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139話 鳳龍院家 対 天花寺家

 翌日、神鷹は当初の宣言通り兵を挙げ、東洲に向けて天花寺家の騎士達による進軍を開始させた。


 また、鳳龍院家の騎士達も敵の進軍に備え、先陣部隊は既に配置を完了させており、ここに鳳龍院家と天花寺家との全面的な戦が開始されようとしていた。

 

 一方、格納庫である蔵の中。後陣部隊である零は、翼渡から託された宝剣 天十握(あめのとつか)の操刃室の中で目を瞑り、操刃柄を握り締めながら想う。


 ――力を貸してくれ、翼渡様。


「青天目 零、天十握(あめのとつか)、出陣する!」


 そして目を見開き、開放された蔵の天井から天十握(あめのとつか)を飛び立たせた。雲一つ無い青天が広がる空、零は天十握(あめのとつか)と共に戦場へと翔ぶ。



 場面は屋敷の大広間。そこには鳳龍院家の家臣達が並んで座し、各々の前には丸く大きな鏡が置かれていた。それは雷の聖霊の意思を利用し、各騎体からの情報を総合的に算出し、映し出された情景を元に戦場全体を把握、騎士達とやり取りを行う為の通信器。


 そして騎士達に指示などの伝声をするのは、伝令役と呼ばれる者達である。


 また、上段の間の中央には翼羽が座し、翼羽の前にも通信器である鏡が置かれ、戦場全体を把握し戦術を付与する。その傍らには翅音(しおん)の姿もあり、翼羽の補助を行っていた。


「先陣部隊に告ぐ、間もなく敵部隊が上空を通過、各騎迎撃を開始せよ!」

 


 場面は先陣部隊。藤堂は四十騎の陣太刀を率い、迎撃に備え山麗にて息を潜める。竜殲騎は動力を起動させていなければ探知器に映し出されない。先陣部隊はその特性を利用し、竜殲騎の動力を切った状態で待ち伏せを行い、迫る敵部隊に対して奇襲をするつもりでいるのだ。


 すると、西洲側から飛来し、上空を通過する複数の竜殲騎が出現。それは雷の聖霊石を核としている事を示す紫を基調とした色彩、三日月型の兜飾りを付けた騎体。天花寺家の主力量産剣、野太刀(のだち)である。


 また、野太刀の各推進器から放出される刃力が形成させる騎装衣の色は銀色、つまり操刃している騎士は全て銀衣騎士である。


「全騎、動力を起動させろ!」


 藤堂の指示で、先陣部隊の陣太刀が動力を起動させ、双眸が輝き、各推進器から放出される刃力の粒子が蒼い騎装衣を形成させた。


 次の瞬間、先陣部隊の陣太刀が刃力弓を上空に構え、飛翔する野太刀に向けて一斉射撃を開始した。


 放たれていく光矢が次々と野太刀を貫き、空中で爆散していく。そして下方からの奇襲により、やがて五騎の野太刀が撃墜された。


 しかし藤堂は違和感に気付く。空中を通過する野太刀はその十騎を最後に止まった。突然いなくなったからだ。


「まさか、囮か……」


 藤堂が敵側の思惑に気付いた瞬間。


『敵部隊、山間を通り、地上から侵攻してきます!』


 伝令役からの伝声と同時、轟音と共に敵の野太刀が山間の木々を縫うようにして次々と迫って来る。


「全器、迎え撃て!」


 突如地上から向かってくる野太刀、藤堂は正面からの戦いを余儀なくされた。そして藤堂率いる陣太刀による先陣部隊三十騎と、敵の野太刀による地上部隊六十騎が激突する。


 更に、地上を抑えた事で、再度野太刀が空中から侵攻してくる。その数は八十騎。今度こそ天花寺家の空戦部隊の本隊であった。


 その空戦部隊最後尾。そこには野太刀とは形状の違う、一騎の竜殲騎が飛翔する。かつての那羽地の騎士の甲冑を模したやや重厚な鎧装甲、兜飾りは野太刀よりも大きな三日月状の鍬形(くわがた)を着け、左腰には長尺の刃力剣、斬馬羽刀型刃力剣(タケミカヅチ)、背部には斬馬羽刀(ざんばわとう)の形状をした推進翼を四つ備えていた。そして各推進器から放出される刃力粒子が金色の騎装衣を形成させている。


 その竜殲騎の名は布都御魂(ふつのみたま)。天花寺 神鷹が操刃する宝剣であった。


 布都御魂(ふつのみたま)の操刃室の中で神鷹はほくそ笑む。


「待ち伏せとは、いかにも脆弱な猿の考えそうな事だ。だがこれで地上は抑えた、このまま()り潰されて終わるか鳳龍院 翼羽」



 屋敷の大広間にて。


 奇襲が失敗し、劣勢に陥る先陣部隊。戦況は早くも暗雲が立ち込めていた。


「翼羽様、先陣部隊が劣勢を強いられています。このままでは……」


「藤堂、何とか堪えて! 今先陣部隊がやられれば作戦は失敗する」


 翼羽の懇願にも近い指示を受け、藤堂は鏡型の通信器越しに竜の瞳となり勇ましく返す。


『お任せください翼羽様、この藤堂 慎之助、命に代えてもここは死守します!』


 竜域に入った藤堂は、陣太刀に羽刀型刃力剣(スサノオ)を抜かせ、敵部隊へと突撃するのだった。


 一方、敵の本隊ともいえる空戦部隊に対するは、零の天十握(あめのとつか)を始めとする四十騎の陣太刀。そして、敵の空戦部隊を視認すると、零は竜域に入り一気に敵部隊へと向かって行った。


 戦力差が倍以上ある天花寺家が相手では、長期戦になればなるほど不利になる。零は天十握(あめのとつか)に、両腰から羽刀型刃力剣(スサノオ)を抜かせ二刀流となると、刀身に刃力を収束させる。刃力の温存は考えず、始めから全開で行くのだった。




※      ※      ※  

 


 一日前。


 屋敷にて作戦を立案する翼羽と零、そして藤堂達鳳龍院家の騎士達。


 藤堂は眉間に皺を寄せながら言う。


「やはり単純な数の差は大きい、しかもそれだけではなく、敵は戦力のほぼ全てが覚醒騎士。正面からやり合えば間違えなく敗北する」


 鳳龍院家が一つになったとはいえ、改めて藤堂はこの戦を乗り越える困難さに頭を抱えていた。直後、翼羽が提案する。


「まずは地の利を活かして、山麓に待ち伏せて奇襲で敵戦力を削る」


「成程、確かに数の差を覆すには奇襲は必須でしょう。しかし、それだけでは少々足りなすぎる」


 すると翼羽は、しばし考えこんだ後、ぽつりと呟いた。


「ならやっぱり、先に敵大将を討つしかない」


「勿論、神鷹を討つ事が出来ればこちらの勝利は揺ぎ無いものとなる、しかしその神鷹に辿り着くには結局数の差が大きな壁となる」


 それを聞き、再び考え込んだ後、翼羽が返した。


「神鷹は言ってた。私を妻にして鳳龍院家と天花寺家を一つに出来れば鳳龍院家の竜殲騎と騎士が手に入る、そうすれば那羽地は他国に負けない揺ぎ無い地位を得られるって」


「……ふむ」


「つまり、神鷹は戦力と権力を増強させたいから戦を仕掛けてきてる。だからこの戦で天花寺家の竜殲騎や騎士を失う事は出来るだけ避けたい筈」


 そう言いながら、翼羽は零の顔をゆっくりと見る。


「戦の序盤、零の力で一気に敵戦力を減殺させる、そして神鷹を早々に引きずり出す、それで神鷹を討ち取る事が出来れば勝機が見えてくる」


 そんな翼羽の提案を受けながら、零は驚いたような顔をしていた。


「どうしたの零? ぼーっとしちゃって」


「いや、何というか翼羽が戦術を組み立てたり、敵の分析をしたりする姿が新鮮で、立派に見えると思ってな」


「ちょっと零、あんまり私の事見くびらないでよね、これでも戦術や計略に関しては幼い頃から、父様や(ばば)様から学んでるんだから」


 頬を膨らませ抗議しながら、翼羽は少し目を伏せた。


「でも……」


「どうした?」


 言い淀む翼羽に、零が不思議そうに尋ねた。


「神鷹を引きずり出せるのも、神鷹を倒せるのも多分零だけだと思う。全部零頼みで、零に負担をたくさんかけちゃう」


 すると零は、ふと小さな笑みを浮かべて返す。


「何だ、そんな事か」


「……そんな事って」


「前にも言ったろ、俺は翼羽の剣だ。剣は好きに使えばいい」


 そんな零の言葉に、翼羽は心強さで満たされ、緊張で一杯だった表情を綻ばせた。


「ありがとう零」


 そして目前まで迫り来る戦に、翼羽は再度決意を固めるのだった。



※      ※      ※      

139話まで読んでいただき本当にありがとうございます。もし作品を少しでも気に入ってもらえたり続きを読みたいと思ってもらえたら


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