表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
110/307

107話 炎の大聖霊獣イフリート

 ――はあ、大聖霊獣と一騎討ちとか我ながら無茶が過ぎるよね。何ですぐ強がっちゃうんだろ私って。でもここで無駄な犠牲を出す訳にはいかないし。


 ヨクハは心の中で呟きながら、そっと目を閉じて物思いに耽る。


 ――初めて戦う強大な相手、その上属性相性的にも不利、多すぎる不安要素に怖くて指先が震える。


 そしてヨクハは〈寄集(よせあつめ)隻翼(せきよく)〉の団員達とのやり取りを振り返る。



《ソラ君、大丈夫だから団長に任せよう》


《で、でも》


《大丈夫だから》


 ヨクハが第八騎士師団〈不壊の殻〉の師団長、カチュアと一騎討ちを行おうとした際、心配するソラに対し、勝利を確信しているかのようにプルームが諭していた事。



《お前は、私が負ける所を想像出来るのか?》


《ちっ悔しいけど出来ねえわ、んじゃあ後頼む》


 驚異的な刃力と能力を持つアイデクセ相手に単器挑もうとするヨクハ、それを心配するフリューゲルを言いくるめた時の事。



《同じ蒼衣騎士でも団長は才能に溢れてて、何でも出来て、無敵で、打ちのめされた事も挫折した事もない団長には俺の気持ちなんて――》


 アルディリアに敗北した事で落ち込むソラが投げかけた言葉。


 ――私が本当に無敵だったのなら、私が本当に打ちのめされた事がなかったのならどんなに楽だっただろう。レイもあの時こんな気持ちだったりしたのかな? でも君は凄いね、そんな素振り一つも見せずに最後まで戦い抜いたんだよね。……いつか私も君みたいになれるのかな?


 すると、巨大な人のような姿を形成させていた炎は完全に具現化し、大聖霊獣イフリートが顕現する。


 その姿は全身に炎を纏った異形の巨人、大きさはソードと同程度。巨大な二本の角を持ち、筋骨隆々な肉体には周囲の空間を歪ませる程の熱を帯びていた。


 グオオオオオオオッ!


 紅玉の空域の外まで届くかのようなその凄まじい咆哮は雲を消し飛ばし、空を震わせ、地を揺るがした。


 そして目の前に浮遊するムラクモを敵と認識し、鋭い視線を向ける。


 ――わからない、もしかしたら答は出ないのかもしれない。でもね……矮小で凡小、誰よりも剣の才に恵まれず、覚醒騎士にもなれず、人よりも遥かに少ない刃力しか持たなかった、そんな私を最強だ無敵だと本気で信じてるあの子達の前で情けない姿は見せられない、だから……


 ヨクハが勢い良く開眼すると、その瞳孔は縦に割れ、竜の瞳へと変貌する。そしてヨクハはムラクモに鯉口を切らせ、左腰の鞘から羽刀型刃力剣(スサノオ)を抜き放ち構えた。


「蹴散らすぞ、ムラクモ!」


 まず先制を仕掛けたのはヨクハだった。ヨクハはムラクモでイフリートへと突進し、目にも止まらぬ速さで間合いに入ると、刃力剣を振りかぶった。


 そしてヨクハのムラクモによる袈裟斬りがイフリートの左肩に炸裂、しかし感じる違和感。


「刃が……通らない!」


 その一撃はイフリートの外皮を僅かに傷付けただけに留まり、肉を断つ事すら叶わなかった。


 すると、ヨクハの頭の中に直接声が響いてきた。


『弱キモノ……何ヲ求メ……何ヲ目指ス』


 ――これは、イフリートの……


 その言葉は普段ヨクハ達が使っている統一言語ではなかった。更に言えば言語として成り立っているものですらなく、しかし意味だけが脳内で強制的に理解させられていた。そしてヨクハが応える。


「求めるのは力、大聖霊の力だ。だから貸してもらうぞ、お前の魂を」


『欲シクバ示セ……心ヲ、示セ……力ヲ』


 次の瞬間、イフリートが反撃の姿勢を見せる。大きく振りかぶった拳には炎が収束していき、その拳をムラクモに向け一直線に振り抜いた。


 ヨクハはその一撃を、騎体を上昇させて躱すと、今度は急降下させ、すれ違い様に頸部を一閃した。


 しかしその斬撃も、イフリートの外皮を僅かに傷付けるだけに留まり、致命傷を与えられない。次の瞬間、騎体の動きが止まり、ヨクハはイフリートにムラクモの左脚部を掴み取られている事に気付いた。


「くっ!」


 ヨクハは咄嗟に掴まれている左脚部を支点にして、右脚部による回し蹴りをイフリートの頭部に炸裂させる。


 その衝撃により、掴んだ左脚部を離すイフリート。そしてヨクハが先程まで掴まれていた左脚部に視線を向けると、装甲の外側が溶解していた。


「普通に攻撃してもダメージが通らない……なら!」


 ヨクハは気を取り直してイフリートと距離を取ると、羽刀型刃力剣(スサノオ)の刀身に刃力を収束させる。それにより光り輝く羽刀型刃力剣(スサノオ)、その刀身は金色(こんじき)にて紫電。


都牟羽(つむは) 零式(ぜろしき) 憑閃(つきかがや)!」


 ヨクハは再度イフリートに向かって突撃、攪乱する為に周囲を旋回し、一瞬でイフリートの背後に回ると、刃力が収束された状態の羽刀型刃力剣(スサノオ)を直接叩き込む。


 凄まじい斬撃速度も相まって、衝撃でイフリートは吹き飛ばされ、砂塵を舞わせながら地へと激突する。


都牟羽(つむは) 壱式 飛閃(ひせん)!」


 更に、ヨクハは羽刀型刃力剣(スサノオ)(かすみ)に構えると、上空から刃を振るう。それにより羽刀型刃力剣(スサノオ)の刀身から光の刃が放たれ、砂塵の中に居るであろうイフリートに炸裂し、再び砂塵が舞う。


「まだだ!」


 そして追撃、ヨクハは砂塵の中のイフリートに向け刃を複数回振るう、それにより無数の光の刃が放たれ、更に激しく砂塵が舞った。


「ハアッハアッハアッ」


 渾身の力を込めた猛攻、ヨクハは肩で息をしながらイフリートの様子を伺う。


 次の瞬間、地上から立ち上る巨大な火柱が砂塵を掻き消し、ヨクハは迫り来る火柱を間一髪の所で回避した。


 そこには全身から血を流しながらも、未だ致命傷には至っていないイフリートが立っており、その怒りに満ち溢れた形相は正に悪魔のそれであった。


「……何て奴だ」


 渾身の連撃を物ともしないイフリートに対し、戦慄を覚えるヨクハ。刹那、イフリートは全身に炎を纏いながら、空中に浮遊するムラクモへと突進しつつ拳を振るってきた。


 ――疾い!


 その速度は、竜域に入っているヨクハと、雲の聖霊石を核とするムラクモですら躱すのには紙一重であった。


 その一撃を掠ったムラクモの脇腹部分の装甲が溶解する。


 ヨクハはすぐさまイフリートから距離を取った。するとイフリートは全身に纏っている炎を両腕へと収束させ始め、更に両手から炎の弾丸を連続でムラクモへと放つ。


「くっ!」


 自身に襲い掛かる無数の炎の弾丸を、ヨクハのムラクモは後退しながら身を翻させて回避する。しかし、その攻撃は止む気配は無く、ヨクハは全開で騎体を推進させながら乱高下させることで何とか回避行動を続けた。


 その回避行動の間隙に、ヨクハは右腰の鞘から二本目の羽刀型刃力剣(スサノオ)を抜き二刀流となると、二本目の羽刀型刃力剣(スサノオ)の刀身にも刃力を収束させる。


「ハアアアッ!」


 そして回避行動を取りながら少しずつ間合いを詰め、遂にイフリートの懐へと入ると、左右の羽刀型刃力剣(スサノオ)を一振り、二振り。その斬撃は先程のヨクハの連撃でイフリートの胸部に刻まれていた斬撃痕に寸分違わず刻み込まれた。


「ガアアアアアッ!」


 痛々しい悲鳴と共に、深々と刻まれた斬撃痕から血を噴出させるイフリート。同箇所への攻撃により、遂に明確なダメージを与えらえた事を確信するヨクハ。しかし次の瞬間、感じる悪寒が無意識に騎体を後退させていた。


 直後、イフリートは炎の球体に包まれ、咆哮と共に炎の球体が超速で膨張し始める。


「まずい!」


 逃げ場の無い全体攻撃、ヨクハはムラクモに抗刃力結界(イノセントスフィア)を展開させる。だが結界を張っても尚、その凄まじい衝撃がムラクモを吹き飛ばした。

107話まで読んでいただき本当にありがとうございます。


ブックマークしてくれた方、評価してくれた方、いつもいいねしてくれてる方、本当に本当に救われております。


誤字報告も大変助かります。これからも宜しくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ