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112話 追憶のヨクハ

 更に一週間後。


 場面はツァリス島、〈寄集よせあつめ隻翼せきよく〉本拠地、騎士宿舎。


 理由は分からないがソラはヨクハに呼び出されており、ヨクハの部屋へと向かっていた。すると、そんなソラをパルナが呼び止めた。


「ソラ」


「おっ、パルナちゃん、どうかした?」


「リアお姉ちゃんの事、伝えておこうと思って」


「リアさん……どうなったんだ?」


 メルグレイン王国の捕虜となったアルディリア、その後の経過は知らされておらず、ソラは心配そうにパルナに尋ねる。


「うんあの後、メルグレイン王国に醒玄竜せいげんりゅう教団から正式に、処遇を一任するって通達が来たみたいでね」


「え、それって」


 メルグレイン王国への一任、そして敵国に所属していた騎士の処遇。ソラに最悪の状況が過った。しかしパルナの表情は沈んではおらず、むしろ晴れやかにも見えた。


「リアお姉ちゃん、暫くメルグレインに幽閉された後、王国側から条件が出されるらしいの」


「条件?」


 条件とは恐らくエリギウス帝国に関する情報提供や、騎士としての協力、そのような類であり、あとはアルディリアがどうするか次第であるとパルナは答えながら瞳を潤ませた。


「とりあえずはリアお姉ちゃんが生きててくれてる、私はそれだけで嬉しい」


「そっか、よかったなパルナちゃん」


 それを聞き、安堵の表情を浮かべるソラ。するとパルナがソラに深々と頭を下げた。


「へ?」


 パルナの突然の行動に、ソラはたじろぐ。


「ありがとね……本当にありがとう」


「い、いや俺は別にそんなに感謝されるような事した覚えは」


「あの時、あなたがリアお姉ちゃんを救ってくれた。リアお姉ちゃんを倒して、リアお姉ちゃんを説得して、心を変えて……ソラ、あなたは本当に凄い騎士なんだね」


「いやあ、そんな褒められると逆にプレッシャーだなあ」


 パルナからの称賛を受け、ソラは照れを隠すようにおどけてみせた。そんなソラを見て、パルナは優しい微笑みを浮かべるのだった。


「ところでソラ、こんな時間に騎士宿舎に居るなんて珍しいわね?」


「ん、ああ、何か団長に、話があるから部屋に来いって言われてさ」


「そうなんだ、じゃあ私はこれで」


「うん」


 ソラにそう言い、背を向けた後、パルナが再び振り返る。


「あの……ソラ」


「ん?」


「あんた、最近元気無いけど何かあった?」


 パルナからの指摘に、慌ててお茶を濁そうとするソラ。


「え、いやいやいや、ぜ、全然そんことないよ、うん、本当全然」


 明らかに取り乱したソラを見て、パルナは少しだけ悲しげな表情を浮かべると、すぐに笑顔になった。


「私に出来る事があったら何でも言ってね」


「……何でも」


「な、何でもって言っても限度があるからね、そこら辺はわきまえなさいよ」


 顔を真っ赤にして取り繕うパルナを見て、ソラは屈託なく笑った。そしてパルナは足早にその場を立ち去って行く。そんな背中を見ながらソラはそっと呟く。


「ありがとな、パルナちゃん」



 それから、ソラはヨクハの部屋の前で立ち止まる。床の通路の最奥、ふすまに仕切られた向こう側がヨクハの部屋である。


 ソラは深呼吸をしながら、何やら緊張感を漂わせ声をかける。


「ヨクハ団長俺だけど、入っても大丈夫か?」


 ソラが声をかけると、中から返事が返って来た。


「うむ、入れ」


 ヨクハの許可を受け、ソラは胸の鼓動を早めながらふすまを開ける。


 ――俺……何気に女性の部屋に入るのなんて初めてなんだよな。


 そして襖の向こうのその部屋は、畳と呼ばれる干し草に近い香りのする草を編みこんで造られた床、障子と呼ばれる木の枠に紙を貼り合わせた戸、中央には囲炉裏が置かれ、その近くに敷かれた座布団の上に正座で佇むヨクハの姿があった。


 ソラは、その部屋にどこか見覚えがあった。


「あれ、この部屋ってもしかして、俺が最初に団長にしばかれた後に寝てた部屋?」


「ん、そうじゃが」


「えっ、ここが団長の部屋だったの?」


「何か文句でもあるのか?」


 さも意外だとでも言いたげなソラに、ヨクハは目を細めて迫る。


「いやいや、ただ女性の部屋にしては随分と殺風景というか、随分渋いなあと思って」


「何じゃ、ぬいぐるみでも置いておけば満足じゃったか?」


「いえ、団長らしく格好よくて素敵なお部屋だと思います!」


「うむ、よろしい」


 こうしてヨクハの溜飲が下がり、ソラはいよいよ本題に入る。


「それで団長、話って?」


「まあ待て、話は少し長くなるからのう、茶でも煎れてやるから少し待っておれ」


 ヨクハはそう言うと、茶道具を部屋の奥から持ち出し、なつめから茶杓で茶碗に抹茶を落とすと、囲炉裏で沸かした茶釜の湯を柄杓ひしゃくで茶碗に酌み、茶筅ちゃせんで茶を点て始めた。


 その所作はどこか気品に満ちており、堂に入っていて、ソラは言い表せない美しさに自分でも気付かない内に見惚れていた。


 ヨクハが点て終わった茶をソラに差し出すと、ソラはハッとして頭を振った。


「とりあえずこれでも飲んでおれ」


 言われるまま、ソラはナパージ島に伝わる初めての茶を飲む。


「あ、美味しい」


 ソラは、苦味の奥にあるまろやかさと深さに、感激したように思わず呟いた。


 すると、ヨクハは表情を嬉しそうにパアッと明るくさせ、身を乗り出す。


「そうじゃろそうじゃろ? さすがナパージの民の血が入っているだけはあるのうお主、以前プルームやエイラリィに煎れてやった時は『苦い!』の一点張りじゃったからのう」


 子供のように嬉しそうにするヨクハに、ソラはたじろぎながら再度本題に入る。


「あの団長、それで話って?」


 するとヨクハは咳払いし、我に返ったのか少しだけ顔を赤くさせた。


「ソラ、お主この騎士団に入ってどのくらいになる?」


「えっと、半年くらいかな」


「半年か……お主も〈寄集よせあつめ隻翼せきよく〉の騎士としてそこそこましになってきた事じゃし、そろそろ頃合いかのう」


 そんな意味深なヨクハの言葉に、ソラは怪訝そうに眉をひそめた。


「お主に、しかと話しておこうと思ってな」


「え?」


「わしの事、シオン殿の事……そしてエリギウス帝国皇帝アークトゥルス=ギオ=オルスティアの目的をな」


 突然のヨクハの発言に、ソラは目を丸くさせた。


「団長とシオンさんの事? それにアークトゥルスの目的?」


「うむ、まずはわしの過去から中心に話す。最初に言った通り長くなるが、付き合ってもらうぞ」


 こうして、ヨクハは自身の過去について、ソラにゆっくりと語り出すのであった。




第三章完 

第四章に続く


ここまで物語にお付き合い頂き本当にありがとうございます。これにて第三章完となり第四章に続きます。


もし作品を少しでも気に入ってもらえたり、続きを読みたいと思ってもらえたら


【ブックマークに追加】と、↓にある【☆☆☆☆☆】を

【★★★★★】にポチっと押して頂けると本当に救われます。どうかよろしくお願いします。



四章は丸々ヨクハの過去の話となりしばらく主人公は出てきませんが、単独の物語としてもかなり完成度が高いと自負しており、読んで損はさせませんのでどうかブクマ剥がさずに最後までお付き合いいただければ幸いです。

m(_ _)m




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