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157話 レファノス王国の国王

 それから、ソラ達がツァリス島を出発してから一時間程が経過していた。


 そしてソラはカレトヴルッフの中できょろきょろと辺りを見回したり、探知器を何度も確認したりと、終始とにかく落ち着かない様子であった。


 そんなソラに対し、不意に翼羽から伝声と伝映が入る。


『おいソラ』


「うおっ、もしかして出番だったり!?」


 突然声をかけられ、驚いた様子で返事をするソラ。


『何じゃ突然大きな声を出して、単に話しかけただけじゃ』


「いやだって、団長があんな事言うもんだから、いつ敵が襲ってきてもいいように気を張ってたんだけど」


『相変わらずお主は肝が座ってるのか小さいのかよくわからん奴じゃな。セリアスベル島に到着するまではあと二時間、気を抜くなとは言ったがそう気を張り詰めていてはもたんぞ』


「いや、そんな事言われても俺にそんな器用な気の張り方出来るわけ無いでしょ」


 すると翼羽はソラにふと尋ねる。翅音(しおん)にアークトゥルス……アーサー=グラストンベリーの話は聞いたのか、と。


 対しソラは少し口ごもったが、すぐに返した。


「いやまあ、気になるところではあるんだけど……こないだ団長から衝撃的な話たくさん聞きすぎて――今、更に衝撃的な話聞いちゃったら頭ん中訳が分からなくなりそうで……だからもう少し折を見て聞くことにしようかなって」


 それは恐らくソラの本心なのだということは翼羽は何となく察した。しかしまだソラが何かを隠している事を悟ったのか、晶板越しに探るような視線を向けた。しかし、翼羽はソラにそれ以上追及するような事はしなかった。


『そうか、まあその件に関してはお主の好きにすればよい』





 そしてそれから二時間。


 三人は飛翔を続け、幸いにして敵の襲撃も無いまま、目的地であるレファノス王国の王都、セリアスベル島へと無事に辿り着いたのだった。


 眼前に浮遊しているのは、広大な緑が広がる島であった。島全土に巨木が生い茂り、その中心には木製の家々によって構成される町が存在し、島の最奥部には、蔦に纏われた一際巨大な石造りの城がそびえ立っていた。それこそがレファノス王国の王城である。


「無事着いたか。結局誰も襲い掛かって来なかったし、団長はすぐ人をびびらせるような事言うんだよなあ」


 大聖霊石を狙うエリギウス側からの刺客が現れなかった事でホッと胸を撫で下ろし、翼羽に小言を漏らすソラ。


『阿呆、誰も必ず襲撃されるなどと言ってはおらんかったろ。転ばぬ先の杖と言ってな、何事も警戒しておくことに損は無い』


『おソラはいつも気を抜いてばっかりだから、警戒しすぎなくらいがちょうどいい』


「はは……ですよねえ」


 そしてソラは翼羽とシーベットに諭されるのだった。



『こちら叢雲、ヨクハ=ホウリュウインじゃ。これより騎士団〈寄集(よせあつめ)隻翼(せきよく)〉所属のソード三騎、王城へと着陸する』


 翼羽がレファノスの王城に向けて伝声を送ると、王城の一部、格納庫であろう部分の天井が開放され、翼羽の叢雲、ソラのカレトヴルッフ、シーベットのスクラマサクスが格納庫内へと着陸を果たした。


 ツァリス島本拠地のものとは比べ物にならない程広大な格納庫の中には、レファノス王国の主力量産剣マインゴーシュがニ百振り以上並んでおり、その中にソラ達は自分達のソードを待機させる。


 すると格納庫内には既に、十数名の騎士が待機していた。


 レファノスの民の特徴である栗色の髪と翡翠色の瞳を持つ男達は、〈因果の鮮血〉の騎士である事を示す、血滴を抽象的に描いた紋章を左胸に刻んだ真紅の騎士制服を身に着けている。


「遠路はるばるご足労いただき感謝致します。既に陛下がお待ちですので、こちらへどうぞ」


 騎士の案内でソラと翼羽はソードから降りる。しかし、シーベットは何故かスクラマサクスの操刃室から降りずに言う。


「シーベットの任務は、襲撃があった際の大聖霊石の護衛。別にレファノスの王様に用は無いからシーベットはここでシバさんと待ってる」


「……そうか、ならわしの叢雲とついでにソラのカレトヴルッフを見ておいてくれるかシーベット」


「うん、任せろだんちょー」


「え、そういう事なら俺もここでシーベット先輩と一緒に待ってるよ、王様と会うなんてめんどく――いやいや、恐れ多いし」


 そんなソラの提言を払うように、翼羽はソラの襟を掴んで引っ張って行く。


「お主は駄目だ、来い」


「なるほど、これは贔屓だ、えこ贔屓だ!」


 それから騎士の案内に付いて行きながらソラと翼羽は格納庫を出ると、複雑な城内を数分歩き。遂に見上げる程の両開きの扉の前で立ち止まった。大きな音を立てて開かれる扉、その先には広大な空間が広がり無数の騎士達が並んでいた。


 そこは玉座の間、床には赤い絨毯が引かれ、更にその先の正面には絢爛な装飾が施された椅子が置かれていた。


 その椅子に座るのは、他の騎士達と同じように栗色の髪と翡翠色の瞳というレファノスの民の特徴と、更に筋骨隆々の一際大柄の体躯を持ち、威厳を放つ口髭をたわわに生やした老齢の男性であった。名はルキゥール=ルノア=レファノス。


 レファノス・メルグレイン連合騎士団〈因果の鮮血〉団長にして、レファノス王国国王その人である。


 そして放つ鋭い眼光、放つ威圧感と重圧感、その佇まいは、ルキゥールが只者では無い事を一目でソラに覚らせた。


 ――この人……多分滅茶苦茶強い!


 直後、ルキゥールはゆっくりと口を開く。


「翼羽殿、此度は炎の大聖霊獣イフリートの撃破、そして炎の大聖霊石の入手と、このセリアスベル島への搬送、まことに大義であった」


 重厚な威厳を纏わせた渋く低い声で、翼羽に労いの言葉を投げかけるルキゥール。すると翼羽はすぐに片膝を付き低頭の意を示す。


「はっ、勿体無いお言葉にございます」


 それを見て、ソラも急いで同じように片膝を付いて低頭の意を示した。


 ――あ、あのいつも退かぬ媚びぬの翼羽団長がこんなに(かしこ)まるなんて、この国王様ってやっぱりすんげえ人なんだ。


 すると、ルキゥールは玉座の間に居る側近や近衛騎士達に向けて指示を出す。


「お前達は玉座の間から出ていけ、余とこの者達とだけで話がしたい」


「し、しかし陛下」


 全ての護衛を排そうとするルキゥールに側近は食い下がろうとした。


「黙れ、余の命令が聞けぬと言うのか?」


「もっ、申し訳ございません、仰せの通りに」


 ルキゥールに凄まれ、側近は全ての近衛騎士を玉座の間から退出させ、自らもまた玉座の間を後にした。


 そして全ての臣下達が玉座の間から姿を消した事を確認すると、ルキゥールは突然玉座から立ち上がり、跪く翼羽の元に駆け寄った。


「いやあ、いつもすみませんね(あね)さん。ささ、顔を上げてください」


 すると、先ほどまで片膝を付いていた翼羽が立ちあがり、大きな溜め息を吐きながら言う。


「おいルキ(・・)、さっきのような茶番、毎度やらねばならんのか?」


「そう言わないでくださいよ(あね)さん、俺にだって国王としての威厳とか、臣下達に対する立場とか色々あるんですから」


「まったく、見栄ばかり張るようになりおってお主は」


 さっきまでの威圧感漂う態度はすっかり消え失せ、翼羽に対し釈明しようとするルキゥール。


 ソラはそんな二人のやり取りをぽかんと眺めていた。

157話まで読んでいただき本当にありがとうございます。


ブックマークしてくれた方、評価してくれた方、いつもいいねしてくれてる方、本当に本当に救われております。


誤字報告も大変助かります。これからも宜しくお願いします。

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