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142話 遠い日の英雄

「……雪加」


 零と雪加との戦いを見届けた翼羽もまた、幼い頃から共に屋敷で育った雪加を失った喪失感に抱かれていた。しかし悲しみで伏せた顔をすぐに上げ、凛とした態度で零へと伝える。


「零、敵副将・・・の撃破ご苦労でした。でも、すぐに救援に向かってほしい、今婆ばば様は神鷹じんおうと交戦している」


「なっ!」


 敵大将である神鷹じんおうを前線に引きずり出すという当初の目的が達成されている。その事に零は勝機がそこにあると感じ取りながらも、どこか嫌な予感が過る。


「わかった、すぐに向かう」


 零は翼羽からの救援の要請を了承すると、すぐに飛美華と神鷹が交戦する空域へと全速で向かうのだった。

 


 一方、飛美華と神鷹の一騎討ちは既に佳境であった。


 守護聖霊が完全に一致する宝剣を駆る神鷹に対し、光を守護聖霊とする飛美華では炎の聖霊石を核とする陣太刀の性能を七割しか発揮出来ない。しかも陣太刀は量産剣。神鷹の布都御魂ふつのみたまとの性能差はいかんともしがたいものがあった。


「ハアッハアッハアッ!」


 飛美華の陣太刀は、推進翼を一つ切断され、騎体の装甲には斬撃痕が深々と刻まれ、既に満身創痍の状態である。


 それでも尚、飛美華は一歩も退く事なく、神鷹の前に立ち塞がり続けた。


 だが……決着の時は迫っていた。


『これで引導を渡してやる』


 今まで受けに回りつつ反撃のみで飛美華を追い込んでいた神鷹が、遂に仕掛ける。布都御魂ふつのみたまを全速で推進させ、一瞬で飛美華の陣太刀の間合いに入ると、頸部に斬りかかる。


 それを陣太刀が両手に持つ羽刀型刃力剣スサノオを交叉させ受け止める飛美華。互いに鍔迫り合いの形になった。


 その瞬間、飛美華は不思議な感覚に陥る。鍔迫り合いをしていたにも関わらず、突如相手の力の流れが綿、或いは羽根のように軽くなり、羽刀型刃力剣スサノオの刀身を滑るように斬馬羽刀型刃力剣タケミカヅチの刀身が手元に奔る。


「な……に!」


秋花しゅうか歪竜胆いがみりんどう


 神鷹の技が、飛美華の陣太刀の右手親指を切り落とした。


 続いて追撃、神鷹の布都御魂ふつのみたまが上段からの袈裟斬り、それを受け止める飛美華の陣太刀であったが、親指の支えを失った状態の握りの甘い剣ではそれを受け止めきれず、右手の羽刀型刃力剣スサノオを弾き飛ばされる。


 更に神鷹の布都御魂ふつのみたまが突如背を見せたと同時、翻る騎装衣が飛美華の視界を塞いだ瞬間、自身の騎装衣を貫くようにして、背を向けたまま後方に突きを繰り出した。


夏花かか虚鬼灯うつろほおずき


 その突きは、飛美華の陣太刀の鎧胸部と……操刃室を的確に貫いていた。


「がはあっ!」


 斬馬羽刀型刃力剣タケミカヅチの巨大な刀身に半身を貫かれ、飛美華は激しく吐血する。


『遠い日の英雄よ……眠れ』


 神鷹が言う。


 そして遠くなっていく意識、白んでいく視界の中で飛美華は思う。


 ――子に先立たれた老いぼれのわしは、せめてお前達に何かを残す事が出来たのだろうか? 叶う事ならお前達の行く末を見届けたかった。ふっ、それは贅沢な願いか。


 直後、空中で飛美華の陣太刀が爆散した。


 ――後は頼むぞ……翼羽、零。



ばば様……ばば様、ばば様!」


 伝声器越しに届かない声を掛け続ける翼羽。悲しみに塗れる胸を押さえ、零れそうになる涙を抑える。しかし、戦況は無情であった。


「翼羽様、戦況報告です。現在、先陣部隊の残り戦力は十五。対し交戦中の敵地上部隊の残り戦力は四十。後陣部隊の残り戦力は三十二。対し交戦中の空戦部隊の残り戦力は六十一」


 いかに戦略を練り、騎士達の士気を上げ、決死の思いで戦ったとしても、単純な数の差は未だに覆せずにいた。しかし、一人一人の騎士の戦闘力の差を考えれば、戦開始時とほぼ変わらない戦力比を保っているのはかなりの健闘と言える。


 それでも、このまま戦闘が続けばじわじわと全滅する。


 勝機があるとすればやはり敵大将、神鷹の撃破。そしてそれが出来る騎士はもはや、鳳龍院家では零ただ一人。この戦の命運は零に託されていた。

 


 そして……夕日に染められ、紅蓮に色を変えた空。零の天十握あめのとつかが遂に神鷹じんおう布都御魂ふつのみたまの元へと辿り着く。零の目には爆散する飛美華の陣太刀の姿が焼き付いていた。


「飛美華……様」


 零は深く目を瞑り、神鷹に破れて命を散らした飛美華に哀悼の意を示すと、鋭い竜の眼の視線で、神鷹じんおう布都御魂ふつのみたまを射抜く。


『その騎体は翼渡と和羽が操刃していた天十握あめのとつか……操刃者は青天目 零だな』


「神鷹、貴様を討つ……今日ここで!」


 相対する零と神鷹、天十握あめのとつか布都御魂ふつのみたま。この戦の命運を握る一戦――運命の一騎討ちが始まろうとしていた。


 稲妻のような速度で空中にて激突する両騎、互いに切り結び、羽刀型刃力剣スサノオ斬馬羽刀型刃力剣タケミカヅチが交差する。


『随分と必死だな。それ程までに守りたいのか鳳龍院家を? それ程までに守りたいのかあの娘を? だがお前に全てを守り通す事など出来るのか青天目 零』


「お前と問答するつもりはない!」


 すると鍔迫り合いの状態から、零は天十握あめのとつか羽刀型刃力剣スサノオを振り切らせ、神鷹の布都御魂ふつのみたまを押し弾く。


 更にそこへ追撃、零の天十握あめのとつかが斬撃と共に光の刃を放った。その光刃を、身を翻して回避すると、布都御魂ふつのみたまが高速で旋回し、零を翻弄する。


 続いて、布都御魂ふつのみたまは高速で飛翔しながら長尺の斬馬羽刀型刃力剣タケミカヅチにて天十握あめのとつか羽刀型刃力剣スサノオの間合いの外から攻撃を繰り出し続ける。


 その攻撃を全ていなしながら、零は布都御魂ふつのみたまに狙いを定める。羽刀型刃力剣スサノオは確かに斬馬羽刀型刃力剣タケミカヅチよりも間合いは短い。しかし、零には諷意鳳龍院流秘伝、都牟羽つむはがある。


都牟羽つむは 弐式にしき 靁閃らいせん


 神速の突きと共に放たれた光の矢。神鷹はそれを、騎体を回転させて躱すと穿たれた後方の雲に穴が開く。更には布都御魂ふつのみたまの胸部に掠っていた一撃は、鎧装甲の一部を抉っていた。


『ちっ!』


 神鷹の額に冷たい汗が滲む。


 距離を空ければ都牟羽つむはを持つ零が有利となる。神鷹は再び布都御魂ふつのみたま天十握あめのとつかに接近させ、近接戦を挑む。


 互いの剣と剣が再度激突し、互いの影が交差した。


 光を守護聖霊に持つ零と、雷を守護聖霊に持つ神鷹。属性の優劣は無く、騎体性能もほぼ互角。とすれば勝敗を分けるのは、操刃者である騎士の純粋な力量である。


 否、他にあるとすればそれは……戦況を覆す特殊な力。


 神鷹と布都御魂ふつのみたまの額に剣の紋章が輝き、神鷹は竜殲術〈祇眼くにつかみのまなざし〉を発動させた。


 零には神鷹の術は一瞬しか効果が無い。しかしその一瞬は間違いなく生死を分ける。


 だが、天十握あめのとつかの動きは全く止まらない。そして互いに鍔迫り合いの状態から、両騎が後方に弾かれた。

142話まで読んでいただき本当にありがとうございます。


ブックマークしてくれた方、評価してくれた方、いつもいいねしてくれてる方、本当に本当に救われております。


誤字報告も大変助かります。これからも宜しくお願いします。

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