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131話 牛鬼の脅威

 その後、零は翼羽と合流し、二騎の陣太刀は山脈の麓にある相武(さがむ)の里を目指し、やがて辿り着く。


 二人はその光景を見て呆然とした。そこに居たのは牛のような頭部、蜘蛛のような胴体、先端が爪のように尖った六本の脚を持つ山のように巨大な魔獣であった。


 魔獣 牛鬼はその巨体で里の大半を圧し潰したのだろう、建物や民家は(ことごと)く倒壊し、里は住民達の亡骸で溢れ返っていた。そんな凄惨な光景に翼羽は口を覆い、対照的に零は惚けるようにそれを眺めた。


「これは……この光景は……」


 そして、零の脳裏にとある光景が流れる。それは、かつて七歩蛇(しちほだ)の群れに襲われて壊滅した零の故郷、出雲(いずも)の里での出来事。



 のどかな里を突如襲った七歩蛇の大群。自分の父、自分の母、自分の妹、そして里の民が次々と七歩蛇の牙を受け、息絶えていく。



《ぎゃあああああっ!》


 里中にこだます悲鳴。



《父さん、母さん、茜!》


 血に塗れ、倒れる父と母と妹を見ながら悲痛な叫びを上げる零。



《うわああああっ!》


 零は地に転がる羽刀(わとう)を拾い、無我夢中で七歩蛇に向かっていき斬りかかる。



「ぐっ……うっ!」


 零の脳裏を過るかつての記憶、そして零は頭を押さえながら悶えるように声を漏らす。そんな零の異変に気付き、翼羽がすぐさま声をかけた。


『零、零! どうしたの? 大丈夫!?』


「……ああ、すまない平気だ。それよりもさっさと牛鬼を倒す、翼羽は一旦下がってろ」


『えー、折角援護に来たのに』


 零の提案に対し、翼羽はあからさまに不満を漏らす。


「援護と言っても翼羽の陣太刀は遠距離用の聖霊騎装を装備してないんだろ、今の翼羽じゃ上位魔獣相手に接近戦はいくらなんでも無謀だ」


『……じゃあ私何の為に……』


「もし、俺がやられそうになったらその時は助太刀を頼む」


 自分が戦力外のように扱われた事に対し、不服そうに呟く翼羽を宥めると、零は陣太刀に羽刀型刃力剣(スサノオ)を抜かせ、牛鬼に一直線に向かっていく。


 すると直後、牛鬼は零の陣太刀の存在に気付き、目だけをぎょろりと向ける。


「ちっ」


 奇襲に失敗したため、零は陣太刀を制止させると、すぐさま竜域に入り羽刀型刃力剣(スサノオ)の刀身に刃力を纏わせた。


「都牟羽 壱式 飛閃(ひせん)!」


 そして斬撃と共に光の刃を放ち、牛鬼に対し遠距離から先制する。しかし、その一撃は牛鬼に届く事は無かった。何故なら牛鬼の周囲に光の膜のようなものが発生し、零の陣太刀が放った光刃をかき消したからだ。


「まるで竜殲騎の抗刃力結界……いやそれよりも強力な結界か」


 防ぐというよりは刃力を消失させた牛鬼の結界の効果を考察するように零は呟いた。


「それなら!」


 刃力による攻撃は効果が薄い、とすれば実体兵器。続いて零は、陣太刀の肩部を開放させ、射出式炸裂弾を発射させる。それにより無数の弾丸が空中に航跡を描きながら牛鬼に襲い掛かる。


 炸裂弾が次々と着弾し、周囲に爆炎と爆煙を巻き起こす。


 やがて収まる爆煙。するとそこには傷一つ負っていない牛鬼の姿があり、零の攻撃が届いていない事を示していた。


「あの結界、刃力攻撃だけでなく実体兵器による攻撃を防ぐ力もあるのか……厄介だな」


 とは言え、牛鬼は見た所翼を持っておらず地を這う魔獣。こちらに攻撃する手段は無い――筈だった。


 次の瞬間、牛鬼が糸を引かせながらその巨大な口を開けると、そこから無数の何かが飛び出した。それは数十匹に至るであろう黒い怪鳥。灯火のような赤い目に、黒い翼を震わせ、甲高い鳴き声を上げる。その魔獣の名は陰摩羅鬼(おんもらき)であった。


『零、あれは陰摩羅鬼(おんもらき)、西洲に生息する魔獣よ。けど他の魔獣を体内に隠して進撃してくるなんて聞いた事が無い』


 零は確信する。牛鬼の眼、陰摩羅鬼(おんもらき)の眼、そして城下町を襲った七歩蛇の眼。その眼はどこかで見た事がある。生気を失い、ただ己に刻まれた使命に従い行動する人形のような眼、それはかつて天花寺(てんげいじ) 神鷹(じんおう)であろう人物の竜殲術で操られていた翼羽のそれと同じであったのだ。


 直後、陰摩羅鬼(おんもらき)は一斉に零の陣太刀と……そして翼羽の陣太刀目掛けて襲い掛かって来た。


「来るぞ翼羽!」


 零の警告に、翼羽はすぐさま陣太刀から羽刀型刃力剣(スサノオ)を抜かせて構える。


『大丈夫、自分の身は自分で守る』


 翼羽はそう言い放ち、向かってくる陰摩羅鬼(おんもらき)に対して反撃し、次々と斬っては落としていく。例え並の騎士であっても、上位魔獣ではない通常の魔獣相手ならば、竜殲騎を操刃していれば敵ではない。


 零もまた陰摩羅鬼(おんもらき)を軽々と倒しながら、奮闘する翼羽の姿を見て安心したように牛鬼に視線を戻す。刹那、零に戦慄が走る。


 牛鬼は巨大な口を開けたままであり、更にそこへ光の波動が収束していたからだ。


 ――陰摩羅鬼(おんもらき)をけしかけたのは牽制、この一撃の為の。


 零がそれに気付いた時、既に牛鬼は口から強大な光の奔流を放っていた。


「翼羽!」


 零が翼羽に注意を促すために伝声をするも、翼羽は陰摩羅鬼(おんもらき)との戦闘に手一杯でそれに気付く事は無い。零は陣太刀に抗刃力結界を発動させ光の膜に包まれると、迫り来る光の奔流を遮るように翼羽の陣太刀の前に移動する。


『零!』


 すると翼羽はそれに気付き、悲痛な叫びを上げる。


牛鬼が放った光の奔流と零の陣太刀の結界がぶつかり、激しい衝撃波と眩い光が巻き起こる。


 しかし、牛鬼の凄まじい一撃を結界では防ぎきれず、零の陣太刀は半壊し、ゆっくりと地へと落下した。


『零! 大丈夫!? 零!』


 最悪の事態が脳裏を過り、零へと幾度も呼びかける翼羽。だが、幸い陣太刀は爆散するまでには至らず、鎧胸部を開放して中から零が脱出する。


『零……よかった』


 翼羽はほっと胸を撫で下ろしたように、拡声器越しに零へと声をかけると、すぐさま零に提案する。


『零、私のせいで……そうだ! この陣太刀を使って』


 しかし零は首を横に振り、その提案を拒否した。


「いや、翼羽はそのまま陣太刀で残っている陰摩羅鬼(おんもらき)を倒してくれ」


 そして両腰の鞘から二本の羽刀型刃力剣(スサノオ)を抜き放ち、そして言い放つ。


「牛鬼は俺が倒す!」


 そんな零の突拍子も無い発言に、翼羽は開いた口が塞がらなくなった。


『な、何言ってるのよ零、竜殲騎もなしに上位魔獣と戦うなんていくらなんでも無謀すぎる』


「竜殲騎は一人乗りだ。俺がその陣太刀に乗れば翼羽が危険になる」


『でも……だからって』


 自身を心配する翼羽を他所に、零はゆっくりと目を瞑る。同時に、三年前……翼羽を危険に晒した自分の無力さに打ちひしがられていた自分を、勇気付けてくれた翼羽の笑顔を思い出す。


 ――あの時、次は必ず守ると誓った。


「……俺はその為に強くなった」


 零は瞑った目を開け放ち、再び竜域に入って竜の瞳となった。そして放たれた矢の如く、自身よりも遥かに巨大な牛鬼に向かって突進していく。

131話まで読んでいただき本当にありがとうございます。もし作品を少しでも気に入ってもらえたり続きを読みたいと思ってもらえたら


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どうぞ宜しくお願い致します。


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