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144話 譲れぬ想い

『がああああっ!』


「これで終わりだ、神鷹じんおう!」


 そして、零の天十握(あめのとつか)羽刀型刃力剣(スサノオ)を構えたままとどめを刺すべく布都御魂(ふつのみたま)へと突撃した。


 一騎討ちの勝敗はもはや完全に決していた。しかし……これはあくまで戦である。


 布都御魂(ふつのみたま)へ突撃を開始する零の天十握(あめのとつか)に対し、突如地上から無数の光矢が発射された。


「ちっ!」


 それに対し零は突撃を中止させ、自身に迫り来る光矢の雨を羽刀型刃力剣(スサノオ)で斬り払いつつ、騎体に回避行動を取らせかわしていく。


 そこには数十騎の野太刀が刃力弓を構えており、交戦していた筈の鳳龍院家の前陣部隊の姿は無く……


 すると、地上から飛翔して来た二騎の野太刀が半壊した布都御魂(ふつのみたま)を受け止め、撤退を開始させた。


 零はそれを追おうとするも、地上から再度光矢を一斉掃射され、零は追撃を断念せざるをえなかった。そして一つの事実に気付く。


「まさか前陣部隊が突破されたのか……藤堂さん!」


 零が藤堂の野太刀に向け、相互伝声と伝映をする。すると歪んだ映像の中に、血に塗れた藤堂が映し出された。


『……すまん青天目なばため……どうやら俺は……ここまでのようだ。……翼羽様の事を……頼む』


 藤堂が力無くそう言い終えると、零が相互に繋いでいた伝声と伝映が途切れ、藤堂の陣太刀の信号が消失した。



 場面は屋敷の大広間。


「……藤堂」


 物心付いた頃から知る忠臣を失い、悲痛な表情で目を瞑る翼羽。


 そして前陣部隊の全滅を知らされ、戦況は敵の地上部隊である野太刀が三十三騎、空戦部隊の野太刀が四十七騎の計八十騎。対し、鳳龍院家の残存戦力は零の天十握(あめのとつか)と後陣部隊である陣太刀が二十八騎。


 単純な戦況ではかなり厳しい、しかし討ち漏らしたとはいえ敵大将騎は既に零が撃破しており、後陣部隊には藤堂が育てた竜域に入る事が出来る騎士がまだ三名存命であった。


 戦況は決して絶望的ではなく、零という突出戦力が居る事を考えればむしろ勝機は見え始めていた。


 そして天十握(あめのとつか)の操刃室の中で、零もまた冷静に戦況を分析する。


 ――神鷹を討ち損じた。敵の士気はまだ死んでいない。しかも序盤の乱戦と、火神の能力で刃力を吸われた事、神鷹との戦いで使った力……消耗が激しい、敵の数は残り八十、いけるか?……いや必ず押し切ってみせる!


 かなりの犠牲を伴い、未だ困難な道が立ち塞がっているとはいえ勝利まであと一歩。そう零が戦い抜く覚悟を決めた瞬間、一つの伝声が入った。


『お前は俺よりも強い、お前は竜の血も引かぬただの人間でありながら俺が今まで出会って来た中で最高の騎士だ。だが……勝敗は戦う前から決していたのだ』


 それは神鷹からの伝声であり、神鷹が意味深な一言を伝えた同時刻。屋敷の大広間では激震が走っていた。


「翼羽……様」


 伝令役の一人が青ざめた表情で翼羽に声をかける。


「どうしたの?」


 伝令役の重々しい雰囲気に、脳裏に不吉を過らせながら翼羽が問う。すると伝令役は震える唇で答えた。


「と、東方の海側から無数の騎影を確認、敵の増援……です」


「ぞ、増援!?」


 この状況下での増援、その言葉に翼羽は表情を強張らせた。


「所属はエリギウス王国、騎体の識別信号は天花寺家と同種を示しています。数は……数は……」


 言葉を詰まらせる伝令役に、翼羽は生唾を飲み込む。


「数は二百五十騎、一個師団相当です!」


「なっ!」


 その場に静寂が訪れた。絶望、そこにそれ以外の言葉が入り込む余地はなく、ただ長く、ただ重く、暗雲に塗れたような沈黙だけが続いた。


 その情報は零にも伝わり、零は静かに理解する。この状況を覆す術はもはや皆無である事を。


「何故、エリギウス王国が……」


 エリギウス王国が何故増援としてこの那羽地に進行してきているのか、何故天花寺家と繋がっているのか、疑問が過る。しかし零はすぐに考えるのを止めた。今自分がすべき事はただ一つであると即座に認識したからだ。


 そして零は、屋敷の大広間に向けて伝声を行う。


翅音(しおん)さん、そこに居るか?」


 すると翅音(しおん)はすぐに零の声に応答した。


『ああ、ここにいる』


「無理を承知で聞く、あんたの力で何とか翼羽をそこから逃がす事は出来ないか?」


『零、何を言って……』


 零の突然の提案に翼羽が驚いたように割って入った。しかし、それを意に介さず、翅音(しおん)は冷静に返す。


『或いは……俺の竜殲術(・・・・・)を使えば那羽地を脱出出来るかもしれねえが』


「竜殲術……やっぱりあんた、ただの鍛冶(かぬちじゃなかったんだな」


『とはいえ、この囲まれつつある状況じゃ今すぐには無理だ。せめて闇に乗じる必要がある。幸い今日は新月だが、闇に乗じる為にはお前達に日没まで耐え抜いてもらわにゃならん』


「……日没まであと一刻程、わかった、エリギウスの増援は俺が抑える」


 この絶望的な状況で零がしようとしている事、翼羽はすぐに理解し、必死に呼び止めようとする。


『もういい、もう戦わなくていいから、行かないで零……君は私の近衛騎士でしょ? なら側を離れちゃ駄目なんだから!』


 しかし、そんな翼羽に対し、零は表情を変える事なく冷淡に応える。


「それなら俺は、今この瞬間からお前の近衛騎士を辞める」


『どうして……どうして零?』


 すると零は、ふと晶板越しの翼羽に優しく微笑んだ。そして言う。


「好きだよ翼羽……大好きだ」


 そして零は、そう伝えた後、屋敷の大広間との伝声を切断した。



「零! 零! 返事をして零!」


 翼羽は、零に届かなくなった声を何度も伝えようとした。





 場面は再び零へと戻る。零は後陣部隊を率いていた三人の竜域の騎士へと伝声を行っていた。


「天花寺家の残党、残り八十騎。あんた達に任せられるか?」


『ああ、出来るだけ時間を稼ぐ。だがお前一人でエリギウスの増援を止められるのか?』


「……いや」


 結果は火を見るより明らかだった。予め決められた結末。帰結する答。それでも零はその決断をした。


 ふと、神鷹の言葉が脳裏を過る。



《お前に全てを守り通す事など出来るのか青天目 零》



 すると零は、天十握(あめのとつか)を全速で発進させ、エリギウス王国の増援が向かってくる東の空へと飛翔する。


「解ってる、俺は英雄じゃない。翼渡様のような立派な騎士でもない。俺に全てを守り通す事なんて出来ない。解ってる……」


 ――鳳龍院家は恐らく、今日滅びる。それでも……


「鳳龍院 翼羽だけは、俺が守る!」

144話まで読んでいただき本当にありがとうございます。もし作品を少しでも気に入ってもらえたり続きを読みたいと思ってもらえたら


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どうぞ宜しくお願い致します。


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