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140話 食らい付け、しがみ付け、生き抜け

 零は空戦部隊の野太刀に向けて、刃力が収束され、光輝く刀身の刃力剣を交叉させて振るった。


都牟羽(つむは) 壱式 飛閃(ひせん)連刃(れんじん)


 それにより、交叉された光刃が放たれ、二騎の野太刀が斬り裂かれて爆散。


 更に零は、左右の刃力剣を連続で振るった。


「飛閃・乱刃(らんじん)!」


 すると、無数の光刃が乱れ飛び、野太刀は次々と斬り裂かれて爆散していく。その連撃により、開幕九騎の野太刀を撃墜させた零。


 しかし直後敵の反撃。空戦部隊の野太刀は刃力弓と呼ばれる弓銃の形状をした聖霊騎装を構え、零の天十握(あめのとつか)に向けて光矢を一斉に放つ。


 無数に飛来する光矢の雨。零は天十握(あめのとつか)の騎体を左右に回転させながら推進させ、それらの間をくぐり抜けて回避すると、刃力弓を構えて射撃を行う野太刀の内二騎に、すれ違いざまに斬撃を放つ。


 その斬撃を受けて胴を真っ二つにされ、その場で爆散する二騎の野太刀。


 十騎を超える野太刀を一瞬にして撃墜した零。味方は零のその奮闘に唖然としつつも、心強さに士気を高めた。


 行ける。例え数の不利があっても零さえいればそれを覆す事が出来る。誰もがそう思った瞬間。


 空戦部隊の後尾から、色の違う竜殲騎が一騎向かってきた。炎の聖霊石を核としている事を示す赤い色彩のその竜殲騎は、満月のような円形の兜飾りを着けた野太刀よりもやや小型かつ軽装の鎧装甲を持つ騎体。


 金色の騎装衣を靡かせながら高速で零の天十握(あめのとつか)に接近すると、左腰の鞘から斬馬羽刀型刃力剣(タケミカヅチ)を抜刀し、斬りかかった。その一撃を受け止め鍔ぜり合う天十握(あめのとつか)と赤い竜殲騎。


 騎装衣の色から聖衣騎士である事が伺え、零は作戦通り神鷹(じんおう)を引きずり出す事に成功したのかと淡い期待を抱いた。直後。


『調子に乗りすぎだぞ青天目(なばため)、これ以上うちの戦力を削減されるのは困る』


 伝声器越しに聞こえたその声に、零は気付く。


「火神……火神なのか!?」


『二日ぶりだな青天目、それにしてもやっぱり翼羽は戦う道を選んだか、なら仕様がない――戦い合うしかなあ!』


 竜殲騎の名は童子切(どうじぎり)。元夜刀神一族の竜醒の民にして天花寺 神鷹の右腕、御巫(みかなぎ) 雪加専用の宝剣であった。


 雪加の操刃する童子切(どうじぎり)は、鍔迫り合いの状態から剣を振り切り、天十握(あめのとつか)を後方に押しのけ距離を取らせる。


 直後、雪加の童子切(どうじぎり)斬馬羽刀型刃力剣(タケミカヅチ)を腰の鞘に納め、居合を放つ。


焔薙(ほむらなぎ)!』


「くっ!」


 零はその瞬速の一撃を咄嗟に左前腕に装着された盾で受け流す。すると、斬撃が刻まれた盾から炎が噴出した。


 ――神速の一撃……接触箇所が発火する程の。


 脅威の剣速を持つ雪加の技に、零は攻めあぐねるように先ほどまでの勢いを止めた。


「火神、全部嘘だったのか! 鳳龍院家で共に過ごした日々も、あの笑顔も、友だと言ってくれた事も」


『言った筈だ、私は竜醒の民として生まれた瞬間から神鷹様のしもべだと、鳳龍院家には神鷹様の悲願を成就させる為に入り込んだだけだ、そこでの日々も見せていた感情もくれてやった言葉も全ては偽りに過ぎない』


「嘘だ、お前はいつもあんなに楽しそうに笑っていた。それが偽りな筈がない!」


 かつての友へと想いをぶつける零、対し雪加もまた声を荒らげ、己の心の内をぶつけるかのように叫んだ。


『お前に何が解る! 竜にも戻れず、人にもなりきれない。竜の記憶と憎悪を引きずりながら、人として愛を注がれる。竜と人との狭間でもがき苦しむ竜醒の民の何が!』


「……火神」


 そして雪加は、斬馬羽刀型刃力剣(タケミカヅチ)を再び鞘に納めて居合の構えを取る。


『この斬馬羽刀(ざんばわとう)はこの間の短刀(おもちゃ)とは違う。天花寺(てんげいじ)家異伝 塵化御巫(じんかみかなぎ)流の真髄を見せてやる』


 その後、再び斬り合う両者、幾度となく刃が交わり、空中に火花が舞う。


 すると零は気付く。斬り合う度に雪加が操刃する童子切(どうじぎり)の額に剣の紋章が輝いている事に。雪加が何らかの竜殲術を使っている事は明らかだった。


 ――何だ? 何の効果がある?


 雪加の居合を捌きつつ、竜殲術の得体の知れない能力を予測しながら戦う零は、思った以上に苦戦を強いられていた。


 その時、屋敷の伝令役から伝声が入る。


『青天目様、刃力の消耗度合いが不自然です』


 伝令役からの指摘を受け、天十握(あめのとつか)の操刃室にある刃力貯蔵量の計測器を確認する零。それを見て驚愕する。既に自身の刃力量が三分の一程消耗していたからだ。


「馬鹿な!」


 零の総刃力量は平均の騎士の倍近くあり、このような短時間の戦闘でこれ程消耗する事は通常あり得ない。そして零は一つの答に辿り着くのだった。


「刃力を吸い取られている……のか?」


 読み通り、零は刃力を吸い取られていた。それは雪加の持つ竜殲術の能力〈刃喰(やいばぐらい)〉による効果であった。


『気付いた所でもう遅い、既にお前の刃力、たらふく食わせてもらった』


 言いながら雪加は、舌なめずりをしてみせた。


 零は雪加の童子切(どうじぎり)から距離を取り、接近戦を拒む。


 ――刃を交えただけで刃力を吸われる。なら中距離で戦うしかない。


 零は刀身に刃力を収束させ、都牟羽(つむは)を使用した中距離戦を試みる。しかし、距離を取った天十握(あめのとつか)に向け、童子切(どうじぎり)は腰部に接続され背部に収納された砲身を展開させると、砲身に炎を纏った光が収束され、強大な炎と光の奔流を放出させた。


「ちっ!」


 その一撃を咄嗟に躱す零。直後、雪加は再び砲身に炎を纏った光を収束させ、炎装式刃力砲と呼ばれる聖霊騎装による一撃をもう一発放った。


 零はそれを再度回避するも、今度は砲撃が掠り、盾が融解し半壊した。


「お前に食わせてもらった刃力はまだある。このまま中距離戦に徹していていいのか青天目?」


 更に、雪加に足止めを食らい、その内に空戦部隊が進軍しており、鳳龍院家の後陣部隊と既に交戦を開始していた。


 ――まずい、火神との戦闘が長引けば、数で不利な後陣部隊が壊滅する。



 場面は屋敷の大広間。戦況を傍観しながら翼羽達もまた現況を危惧していた。


「翼羽様、青天目様が敵の副将と思わしき騎士と交戦中、苦戦していると思われます」


 それを聞き、翼羽は苦慮するように爪を噛む。


「……このまま長引けば、後陣部隊が壊滅する」


 その時だった。


「翼羽様、先ほど屋敷から一騎、陣太刀が出陣しました!」


「えっ、今回の戦は総戦力。騎士は全員出陣した筈だけど」


 まだ一人、屋敷に騎士が残っていた事を翼羽は不思議に思った。


 とはいえ、増援はたった一騎。今更量産剣である陣太刀が一騎増えた所で戦況が変わる事は無い。そう思った直後。


 その陣太刀は敵の空戦部隊に真っ直ぐに突っ込むと、すれ違い様に羽刀型刃力剣(スサノオ)を振るい、次々と野太刀を撃墜させていく。その圧倒的な剣技は、翼渡や零に勝るとも劣らない。


 一体その陣太刀を操刃しているのは誰なのか? 翼羽が疑問を巡らせた瞬間、その陣太刀を操刃している騎士から伝声が入る。


『翼羽、何をぼけっと傍観しておる、しゃきっとせんか!』


「その声は……(ばば)様」


 伝声器越しに活を入れられ、翼羽はその陣太刀を操刃しているのが飛美華である事を知り、目を丸くして驚いた。そんな翼羽に飛美華が更に続ける。


『敵の空戦部隊はわしが食い止める。そしてお主の役目は騎士達の士気を高める事、今がその時じゃろ!』


 とうの昔に騎士を引退した飛美華の奮闘と激に、翼羽は奮い立たされた。


 ――そうだ、皆が必死に戦っている。私は私に出来る事をするんだ。


 そして深く息を吸うと、全騎士に激を入れる。


「全騎士に告ぐ、ここが正念場だ。今天花寺家に後れを取れば、須賀の里も、東洲も全てを奪われる。家族を守りたければ喰らい付け、大事な場所を守りたければしがみ付け、大切なものを守りたければどんな手を使ってでも生き抜け! 鳳龍院家の子らよ……お前達が敵に打ち勝つ事を私は信じている!」

140話まで読んでいただき本当にありがとうございます。もし作品を少しでも気に入ってもらえたり続きを読みたいと思ってもらえたら


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どうぞ宜しくお願い致します。


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