152話 長い長い時の中で
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場面はツァリス島〈寄集の隻翼〉本拠地。騎士宿舎内にある自身の部屋にて、翼羽はソラに己の過去を話したのだった。
「それから……後の〈寄集の隻翼〉にパルナが加わり、シーベットが加わり、カナフが加わり――ソラ、お主が加わった。そして、わしには守るべき未来が増えていったんじゃ」
過去を語り終え、ふとソラの顔を見る翼羽はぎょっとする。ソラの顔が涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっていたからだ。
「な、泣いてる! 何かデジャヴを感じるのう」
「だって、団長の喋り方がただのキャラ付けだったなんて」
「え、泣くところそこ!? というか一々触れるな恥ずかしい!」
すると直後、ソラが苦痛に顔を歪め両足を押さえながらその場で固まった。
「あの、団長……なんか俺の足がえらい事になってるんだけど……何これ?」
「お主、長時間正座したのは初めてなのか? 慣れぬ事をするからそうなる」
「いや、だって畏まって聞かなきゃいけないって、そういう雰囲気だったし今の話は」
凄まじい足の痺れに襲われ、翼羽の過去の話を聞いたのとは別に、涙を浮かべるソラ。
それを見た翼羽は、嘆息混じりにソラをその場に寝かせ足を伸ばさせた。
「仕方ない奴じゃのう」
「え、あ……団長?」
そして翼羽は不意にソラの頭を膝に乗せ、所謂膝枕をし、その突然の行動に顔を真っ赤にさせながら珍しく戸惑うソラ。
「それはただ足が痺れているだけじゃ、こうしておればその内治る」
「は、はあ」
翼羽は、別の意味で固まるソラに、そっと言う。
「ここからは私の独り言」
「え?」
「本当は私は、零とずっと一緒に生きていたかった。零と一緒に笑って、一緒に歳を取って、一緒にずっと……」
するとソラは自分の額に冷たいものが零れ落ちたのを感じた。しかし、ソラはそれを見ないように翼羽から目を逸らす。
零が死んで神鷹と対峙したあの日、己の中にあったのは神鷹に復讐したいという気持ちが半分、そしてもう半分は神鷹にその場で殺されてもいいという思い半分だったと打ち明ける翼羽。
「……団長」
「でもね、長い長い時の中で、あの子達に巡り会えた。そして君にも巡り会えた。だから後悔なんて一つも無い」
そう言いながらふと浮かべた翼羽の微笑みを、ソラは決して忘れる事が無いように、脳裏と心に刻み込むのだった。
※
それから……足の痺れもすっかり治まり、ソラは翼羽の部屋を出ようとしたところで突然思い出す。
「あっ、そういえば」
「どうかしたのか?」
ソラは、今の話の中にエリギウス帝国皇帝アークトゥルス=ギオ=オルスティアの話が一切出てこなかったことを指摘した。翼羽が最初にアークトゥルスの目的も話すと言っていたのを思い出したからだ。
ソラのその言葉に、翼羽は忘れてたと言わんばかりにハッとした表情を浮かべた。
「長話ししすぎてすっかり忘れておった」
「いやそこ忘れちゃダメでしょ……滅茶苦茶大事な話なんだから」
ソラが呆れたように呟くと「お、お主も忘れかけておったろうが」と、翼羽は動揺しながら焦ったように返す。
「いや、まあそうなんだけど」
そんなソラの相槌の直後、翼羽は腕を組み、難しそうな顔をしながら天を仰いで告げる。
「まあ実のところ、アークトゥルスにはわしも会った事が無い」
「え、そうなの?」
「アークトゥルスの事を詳しく知っておるのは師匠……いや翅音殿だ」
「じゃあ、その目的は翅音さんから聞かなきゃいけないってこと?」
「いや、奴の目的自体は当然わしも既に知っておる」
その言葉を聞き、ソラは再び畏まって翼羽の前に正座した。
「また痺れてもしらんぞ、今度はあの様なサービスは無しじゃからな」
「いや、別にそれ目的じゃないって」
すると、翼羽は咳払いし、改まって伝える。
「アークトゥルスは二つの名を持っている」
一つはエリギウス帝国皇帝アークトゥルス=ギオ=オルスティア。そして二つ目は――
ソラが生唾を飲み込んだ直後、翼羽が名を告げる。
「――竜殲の七騎士アーサー=グラストンベリーだ」
竜殲の七騎士。その名を聞いてソラは否応なしに驚愕させられた。
「嘘……だろ!」
翅音の正体を知った時もであるが、伝承でしか聞いた事のない竜殲の七騎士の一人がこの時代に生きているなどと、翼羽の過去を聞くまでは夢にも思わなかったソラにとって、それはあまりにも衝撃的であった。
そしてソラが改まって続ける。
「神剣エクスカリバーの操刃者、騎士王と呼ばれたアーサー=グラストンベリーと、アークトゥルス=ギオ=オルスティアが同一人物だったなんて」
翼羽の語る驚愕の事実に茫然とするソラであったが、翼羽は遂に本題に入る。
「奴の目的は、世界の浮上後に、奴を良く知るとある人物から聞いた。とは言えわしもつい最近までは半信半疑じゃったがのう。じゃが今回のアルディリアとの戦いの過程で、奴が封怨済みの浄化の宝珠を集めていると知り、確信した」
二人しかいない部屋、しかしそこにはこれまでで最大の静寂が訪れた。
「奴はこのオルスティアにある世界を、ラドウィードに還すつもりなんじゃ」
第四章完
第五章に続く
長らく過去話で、ある意味スピンオフ的なストーリーでもありましたが、ここまで物語にお付き合い頂き本当にありがとうございます。これにて第四章完となり、第五章から本編が進んでいきます。
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