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154話 料理修業の成果

 その後、野菜の切り方、肉の炒め方、味付けや分量などなど、プルームはソラから受けたレクチャーをメモしつつ再度シチューを作り上げていく。


 そして料理の工程は煮込みに入り、その間にプルームはソラから改めてコツを教わっていた。


「えーっとまあ後は、慣れるまではひたすら決められた分量で決められた工程で決められた味付けで作る。変なアレンジは絶対しない」


「なるほどお、私ってばついつい冒険したくなっちゃうのがいけなかったんだね」


「まあそりゃ隠し味を入れる事で深みが増したりする場合もあるけど、それは上級者のやる事だからプルームちゃんはあと2、3年は冒険禁止」


「はい、引きこもりになります私」


ソラの指示に敬礼のポーズで了解するプルームであった。するとプルームは、ふと浮かび上がった疑問を投げかける。


「ところでさ、ソラ君はどうしてこんなに料理が上手なの?」


 その問いに、後頭部を掻きながら少しだけ気恥ずかしそうにソラは語り出す。


 エリギウスの騎士養成所で騎士を目指していた時、いつまで経っても銀衣騎士に覚醒できず、これはいよいよ騎士の道を諦める事も考えなくてはならないと思いだした。

 

 しかし、何が何でも第二騎士師団に入団したかったソラは、最悪給仕係になってでも入り込んでやろうと企て、養成所の給仕場にて働く年配の女性に、料理を習いに行ってた事があったのだと。


「へーそうだったんだ」


 ソラが料理に長けている背景に、意外な過去があった事を知り、プルームは興味深そうに相槌を打った。


「そんでその時おばちゃんから教わったんだ『料理が上手になる秘訣は、大切な人や好きな人の事を想いながら作る事なんだ』ってね」


「大切な人や好きな人か……」


「プルームちゃんは誰の事を想いながら作る?」


 するとプルームはソラの問いに、表情を綻ばせてすかさず返す。


「皆の事かな」


「皆?」


「これから私は皆の事を考えながら作る事にするよ……だって私は、この騎士団の皆のことが大好きだから」


 そして屈託の無い表情で微笑んだ。


「プルームちゃん」


「えへへ、なんて……ちょっと照れ臭いよね」


 するとプルームは、照れを隠すかのように頬を掻いた。そしてその後で少しだけ真剣な表情になりソラを見る。


「ねえソラ君、もう一つ聞いてもいい?」


「うん?」


「最近何かあった?」


 漠然としながらも、どこか核心を突くようなプルームの問いに、ソラは僅かに固まった。


「最近、ソラ君ぽーっとしてる事増えたなって。ぽーっとするのは私の専売特許なんだから、キャラ被りされると困るんだよね」


 少しだけおどけながらも、プルームに自分の中にある動揺や混乱を的確に見抜かれた事に、ソラは少しだけ驚いた表情でプルームを見た。そして観念したように心の内を語るのだった。


「……こないだ、団長から聞いたんだ……団長の過去の事や色んな事を」


「そうだったんだ」


 翼羽(よくは)が180年前のラドウィードの地で生まれた人間であった事や、竜祖の血晶を飲んで不老になった事、あそこまでの強さを手に入れたのには悲しい背景があった事、……翅音(しおん)竜殲(りゅうせん)の七騎士の一人スヴァフルラーメ=エッダだった事、そして――


 ソラは改まって、神妙な面持ちで続ける。


「アークトゥルスが翅音(しおん)さんと同じ竜殲の七騎士の一人で、このオルスティアにある世界をラドウィードに還そうとしている事」


 それを聞き、プルームはゆっくりと頷いた。


「うん」


 すると、天を仰ぎながら無理矢理かのように表情を柔らかくさせるソラ。


 それらがまだ信じられない、自分が十五年間生きてきて学んだ事とはあまりにもかけ離れていて、受け入れようと必死に色々考えていたら頭の中で様々なものがぐるぐると巡ってしまったのだと語る。


 しかしソラは、自分の中の真実と現実、その乖離と矛盾に混乱していた一番の理由だけは、話す事はせず胸の中にしまっていた。


 ずっと探してきたエルと、エルを連れ去った宿敵オルタナ=ティーバが同一人物であったこと。それが未だに、ソラの中で受け入れることの出来ない真実と現実である。


「そっか、そうだよね」


 だが、プルームは何かを隠しているソラの様子に気付きながらもそれ以上の事を聞くことはしなかった。そしてソラは、そんな空気を察したのか必死に話題を逸らそうとする。


「でもプルームちゃんって凄いよなあ、その竜殲の七騎士と同じ神剣に選ばれる程の騎士なんだからさ」


 すると、ソラのその一言にプルームは怪訝そうな表情を浮かべて首を傾げてみせた。


「え? 神剣って何の事?」


「な、何の事って俺が半年前、雲の大聖霊石をこの島に持ってきて、プルームちゃんが純血の(ちぎり)で神剣アロンダイトに選ばれただろ?」


 次の瞬間、驚愕したような表情を浮かべるプルーム。


「はーっ! 忘れてた! そういえば私神剣に選ばれてたんだった!」


「え……噓でしょ!? 本気で忘れてたの!?」


「だって私がアロンダイトの操刃者に選ばれたのって半年も前の話だよ、あれ以来アロンダイトに乗ってもないし、話も出てこないしでそりゃ忘れちゃうってもんだよね、えへへへ」


「ぷ、プルームちゃん……」


 自分以上に惚けた性格のプルームに、ソラは半ば呆れたように溜息を吐くのだった。すると次の瞬間、シチューを煮込んでいた鍋から鼻をくすぐる良い香りが漂って来た。煮込み時間終了の報せだった。


「おっ、そうこうしている内に完成したみたいだよ」


「本当!?」


 ソラから完成の報せを受け、プルームは意気揚々と鍋の蓋を取る。すると、更に良い香りが調理場に立ち込め、成功を確信したプルームが歓喜の声を上げた。


「やったよソラ君、私がさっき作ったのとは比べ物にならないくらい良い香り。もう美味しいの確定だよ」


「うん、これなら今日の夕食に出しても全然恥ずかしくないよ」


「ありがとうソラ先生、いやむしろソラ大先生」


 プルームは敬礼のポーズをしながら、感謝の気持ちをソラへ伝えるのだった。


「あ、そうだソラ君、さっきの話なんだけどさ」


「なに?」


「ソラ君は料理作る時、いつも誰の事考えてるの?」


 不意なプルームの問いに、ソラが思い浮かべたのは黒紫(こくし)色のボブカットの少女の姿。そしてその少女の姿の背後に前髪と横髪で表情が隠された白髪の女性の騎士が立ち、二人の姿が交差した。


「俺は……」


「何て――聞くまでもないよね」


 するとプルームの声に、ソラは顔を上げ我に返った。


「だってソラ君が食事当番の時は決まって焼きたての黒パン付きなんだもん」


 その言葉に、ソラはお茶を濁すかのように少しだけ微笑みを浮かべるのだった。





 その後、夕食のテーブルにはソラの指導の元、プルームが作り上げたシチューが並べられていた。

 

 久々にプルームが作った料理という事で、初めは各々が緊張の面持ちで目の前のシチューを見つめていたが、エイラリィが一口食べた後、それを黙々と食べだした為、他の面子も一人また一人と料理に口を付けていくのだった。


「うむ、中々うまいではないか」


 素直な賞賛を送る翼羽。


「へえ、すげえじゃんプルーム。ちゃんと料理になってるぜ」


「うん、前の時とは見違えたよ」


 フリューゲルとデゼルもまた。


「たった一日で成長しましたね、姉さん」


 そして感慨深げな様子のエイラリィ。


「み、皆の反応が以前と全然違う。今思えば前回私がハンバーグ作って出した時、全員死んだ魚のような目で一言も喋ってなかった。どうして気付かなったんだろう私ってば」


 騎士団員全員からの評判も上々で、プルームは感極まった様子であった。するとプルームの隣に居るソラが、不意に拳を突き出した。それを見て微笑みながらプルームは自分の拳を合わせた。


 直後、シーベットがふと疑問を投げかける。


「そういえば、今後はプルルンも食事当番に入るのか?」


 対し、一足早く自身の食事を終えていたシバが返した。


「いやそれはまだ早い。たった一日料理の長けた者に付いてもらい調理を成功させたからといって所詮は付け焼刃。鍛錬を続け、たゆまぬ努力を続ける必要があるだろう」


 ぐうの音も出ないシバの正論を受け、プルームは頬を膨らませてシバを仰向けにすると、勢い良く腹部を撫で回す。


「なんだとこのシバさんめえ、このこの! いつもドッグフードしか食べないくせに」


「仕方ないだろう、人間の食べ物は私には濃すぎるのだ……あぁっ、止めろ! 可愛がるな! 私をもふるな!」


「し、シバさんの尊厳がプルルンに踏みにじられていく」


 そんなどたばたな光景を、ソラは屈託無く笑って見ていた。また、ソラは今後も時々プルームに料理を教える約束をし、この日は何事も無く過ぎるのだった。

154話まで読んでいただき本当にありがとうございます。


ブックマークしてくれた方、評価してくれた方、いつもいいねしてくれてる方、本当に本当に救われております。


誤字報告も大変助かります。これからも宜しくお願いします。

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― 新着の感想 ―
自我を出すな。これ大事。既にでき上がったチャートに、理解してもなく自我を出すとろくなことにならないからね…
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