何度挑んでも返り討ちに遭うため俺はいつの間にか(あね)さんに挑むのをしなくなってた事、翼獣舎のペガサスやグリフォン達に子供が生まれた事。


 だが一番の出来事と言えば俺がシオン先生と(あね)さんに対する態度が変わるきっかけとなった王弟の反乱だ。


 当時の近衛騎士団長であった王弟、クローヴィス=ルノス=レファノスは、平和を重んじる穏健派の父とは真逆の強硬派思想の持ち主だった。


 王弟……つまり叔父は王位継承権を持つ俺が追放された事をきっかけとして、次期王位を虎視眈々と狙い準備を進めていた。そして俺がレファノスを追放されてから三年後、クローヴィス一派である騎士達と共に反乱を起こし王都制圧に向けて兵を起こした。


 その情報をシオン先生から聞いて、俺はいてもたってもいられなくなり、レファノスに戻る決意をする。そんな俺に(あね)さんは苦言を呈する。


「反乱軍の勢力は思ったより大きい、王都はもう制圧間近だと聞いてる。君一人が戻ったところで何になるの?」


「うるせえ! そりゃ俺を捨てやがった父上はムカつくし、もう俺はレファノスの民じゃねえ、でも父上は俺の唯一の肉親だし、レファノスは俺の生まれ故郷だ、好き勝手されてたまるかって思って何が悪い!」


 俺はこの時、俺の中にそんな思いがあった事を初めて知った。そして(あね)さんはそんな俺を(たしな)めるように言う。


「そうじゃなくて……君は今まで何かが欲しい時、何かをして欲しい時は力ずくで成し遂げて来たんでしょ? でもね、心を尽くしてお願いしてみれば案外誰かが助けてくれるものだよ」


 それを聞き俺はハッとした。そして躊躇いなく心からの想いを伝える。


「レファノスを救いたい、力を貸してくれ――頼む!」


 俺は生まれて初めて他人に頭を下げた。そうまでしてでも救いたいものがあるのだと気付かされ、同時に目の前の人間はその為の力があるのだと気付いていたからだ。


 すると(あね)さんは俺に背を向け、翼獣舎の方向に勇ましく歩き出す。


「行くよルキ、反乱だの侵略だのを企てるような不届き者は全力で叩き潰す」


「え、あ……」


 俺は、どこか怒りに満ちたような(あね)さんに気圧されていた。


 また同時にシオン先生も翼獣舎の方向に歩き出し、それを見て意外そうな顔をする(あね)さん。


「え、もしかして師匠も来てくれるの?」


「めんどくせーけど、うちにはまだソードがねえんだ。反乱軍を倒すには今陥落しかかってる王都に潜入してソードを拝借しなけりゃ話にならねえ、その為には俺の力が必要だろ?」


「……ありがとう師匠」


「まあ俺は、ソードを操刃出来ねえから戦うのは結局お前ら二人だけどな」


 そう言いながらシオン先生は照れくさそうに後頭部を掻きながら言った。




 その後、俺達は無事に王都セリアスベルの王城へと潜入し、正規軍に合流を果たした。そして残っているソード――レファノスの主力量産剣マインゴーシュを拝借し、戦線へと赴く。


 そこからはあっという間だった。増援はたった二騎の量産剣、本来なら取るに足らない戦力、だがその力は正に圧倒的だった。


 聖衣騎士である俺の特殊な竜殲術(・・・・・・)の効果と、純粋な力は勿論だが、(あね)さんの桁違いの剣技はソード操刃時にも健在で、敵戦力を次々と撃墜させていった。


 そして遂には王弟にして反乱の首謀者、クローヴィス=ルノス=レファノスを倒し、この反乱を制する事に成功した。

161話まで読んでいただき本当にありがとうございます。


ブックマークしてくれた方、評価してくれた方、いつもいいねしてくれてる方、本当に本当に救われております。


誤字報告も大変助かります。これからも宜しくお願いします。

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